「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 作:カフェイン中毒
ユウキさんと試合をしてから1か月がたった。実はあの試合、配信されたらしくてユウキさんと結構いい試合をしているYF-19の姿が公の場にさらされてしまった。情けない試合だとは思わないがガンプラバトルで負けた試合をさらされるのはちょっと悔しみがある。まあいいんだけど。反響もなかなかあったみたいで連絡先を交換したユウキさんから
「取り次げ取り次げとみんなして言ってくるんだ。まあ断ったけどね!」
「断ったんですか?」
「サプライズのほうがおもしろいだろう?」
などと言われたので結局日本の有名ビルダーや世界選手権出場者に俺の素性が割れることもなく現状を過ごすことができている。ユウキさん、サプライズじゃなくて俺の安全も考えての事だろうから頭が上がらないや。普通にチケットもくれたし、でもなんで…
「なんでペアチケットなんだ…?」
そう、ペアチケットなのだ。しかもしかもホテル宿泊付きの超豪華仕様、部屋別で。そこまでするなら最早一人用でよかったんじゃないの?なんでペアにしたの…?今週末に迫る世界選手権の開催に際して俺はくだらなくもあるが危機に直面していた。そう…!
「誘う相手がいない…!?」
いや、いないわけじゃない。というかいるじゃないか、マイフレンズが。親に頼んでみたのだが行くのは許可してあげるけど折角だから友達誘ったら?とのこと。自慢じゃねえが友達少ないんだよ俺!なんでかって?授業終わったら即行帰ってバルキリー作ってるから誰とも話さねえんだよ!クラスによくいる影薄い何してるかわからんモブみたいな感じなんだよ俺学校だと!
「まあ、誘うならあいつだよなあ」
というわけで出かけることにする。目的地は勿論あの店、そう!イオリ模型である。セイくーん!あーそーぼー!
「ごめんアルト!行きたいのは山々なんだけど行けないんだ!」
「そんなバカな…!?セイに用事があるだと…!?」
「まってアルト僕の事どう思ってるの」
「俺の同類」
「…否定できないや」
否定させないけどな。一緒だもん、授業終わって即行帰ってガンプラいじって。ルーティンが全く一緒だから当然交友関係もそうなるわな。
「で、何の用事?」
「実は世界選手権の開催期間に父さんが帰ってくるんだ。いろいろ話したいこともあるし…た、例えば、親友ができた…話、とか?」
もじもじと恥ずかしそうにそういうセイに俺の頬も熱くなるのを感じる。恥ずかしいなら言うなよ、俺も恥ずかしくなるだろ…嬉しいけどさ。
「でもなあ、どうしよう。世界大会選手権、長期休みに被るとはいえ2週間も一緒に行動してくれる仲いい奴なんて他にいねえよ」
「スズカゼさんは?幼馴染なんでしょ?」
「ヒ~マ~リ~?確かにそうだけど2週間だぞ?女子と、2週間行動を共にするって俺がよくても相手がだな…しかも俺たち子どもだし」
「まあまあ、言ってみるだけならタダだって。お土産話期待してるから!特にどんなガンプラが出たかとか!」
「え?ペアチケットがあるから一緒に行かないか?いいよ~楽しみだね!」
「待て、即決するな。2週間だぞ。2週間俺と一緒なんだぞ?それにお前がOKしてもお前のご両親が許すか?」
『アルト君が一緒なら安心だわ~ふつつかな娘だけどよろしくね~』
『ヒマリ、アルト君に迷惑かけるんじゃないぞ~』
「いいって」
「普通そういうのって断るもんじゃないの…?」
「誘っておいて何それ~」
「いや、俺の中の常識が揺らぎそう。まず男女関係から歪むかもしれない」
まあ言うだけならタダかとヒマリの家に足を運び玄関前でかくかくしかじかと彼女に説明をして誘うと逡巡すらすることなく即答してきた。余りの事に突っ込みを入れて両親の事を引き合いに出すと話題の両親さんが二人して俺と一緒ならいいよと快諾の返事をくれた、あまりの事に宇宙猫みたいな顔をしてるであろう俺をけらけら笑ってるヒマリ。何そのしょうがないな~みたいな笑い方!
「2週間だっけ?楽しみだな~!いっぱい遊ぼうね!あ、でもガンプラの大会なんだっけ?」
「なんかよくわかんないけどアクティビティ沢山あるみたいだし、行くならとことん楽しもうか、うん」
屈託のないニコニコとした太陽のごとき笑顔を浮かべるヒマリに毒気を抜かれた俺は諦めたように同行をお願いするのだった。俺がしっかりしないと…!この調子だとこいついつか知らんやつについて行きかねないぞ…!
そうして一週間後、つまり今日、ガンプラ世界選手権の予選が明日に迫る中、早めに現地入りできるとのことで俺とヒマリの姿は新幹線の中にあった。ヒマリはまあ普通サイズのキャスター付きトラベルバッグを引いて、で俺の方は、海外旅行へ行くのかと言わんばかりの巨大スーツケースを携えている。荷物の差がやばいなこれ。普通逆じゃね?
「アルトくんそんな大荷物どうしたの?」
「いやな?作ったバルキリーだろ?補修用具だろ?予備パーツだろ?パック装備だろ?それらを収めるケースとかもろもろ詰め込んだらこうなった」
「アルトくんが大会でるわけじゃないよね?」
「でないけど?」
「じゃあガンプラいるの?」
「なんでも特設の巨大GPベースがあるらしい。それで飛んだら気持ちいいだろうなと思ってたらこうなってたんだ」
「じゃあしょうがないね~。あ、アルトくんクッキーたべる?」
「お、もらおうかな。静岡か~いったことないんだよな。うなぎパイとかは知ってるけど」
「浜松餃子じゃない?あとは~やっぱりお茶!茶畑行ってみたいかも!」
「時間あったらな~予選と決勝トーナメントの間に1週間時間あるみたいだし静岡観光もいいかもな。ま、とにもかくにも楽しみだな」
「うん!あ、アルトくんこの前言ってた曲完成したんだけど、こんな感じでいいかな?」
「どれどれ…」
差し出された音楽プレイヤーにつながってるイヤホンを片耳拝借する。もう片方はヒマリがつけて、曲を再生した。すると聞こえるのは切望を重ねて何とかヒマリにどういった曲で歌詞なのかを事細かに説明してドン引きさせてしまった曲「愛・おぼえていますか」だ。しっとりした曲調にヒマリの伸びやかな歌声で紡がれるそれは本物とは間違いなく違う。だけどマクロスの曲がそこにはあった。メロディーも、テンポも何もかも一緒、違うのは歌っている歌手のみ。感動を禁じ得ない。俺の説明だけでここまで再現して見せた彼女の才能と技術に。スタンディングオベーション、拍手喝采だ。
「完璧だ…すげえよヒマリ!本当に!俺の思ってた曲そのまんまだ!ありがとう!」
「もう、大変だったんだからね?鼻歌で作曲しろ、だなんて。でも、楽しかったから許してあげる!」
言葉の限り褒めちぎる俺に対して、ヒマリは少しだけ頬を紅潮させて恥ずかしがりつつも、笑って返してくれるのだった。
「うおー…」
「すごーい…」
新幹線を下りて駅を出た後、バスを乗り継ぎ、指定された住所まで来た俺たちを待っていたのは、巨大な会場、同じく前もって現地入りしたであろう人々、ラストシューティングするガンダムの像が立っている見た目からして豪華なホテル…まってユウキさんどんなチケット渡したの?どう見ても周りにいる人お金持ちで、一般庶民の俺は浮いている。ちなみにヒマリは意外と浮いてない。彼女音楽一家なので上流階級の人々とも交流があり、失礼にならない程度のマナーを備えているからだ。つまり、俺だけが浮いている。
「と、とりあえずチェックインするか」
「そうだね~。アルトくん大丈夫?なんか腕と足が同時に出てるけど」
うるせえやい。逆になんでお前はこの状況で泰然自若としてられるんだ。まあともかく、フロントに並んで順番が来たので受付さんにチケットを提示する。すると受付さんは表情を変えてどっか、多分内線で連絡を始めた。その間に俺は必要書類に記入を…お、ペン立てガンダムのランドセル型じゃん。ビームサーベルがペンになってら。
「お待たせしました、こちらへどうぞ」
「あ、はい。ヒマリー」
「はいは~い」
ソファで休んでたヒマリを呼んで案内されたのは、個室?部屋じゃない。にしても内装までガンダムガンダムでマニアにとっちゃたまんないだろうな~。セイのやつが来たら廊下だけで一日潰せそう。あ、あれマ・クベさんのいいツボだ。キシリアさんに届けないと。
促されるまま頭に?マークを浮かべながらヒマリと待っているとドアが開き、中に人が入ってきた。入ってきた人は…ユウキさんだ!それと知らない人が一人。誰だろう?
「やあ、アルト君。無事に来てくれたようで何よりだよ…案外、君も隅に置けないね」
「ペアチケットだったからですよ?それよりもありがとうございました。まさかこんな豪華なホテルだなんて思ってもなくて」
「そりゃあ、世界大会だからね。お嬢さん、初めまして。ユウキ・タツヤだ。名前を聞いても?」
「はい、スズカゼ・ヒマリです。アルト君とは幼馴染で、今回くっついてきちゃいました!チケット、ありがとうございます」
「どういたしまして、大会期間中、楽しんでいってほしいな」
「タツヤ、唐突に来てくれと呼び出されたのはまだいいんだが、彼らは誰なんだ?ああ、すまない。俺はアラン・アダムス。今回タツヤのセコンドを務めている」
「なんだよアラン。あんなに会いたい会いたいって言ってた相手に会わせてあげてるのに」
ユウキさんの口調が違う。随分と仲がいいようだ。それとアランと名乗った金髪の男性は何も知らされることなく唐突に呼び出されたようだ。サプラーイズ?的な奴?ユウキさんも悪い人だなあ。よし、いっちょ協力してやるか!頭に?マークが浮かんでるアランさんをにやにやと悪い顔で見つめるだけのユウキさん。ヒマリは出てきたケーキに夢中。俺は背負ったバッグの中からこいつだけは常に携帯することにしているVF-1をずるりと取り出す。
「なっ!?そ、それは…!?」
取り出されたVF-1を見て瞳を丸くするアダムスさん。もしかして動画見てくれたのかな?頑張ったんだぞあのミサイルサーカス。あとこの人ファイターじゃなくてビルダー側だな?どんな戦闘をするかプラモから見てない。あるのはいったいどんな構造してるかとかそういう着眼点の違いが視線ではっきりわかる。ユウキさんのセコンドを務めるだけはあるんだろう。
「もしかして君が!?タツヤが作成者とバトルをしたというのは知っていたが…」
「はい、サオトメ・アルトです。ユウキさんとはその縁で今回チケットを頂きました。案外知ってる人多いんですね。そりゃ作ったものに自信は持ってますけどここまでなんて思いませんでした」
マジでそう、確かにこの世界にはないものだけど、細々と続いているほかのロボットものと同じような扱いで埋まるんじゃないかと思ってたんだ。だってガンダム強すぎるもん。ガンダム無双だよ、サテライトキャノンにビームライフルで撃ち勝とうとするようなもんだもん。だから割とのんびり自由気ままにやってきたんだ。
「アルトく~ん現実から目を背けちゃいけないよ?私たちが作った動画、今100万再生突破してるんだから」
「言うなヒマリ。予想外だったんだよ」
「自覚がないのはいけないぞ。君は今ビルダー界隈では時の人だ。あんな複雑な変形機構を有するガンプラを作り出すなんて、驚嘆しかない。この世界大会に参加する選手が所属する企業の多くが君をスカウトしたくてうずうずしてるんだ。俺が所属するPPSEも君を探している」
「作ってるのはガンプラじゃないんですけどね~」
「ガンプラじゃない?」
「彼のスタンスさ、アラン。機動兵器「モビルスーツ」ではなくあくまで可変「戦闘機」…そうだったよね?ガンプラは自由だけど、スタンスだって自由さ。彼がそれをガンプラじゃないというならそうなのだろう」
そう、ユウキさんが今解説してくれたように俺のバルキリーたちはガンプラとして作ってない。あくまでマクロスのバルキリーのプラモデルだ。交流する中で彼は俺のそういうスタンスを理解してくれた。そこらへん彼は柔軟で懐が深い。アダムスさんも理解してくれたようで頷いている。
「なるほど、そういう考えもあるんだな。勉強になった。ところで動画の事なんだが、詳しく聞いてもいいかい?あれはどうやって撮影したんだ?特に今持っている白い機体の方」
「ああ、それはここにいるヒマリともう一人に協力してもらいました。ヒマリは音楽も担当してます。実はあれ、一発撮りの全部アドリブなんですよね~」
「そうだったのかい!?てっきり台本みたいなものを作っていたのかと思ってたよ」
「ミサイルを対処し続けてたらかっこいいんじゃないかって思ってはいたんですけどね。バルキリーの真価は3段階ある変形を適宜入れ替えての戦闘なので、ミサイルがそれを一番魅せられるんじゃないかって感じで」
「あの時はびっくりしたよ~。だってアルトくん、何も言わずにミサイルを俺に浴びせろっていうんだもん。でも全部対処しちゃったし、すごかったよね~」
「正直動画ではなく自分の目で見てみたいよ。羨ましいな」
「多分今ならミサイルの数が倍になってもたぶん行けますよ。ユウキさんとの一戦で滅茶苦茶操作上達したんで」
「なんだって?じゃあ今から一戦どうかな?」
「ターツーヤー?明日がもう大会なんだから壊したら差し支えるんだぞー?」
「冗談だよアラン。良かったらこの後食事でもどうかな?是非ともご馳走させてほしい。アランも話したい事たくさんあるだろ?」
「そうだな。その大荷物じゃ大変だろうし、先に部屋に行ったほうがいいだろう。すまないな、引き留めて。食事の件は断ってもらっても大丈夫だ」
「いえ、むしろ俺は楽しかったです。食事もできれば行きたいですが、ヒマリはどうしたい?」
「私もいいよ!それにアルトくん行きたいんでしょ?私も全国大会に出る人のお話気になるし!」
「はは、そんなに大したものじゃないよ。じゃあ、準備できたら連絡が欲しいな。僕の携帯でいいから」
「わかりました。それじゃあ、お先に失礼します」
「ケーキ美味しかったです!ありがとうございました!」
「ああ、ゆっくりしてきてね」
にこやかにこちらを見送ってくれるユウキさんとアダムスさんに見送られて、俺たちはドアを開けて先導してくれるコンシェルジュさんについて部屋に向かうのだった。
というわけで世界大会編開幕です。感想で勘違いされてる方がいらっしゃったので補足させていただきます。
今回主人公は世界大会に参加しません。というか原作ではまず予選を勝ち抜いてそこから世界大会に参加する切符を手にする形なので、もうすでに代表が決定してる状態になります。あとは代表者同志が世界大会に参加し、戦い合って勝者を決めて、えりすぐりのファイターが決勝トーナメントに出るわけです。
主人公たちはあくまでそれを見に来ているという立場になります