「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ   作:カフェイン中毒

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遊びだからこそ、真剣になれる

 『準々決勝第4試合は、ユウキ・タツヤ選手の辞退によりサザキ・ススム選手の不戦勝となります』

 

 「冗談、だろ…?タツヤさんが、辞退!?」

 

 「ユウキさんに限ってそんなこと…!」

 

 「…タツヤさんはそんな人じゃない。理由があるハズ」

 

 ガンプラバトル選手権第三ブロック予選、準々決勝をセイたちの応援に来ていた俺たちを襲ったのは正しく青天の霹靂だった。タツヤさんが選手権を辞退したというのだ。何の前触れもなく、俺たちに伝えもせず。こんなことは今までなかった。あの人は確かに少し我慢弱いところもあるが基本的に周りを見れる人だった。よっぽどのことがあったに違いない。すぐに携帯で連絡を取る。

 

 「…っ!?着信、拒否…?」

 

 「嘘っ!?」

 

 「…信じられない」

 

 携帯から伝えられたのは無慈悲なこの番号は現在お繋ぎできませんという機械的なメッセージ。徹底している、自分への連絡経路をすべて封じてるんだ…!何があったんだタツヤさん!試合会場にいるレイジとセイも動揺を隠せてない…!無慈悲にも試合は始まる。

 

 動揺を隠せないレイジは、操縦の精彩を欠きつつもサザキのギャンギャギャンを打ち破った。ビルドストライクに傷をつけながらだけど。いつものレイジなら当たらない攻撃に当たってた。やはり動揺は大きいんだ…!

 

 結局、タツヤさんは会場に姿を現すこともなく、ガンプラバトル選手権の予選は決勝を残して終了するのだった。

 

 その翌日になって俺は、タツヤさんが学校すらも休学したことを知った。彼は、痕跡すら残すこともなく聖鳳学園からも去っていったのだ。俺もヒマリも、ツムギでさえショックを隠せないのが現状だ。軽音部の練習に熱が入るわけもなく何も言わずその場は解散になった。手持無沙汰になった俺は商店街に繰り出すことにした。ぼーっと歩いていると見覚えのある朱い髪の毛、レイジだ。

 

 「よっレイジ、暇してんのか?」

 

 「アルトか…まあ、ちょっとな」

 

 「…昨日の事か?」

 

 「…ああ」

 

 レイジはやはり昨日のタツヤさんが選手権からいなくなったのが相当のショックだったようだ。無理もない、今までのレイジのガンプラバトルへのモチベーションのほとんどを維持していたのは敗北を喫したタツヤさんへのリベンジ、彼に勝つことを原動力にしてここまでやってきたんだ。急に目標が無くなって、戦う理由を見いだせなくなった。そんなところだろう

 

 「おや、アルト少年にレイジ少年ではないか。どうしたこんなところで」

 

 「ラルさん」

 

 「ラルのおっさんか」

 

 後ろの甘味処から出てきたのはラルさんだった。彼は俺の表情とレイジの表情を比べたのちに納得した顔をして話し始めた。その視線の先にはおもちゃ屋のガンプラバトルルームだ。

 

 「レイジ君、彼らを見てどう思う」

 

 「よわっちいし、なんだか滑稽だな。たかが玩具にあんなに真剣になっちまってよ。気が知れねえぜ」

 

 そのレイジの言葉はまるで自分に言い聞かせるようだった。当たり前だ、彼だってセイと一緒に真剣に挑んでいたんだ。茶化しでもしないと自分がバカに見えてしまうのだろう 

 

 「そう思うかね?ガンプラ作りもガンプラバトルもあくまで趣味。別にやめても構わんのだよ」

 

 「…冗談きついぜ。ユウキ・タツヤに挑めねえからって今更セイほっぽり出してやめるだあ?んなことするわけねえだろ!」

 

 「じゃ、そう思うなら楽しんでみれば?」

 

 「…アルト」

 

 「どっかで言ったと思うけど、遊びだからこそ本気になれるんだよ。セイのため、じゃなくてお前自身はどうなのさ?お前と付き合い短いけど何となくわかるぞ?お前、悩んでるより動くほうがいいタイプだろ」

 

 「その通りだ。私は君の中に本気を見ている、あの男と同じように」

 

 ラルさんの視線の先、そこには…紛れもないユウキ・タツヤの姿があった。

 

 

 「ユウキ・タツヤ!てめえ今更なにをっ!?アルト!邪魔すんな!」

 

 「食って掛かるのは後だレイジ。俺も言いたいことはあるけど…あれ見ればわかんだろ。お前のバディのとこに行ってこい」

 

 「…ああ!今度は逃げんじゃねーぞ!」

 

 突然現れたタツヤさん、その手には愛機のケース。ビルダーなら、ファイターなら…何をしに来たかは一目瞭然。誰にも知らせず、連絡を取らせず姿を消したタツヤさん唯一の心残り。あれほどまでに対戦を熱望した相手から姿を隠さなければいけなかったその苦しみはいかほどのものだったのか。俺には知る由もない。ただ、彼が形は違えど約束を果たしに来たというのはわかった。セイのところに走り去るレイジ。

 

 「アルト君…私は君に謝罪しなければならない。何も言わず姿を消したことも、連絡すら封じたことも」

 

 「いいです。謝るのは。こうしてちゃんと無事だってわかりましたから。そりゃあ、思うところはありますけど、約束を破るような人ではなかった。それだけ分かればもう充分です」

 

 「アルト君…私は…っ!」

 

 「もしもこれ以上何か言いたいことがあるのであれば、GPベースの上で、セイとレイジに言ってあげてください。あ、着信拒否は解除しておいてくれると嬉しいです」

 

 「…ありがとう」

 

 思いつめたような顔をしていたタツヤさん相手に俺がおどけてそういうと、彼はようやく張りつめていた顔を元の柔和な顔に戻すのだった。

 

 

 ところ変わって聖鳳学園の体育館。GPベースが設置されたそこは俺たち以外は無人でおそらくゴンダ先輩が気を利かせてくれたのだろうということはわかった。無言の中、お互いの愛機をGPベースにセットする。プラフスキー粒子が充填され、カタパルトから機体が射出される。赤いザクアメイジングと青いビルドストライクフルパッケージ。

 

 ザクアメイジングのガンポッドとビルドストライクの高出力ビームライフルがお互いに閃光を散らす。さらに牽制、ザクアメイジングの誘導弾、いやもはや機動性はマイクロミサイル!ビルドストライクも呼応するようにマイクロミサイルを放ち相殺、撃ちあいが続いている。スラスターの残光を宇宙に残しながら赤と青がぶつかり合う

 

 「へっ!逃げたかと思ったぜ!」

 

 「すまない。他言無用の理由があった」

 

 「ハッ!どうでもいい!あんたと本気で戦えるなら…それで!」

 

 「私もだ!」

 

 ビルドストライクの手持ちビームキャノンが破壊され、近接戦に入る。ガンポッドを腰後ろにマウントしたザクアメイジングがヒートナタを2本抜く。ビルドストライクの高出力ビーム砲の射撃を切り裂きながら迫るザクアメイジングにビルドストライクもビームサーベルを抜いた。交差するたびに2機のどこかが傷つく。射撃をまともに食らうビルドストライクとザクアメイジング

 

 「レイジ!壊れたら何度だって直す!前へでるんだ!」

 

 「うっしゃああああ!!」

 

 「流石だ!二人とも!」

 

 レイジの本気とそれにこたえるタツヤさんの本気。ビームサーベルとヒートナタのぶつかり合いが爆発を起こす。ザクアメイジングの足が飛び、ビルドストライクの腕が飛んだ。残った片腕でザクアメイジングの胴体を貫き、反対にザクアメイジングは貫かれながらもヒートナタでビルドストライクを真っ二つにする。

 

 「さすがだ、やっぱり!」

 

 俺はその戦いを前にして感動と共にある種の羨ましさを感じていた。タツヤさんと初めて戦った時と同じ、自分のすべてを出せる戦いの素晴らしさ。高揚感、俺もできればあの場にいたかった。だけど、あれは3人の戦いで、不可侵のものだ。だから俺はどっちが勝ったとしても心から祝福するだろう。

 

 二つの機体が爆散する。爆発の煙から飛び出してきたのはビルドブースターとアメイジングブースター。機体が爆散してもなお続く撃ちあい。ミサイルが爆炎を散らし、ビームとガンポッドが競り合う。

 

 「「これがあ!」」

 

 「私たちの!」

 

 「「「ガンプラだあああああああああああああ!!!」」」

 

 GPベースを光が満たした

 

 

 

 

 「だーくっそ!負けた負けた!完敗だぜ」

 

 「うん、やっぱりユウキ先輩は凄いね」

 

 「惜しかったと思うんだけどな。次があったらまたリベンジするのか?その前に俺が一戦やりたいんだけどさ」

 

 「譲らねーぞアルト!」

 

 結局、システムの判定では僅差でセイとレイジの負けになってしまった。お互いボロボロになった機体を回収し固く握手をして別れた。タクシーに乗ってどこかへ行ってしまったタツヤさんはきっとまた自分のするべきことのために何かをしに行くんだろう。もうそこに俺たちがどうこう言う必要はないけど、連絡は取れるようにしてもらったからもういいかな。

 

 「なあ、セイ。決勝も近いってのに…そんな壊しちまって悪い」

 

 「いいよ。確かに決勝までには直らないけど、僕が何もしてなかったと思う?」

 

 「え、それって…?」

 

 「僕たちのガンプラは、一つじゃないってことさ!」

 

 得意げに笑うセイの顔を、夕日が照らしていた。

 

 

 「アルト、決まったぞ!イベントの開催が決定した!」

 

 「えっ父さんそれホント!?よく許可とれたね!?」

 

 「ああ、PPSEも今回のルール変更で相当な批判が来ているらしいからこっちの提案は渡りに船だったようだ。許可が下りたよ」

 

 「よかった~。これでバルキリーのお披露目がきちんとできるよ!」

 

 その夜の事である。父さんからモラトリアムイベント中に行う別会場でのイベントが仮から正式に行われるということを聞いた。なんのこっちゃ分からないと思うけど、今回ルール変更によってガンプラのみに絞られた世界選手権が開催される。まあ前から基本的にガンプラしか出なかったわけだけど、それで俺はこう思った「ガンプラ以外もGPベースで動くならソレ専用のイベント作っちゃえば盛り上がるのでは」というやつだ

 

 で、ヤジマ商事の方にバルキリーのお披露目とプロモーションを兼ねてプラモデルの交流会を行えないかという話をしてみたのだ。それこそ今は風前の灯火な現代兵器のプラモだったり往時の戦艦のプラモだったり、スーパーなロボットたちなど。プラモデル全体の垣根を広げられないかというふんわりとした話がうまい事採用されたのだ。

 

 なんだけど開催日が問題で、できれば世界中のガンプラファンが盛り上がる世界大会に被せるのがいいかなという感じだった。当然そこにはPPSEも絡んでくる…んだけどPPSEも一応あの対応に問題があったというのはちょっとは思ってたみたいでモラトリアムイベント中は関知しないといったのでご自由にどうぞという案外寛大な回答が返ってきたのだそうだ。

 

 それを好機と見たヤジマの上層部は持ってるGPベースをすべて投入することを決定。世界選手権大会の選手村にほど近いドームを借りてイベントを行うのだそうだ。

 

 肝心のイベントの中身なんだけど…当然プラモデルの制限はなし、飛行機だろうが戦車だろうがもちろんガンプラだろうが誰だって参加していい。けど当日の混雑を考えてGPベースの利用は事前のチケット購入制になる。観戦自体は無料だ。日取りは3日に分かれていてそれぞれGPベースの設定が変わる。1日目が陸・空、2日目が海、空、そして3日目が宇宙だ。あくまでバルキリーのプロモーションなので全部バルキリーが参加できる戦場になっている。

 

 そう、プロモーションである。当日会場ではVF-1とVF-11の先行発売が為される。ただ、コストの関係上完全変形を再現するのは難しかったらしく、ガンダムでいうRGから完全変形が再現されているようだ。それ以下の場合は差し替えギミックや最低額だと変形無しになるらしい。変形無しにはう~んとなったものだが前の世界にもあったからありかと思ってオッケーだした。まあバルキリー金属パーツとかも使って強度確保しながら変形再現してるんでしょうがないっちゃしょうがない。

 

 あと、当日は限定100台とはいえ組み立て済みのVF-1とVF-11が貸し出されることにもなっている。これでもし操縦してみて楽しかったなら買ってね~というやつだ。ヤジマ商事さん商魂たくましくてすごいわ。あ、3日目のみに限って俺とヒマリ、ツムギが参加することになってる。そう、あの二人もだ。

 

 ツムギは俺のバディってことでヤジマのファイターになったし、ヒマリも音楽活動の件でヤジマ傘下の事務所にスカウトされたとか。つまりヒマリはアイドルになってしまったのだ。まさか冗談で言ったことがほんとになるとは…ヒマリが遠い存在になっちゃったなー。ちなみにツムギもスカウトされてるらしい。ヒマリと一緒にユニット組もうよと熱烈プッシュされてるとか。

 

 3日目にやることといえばそう、全員参加でMV撮っちゃおうぜ!イベントだ。この際全力ではっちゃけたかった俺は、使うかもしれない曲を急ピッチでヒマリに作成依頼して配信することで知名度を高めている途中なのである。宇宙にたくさんのバルキリー、いろんなプラモデル…これは絶対いい動画になる!プロモーションの最後を飾るにはいいイベントだと思うのだ。

 

 だから、絶対に成功させたい。ヤジマの期待に応えていいイベントにしなければいけないのだ。それに、完成させた2つの戦艦も日の目を見るのを待っている。あと少し、がんばろう




ちょっとバトルが短いですがお許しください
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