「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ   作:カフェイン中毒

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 たくさんの感想、ありがとうございます。作者は嬉しくて筆が加速しております


こんなサービス、滅多にしないんだから

 私と戦ってほしい。ユウキさんは真摯に俺の目を見据えてそう言った。ガンプラバトルを申し込むということはつまり、俺の事をビルダーとしてではなくファイターとしても観ているということ。そして、俺がなぜ店に入り浸りGPベースを使っているかを、俺のあだ名を知ってたこの人は知っていたはずなのだ。それを押して頭を下げている。

 

 「俺のあだ名を知っているということは俺の目的も当然ご存知なんですよね?」

 

 「飛ぶこと、だったかな?ファイターの性だ。たとえ断られたとしても私は我慢できないだろう」

 

 「乱入するっていう宣言ですか。ま、いいですよ」

 

 「本当かい!?ありがとう」

 

 「ただし、今日は新作の試運転に来たんです。そっちでいいなら、という条件付きですが」

 

 「新作…」

 

 俺は出すはずだったYF-19、YF-21を取り出して卓上に置く。そう、俺の本来の目的はこっち。こいつらを本格的に飛ばすこと。未塗装の時にイオリ模型で試運転自体はしたけれども完全に実戦をするのは今日が初めてなのだ。

 

 VF-1とはまた違うフォルムの2機を前にしてゾクゾクと武者震いするユウキさんは、こりゃ断んねーなこのひと。新作を壊されねーようにしないと。かといってVF-1でやったとしてもどっか壊れそうだから性能が上のこっちでやったほうがいいだろうし。

 

 「勿論だ。頼む立場なのは私、それに新作なんて俄然わくわくしてくるじゃないか!」

 

 「じゃあ、そういうことで。こんなサービス、滅多にしませんよ。戦うためだけにGPベースを使うだなんて」

 

 俺はスーパーパックをYF-19に装備しながら冗談めかしてそう言うのだった。ほんと、俺の目的って本来のガンプラバトルとはかけ離れてるよな。

 

 

 起動したGPベースにYF-19をセットしてコックピットの中、光の玉を握りこむ。思えばこのコンソールも不思議だ。ただの光の玉なはずなのに握るだけで自由自在にガンプラを操ることができる。やはりプラフスキー粒子はファンタジーだ。そして、舞台はビル市街。ガウォークで地面に立っているが正直上に逃げるのはきついかもしれない。変形も使いにくそうだ。

 

 「ありがとう。君と君のガンプラに最高の敬意を表そう!さあ、勝負だ!ザクアメイジング、でるぞ!」

 

 「胸を借りますよ!α1!出る!」

 

 髪をかき上げ、目つきを鋭くしたユウキさん。俺も気を引き締めてかからないと。システム音声がバトル開始を告げた瞬間、俺はフルスロットルでYF-19を発進させた。

 

 入り組んだビル街、吹き上げる風すら再現されているが物ともせずYF-19は地面を滑るようにガウォークで移動する。良いね!予想よりも加速が早い!最高速度も出ている!そして、見つけた!赤いザク!ライフルを両手に持って警戒するようにきょろきょろと俺を探している。音を出さないようにバトロイドに変形してビルの陰からドガガガガ!!とガンポッドを連射して奇襲をかける。

 

 「いい!?冗談だろ!?」

 

 だが相手は流石全国大会出場者とそのガンプラ。飛びずさって躱したザクが追って射撃をする俺のガンポッドの弾を見切ったように取り出した赤く赤熱するナタで当たるのだけ弾いて物陰に隠れたのだ。撃たれたのを躱すなら理解できるけど撃った弾丸を見切って弾くなんてなんて技量してんだ!?けど…

 

 「物陰に隠れたっていくらでも手段はある!」

 

 「くぅ!やってくれる!」

 

 すぐさまマイクロミサイルを発射する。まっすぐ相手に当てる軌道ではなく真上に打ち上げて相手の頭上からミサイルが降ってくるようにだ。ユウキさんはゾクゾクしたような声を上げてビルからジャンプで飛び出して躱す。もぬけの殻になったビルをミサイルが跡形もなく粉々に変えるが、まだまだ!

 

 「もらった!」

 

 「甘いぞアルト君!」

 

 追うように飛び出してガンポッドとレーザー機銃を乱射する。だが当たらない!相手のザクはこちらに狙いを定めさせないように小刻みに動くことで攻撃を分散させてきている。そしてそんな状態にも関わらず、長いライフルを巧みに操ってこちらに射撃してくる。当然俺も躱し続ける。目まぐるしくガウォークとバトロイドを入れ替えながら上下左右にマニューバを取って射角を限定させて翻弄しにかかる。

 

 「素晴らしいぞ!だが、そこだっ!」

 

 ランダム回避のパターンを先読みされ、狙いを完全に定めたザクがライフルを構えこちらに直撃弾を放ってくる。俺はバトロイドに変形し、ピンポイントバリアを使用して、防ごうとするが

 

 「はっ!?なんでだ!?いや、後だ!」

 

 ピンポイントバリアが出ない。なぜ!?いや後で考えろ!今最善は…!俺は何とか装備してある盾で直撃弾をかろうじて防ぐ。そしてお返しのようにミサイルを雨あられと発射して爆炎が俺の姿を隠しているうちにファイターに変形、そのまま弧を描く軌道で回り込みながらミサイルを打ち続ける。

 

 「いい、いいぞアルト君!私を防御に徹させるとは!」

 

 「結構必死ですよこっちは!」

 

 ピンポイントバリアがなぜか使えない以上圧倒的に接近戦は不利!爆炎をナタで切り裂いて俺に肉薄してくるザクに軽く恐怖感を覚えながら必死こいて弾幕を張り続ける。ジリ貧だ!何か起死回生の一手を考えないと、いや逆に前に出る!こいつの加速力なら!

 

 「いっけええええ!!!」

 

 「来るか!」

 

 ファイターのまま突っ込む。ザクは迎え撃つように俺に両手にナタを持って立ちはだかる。タイミングを計れ!失敗したらこいつはお陀仏だぞ!3、2、1…ナタを振り上げた!今!瞬時にガウォークに変形した俺は、全力でブレーキをかける。爆発的な加速力を生み出すエンジンをブレーキに使い、一瞬で一気に減速、さらに横倒しになることで主翼をギリギリ地面にかすらせ火花を散らしながら軌道を強引に変更する。

 

 「まだやってくれるか!」

 

 「ぶっこめぇええ!」

 

 そのままバトロイドに変形して、手を地面につき側宙を切る要領で縦にナタを振り下ろすザクとすれ違う。片方のナタをすでに振り下ろしていたザクはそれでももう片手のナタを使って俺を薙ぎ払おうとしてくる。俺は上下逆さまのまま、ガンポッドを左手に持ち替え右手をザクに向ける。そしてその腕がジャコッ!と展開して内蔵されていたミサイルが姿を現す。そう、劇中で一度だけ使ったYF-19用の陸戦パックで増設された内蔵ミサイルだ。威力はデストロイドを一撃でぶっ壊すほど!この距離なら直撃だ!

 

 「しまっ!?」

 

 巨大な爆炎が咲き、ザクが飲み込まれる。爆炎に押された俺もブーストで下がってガンポッドを両手で構えながら警戒をする。爆炎から姿を現したのは、誘導型のロケット弾だ!こなくそ!すぐさま対応してガンポッドとレーザー機銃で防ぐが、一発間に合わない!しゃあねえ!

 

 俺はシールドを使ってロケット弾を防ぐがその爆発のさなか赤い機影が俺の目の前に煙を消し飛ばして現れた。赤色の輝きを身にまとって、片方の盾を失い、ライフルを粉みじんにされながらも健在のザクは赤熱するナタをシールドに向かって振り下ろす。一瞬拮抗したシールドだがすぐさま溶断され、腕ごと切り裂かれてしまった。

 

 「終わりだぁ!」

 

 「まだぁあああ!!」

 

 俺は連撃を加えようとするザクよりも一瞬早く、ガンポッドでぶん殴った。バルキリーのガンポッドは殴っても大丈夫なくらい頑丈だ。一瞬体勢を崩したザクがナタを振り上げるのと俺が無事な腕を向ける!

 

 「引き分け、だな」

 

 「いや、俺の負けです」

 

 ナタがギリギリYF-19に当たるかどうかでぴたりと止まり、YF-19の展開したミサイルが覗いた腕をザクに突き付けた状態で、お互いが静止する。千日手だ。どっちが先に動いても、後から動いたほうの攻撃が直撃する状態。俺は観念したように、ミサイルを仕舞って腕を下ろす。同時に降参を選択してバトルは終了した。壊れてしまったYF-19を回収してバトルスペースを出る。すると、わああああっ!とギャラリーが一気に沸いた。そうだ、見られてるんだった。夢中になって忘れてたよ。同じようにスペースから出てきたユウキさんは答えるように手を振ってからこちらに歩いてきた。

 

 「夢のような時間だった。ありがとう、最高のバトルだったよ」

 

 「俺も、飛ぶ以外でこんなに夢中になったのは初めてでした。楽しかったです」

 

 「しかし、引き分けなのに負けを選択してよかったのかい?私は納得いってないのだが」

 

 「失ったものは俺が腕一本なのに対しあなたは武装だけ。あの後続いてたとしても俺の負けでした」

 

 「そうか、ともかく。ありがとう。私が思った通り、君は素晴らしいビルダーで、ファイターだった」

 

 「ありがとうございます、あの不躾かもしれませんけど…この後お時間って空いてます?」

 

 何となくこの人ともっと話したくなった俺の突然の誘いにいやな顔一つせずユウキさんは、「今日は休みなんだ。どこかいい場所を知らないかい?」と快諾の返事をくれるのだった。

 

 

 

 「狭いですけど、どうぞ」

 

 「失礼するよ」

 

 ところ変わってここは俺の家の俺の部屋。そう、自宅である。ユウキさんを誘ういい場所というのを知らなかった俺だけど、どうせなら喜んでほしくて、作り途中のやつも見てみますか?と聞いたところ是非ともということだったので案内することにした。

 

 「へえ、3Dプリンター…これでパーツを作ってるのかい?」

 

 「使いだしたのは最近ですけどね。VF-1とVB-6はすべてハンドメイドでした。買ってくれた父親には頭が上がりません」

 

 「いいお父さんだね。おっこれは…」

 

 「まだ途中ですけど新作です。変形機構も試行錯誤中でして、例えば羽の部分とか」

 

 「なるほど、そういえばVB-6はどこにあるのかな?いや、動画で見た時は衝撃だったよ」

 

 「あ、モンスターならここに。触ってもらっても大丈夫ですよ」

 

 「おお、実物は結構大きいんだね。バルキリーのだいたい倍くらいかな?」

 

 「ええ、変形機構の実験も兼ねてまして、サイズ大き目に作ってるんです」

 

 VB-6を手に取ってしげしげと眺めながら感想を言ってくれるユウキさん。VB-6をガウォークに変形させたりしてトークを弾ませていると、ユウキさんが思い出したかのように俺に訪ねてきた。

 

 「そうだ、アルト君。君は世界大会に興味はあるかな?」

 

 「世界大会というとガンプラバトル世界選手権ですか?」

 

 「そうだね。私とここまでやり合える君なら興味があるかなと思ったんだけど…どうだい?」

 

 「興味のあるなしで言えば、ありますね。どんなプラモが出て、どんな戦い方をするのだろうってわくわくします」

 

 「なら、来てみるかい?さすがに選手権に参加するのは無理だけど、招待用のチケットがあるんだ。もしよければ君に渡したい」

 

 「いいんですか!?」

 

 「当たり前さ!君のようなビルダーが来てくれるなら僕も他の選手もいい刺激になる!こちらからお願いしたいくらいさ」

 

 「じゃあ、いただいてもいいですか?代わりと言っては何ですけど、これをもらってください」

 

 「これは…いいのかい?苦労して作ったものだろう?」

 

 「いいんです。作り直すでしょうけどライフル壊しちゃいましたし。代わりにはならないでしょうけど、よかったら」

 

 ユウキさんに手渡したのは2丁のガンポッドだ。YF-19用の予備に作ったんだけど世界大会に出場するなら武器は多くあって損はないはずだ。それにフルスクラッチだから威力は保証されてるし、ちょっと手を加えればあのザクで使えるようにもなるだろう。

 

 「ありがとう。必ず有効活用させてもらうよ。大会のチケットは今度持ってこよう。連絡先を聞いてもいいかい?」

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

 俺とユウキさんは連絡先を交換した後、プラモデル談議に花を咲かせるのであった。この人ミリタリー系のプラモにも詳しいんだな。この世界じゃマイナーなのに。

 

 

 

 「さて、原因究明だ。なんでピンポイントバリアが出なかった?」

 

 ユウキさんが帰った後、俺は片腕が切断されたYF-19を前にそう独り言を呟いた。そう、VB-6では使用に成功したピンポイントバリアがYF-19では使用できなかった。つまり、YF-19とVB-6では何かが違うということだ。多分YF-21でも使えないだろう。原因を探さないと。

 

 「考えられるのは…大きさ?いや、多分違う。イメージ?同じだったはず。じゃあ…仮説自体が?」

 

 独り言をぶつぶつとつぶやきながら考えに没頭する。仮説は間違ってないはずだ。VB-6では成功したんだから。プラフスキー粒子は人の思念に反応する。それは間違いない。じゃあなんで?

 

 「ファンネルを思考操作するのだから間違って…ん?ファンネル…!」

 

 そうか!そういうことか!俺はVB-6を手に取ってすぐさま分解する。多分これだ!エンジン部などの内部!本来であれば空洞で何もないのが普通なのだが初めてのフルスクラッチだった俺はとある実験をしていたんだ。「中身までディテールアップした場合性能は変わるのか?」という実験を。だから内部には機械っぽい動力パイプや基盤っぽいディテールがこれでもかと詰め込まれている。モンスターが大きいからこそできた所業だ。

 

 「そうか、ファンネルにサイコミュが必要なように…説得力のあるデバイスが必要だったんだ」

 

 そう、ビームシールドが発生装置が必要だったように、ピンポイントバリアにも発生装置が必要だった。ただ、俺のイメージにおいてピンポイントバリアは発生装置ではなく唐突に空間に発生するものだった。けど、バトルシステムはVB-6の内部のディテールを読み取って、それが発生装置であると認識した。だから、ピンポイントバリアが使えた、ということだ。

 

 バルキリーでピンポイントバリアを使うには発生装置を組み込み、バトルシステムをだます必要があるんだ。真に迫るイメージと、本物とうり二つな偽物の花が必要だった。そういうことだ。

 

 「思わざれば、花なり。思えば花ならざりき…」

 

 演じる必要がある。俺も、バルキリーも。今言ったマクロスのセリフのように頭で演じようとしてたから嘘が残ってバトルシステムを騙せずピンポイントバリアを使えなかった。だから、考えなくても、イメージしなくても使えるようにするならバトルシステムがさもそれが当たり前であると感じるように機体の方をいじらなきゃいけない。解決策が見えてきたぞ。

 

 「やってやろうじゃねえか。偽物の花を作ってやる。完璧にな」

 

 糸口をつかんだ俺は、未だかつてないほどの細かい作業を前にして、不安よりも期待感が胸の内を多く占めていた。これを乗り越えた先、俺はどれだけ上達しているのだろう。そう思うと、今から行う作業が楽しみになってくるのだった。




 さすがにピンポイントバリア関連ガバガバすぎだったのでちょっと補足を入れました。もうこれ以上は変更しません。

 というわけで次回、はまだなんも決まってません()気長にお待ちください

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