SIREN VS. BIOHAZARD(サイレンVSバイオハザード) 作:ドラ麦茶
美浜奈保子 大字波羅宿/耶辺集落 初日/十一時三十八分三十二秒 終了条件2
「――さあ始まりました世紀の対決『屍人 VS. スーパータイラント』実況はわたくし、世界的アクション女優の美浜奈保子、解説は、永遠に村を救い続ける女・安野依子さんでお送りします。安野さん、よろしくお願いします」
「お願いします」
あたしと安野さんは、お互いペコリと頭を下げあった。
「…………」
「…………」
「……え?」
「……え?」
我に返ったあたしは周囲を見回す。目の前には海が広がり、反対側には家屋がまばらに建つ集落が見えた。海辺の小さな村、という雰囲気だが、海は血のように真っ赤で、家屋は今にも崩れ落ちそうな廃屋だ。空は厚い雲に覆われ、やや強めの雨が降っている。その雨も、海と同じく血のような赤だ。どう見ても、ここは異界である……というか、これは屍人とタイラントの戦いが始まる前と、全く同じ展開だ。
あたしは、隣できょろきょろしている安野さんを見た。
「……安野さん」
「はい」
「何をしたんですか? 試合は、さっき屍人の勝利で終わったでしょう? まさか、結果に納得いかないから時間を巻き戻して初めからやり直そうとか言うんじゃないでしょうね?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
黙り込む安野さん。黙秘してごまかすつもりだな……と、普段なら思うところだけど、いまの安野さんはあごに手を当て、なんだかすごく真剣な表情で考えている。いつもふざけてばかりの安野さんだが、時々こういうシリアスモードになることがある。そんなときは、結構ヤバイ状況だったりするから厄介だ。
「……安野さん? どうかしましたか?」恐る恐る訊くと。
「……なるほど、そういうことだったんですね」安野さんは納得したように頷き、あたしを見た。「なぽりんさん、本当に申し訳ないのですが、どうやら早く帰るのは難しそうです」
「なぜでしょう? あたし、冗談抜きでこのあと大事な仕事が控えているんですけど」
「その辺はご心配なく。うつぼ船を使えば時間は自由自在ですので、たとえここで何時間何日何年過ごそうと、お仕事に間に合う時間にお返しします。ただこれは、ちょーっと、すぐに帰れるような状況ではなさそうですね」
「どういうことですか?」
「さっきなぽりんさんが仰ったとおりです。結果に納得がいかないから、時間を戻してまた最初からやり直すんですよ。ただ、これを仕組んだのは、あたしではありません」
「安野さんじゃなければ、誰なんですか?」
「それが大問題なんですよね」安野さんは大きくため息をついた。「ポイントは、誰があのタイラントどもをこの世界に連れてきたのか? ということです」
「誰って、安野さんじゃないんですか? 最初に『バイオハザードの世界からお取り寄せした』とか言ってませんでしたっけ?」
「それはそうなんですが、考えてみたら、あたしの力だけではこんなことは不可能なんです。確かに、あたしはうつぼ船に乗って、時間を移動したり、異なる並行世界に行ったりできますが、それは、羽生蛇村の中、もしくは村に関係している人がいる場所に限られるんです。あたしはこの村の呪いを受けていますので、村から離れることができないんですよ。なのに、今回は村とは全く関係の無い世界へ行くことができた」
「なぜ、そんなことが起こったのでしょう?」
「今回に限り、呪いの制約が変更されているんです。これはかなりイレギュラーな事態ですね。そんなことができるのは、アイツしかいません」
「……アイツというと?」あたしは、ごくりと固唾を飲む。
安野さんは、指を一本立てると、頭上を指し示した。「この村に呪いをかけた張本人――『神よりも上位の者』です」
「――――」
安野さんの指につられ、あたしは頭上を見上げる。空は厚い雲に覆われている上にここは運動会用のテントの中だが、それでも、はるか空の彼方から誰かに見下ろされているように気分になる。
神よりも上位の者。羽生蛇村に呪いをかけたのは村の神様ではなく、神様よりもさらに上位にいる存在だ、という話は、以前安野さんから聞いたことがある。神様を倒しても村の呪いは解けなかったから、そう考えざるを得ないらしい。
「でも、その神よりも上位の者が今回のことを仕組んだとしたら、何が問題なんですか?」
「はい。アイツがただのヒマつぶしでこんなことをするとは思えません。まあ、一連の村の呪いが神々の遊び的なヤツである可能性もあるんですが、たとえ遊びでやってるのだとしても、そこには必ず目的があるはずなんです。その目的を達成できなかったから、時間が戻ったのです」
「つまり、さっきの試合結果は神よりも上位の者の意にそぐわなかったから、最初からやり直すことになったと?」
「そうなります。各試合が終わるたびに『終了条件
「と、いうことは?」
「この戦い、バイオ側のクリーチャーが勝つまで、永遠にループすることになります」
「…………」
「…………」
「……はい?」
「この戦い、バイオ側のクリーチャーが勝つまで、永遠にループするんです。さっきの戦いは屍人さん側が勝利しましたが、その結果に納得がいかなかったから、やり直しさせられているんです」
「…………」
「…………」
「……子供じゃないんですから、結果は結果として受け入れましょうよ」
「あたしに言われても困ります。文句は、神よりも上位の者に言ってください。もっとも、ヘタに文句を言おうものなら、さらに面倒なことになりかねませんけどね。なにせ、死ぬほどお腹が空いてる人間のところに魚っぽい格好の神様を落としておいて、それを食べたからって一三〇〇年も呪いをかけるヤツですから。相当性根が曲がってると思います」
「それで、元の世界に帰るには、どれくらい時間がかかるんですか?」
「さっぱり見当もつきません。参考までに、前回ループから抜け出した時は、十万回くらいループしました。いかんせん、アイツの目的が判りませんでしたからね。というか、なぜループを抜け出せたのか、実は今でもよく判ってないんですよ。神様を倒したからなのか、現世へ生還できたからなのか、新たなループを構築できたからなのか……考えられる理由はいろいろあって、これだ! というのが、まだ判らないんです。なので、今回もバイオのクリーチャーが勝てば終わるという保証はありません。目的も判らず脱出方法を探るんですから、ホント、無茶な話ですよ。まあ、安心してください。たとえ何千何万何億何兆回ループしようと、現実には三日しか経っていませんから」
「安心できるか。早く元の世界に帰せ」
「だから、あたしに言われても困りますってば」安野さんは腕を組んだ。「しかし、どうすればバイオ側のクリーチャーが勝つんでしょうね? 最強のスーパータイラントですら勝てなかったんですよ? ていうか、誰が来ても最終的には屍人化するんですから、バイオ側に勝ち目はないでしょうに」
「でも、屍人になるのは人間だけじゃないんですか? バイオハザードには、人間以外のゾンビもいませんでしたっけ? ゾンビ犬とか、ゾンビ蛇とか、ゾンビ植物とか、ゾンビ鮫とか」
「お? そうでした。確かに、そいつらなら屍人化はしませんね。さすがなぽりんさん。良いところに気がつきました」
「じゃあ、さっそくそいつらを連れてきましょう」
「とはいえ、それだけでは無理でしょうね。屍人化は回避できても、不死である屍人さんをどう倒したものやら」
「宇理炎は、動物や植物には使えないんでしょうか?」
「やってみないと判りませんけど、まあムリじゃないですかね? それが可能だったら、魚とか虫とか微生物とか雑草とかで使い放題のチート武器になりますから。ひとつ考えられる手段としては、美耶子ちゃんの飼犬のケルブにT-ウィルスを投与してゾンビ犬にし、焔薙を使わせることです。木る伝が神様との戦いの際恭也君に味方したのは、神代家の娘に恩があるから、という説があるんです。もしそれが正しければ、ギリ木る伝が味方してくれるかもしれません。もっとも、美耶子ちゃんはブチ切れるでしょうけど」
「仕方ないです。必要な犠牲というやつでしょう」
「なぽりんさんも、ノリがよくなってきましたね」
「あたしは一刻も早く元の世界に帰りたいんです。さあ、行きましょう」
というワケで、あたしと安野さんはうつぼ船に乗り、バイオハザードの世界へ旅立った。
……が、事はそう簡単な話ではなかった。
この後、あたしたちはなんとかバイオ側のクリーチャーに勝利させることができたものの(それだけでも何百回もループしたけど)、安野さんが懸念した通り、それだけでは終わらなかった。バイオ側の勝利は次のシナリオの解放条件にすぎず、その先にも新たなループが発生していたのだ。しかもそのシナリオにはバイオハザードとは違う世界が関係しており、ループから抜け出すために『デットライジング』という並行世界から登場人物を連れて来なければいけなかった。もちろん、その先にも新たなループが待ち構えていた。
その後、あたしと安野さんは様々な並行世界を奔走し、何万回ものループの果てに、レオンがアシュリーを救出した事件をTKを倒したフランクが世界中にスクープしフィオナのアゾートを入手したタイラントが傘で堕辰子を倒してその首をダニエラが過去へ届けると同時にマスターチーフがリングを破壊したことでどうにかループから抜け出すことができたが、その話はまた機会があれば。
Q:SIRENの屍人とバイオハザードのクリーチャーが戦ったらどちらが生き残りますか?
A:バイオ側のクリーチャーが勝つまで永遠にループする。