喧嘩するほど仲が良い。その言葉はかの兄弟に適応されるかと問えど、誰も答えはすぐに出せないだろう。
率いる超人の違い、思想の違い。相反するものが多く、真に手を取り合えるまでは長い時を必要としている。
だが、超人の可能性を信じる。その思いだけは一致していた。
あやつが動いた。それを契機に悪魔超人軍は超人墓場への侵攻を開始。
……始祖の呼びかけに応えて海が割れ、道が現れる。幾億の時を超えてなお変わらないその仕組みは、ゴールドマンにとっては嫌悪の対象にしかならなかった。
変わらない、それが悪いわけではない。維持し続けるというのは困難であるが故に。ただ――変化する時代に合わせて適応する、それができないのが問題であった。
このままでは完璧超人の行き着く果ては停滞だと、誰もあやつへ進言できなかった。進言しても聞き入れることはなかった――その果てがこれだ。
もはや、理想は怨念へ成り下がった。
『ただし、もしも』
『もしも私の方の判断こそ間違っていたのだと、心からお前がそう納得する日がこの先訪れたとしたならば』
『お前は私にそれを告げに来てほしい』
『それでも私が聴く耳をもたぬ老害に成り果てていたようならその時は』
『遠慮なく私を討て』
ゴールドマンはザ・マンと交わした約束を果たすために門を開く。
その姿はザ・マンの弟子として研鑽を積んでいた時のものではない。悪魔超人らを率いる悪魔将軍として――超人の進化は成ったと伝えるため、あえて鎧を身に纏った。
超人閻魔と悪魔将軍、互いに変わった証である鎧、どちらが先に壊れるか――それがきっと、この争いの終焉を飾るだろう。
ダンベルの一撃でミラージュマンの残り香である幻覚を晴らす。
天国のような輝きから一転して重く暗い地の底へ。死後の世界という言葉の似合う荒地を歩く。
……あいつがいない? そも気配がしない。
一部の悪魔超人が会得している悪魔霊術は死者の魂を操作するのが基本となっている魔術。その応用で捜索するも、痕跡が見つからない。
単純に力が届く場所にいないのか、それとも消滅して……否。それだけはあり得ない。
「……これは」
超人墓場には似合わない、一輪の花が咲いていた。幻覚ではない、たしかに存在する生命だ。
普通ならば気に留めず、なんなら踏み潰すかもしれぬ路傍の存在に悪魔将軍が目をやったのは――そこからかの超人の、サマルの気配がしたからだろう。
風もないのに花が揺れる。煌めいている花粉をふわりと飛ばし、何かを再現しようとしている。
『知らぬうちに下等超人に汚染されたお前を放置し、天使たる完璧超人に下界の思想を広めるわけにはいかん。よってお前を封印することに決まった』
それは過去の記憶。ゴールドマンもシルバーマンも知り得なかった超人墓場のワンシーン。
超人閻魔を中心とし、両翼にずらりと始祖が並んでいる。
『――そう、か』
その目は覚悟を決めていた。とうとうこの日が来てしまったか、とこの後に来る処罰を受け入れていた。
これまで全く関わりがなかったキン肉マンへの多大な信頼、それを見せてしまった自分のミスだ。言い訳はしない。逃げもしない。
『長きに渡り
超人閻魔から掌を向けられる。そこにはサマルの意識を閉ざすための力が集まっている。それを受ければ間違いなく一瞬で意識を失うだろう。
『最後に、ひとつだけ』
何を告げるのかと皆が耳を澄ます。
『そう遠くない未来で、貴方とゴールドマンの約束は必ず果たされるでしょう』
『――そうか』
その言葉を最後に過去の投影が終わった。役目を終えた花粉はまた花の中へ戻る。
……本当に最後になるかもしれない言葉で、彼は男に恨みでも呪いでもなく、その未来を案じた言葉を残した。
どこまでも、あいつらしかった。
「無駄なことを」
それは怒り。自分のことではなく、このゴールドマンのことを気遣った、愚かなあいつに向ける怒り。
あの約束をあやつが忘れるはずがないと、分かっていて、それでもなお。
変わる可能性を高めるため? 思い出させるため? ……そんな心配が必要だと誰が求めた?
「あいつめ……要らぬことをさせてしまうほどに私は弱いと、残していきよったか」
ここにいない彼へ感情をぶつける。……当然、返事はない。
封印。聞こえはいいが意味合いとしては追放に近い。どうしてそんなことが起きたのか。考えるまでもなくあの時の応援が原因だろう。
シルバーマンの子孫たるキン肉マンへの応援。言葉の中身は明確な拒絶ではないが、男にとってはそうではなかった。薄れていたはずの感情が蘇り試合へ影響を及ぼすほどの衝撃があった。
あの言葉はただの応援。特殊な力を与えたわけではない。敗北した直接の原因ではないが、だとしても無視はできないものとしてゴールドマンの記憶に刻み込まれている。
「私の邪魔をするものは、たとえ神であろうと許しはしない」
……今度は誰の力も借りぬ。自身の肉体で、力で、この手で解き放つのみ。
何が起ころうと二度と歩みを止めることはない。かつての同胞が立ちはだかろうと。この道の先でどれほどの命が散ろうとも。
悪魔と、呼ばれようとも。
封印。そのために放たれた強大な力を受けたサマルは思考だけが許されていた。超人閻魔のみが操作できる封印を今のサマルにどうこうできる力はない。
彼の魂は誰の目にも触れぬよう、干渉ができぬように超人墓場の奥地へと沈められた。
――そして、時は流れる。
外がどうなっているのかは分からない。これ以上下等に染まらないように、という措置だろう。時間感覚もよく分からないから今が原作のどこまで進んでいるのか分からない。
寒くもない、暖かくもない。
静寂に狂うわけでもない。
ただ、孤独と暗闇があった。
『今こそ蘇るがいい! カピラリア大災害から下等超人を守りし奇跡の神木……"
今の声はまさか。いや待てどうして外の声が聞こえて、その答えはすぐにやってきた。
急激な覚醒。何かが引き上げられている。その余波がここまで届いて……違う。これは……これと俺は繋がっている。どうして? 超人墓場の奥へと封印されていたのではなかったのか?
答えを導く時間はない。眼前の闇が崩れていく。壁が壊れ……いや、壁ではなく殻のようだ。
それにしてもここはどこだろうか。風が頬をなでる。陽の光が少し眩しい。……太陽の光? そんなまさか。
それにどことなくふわっとしていた死者時代と明らかに違う。存在を肯定する重さがある。
……もしや。体が、ある?
急展開に着いていけないのは彼だけではなかった。
「なんだあれはーっ!?」
ストロング・ザ・武道により地中から呼び起こされた樹、
ほろほろと殻がこぼれ落ちたその中に、一人の超人がいる。その見目はパッと見人のようであったが、よくよく見れば違う。まず普通の人間は頭部が竜ではないし、体色が緑でもない。
筋骨隆々とした大男……ではなく、細身の超人。これまで戦ってきた相手のように視覚から圧を与えるほどの体ではないが、それがより一層不気味に見えて仕方がない。
正義と悪魔、どちらの陣営でも見たことがない超人。ならば残った一つ――完璧に所属しているに決まっている。
「クソッ! まだ伏兵がいたっていうのかよ」
悪態をつくブロッケンJr.。問題の超人は大地を見下ろし、一人を名指し言葉を発した。
「――サイコマン、これはお前の仕業か」
それはここにいない超人の名。
「ええ! おはようございます、サマルさん」
どこからともなく瞬間移動してきたのか、ストロング・ザ・武道の隣で優雅に一礼をするサイコマン。目に見えてご機嫌だ。そしてどうやら謎の超人の名前はサマルというらしい。
あの態度、間違いない。同格の相手だから許される距離感だ。緊張が走る。
……はあ、とため息をついた後に地上へ降りてくる。この場に揃った超人を品定めするかのように一通り見て……どうしてかキン肉マンだけ見つめる時間が長かった。
バッチリと目があってしまったキン肉マン、なんじゃなんじゃと戸惑っている。
「俺の封印と世界樹の封印を同期、この新しい身体も前の体と同じく世界樹由来のもので作って同調率を上げて……そんなところか。他にも種類までは分からないが力を持つ植物を加えたな? サイコマン」
「ニャガニャガ、封印が解けた直後でその洞察力、お見事です。ええ、ほぼ同一の物で揃えさせてもらいました。こうでなければ貴方の封印を綺麗に解くことができませんでしたので」
「俺にそこまでする価値は無いだろう。俺は既に始祖と相入れない存在だ」
……仲間割れ、しているのだろうか?
「私たちの描いた夢の続きを、完璧な形で真に完成させるため! そのために貴方は必要不可欠な存在。閻魔さんからの許可もきちんと頂いていますよ。何がそんなに不満なのですか? また超人達の発展へ貢献ができるのですよ?」
「超人達……その中にはもう完璧超人以外の超人は含まれていないんだろう。なら無理だ。今を生きる超人の全否定、それを俺たちの夢だなんて認めるわけにはいかない。あの
応援。応援?
「あ……ああ〜〜っ! 思い出したぞ!」
突然大きな声を上げるキン肉マン。
「この声はあの時に――悪魔将軍と戦っていた私を応援したあの声だ!」
キン肉マンは確信した。そうだ、あの言葉は幻聴なんかじゃない。『負けるな、頑張れ、キン肉マン――!』確かにそう言ったのは、今サイコマンと論戦を交わす、目の前の超人の声だ!
「なっ、それは本当か!?」
食いつくラーメンマン。
「ああ本当だ、あの
ざわざわと動揺が広がる。
「貴方唯一の愚行、それがこうも広まるのはよろしくないですねぇ」
すう、と目を細めるサイコマン。殺意が滲み出る。正義超人らを庇うようにサマルは立つ。
「ニャガニャガ、冗談にしてはタチが悪いですよサマルさん」
「見ての通りだ。俺は彼らに付く」
遅れてガンマンとジャスティスマンが現れる。二人とも正義超人らを庇う様子を見せたサマルに対し思うところがあるようで、特にガンマンは怒りを露わにしていた。
「シャババ〜ッ! やはりあの時に殺しておくべきだったのだ!」
今すぐにも殴りかかっていきそうなガンマンの腕はジャスティスマンによって抑えられた。
カツン。コツン。足音が聞こえる。一人ではなく複数。現れたのは悪魔将軍と、彼に付き従う悪魔超人。
「久しいな」
「……ああ、随分とな」
思い出語りをすることなく、ゴールドマンとはその程度で話を終える。
明かされるストロング・ザ・武道の正体。両者の激突寸前に乱入するネメシス。細部は異なるが、流れとしては本来のストーリーから外れることなく進んでいく。
その中に付け加えられた、今の超人界に残っているサマルについての伝承と正体。サイコマンは語る。
それは正義と悪魔、両者に伝えられる古いお伽噺の「求めるものを与え悩める人々を救った大樹」、「闘争に赴く男達へ相応しい衣を与えた竜」、その原型となった一人の超人。
超人の戦士達がリングで戦うことができる、その舞台を作る技術を残した偉人。
裁きの神として名を残したジャスティスマンと同様、とてつもなく偉大な存在である。ここまで言わなければわからない下等超人にサイコマンは呆れていたようだった。
「グォッフォ……まさかあのコンプリート・コンクリートとやらもあのお伽噺のドラゴンが作ったものだったなんてなあ」
シングマンとの戦いであのコンクリートに苦しめられたサンシャインは苦い顔をしていた。
成し遂げた功績が多く、またどれもが大きい。ここに立つ彼は、本来ならば普通の超人が肩を並べることすら有り得ない存在。
アレキサンドリア・ミートの平伏は早かった。リングに立つことはできずとも戦いのサポートをメインとするセコンド超人、その救い主とも言える存在を目の前にしてただ立っているだけなんて恐れ多かったから。
サマルはしゃがみ、目線を合わせ、立つように促す。
「俺はそんな態度で接してもらいたくて物作りをしてきたんじゃない。ただ皆の役に立つように、それだけを願ってきた一人の超人だ。……それに、
「…………っ! はい、サマルさん!」
サマルが差し出した手を取って、ミートは立ち上がる。小さい体には今を確かに生きていることを示す熱があった。自分にもその熱はある。
そうだ、今の自分には体がある。サイコマンが作った体。レスリングはできずとも、強い力を持つこの体を使えばきっと⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の⬛︎⬛︎を⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎できる。未来へと繋ぐための二度目を恐れる必要はない。……あれはあいつが作った。なら、あいつが直すべきだ。一番仕組みを分かっているのはあいつなんだから。
後は、その時が来るのを待つだけ。
日に当たり花開くサイフォンリング。リングに上がる戦士達。
……カウントは進む。終わりに向かって。