「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ   作:カフェイン中毒

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最終ピリオド・死闘

 いやー昨日は楽しかったなあ。結局あの後2時間くらいぶっ続けでやったんだっけ。誰も被弾しねーから弾切れ頻発でさ。え?俺?バルキリーは最強ですので(断言)マクロスファンとして簡単に撃墜されてやるわけには行かないのです。正直同時操作であの猛者たちと張り合うのは無茶が過ぎた。頑張りすぎて知恵熱出たよ!おかげでやった後選手村でダウンしてました。で、ラストが今日なんだけど…

 

 「決勝トーナメントは出場決定だな、やったなツムギ」

 

 「おめでと~!ツムギちゃん!うりゃ~~~!」

 

 「…二人のおかげ、私の方こそ、ありがと」

 

 現状で第七ピリオドまでを全勝している俺たち、フェリーニさん、マオ、メイジン、アイラ・ユルキアイネン、ニルス・ニールセン…あとイギリス代表のジョン・エアーズ・マッケンジー、この人達がすでに決勝トーナメント進出を決めている。後を追うのはセイとレイジ、チョマーさん、ルワンさん、レナート兄弟…だ。彼らは勝つか引き分けで終わらないと決勝トーナメントに出ることはおそらくないだろう。

 

 ツムギに抱き着いてうりうりやっているヒマリを見ながら俺は自室の中で今日の発表に備える。例年通りであれば1vs1のガチンコバトルになるところではあるが…その相手が例えばチョマーさんやフェリーニさん、それにマオやセイ、レイジだった場合…やばいかもしれない。

 

 彼らは俺が作ったヅダとツムギの操縦に対応してくるからだ。そしてそうなった場合ヅダはただでは済まない。必ずどこかぶっ壊れるだろう。そうなった場合スペアパーツに換装することになるわけだがそれが問題なのだ。俺のヅダは滅茶苦茶繊細な機体で、試合するたびに関節部が限界に達して交換を余儀なくされるし、怠るとマジで空中分解しかねない。あれだ、限界の負荷ギリギリでいつも動いてるからちょっとのことでガタが来る。で、関節部程度ならまだいいんだけど、脚とか、腕とか替わったらそりゃあもう大変だ。

 

 なんでかって?重心バランスが微妙に変わるし、特に足、熱核バーストタービンが替わったらエンジンの性能も変わる。なんつってもフルスクラッチだからな、でそのちょっとが致命的な問題に変わるんだ。そのためにツムギがそれをあわせるのにどれだけかけられるかという問題だ。今積んでる熱核バーストタービンは出力バランスがぴったり釣り合った状態でチューンアップしてるのでコレが変わったらもう片方の足も変える必要があるんだなこれが。メンテナンスクッソ大変なんだよ。だから、今まで被弾という被弾をしてこなかったのは奇跡に等しい。チョマーさんに当たったらやばいかも…

 

 「おっやっぱりタイマンか。ツムギ、手加減するなよ。ヅダぶっ壊したっていいからな」

 

 「…いいの?じゃあ」

 

 「空中分解以外でな」

 

 「…くぅん…」

 

 戦いの中でぶっ壊れる分には喜んで修繕させてもらうけど自爆なんかした日には俺は不貞腐れて引きこもるぞ。ともかく、朝のニュースで選手権のイメージキャラクターを我がものとしているキララさんが発表したのはやはり1vs1のタイマンバトルだった。しょぼんとしたツムギがヒマリの膝枕の上で撫でまわされているが俺はこれに関して頑として譲る気はないからな。直すの大変なんだよ。一個壊れてたら連鎖していろんなパーツを交換しないといけないもん。俺のでかいキャリーケース、2つのうち一つは全部こいつのパーツだからな?ちなみに残り半分はバルキリーで、もう残り半分が私物。わぁいなんかおっかしー!

 

 

 「誰と戦えるんだろうね~~~」

 

 「…面白い人、チョマーさんとか」

 

 「高評価で嬉しいぜ~~~?でも俺ぁ決勝トーナメントでやりてえけどな」

 

 「俺個人としては…メイジンですかね。決着つけるっていうのは約束でしたから」

 

 「なんだお前、メイジンと知り合いなのか?」

 

 「…すいません、失言でした。忘れてください」

 

 「…わーったよ、おっ!発表だぜ?」

 

 途中で一緒になったチョマーさんと一緒に控室に入って画面を見る。対戦表のスライドショーが延々と流れる中、とんでもないものを発見した。

 

 「セイ、レイジとフェリーニさんが…」

 

 「…ここで?でも、レイジは嬉しがりそう」

 

 「そうだね。あっ私たちは最後みたい!相手は…中国代表?」

 

 「確かもう敗退が決まってる人だ。けど、ここに来るような人で負けが決まったからとやる気をなくすようなやつは来ない。どんなことしてくるかわからない以上、全力だぞ」

 

 「…うん」

 

 「昨日みたいな感じでやれば大丈夫だよっ!」

 

 「…昨日、すっごくたのしかったっ!」

 

 「その調子!」

 

 俺はツムギとヒマリから視線を外す。その視線の先には画面を見てこわばった表情をするセイ、武者震いに震えながらもにやりと笑うレイジ、そして静かにその場を去るフェリーニさん。マオがその様子を心配そうに見つめていた。俺たちの試合は二人の後の後、それまではしっかりと戦いの行く末を見守りたいと思う。

 

 ドラグーンが飛び交う中巧みに相手を撃墜したメイジン、サテライトキャノンで消し飛ばしたマオ、真正面から相手をぶった切ったチョマーさん…選手たちが続々と勝利を決める中遂に運命の時がやってきた。グランドキャニオンで相対する2機、ウイングガンダムフェニーチェとスタービルドストライク…フェリーニさんには悪いけど心情的にはセイとレイジに勝ってほしい。決勝トーナメントで競い合うと約束したその約束を二人が守ってくれることを俺は願っている。だけど、フェリーニさんにはわざと負けるようなことはしないでほしい、優柔不断だな。悪いやつだ、俺は。

 

 「アルトはん…」

 

 「気にすんな、マオ。こういうことだってある、誰も悪くない」

 

 「…セイとレイジはこんなところで負けない、フェリーニさんは手を抜くような人じゃない」

 

 「3人とも、頑張って…!」

 

 試合が始まる。撃ちあいの中有利を取っているのはスタービルドストライク、ビームライフルと背部のビームキャノン、さらには初披露となるマイクロミサイルを発射してフェニーチェを揺さぶりにかかる。フェニーチェはビームをよけ、ミサイルを撃ち落とし、どうしても当たるものはビームマントで防御するという的確な対処で切り抜ける。

 

 スラスターの残光を残しながら撃ちあう2機。そこにあるものは忖度ではなく本気でぶつかり合うという覚悟。2機はビームライフルもサーベルも構えることもなくスラスターの勢いのままぶつかり合い、お互いの頭部を打ち付ける。頭突き、ではなく決勝トーナメントのために機体を温存しないというメッセージをぶつけてきたフェリーニさんにレイジもまた光の刃を振るって答える。

 

 何度目かの衝突の後、フェニーチェの鋭い斬撃がスタービルドストライクのシステムの要であろうシールドを一刀両断した。マオがああっ!と声をあげる。機体性能ではスタービルドストライクのほうが上だが、経験値に圧倒的な開きがある。シールドを破壊するまでバスターライフルを一発も使わなかったりな。そして、シールドを破壊した今、その絶大な破壊力をセイたちに向けだした。

 

 スタービルドストライクが背にした壁をぶち抜いてがけ崩れを起こし逃げ場をふさいだフェニーチェ、機関砲がユニバースブースターに刺さりビームキャノンが片方脱落する。土煙の中に逃げ込んだスタービルドストライクを追うフェニーチェに、背部から高出力のビーム砲が襲い掛かる。発射地点に向き直ったフェニーチェだが、そこにあるのはブースターのみ、スタービルドストライクのライフルが、フェニーチェの片翼をもぎ取り、追撃でバスターライフルをぶっ壊したが、カウンターのバルカンでライフルを誘爆させられ、これでお互い接近戦しか手段がなくなる。

 

 先に先手を決めたのはフェニーチェ、ビームレイピアがスタービルドストライクの肩を抉る、だが反撃がビームマントを超えて左腕を切断した。だがフェニーチェも負けてはいない。スタービルドストライクの腕を掴んで持ち、そのままチョマーさんがやったように前蹴りで吹き飛ばす。スタービルドストライクも片腕になった。

 

 お互いに重症、まともなものが何発か入ったらそこで勝負がついてしまう。フェニーチェはビームマントを拳に巻いて徹底抗戦の構えだ。全てを犠牲にしてでも勝ちに来ているフェリーニさんを見た二人は、それにこたえるため瀕死のスタービルドストライクに鞭を打つことを決断したようだ。

 

 スタービルドストライクの全身が光りだし、その光はクリアパーツの中へ収束していく。間違いない、ルワンさんと戦った時に見たスタービルドストライクの最終手段、プラフスキー粒子を内部に浸透させて機体出力を爆発的に上げるシステムだ。クリアパーツの中で輝く光はまさに星光、同じく固く握った拳を構えて2機がぶつかる。

 

 殴る、装甲が凹む、拳がぶつかる、フレームが歪む。クロスカウンター、両機の頭部がもげる。いっそ残虐にすら映るその戦いは、ガンプラバトルをしないものが見ればいっそ滑稽に映るだろう。ビルダー専門が見れば大事なガンプラになんてことをと怒るだろう。そして、俺たちのようなファイターが見れば、憧れるだろう。俺も、私もこんな勝負をしたいと。相手と自分のすべてを出し切った上で、勝ちたいと。

 

 これで最後だと言わんばかりに両者のマニピュレータがぶつかり合い、そして同時に砕け散る。お互いにもたれかかる様に行動を停止した姿は一種の芸術品のようだ。そして、システムが下した判断は両者戦闘不能…引き分け、だった。つまりセイとレイジはギリギリであるものの、決勝トーナメントに駒を進めたのである。わっと沸いた俺たちが画面越しとはいえ二人をたたえ合う。ツムギはぱちぱちと拍手してるしヒマリとマオなんて涙ぐんでさえいる。チョマーさんは羨ましそうに笑っているし、俺も自分の口が笑みを形作ってるのに気づいた。まあ、そうだな…

 

 「おめでとう、最高のバトルだったぜ。二人とも」

 

 つまり、この言葉に尽きるのである。

 

 

 「…ねえ、アルト」

 

 「どうした?」

 

 「…次、最初から全力。だから、全部見せて、いい?」

 

 「…もう心配しねえぞ?やれるんだな?」

 

 「…もちろん」

 

 「ナビゲーションはまっかせなさーい!」

 

 ツムギに袖を引かれて、そう言われたので彼女の髪越しに瞳を覗き込んでそう聞く。二人の戦いに触発されてヅダの奥の手中の奥の手を使うと言っているのだ。別にスタービルドストライクのように特別なシステムはないけれど、本気というなら仕方ない。ぶちかましてやれ、ツムギ。お前なら余裕だろ?

 

 試合場で相手と礼をしてGPベースにお互いのガンプラを置く。相手は、アストレイレッドフレーム、青のヅダと真反対の色が真空の宇宙に浮かんだ。

 

 「…ダイダロス、形成開始!」

 

 「ダイダロス形成完了!圧縮粒子充填開始!内部圧力正常だよ!」

 

 「ISCの制限は取っ払う。今回は自由だぞ」

 

 宇宙に飛び出した瞬間ツムギは両方のシールド擬態ミサイルハッチを合体させ、右腕に装着する。最初から全力、といった以上やるだろうなと思ったけど予想通りだなあ。MS相手には過剰火力もいいところなんだよね。

 

 「…うんっ!全装甲パージ!」

 

 爆砕ボルトが起動し、ヅダをマッシブなシルエットにしていたミサイル入りの増加装甲が爆砕ボルトによって次々と外れていく。対艦ライフルも、疑似マクロスキャノンもなくなり多少違うものの、ヅダというMSの原点の姿となった。この状態はまさに制御不能、強大なエンジンパワーを抑えてた重りが無くなることによって速さという領域では誰も追いつけなくなることだろう。けどそれは操縦の難易度が前代未聞に跳ね上がるまさに欠陥機体へと変貌するまさに諸刃の剣。だけど、今のツムギなら、操作できるだろう。そう確信するほどの何かをツムギの操縦はもっている。

 

 「…ヅダ、みんなに見せてあげてっ!あなたの本当の速さ!」

 

 言った瞬間、ヅダが消えうせる。相手も見失ったのかきょろきょろと頭を動かして周囲を警戒している。残像すら残さず移動をするヅダ、瞬間…バガンッ!!と相手のアストレイが胸を大きく貫かれて爆散した。その後方にはダイダロスを突き出してぶっ刺した態勢のヅダ。数瞬後圧縮粒子が解放され青いビームがデブリを飲み込みつつ遠くへ消えていった。スピードが乗りすぎてダイダロスでぶん殴っただけで終わったのか…そして、やっぱり。ツムギはできるようになってた。素の、どうしようもなくじゃじゃ馬なヅダの手綱を完全に握りしめて行動できるようになっていた。

 

 世界選手権という強豪との戦いを存分に楽しめる場でツムギは成長していたのだ。高く、ずっと高く。世界一位という座に座れるように。中国代表の人は苦笑いしながら握手をして去っていった。決勝トーナメントにおいてこのヅダを完璧に制御できるようになったということはいい武器になるな、と俺は考えるのだった。




 ツムギちゃん、完全覚醒。やったぜこれでアルト作のパイロットのことを全く考えてないヅダを完璧に操れるね!

 もう少しお付き合いお願いします

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