「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ   作:カフェイン中毒

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第二ピリオド、宇宙に舞う蝶

 『強い!これは強いです!イロハ・ツムギ選手とヅダ・マクロスパック!世界の強豪をまさに秒殺!歯牙にもかけませんでした!』

 

 「よし、宣言以上だな!やったな、ツムギ」

 

 「ツムギちゃん凄すぎだよ~!私ほとんど数数えてないし!」

 

 「…がんばった。ぶい」

 

 「我ながら恐ろしいもんを作ったと思ったけど乗りこなせるツムギが一番すごいのかもな」

 

 「…アルトの技術が、一番だから。私がそれを、ここで証明するの」

 

 歓声を背に受けつつ俺たちはもとの控室へ戻る。自重を忘れて思いっきりやったせいか俺も含めて3人ともテンションが高くなっているようだ。あとの事を全く考えてないともいう。まあ、正直隠し玉の一つも使ってないので与えても大丈夫な情報ばかりだ。いやー作ってた時から思ってたけどマクロスキャノンもどきが一番威力がやばいわ。なんやあのごんぶとビームは。まあ圧縮粒子を使わないとあの威力は出ないんだけど。速く動けば動くほど吸入されるプラフスキー粒子が増えて圧縮粒子を貯蔵できる。でもセイのスタービルドストライク、あれ吸収されたらヤバそうだなー。

 

 「うわっ…視線が痛いってこういうことか」

 

 「み~んな見てるね~、ちょっと怖いかも」

 

 「…ん」

 

 「二人して俺を盾にするんじゃねえ」

 

 ギラギラと俺たちに降り注ぐファイターたちの視線。視線が実体化でもしようもんなら俺たちは穴だらけになりそうなほどだ。試合に行く前と一緒の席、フェリーニさん、セイ、レイジ、マオの近くによっこいしょと腰を下ろす。

 

 「やるじゃねえか、3人とも。いいのか?あんな派手なことしちまって…うっぷ」

 

 「酔いがひどいなら静かにしてた方がいいですよフェリーニさん。いいんです。隠し玉の一つも使ってませんからね」

 

 「まだ先があるんだね…やっぱり、アルトはすごいや。でも、僕のスタービルドストライクは負けないよ!ね、レイジ!」

 

 「おう!本気で戦える時が楽しみだぜ…」

 

 「ワイもですわ。ガンダムX魔王で討ち取らせてもらいます」

 

 「…ん、負けないから」

 

 「あっ!次の試合始まるよ!」

 

 次の試合…呼ばれた名前を聞いて絶対見なければならないと思ってたんだ。アイラ・ユルキアイネン、カイザーさんを破ったチームネメシスのトップファイター。謎のヴェールに包まれ一切の情報がない。男なのか、女なのか、子供なのか大人なのか。それすらも全く。

 

 画面の中にあるのはおそらくキュベレイを元にしたと思われる機体。大型のランスを携えてそこに佇んでいた。美しくそして不気味なその姿に恐れをなしたのか他の参加者が3人とも結託して排除しにかかる。わずかにキュベレイが身動きした瞬間、何かに貫かれたように襲い掛かった3機が爆散、ほとんど身動きせず、キュベレイは勝ちをおさめたのだ。見えなかった、何も。ファンネル?ミサイル?それともビーム?視覚情報がないだけでこれだけ不気味に映るとは…

 

 「なんだ…?今のは?ファンネル?」

 

 「わかりまへん…」

 

 「ツムギ、見えたか」

 

 「…うん、多分ファンネル…かな?物自体は見えなかったけど何かが動いてるのは見えた。避けたり防御したりはできる、とおもう」

 

 「ツムギでも見えないのか…」

 

 時間がなかったため手で髪をかき分け瞳を露出させて目を細めたツムギが画面を凝視しながらそういう。直接見たら何か変わるかもしれないけどツムギが見れないってことは相当だ。チームネメシスのキュベレイパピヨン…本当に要警戒だな。

 

 『さあ最後の試合になります!そしてここで皆さんに重大発表!PPSEの特別出場枠として、メイジンの名を継ぐ男!3代目メイジンカワグチの参加が決定いたしました!』

 

 「メイジンってなに?」

 

 聞いてきたのはここら辺の界隈に詳しくないヒマリだ。レイジも頭に疑問符が飛んでいる。メイジンっていうのは確か…

 

 「メイジンっていうのは50年前の第一次ガンプラブームの時に活動していた伝説的なビルダーだよ。彼の作品には神が宿っていたなんて言われてるんだ」

 

 「あ゛~…あまりの凄さに彼をメイジンと呼び出して、10年前のガンプラバトル誕生時に2代目が襲名されたっつー話だ…うぷっ」

 

 「メイジン・カワグチ…3代目となりますとどんなお方なんですやろ…」

 

 メイジン、ネットの海の中でちょくちょく聞く名前だ。初代は神だった、2代目のバトルは凄かった…あまり詳しくない俺でも名を聞くことはある。特別枠としてねじ込むなら最高のエンターテインメントになりうるカードだろう。ファイターとしても強い相手がいればいるほど燃える性だろうし。

 

 『登場してもらいましょう!3代目メイジン・カワグチ!』

 

 「えっ!?ユウキ、先輩?」

 

 「ユウキ・タツヤじゃねーか!」

 

 「タツヤさんだったのか…道理で」

 

 登壇したその人物は、特徴的なサングラスで目元を隠してはいるもののユウキ・タツヤその人だった。合点がいった。どうして第三ブロック予選を辞退したのか、連絡を絶ったのか。あの後一月ほどでもう連絡できなくなると言われたし、3代目メイジンを襲名するために自分の痕跡を消していたんだな。

 

 あの人は、あの人なりの覚悟を持ってあの場に立っている。その事実が嬉しくもあり、悲しくもあった。本当なら、ユウキ・タツヤ本人として立ちたかったはずだ。だけど、彼なりにガンプラの未来を思ってあの姿になったのだと思えばそれを否定する気にはとてもなれない。

 

 画面の中でメイジンの操るケンプファーが、圧倒的な力で他の選手を蹂躙するのを見ながら俺はそう思うのだった。渡したガンポッドはその手にないけれど…戦い方は、変わってないんですね。タツヤさん。

 

 7秒と少し、ケンプファーアメイジングとメイジンが他の選手を叩き潰すのにかけた時間だ。速度に特化したヅダではなくタツヤさんが好むバランス重視の機体でこれだけのスピードを叩き出したのは偏にメイジンとなったタツヤさんの技量が桁違いだったということでもある。さすがは世界、一筋縄ではいかないようだ。

 

 「レイジ、いこう!」

 

 「ああ!野郎には聞きたいことがあんだ!」

 

 「セイくん!レイジくん!…いっちゃった」

 

 「…アルトは、いいの?」

 

 「俺は、いいかな。タツヤさんがしたいと思ったことを邪魔する気は今のところないし。やりたいと思ってやってることを引っ搔き回したくないし」

 

 「めんどくせえ考え方してんなあお前。んなもん、気に入らねえの一言でいいんだよ…いかん、トイレ行ってくる」

 

 「あっちゃ~~…知り合い…いや聞くのは野暮ですなぁ。ワイらができるのは明日に備えることさかい、いきまひょか?」

 

 限界が来てしまったらしいフェリーニさんがトイレに駆け込むのと見てげんなりした顔をしたマオがそう言ってくるのでお言葉に甘えて一緒に帰ることにしよう。飯食ってこうぜ?レイジが言ってたんだけど中華屋で小籠包の食べ放題やってるんだってさ。行きたくない?お?いいねそう来なくちゃ。セイたち拾っていこうかー。

 

 「で、フェリーニさん。なんで貴方までいるんですか?二日酔い大丈夫なんです?」

 

 「そんな寂しいこと言うなよアルト。奢ってやるからほれ、たくさん食え」

 

 「「「「ごちそうさまでーす!」」」」

 

 セイたちと合流した後、件の中華屋に行こうとしたらフェリーニさんもついてきた。奢ってくれるというのでありがたくいただくことにしよう。明日の第二ピリオド、どうやったもんか。

 

 

 

 『お待たせいたしました。これより第二ピリオドを開催します。本日の競技は、バトルロワイアル。参加者90名全員が同時にバトルをし、残り3分の1になった瞬間に終了、ポイントが付与されます』

 

 「始まったね…」

 

 「…バトルロワイアル、面白そう。前はキュリオスの人に負けちゃったし、リベンジ」

 

 「そりゃいい。楽しんでこうぜ?好きなように飛ばしたもん勝ち、だろ?」

 

 「アルトくんいいこと言うー!いつも通りだよ!ツムギちゃん!」

 

 「…ん!よろしく、二人とも」

 

 翌日、気合十分の俺たち。たくさん食べて、よく寝て、ヅダのメンテナンス頑張って準備万端である。ヅダをGPベースにセットし、ホログラムが俺たちを覆って操縦席を形作る。ツムギが操縦桿を握りしめ両脇の俺たちにもサブのパネルとモニターが現れた。バトルロワイアルか…このヅダが全距離対応とはいえ多勢に無勢ってこともある。一番いいのはセイたちと合流して協力しあえるのが一番なんだけど…

 

 『では!第二ピリオド!開始します!』

 

 「…ヅダ・マクロスパック!行きます!」

 

 開始と同時にカタパルトを滑り出て宇宙へ飛び出す。今回のバトルロワイアル、開始位置はランダム、地上に配置された人もいるし俺たちみたいに宇宙に配置されたやつもいる。大気圏に突入できるだけのスペックがあれば宇宙から地上に降りることだってできる。え?俺のヅダ?バルキリーって単体でも大気圏の離脱と突破ができるんだぜ?ヅダでもできるようにしてありますとも

 

 「ツムギちゃん!接敵するよ!3、2、1…今!」

 

 「…わかった!」

 

 ヒマリの警告を聞いたツムギが右の対艦ライフルを構える。放たれた一射は過たず相手の試作一号機のど真ん中に命中、大穴を開けた。シールドが間に合わなかったのが敗因かな。一筋の流星のように宇宙を飛ぶヅダ、巡航速度にもかかわらずその速さはまさに隕石。ステージが広いせいかそれとも過疎地域に飛ばされたのか分からないけどさっきの試作一号機以外に敵はいない。

 

 「一通り見回ったらセイたち探しに行くか。そうそうあいつらなら落とされないだろうし」

 

 「そうだね。でも周りにはいない、かなあ?」

 

 「…それよりも、アレ何とかしないと」

 

 ツムギの言葉に俺たちは彼女が指し示すほうを見る。ここで遭遇したか…チームネメシス!銀河に舞う蝶のようなMS、キュベレイパピヨンが多くのガンプラの藻屑の中佇んでいた。敵が少なかったのはここが過疎地域だったからじゃない、やつが向かってきた敵をすべて撃墜していたからだ。無感動に顔を動かして俺たちを認識したキュベレイパピヨン、わずかな身じろぎ…なんか来る!

 

 「ツムギ、くるぞ!」

 

 「んっ!見えてる!」

 

 一瞬煌めく何かがキュベレイパピヨンの周りに散った。やはり何も見えない、がツムギは何かをとらえているらしくランダム軌道による回避に入った、加速するヅダ、ぶれる視界、時折ピンポイントバリアを交えつつぶつかってくる何かを躱し続ける、うちにツムギの操縦に余裕が生まれてきた。やはり見え始めたんだ、さっきまでピンポイントバリアでいなしていたのにもう動きだけで躱している。

 

 「…もう見えた。やっぱりファンネル、それも透明な。あと…私には見えない何かが、あのファイターには見えてる」

 

 「どういう意味?ツムギちゃん」

 

 「…わかんない、さっきから動きの先読みされてる。けど、ヅダが速すぎて読み切れてないみたい。そこっ!」

 

 ヅダの足アーマーが開いてそこからマイクロミサイルが発射される。鋭角に曲がるミサイルがツムギが即興で設定したコースを飛ぶ。そう、ツムギの言によれば飛んでいるらしいファンネルの間を縫うように。明らかに動揺した動きを見せたキュベレイパピヨンの周りの虚空からビームが発射されミサイルが迎撃される。なるほど、これで確定的になった。透明なファンネルか…何もせずに周りのガンプラが勝手に壊れていったように見えていたのはこいつが高速でぶつかったことによるものなんだな?

 

 繰り返し使用可能かつビームも撃てるファンネルミサイルといったところだろう。もうちょっと情報が欲しい、ここで全力で排除しにかかってもいいけど…落としたところでどうせ上がってくるタイプの強さだ。それなら最大限引き出せるものを引き出したい。幸い周りはキュベレイパピヨンが全て掃除してくれたのでしばらく邪魔は入らない。圧縮粒子は現在80%…十分だ。

 

 「ツムギ、60秒だ。全力で相手してやれ」

 

 「…了解!」

 

 ISCのリミッターをカット、60秒のカウントダウンが始まる。ツムギは睨み合っていた静止状態から急加速、一瞬で飛んでいたファンネルの間を縫ってやつの背後に回り込んだ。反応自体は出来てるようだが追いついてない、ピンポイントバリアを纏った回し蹴りがキュベレイパピヨンを捉えて吹き飛ばした。瞬時にその場から離脱、疑似マクロスキャノンを展開、圧縮粒子のうち30%を使用し、薙ぎ払うように発射した。

 

 巻き込まれたらしいファンネルの小さな爆発が無数に宇宙に咲き、慌ててスラスターをふかしてよけるキュベレイパピヨン。若干間に合わずにかすったようで装甲が溶けている。何というか、脆い。あの機体の話ではなくファイターのほうだ。最初のファンネルを見切られた動揺からいまだに立ち直れていない。これが例えばタツヤさんだったら一瞬で気持ちを切り替えるだろう。たかが攻撃を見切られた程度でこんなにも動揺を隠せないというのは世界選手権の出場者としてはなんともちぐはぐな印象を受ける。少なくともカイザーさんなら、見切られるのすら前提で動く。

 

 「…さっきからファンネルばっかり、それはもう効かない」

 

 ツムギが言うように、馬鹿の一つ覚えのように同じ攻撃を繰り返してくる。もはや触れるどころか追いつくことすらかなわない。ガンポッドで向かってくるファンネルを叩き落としつつ片手で引き抜いたヒートホークにピンポイントバリアを分厚く纏わせて振り下ろす。何とか反応したキュベレイパピヨンは持ってたランスで受け止める。そのままヅダの土星エンジンが爆発したかのような噴煙を排出し、その場でさらに加速、ヒートホークがランスを引き裂いた。振り切った体勢のままのタックルでキュベレイパピヨンは大きく吹き飛ばされ距離があく。

 

 「あっ!まって!アレ!スタービルドストライクとガンダムX魔王!」

 

 「あれか!よくやったヒマリ!ツムギ、ここまでだ!合流するぞ!」

 

 「…ん!次は、最後までやるから!それまでは、負けないでね」

 

 ヒマリが大きく声をあげた。キュベレイパピヨンの向こう、さらに遠くに大気圏に突入するセイたちの機体があった。このまま戦い続けてもいいが、それよりも合流を優先したかった俺たちは強引に戦闘を切り上げ退却することにした。ヅダの偽装シールドのミサイルハッチをすべてオープンし、マイクロミサイルが雨あられと飛び交う。おそらく当たらないだろうが目的は目くらまし、それで十分!圧縮粒子を土星エンジンと熱核バーストタービンに回してセイたちのいる方向へかっとんでいくヅダ。途中、真横をすり抜けていくとき、キュベレイパピヨンのツインアイと目が合った気がした。そこから感じ取れたのは、強迫観念?わからないが、よい感情ではなさそうだ。

 

 赤く光る2つの流星を追いかけて、青い隕石が目にもとまらぬ速さで駆けていった。

 

 

 

 




ちょっと長くなりそうなので第二ピリオドは二つに分けます。お許しください。キュベレイパピヨンのクリアファンネルの発想っていいですよねえ。まさにガンプラは自由!って感じで。ツムギちゃんがどんどん操縦お化けになっていく…
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