キン肉マン世界古代転生   作:ウボァー

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超神編(仮)
大魔王サマル顕現!? の巻


 オメガマン・アリステラとマリキータマンによるタッグ『オメガ・グロリアス』に対するはキン肉アタルとブロッケンJr.のタッグ『フルメタルジャケッツ』。

 アリステラへ繰り出されたアタル版マッスル・スパークにより決着がついた――かに思われたが、そこへ大魔王サタンが現れる。

 アリステラから邪心が無くなったことでアリステラを乗っ取りザ・マンを倒すというサタンの計画は破綻した。

 真の悪魔になれる素質を秘めていた男への失望から、今まさに大魔王による制裁が行われようとしていた!

 

 

『死ねーーっ』

 

 漆黒の杭がオメガマン・アリステラ目掛けて射出される。普段ならば余裕で回避できただろう。だが、今は手負いだ。迫る危機を認識できても体が動かない。

 

 リングの上に鮮血が散った。

 

「ア……アリステラは……オレが、守る……ッ!」

 

 先程までナパーム・コンビネゾンによりダウンしていたはずのマリキータマンがアリステラの前にいた。庇ったのだ。

 鉄柱に打ちつけられ凹んだ胸にさらに杭を撃ち込まれ……もう、その体にはなんの力も残されていなかった。

 

「マリキータ!」

 

 アリステラは手を伸ばす。つい先程までパートナーを助けるために使われていたその手は――届かなかった。

 落下していく同胞は運が良かったのか悪かったのか、地面に激突はしなかったものの緑生い茂る若木に引っかかって――待て、あそこに木などあったか? この関ヶ原の地へたどり着いた時、あのような目立つ緑色は無かったはず。だがその疑問にかまけている暇はない。

 かすかに胸は動いている。呼吸ができている。生きている。それだけで十分だ。

 

『フン、悪運だけはあるようだな』

 

 リングに残るのは皆疲弊しているもこの地上では上位に入る実力者達。

 ならば、誰もが目を背けたくなるほどの惨劇の贄とすれば、地上の絶望はより深いものとなる。

 

『喜べ、私直々に制裁を与えてやろう! とくと刮目せよ、新たなる地上の支配者の誕生を〜っ!』

 

 バチバチと空気が放電する。

 

「あれは……!?」

 

 空に浮かぶサタンの顔がぐにゃりと歪み、新たな形を形成する。……人の形。ぴしり、ばきり、耳障りな外殻の壊れる音。音がするたびにサタンだったものにヒビが入っていく。

 

 内より現れたのは毒々しい紫の鎧を身に纏う真っ赤な体をした――()()()の姿、だった。

 

「バゴアバゴア……この体で現れるのはいつぶりであろうか」

 

 ここにいるのは幻覚ではなく実体である、と言わんばかりにズンと音を響かせてリングに降り立たった。調子を確かめるかのように拳を握り開き、と数度繰り返す。

 唖然とする超人達。当たり前だろう。何故ならサマルはその魂をダンベルに変え、サイコマンにより超人墓場で再度復活するための方法を探している途中だ。

 

 

 では、ここにいるのは――『何』だ?

 

 

「俺はあの戦いを直接見たわけではないが、何が起きたのかは知っている! あの超人がお前に手を貸すなど絶対に()()()()()! その姿に化けて動揺を誘おうとしても無駄だ!」

 

 アリステラは眼前の存在がもたらす困惑を振り払うかの如く腕を振るう。地球から遠く追いやられたオメガの民であっても、かの超人の偉業の庇護下にあるからだ。

 カピラリア大災害から生き残った先祖は、彼がザ・マンの弟子として選ばれ生活の場を移したことで使われなくなった跡地――そこに残された知識を得た。最先端でなくとも優れた物作りの力は大きい。

 オメガの民はサマルにより繁栄したに等しい。それこそ始祖達が粛清を行うほどに。巡り巡って彼に行き着く罪……それが大魔王サタンの策略の一つであるかは本人にしか分からない。

 

「動揺……? 何のことを言っている? この姿は我が化身の一つにすぎん」

 

「デタラメを!」

 

「やめろアリステラ! ブロッケンもだ!」

 

 今すぐに技を仕掛けようとするアリステラをアタルが静止する。超人血盟軍の中でも喧嘩早いブロッケンJr.も大魔王サタンへ襲い掛かろうとしていたが、尊敬する男の声を聞き踏み留まる。

 

「なんで邪魔するんだソルジャー隊長(キャプテン)! あの人が侮辱されているようなモンだろう!?」

 

「違う、あれは――」

 

 キン肉アタルはかの真実について、残虐の神から現れるかもしれない脅威の一つとして教えられた。だが、それを他者へ伝えていない。余計な混乱をもたらす可能性が高かったからだ。

 困惑するオメガマン・アリステラとブロッケンJr.への対応からサタンも気がついたようだ。

 

「んん? そうか、知っているのは貴様だけか。神の入れ知恵か……バゴアバゴア! ならば教えてやろう、愚かな超人達よ」

 

 大仰に腕を広げて語る。

 

「アレは私が作った超人だ。私のモノなのだから私がどう扱おうと問題はなかろう?」

 

「そんな嘘っぱちを!」

 

 ついにアタルの静止を振り切りブロッケンJr.が飛び出す。先手必勝、とばかりに繰り出されるのは彼の代名詞である必殺技。

 

「ベルリンのぉおっ赤い雨ーーーーっ!!」

 

「フン!」

 

 当たれば肉体を容易く切り裂く手刀、真っ赤に燃えるブロッケンJr.必殺の一撃がサタンに当たることはなく、手首を掴まれ止められてしまった。

 退こうとしたものの、そのままサタンの手に力が込められる。技は何一つとして使われていない、ただの力だけでブロッケンJr.は捕らえられた。

 

「グウ〜ッ」

 

「よりにもよってこの体を傷つけようとするとはなぁ〜っ。これは我が化身であるが、お前達が崇めるサマル――真の名をサマエルとするあいつの体そのものでもあるというのに」

 

 襲いかかってきたブロッケンJr.を腕の力のみで横へ放る。適当に、どうでもいいとでも言うかのように。

 リングの上に投げ捨てられた衝撃から呻き声をあげながらも、サタンの放った言葉はしっかりと聞き取れる意識はあった。

 

「どういう意味だ」

 

 攻撃のためオメガハンドを開きかけていたアリステラだが、サタンのその言葉を聞き動きをピタリと止めた。目には敵を討たんとする闘志を燃え上がらせながら問う。

 

「どうもこうもそのままだが? 知っていてワザと教えなかったそこの薄情な元・王子候補に聞けばよかろう」

 

「……残虐の神から聞かされたうちの一つ、現れるだろう脅威とその過去について。それがサタンとサマルの繋がり――その始まりは、この地上に超人が現れたはるか昔まで遡ると」

 

 はるか昔の世界で起きた、御伽噺のような真実。こうして口にしていても頭のどこかでは否定してしまいそうになるぐらい現実味のない話。

 どうやらサタンはこちらの邪魔をする気はないようだ。せめて彼らの傷が癒える時間の足しになれば、と話の早さを少し落とす。

 

「これまでの超人と比べれば異端となる彼は、地上の超人へ技術とモノによる富を与え、それにより超人社会は発展した。……だが、それは破滅をも加速させることになった。富は貧富の差を生み出し、強者が弱者から奪う事を思い付かせ、それは全宇宙へと広がってしまった。超人をこのままにしてはおけぬ、とカピラリア大災害によるリセットが敢行されるもその超人は生きていた」

 

「……それは超人の体を捨てた、とかじゃねえんだよな」

 

 カピラリアの光と同じ超人抹殺光、レインボーシャワー。それから逃れるため、ブロッケンJr.は超人の体を捨てたことがある。

 だが、あれは試合という条件下、かつその中で超人を殺す光を使う相手だと分かっていたからできたことだ。状況が何もかも違う。けれど、確認のために問いかけた。

 

「ああ。超人から人間へなったのではなく、ザ・マンに救い上げられたのでもなく――光を浴びて、それでもなお、超人は生き残った」

 

 サタンへと視線をやるも、大魔王はにたにたと笑いながらこちらを見るだけで何も言わない。上から目線の答え合わせをされているようで気に食わないが、今は時間を稼ぐのが先だ。

 

「神すら知らなかった、カピラリアの光を通さない大樹。それを元にして作られた超人、それがサマル。神の手ではなく大魔王サタンによって生み出された、本来ならばいるはずがない超人」

 

 そうして彼は生まれ持つ知識とザ・マンの慈悲によって、始祖へと迎え入れられた。今を生きる者は知ることさえあたわぬ、神のみぞ知る物語。邪悪五大神は当然知っていた。

 

「バゴアバゴアッ、ちゃあんと神の使い走りとして覚えてきたようだな」

 

 乾いた拍手が祝福する。貰っても誰一人として嬉しいとは思わないそれを止め、サタンは話を引き継ぐ。

 

「そこから先は神とて知らんだろう。――ヤツは一度死んだ。そのためにサイコマンとやらが新たに体を作る必要があった。その経緯についてはあえて語らなかったようだがなぁ〜っ」

 

 下等超人の皆さんにもわかるように、とサイコマンがサマルについて語ったのは偉業のみだった。当然だろう、口に出すのも考えるのも嫌になる存在をあの場で態々出す必要はない。

 

「真実はこうだ。カピラリア大災害を生き延びたあいつは憎くきザ・マンの下へ潜り込み、私の望みを叶えるため超人墓場へと私を召喚したが、その直後で愚かにも裏切った。だから裁きを与え殺した。故に魂は超人墓場に残った……なら、体はどこにあるか?」

 

 ニタニタと笑いながら指先を自分(サタン)に向ける。

 ――消滅を請け負った際の台詞の中、サマルは『ついでに前の俺の体を作ったアイツも始末しようとしたんだが』と言っていた。他ならぬサマル自身が、自分は他の存在に造られた命であり、かつそいつは滅びるべきものだと肯定していた。

 ……正義超人達の顔が青ざめる。

 

「アレは己の存在が他の命とは相容れぬことを知っていた。知っていてなお、私が与えた堕落の知識を振るうのを止めなかった。その果てがカピラリア大災害よ。――貴様ら超人を発展させたのは我が知識と言っても過言ではない。ならばこの私を崇め奉るのが筋というものではないか?」

 

 

 

「――何を言っているのですかねぇ?」

 

 

 

 どこからともなく声がする。

 

「この地上に古代から残る癌を崇める文化なんて存在しませんよ」

 

 そこには二人の男が立っていた。

 風にはためく純白の衣、鎖の揺れる音。一人の胸元を彩るブローチが瞬き、その存在を主張する。サタンはそれを見て少しばかり顔を顰める。

 

「ニャガニャガ」

 

「………………」

 

 完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)、サイコマンとジャスティスマン。

 

 かつては地上に蔓延る友情パワーを殲滅せんと正義と悪魔を相手にしていた恐るべき強者。だが、今は敵ではない。鍛え上げられた筋肉が、その背がこちらに安堵を与える。なぜなら、彼らがここにいる目的は――。

 

「消え損なったザ・マンの手下ども、か。私はそこの哀れな超人へ真実を知る手助けをしてやっているのだがな? 何がお前らの気に食わんというのだ」

 

「主観と虚飾に塗れたものは真実とは言わん」

 

「バゴアバゴア、面白いことを言う。私は当事者だぞ? お前たちは実際に見たわけではないのに何故そこまで言い切れる!」

 

「黙れゴミ屑」

 

 コレは余計な隙を与えれば延々と都合のいいように話を騙る。だからジャスティスマンは全ての言を断ち切った。

 

「下がりなさい。この太古から蔓延る邪悪は我々が滅ぼすべき存在です」

 

 サイコマンから遠回しに後は任せろ、と言われたアタルはブロッケンJr.と肩を支え合うようにして浮遊リングから下りる。アリステラはジャスティスマンと何かを話して……納得したのかフルメタルジャケッツの後を追う。

 

「さあ、これで邪魔は無くなりました」

 

「バゴアバゴア……怪我人に気を取られて負けました、の言い訳ができなくなったの間違いではないのか?」

 

「お前一人で我らに勝てる、と?」

 

 数字で見ると二対一。劣勢であるはずなのに、サタンは口の端を吊り上げ笑う。

 

「誰が二人まとめて相手などするものか」

 

 クンと手を動かすと同時、サイコマンがダイヤモンドの輝きをもつ何かに背後を取られた。

 羽交締めにされる。後ろへと重心が傾く。スープレックス? 似ているが違う。ダイヤモンドのソレはロープを越えるように飛んだ。組み付きを外そうとはしない。自身の重さと重力による加速を追加してサイコマンを地面へ激突させようとしている。

 

「ニャガーッ」

 

 かつてこの地で試合が行われた際は浮遊リングの横の面もリングとして使用していた。両腕から放たれるマグネット・パワーが重力装置を再稼働させる。重力が生まれ、落下する方向が変わる。何事も起きなかったかのように浮遊リングの側面に立つサイコマン。組み付いていた相手も流石に分が悪いと判断したのか、腕を解き距離を取る。

 

 ……突然の出来事であろうと戸惑うことなく冷静に対処した見事なサイコマンの手際により、サタンの手のものによる自爆特攻は不発に終わった。

 不意打ちをしたのはどんな輩なのかとその顔を見た途端、サイコマンは口に手を当て優雅にかつ嘲るように笑う。

 

「こんな粗雑な人形を使って始祖と真っ当な試合ができるとでもお思いで? 節穴にも程がありますよ」

 

「試合? そんなものをするとは一言も私は言っていない。これから行われるのは『処刑』だ!」

 

 サイコマンと睨み合うのはギラギラと目を潰すように攻撃的な光を放つボディを持つマスクマン……いや、その中に命は無い。見た目は悪魔将軍そのものだ。だがところどころ動きがぎこちない。例えるならば関節の錆び付いたロボットや糸の絡まった操り人形といったところか。

 それでも恐怖の将として並の超人を葬るには十分な力を備えている。人形は痛みに怯まない。損傷を恐れない。この人形の動きを止めるには少々手間がかかるだろう。

 

 見れば見るほど嫌悪感を沸き立てるコレが何でできているのか、始祖の二人はどうでもいいと心の中で切り捨てたが……声が出せたのならサマルは正解を言い当てただろう。

 

 ――ジェネラルストーン。大魔王サタンによって作られる、邪心を増幅させ魔性の力を与える宝石。その硬度はダイヤモンドに匹敵し、肉体の一部として扱えば強力な武器にもなる。従順で強力な手駒を生産し、自ら手を汚す必要が無くなる……それもきっと『堕落』の力。

 ゆっくりと構えるニセ悪魔将軍を威嚇するかのようにブローチが小さな光を明滅させる。落ち着かせるようにそっと片手で包み込む。

 数秒し、手を離し――空気が変わった。

 

「ニャガニャガ、もうジョークは十分です! さっさと始めましょうか!」

 

 彼の強力な武器の一つである巨握の掌を恐怖の将に向け、一気に距離を詰める。……戦いが始まった、その振動がジャスティスマンの足元から伝わってくる。

 

「大事な大事なオトモダチの体を傷つけたくないだろう? 抵抗しなければすぐにあの世へ送ってやるぞ」

 

「愚かな。その程度で手が出せなくなると本気で思っているのか?」

 

 思い出す。この場に降り立つ前、サイコマンと交わした会話を。

 

 

 大魔王サタンは友の生をめちゃくちゃにした元凶。敵討ちとして戦いたいはず。だがサイコマンは己に大魔王サタンと戦う権利を譲ったのだ。友の体を傷つけたくないから? それについてはジャスティスマンも似た気持ちを抱いている。友の体を傷つけることなくサタンのみを倒す……奥義による有罪か無罪かで試合に決着をつけるジャスティスマンには難易度が高い。下手をすれば誰も望まない結末になってしまう。

 サイコマンに対して益の少ない申し出について問い詰めれば「貴方には説明しても理解されないでしょうが」と前置きをされてあることを頼まれた。それが成功すれば心置きなく裁きを与えられる状態を作れる、だからそれまで攻勢に出るな、と。

 

 ――ジャスティスマンはそれを二つ返事で引き受けた。あまりにもあっさり受け入れたのでサイコマンは信じられないものを見るような目になり、今度こそ私の邪魔をしないでくださいね、と話は唐突に終えられた。

 

 

 サタンは自分が勝つと慢心しきっている。隙だらけだ。ならば、問題なくサイコマンからの頼みは遂行できるだろう。

 ジャスティスマンは外套を脱ぎ捨て、手に持つ天秤を試合中の定位置であるコーナーポストへ投げる。何も乗っていない秤が軽い音を立ててその高さを揃える。

 

 

 ゴングは鳴らない。長き因縁と罪による戦いが今始まろうとしていた。


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