こちらのリンク先にありますのは丸焼きどらごん様に依頼して描いて頂いたサマルとサイコマンのイラストになります!素晴らしいイラストをありがとうございます!!
2023/5/21
丸焼きどらごん様に依頼して描いていただいた挿絵を追加。
――コーナーポストを椅子代わりに、ココへ来る存在を待つ。
ソラから落ちてきたのは見慣れた顔。自分の身体なのだから当然だ。カラーリングが違うのは、その中に宿る邪悪な精神の影響を受けているからだろう。ズシャア、と着地したその存在はこちらを睨みつけている。
「久しぶりだな大魔王サタン。俺の体を使えてよかったじゃないか、気分は最高か?」
「グ……グゥウ……小賢しい真似を!」
胸を押さえながらゼイゼイと乱れたリズムで呼吸する。体調は最悪だろうに、こいつの前で膝を屈するものかとサタンの体はプライドで支えられている。
自身が嫌悪するものを直接撃ち込まれた結果の疲弊、それは回復する事なく大魔王を蝕んでいる。
サマルの魂はあるべき場所へ帰ろうと、邪魔な存在を追い出そうとしている。此処はサマルの作り出した精神世界。異物であるサタンは今、世界そのものに圧迫されているような苦痛が与えられている。
「一度ならず二度までも私に逆らうか、愚かな超人めが!」
「俺はお前に従っていた覚えはないんだがな? 自称大魔王も寄る年波には勝てずボケは進行してしまうんだな。ザ・マンにも一応注意するよう言うべきかなァ」
煽りと共にわざとらしく口の端を上げ、悪い顔になる。
「ゲギョ……その心配はすぐに不要になる」
邪悪な笑みを浮かべる方のサマルが毒々しい霧に包まれ、その姿を変化させる。
トゲトゲしい攻撃的な鎧に紫のカラーリング。
「ここで貴様は真の消滅を迎えるのだからなぁ!」
コーナーポストから降り、サマルはサタンを睨む。
「確かに余計な心配だ――ザ・マンがお前なんかに負けるはずがない。だからといって俺達始祖が放置するはずもないがなっ!」
そう叫ぶと同時に、精神世界で始祖と大魔王の第二ラウンドが始まった。
先に攻め込むのは大魔王サタン。腕を大きく振りかぶり右ストレートを放つ。
対するサマルはスウェーで躱す。相手の伸び切った腕を掴もうとしたが、腕を覆う鎧が高速回転しその手を弾く。
「っ!」
「ゲギョアッ!」
予想外の抵抗に体勢が崩れたサマルに肘を見舞おうと力強く一歩踏み込み――。
「――!」
木の角がメキメキと音を立てて伸び、ロープに絡み、伸縮。サマルの体を引っ張り攻撃を回避する。
「チィッ! こざかしい真似を!」
「実戦経験の不足、最初から欲張りすぎた、相手の速さ、間合い、そして力……良し」
相手の言葉が耳に入っていないのか、己の問題点を数えぶつぶつと呟く。その態度が気に食わないとサタンは攻撃の手を緩めることなく突進する。
大魔王サタンは見た目通りのパワーファイター。対する相手はたった一万の超人強度しか持たない貧弱な超人。
一撃さえ当てれば決着はすぐ。速攻で終わる、筈なのに。
「(何故だ!? 何故、この私がこうもいいようにあしらわれている――!)」
苛立っていた。戸惑っていた。
殴ろうとすれば横から力を加えられ逸らされる。蹴ろうとすれば即座に後ろへ跳んで逃げられる。
ならば、と蹴りをフェイントに。狙い通りに空中を舞う無防備な体を狙いラリアットを。一歩ごとに加速し、その一撃は重みを増していく。
当たる、その筈だった。
「ハァアッ!」
サマルが放電した――? 否。それは友が扱っていた力、マグネット・パワー。
バババと音を立てる強大な磁気は下へ放たれた。リングに当たり、反発し、勢いを利用し体一つで空を舞いラリアットを躱わした。
さらにその体がサタンの頭上に達したところで頭を掴み、自身の重さとマグネット・パワーを加え後ろ向きにリングへ叩きつける。起きあがろうとついた腕を奪い、寝技に持ちこむ。
「ゲギャッ……!?」
相手が頑丈で攻撃が通らないのであれば力の差が関係ないような技を使えばいい。
……サマルは数多の超人に衣服を作るにあたり、採寸の腕も鍛えられていった。時間を取らせず、ストレスなく行うようにと洗練されたその技術は『相手に警戒心を抱かせない』ところへ至った。
その手に殺意はない。敵意もない。ただ『できるからしている』だけ。
サイコマンが
針の穴を通すが如く。ほんの少しの緩みを見逃さず、自身が付け入る隙へと変える。
技に耐えるのならば強め、苦痛から逃れようとみじろぐならばその動きを逆手に取り新たな技を極める。
「トワイン・アラウンド・ループ――!」
距離を離すことを許さない。絡みついて離さない。ここにいるのは獲物をゆっくりと絞め殺す蛇。
「技一つ掛けた程度でこのサタンを止められると思うなよーっ!」
三角絞めへ移行しようとしたが、腕の力だけで止められた上にリングへと叩きつけられる。
「ぐぅっ!」
マグネット・パワーでブーストされたとしても埋め難い地力の差が出た。リングに血が散る。拘束が緩み、サマルは致命的な隙を晒す。
サタンは立ち上がる途中サマルの頭を乱雑に掴み、憎たらしい頭蓋を鉄柱へぶち当て、傷口を更に広げようと――ガゴォオン、と大きな音と共に世界が揺れる。
「ゲギョアッ!?」
どうしてか自分の腕へとダメージが来た。予想外の痛みに思わず手を離し距離を取る。
「お前と俺の繋がりを使って衝撃をそのまんまお返ししてやっただけだよ。自分の力を喰らった感想はどうだ?」
垂れる血を拭わず、サマルは種明かしをした後いたずらっぽく笑う。
「フン、くだらん小技だ!」
相変わらず口調は荒いもののダメージを返される、というのはパワーファイターにとって苦手な技。わかりやすい前兆が無いのが特に厄介だ。サタンは攻めの姿勢から一転、一定の距離を保って様子見に専念している。
先ほどは単なる叩きつけだったから腕のみで済んだ。だが、もし自身最大の必殺技であるサタニックソウル・ブランディングを受けてしまえば全身にダメージが跳ね返りタダでは済まないだろう。
「……お褒めに預かりどーも」
邪悪の権化たる大魔王サタンへ接続し衝撃を流す都合上、精神的な負担がかなりクる。元々一度きりのカウンターのつもりで放った技に対して無駄に警戒して貰い万々歳だ。
そもサマルが可能ならばサタンにも同様のことが可能では、と更なるカウンターを思いついていない時点で駄目だ。
これまで裏からあれこれと策を練っていたにしては発想のスケールが小さく戦うのが下手。理由は簡単、
「…………」
垂れて目に入りそうだった血を手で拭う。ガンマンとの諍いで明らかになったゴムの性質を持つ血だ。片手で軽く整形し紐状に変化させる。
実戦経験皆無のサマルであるが、目で見て覚えた技ならば見様見真似で使うことができる。億を超える時間を鍛錬に費やした始祖の皆が基準になってしまうため、本人が完璧であると納得して使えるのは基礎的なものばかりになってしまうという自覚していない欠点も存在している。
――直撃しなかったベルリンの赤い雨、この手にある血を引き延ばして作られた赤い紐、大魔王サタンですら知ることができない知識。
「そうだな、アレを使わせてもらおうか」
そうと決めれば右腕を血の紐で即座に胴体へと固定する。
「何を馬鹿なことを! 自分から手を封じるとはな〜っ!」
好奇と見たサタンがタックルを仕掛ける。
「森の木の葉の如くに体軽やかに!」
が、サマルはロープを掴み、反動を利用して攻撃を回避すると共にサタンの背後側へ跳ぶ。
「隻腕軸とし独楽の如くに体旋転すれば!」
右肩をコーナーに乗せて軸とし、言葉通りに回る。一回転ごとに速度を増すその姿はまるで竜巻のようであった。
「竜巻の如くに飛び出すこと縦横無尽!」
高めた速度と勢いを殺さぬまま、縦回転でサタン目掛けて飛び掛かる。
流石に無防備な背中をそのままにはしないようだ。サタンは体の向きを反転済み。真正面からサマルを迎え撃とうとしている。
「この時左手右脚を以って左脚しならせおう進すれば、左脚鋼鉄の鎌となる!」
左脚を伸ばし、左手で足先を掴む。右足で膝を押さえ固定すれば、左脚全体を使った巨大な鎌が出来上がる。
「敵の懐に深く入り肉斬り! 骨を断つーっ!」
肉体が変化した刃に赤い炎、その必殺技はまさしく脚で放つベルリンの赤い雨。
「ブロッケンの帰還!!」
「ゲギョグァーッ!!」
手のみを鋭くさせたベルリンの赤い雨と違い、左脚全体が変化したブロッケンの帰還を止めるには白刃取りしかない。ガードしようとした動きは間に合わず、身体を切り裂いた。大魔王の鎧がひび割れ、その内側に潜む存在へと攻撃は届いた。
ブロッケンの帰還――時間超人の襲来をきっかけとする別の時間軸のとある出来事を切っ掛けとし、ベルリンの赤い雨を失ったブロッケンJr.が作り上げた必殺技。故にこの時代には影も形もない。
知らない必殺技に対応できず、真正面から攻撃を受けた大魔王サタンが片膝をつく。ベルリンの赤い雨は直撃すればどんな相手であれ致命傷は免れない威力を持つ強力な必殺技。
「さっさと終わりにしようか、大魔王サタン!」
紐を解き、自由になった両腕を使いマグネット・パワーを放射する。
この身に宿した友情の磁気波がリングを覆い、反発する力を使い体の自由を奪ったまま宙に浮かせる。
「たかが1万パワーのお前に……この私が……!」
創造主たる私が被造物に負けるはずが、非力なお前に一撃必殺の技を使えるはずがないだろう、という視線は彼の放つ煌めきに遮られる。
それは「己のため」であり「友のため」。二段階目の火事場のクソ力を発揮したサマルは宙に浮かせたサタンと同じ高さまで跳躍する。
「オォオ――ッ!」
非力を補うべく、マグネット・パワーを利用してセットアップに持ち込む。相手の腕を交差させ手でロックし、相手の膝裏へと踏むような形で足を絡めた変形のロメロスペシャル。
それは
形になったところで次は重さが足りない。落下する最中、アタル式マッスル・スパークの様に技を極めたまま縦回転を加える。
……自分のことであるから分かってしまう。まだ、力が足りない!
――自分の奥底から何かが湧き上がってくる。無数の声無き応援が背を押す。
それは1億4000万年前のタッグトーナメント中に起きた地殻変動で命を失った超人1056名からなる声援。遥か昔から残されたサマルを由来とする伝承を知る者達が、名前の残っていない彼らの遺伝子が、誰も知ることのできない戦いだと分かっていながらも声を上げている。
体の内を満たす熱と共に口をついて出た言葉は、自分も知らなかった力を発するキーワード。
「
カチリ、と音がした。サマルの胸から何か煙のようなものが体を覆う。透けていく。互いの姿が消える。
食べた者は全ての属性を超越するといわれる
本来は時間超人のみが扱える時を超える力だが、サマルの新たな体を作るために
かつてサタンにより穿たれた胸の傷跡からエキゾチック物質を放出し、肉体の周りの時間軸をほんの少しずらし未来へと移動する。常軌を逸した加速と摩擦により炎が発せられる。
これでようやく、足りた。
「貴様ッ……貴様ァアアア――!!」
火事場のクソ力による黄金の光が真っ直ぐにリングへと向かい、炎と雷が尾を引く。それはまるで、星が落ちるように。
「
頭からリングへと叩きつけられた大魔王サタン。もう喚くことはなかった。
頭頂部からひび割れが広がり、バギンと大きな音を立て崩れ落ち、まるで最初からそこにいなかったように消えていく――。
その変化が起きたのは一瞬。光が消え、苦しんでいたサタンから何かが弾き出される。
それが何を意味するのか分からない超人はいなかった。
白の衣を翻し、緑の肌と茶の角を携えた超人。理性に満ちた赤の目が開かれる。二人の始祖が笑う。
「待たせたな、皆」
――