キン肉マン世界古代転生   作:ウボァー

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虚式(イマジナリ)の帰還! の巻

 優しく微笑みかけるその姿は、サタンの宿った紛い物ではなく正しくサマルその人であると示していた。超人たちの顔は皆一様に安堵と歓喜で彩られる。

 

 ジャスティスマンの奥義の衝撃により地上へ落ちてきたリングから降り、地に足をつける。重力というこの世の理に従い、ここに生きていると証明するかのように。

 

 ……ガサガサと枝葉が擦れ、その後に重量物が落ちる音。衝撃で胸を打ったのか木の根本で呻く重量物――いや、手負いのマリキータマン。

 

「マリキータ!?」

 

 アリステラが驚きの声を出す。致命傷であったタッグパートナーが動けるようになった喜びよりも、何故回復しきっていないのに動いているのかと心優しきオメガの当主は心配している。

 隣へやって来たアリステラの手を借りてマリキータマンはなんとか立ち上がり、その顔をつい先ほど復活した超人へ向ける。

 

「コレは……アンタの力か」

 

 大魔王サタンが放った杭により胸に穴を開けていたマリキータマンだったが、現在は会話ができるほどに回復していた。

 普通ならばありえない超回復の原因。男が原因だろうと手で示した胸の中央にはいまだに葉が張りつき、傷口を癒している。それを確認したサマルは頷く。

 

「ああ、そうだ」

 

 ――遥か古代の時代から地球に根付く奇跡の大樹、許されざる世界樹(アンフォーギブン・ユグドラシル)から作られた超人であるからこそ使えた特殊能力、植物を経由しての力の発揮。サイコマンによる復活研究の中で発覚した、サマルが新たに得た力だ。

 サタンの攻撃を受けてリングから落下したマリキータマンを受け止めた上に治療を施すという、突然生えていた都合が良すぎる木もそれの応用によるもの。

 

 これからの未来を知っているため彼がまた回復し、来たる戦いに参戦するのは分かっている。……が、分かっているから放置、というのはできなかった。

 

「動いたら傷が開く。無理についてくる必要はない」

 

 短時間で試合をし続けたマリキータマンの身体にはダメージが溜まっている。こちらに歩みを進めようとするたび、小さく呻くのを彼は聞き逃さなかった。近寄った後に傷口のある辺りへと手を翳し、追加で癒しの力を使用する。

 

「これは一時凌ぎだ。確かメディカルマシーン、だったか……それを使って治療に集中してくれ」

 

 本格的な道具や設備はこの場に揃っていないため、痛み止めと出血の防止しかできない。治療が必要なマリキータマンのみがこの場に残ることになるため、試合を見ようと関ヶ原に集まってきた人間達に超人病院への案内を頼む。

 

 超人ファンなのだろうが、迫り来る危機がよくわからず有名人に話しかけられてしまったと嬉しそうな人間。その姿を不快に思う者もいるだろうが、サマルとしては守るべき日常の延長線にあるこの反応は嫌いではなかった。

 ……人間が一切介入できない世界の終わりがすぐそこまでやって来ています、なんて真実が大っぴらになり下手なパニックが起きて大混乱、よりは圧倒的にマシだ。

 

 真の危機についてはザ・マンの口から直接聞くべきだとジャスティスマンは両手からエネルギーを放出しゲートを開く。一つは自身のそばに、そしてもう一つはキン肉マンらのいるスワローズ・ネストへ。

 

 突入に躊躇する超人はいなかった。ゲートを抜けた先にあるのは岩の目立つ岬と……そこから視認することができる聖なる完璧の山(モン=サン=パルフェ)

 ジャスティスマンがそこまで辿り着くまでの説明をする途中、気合満点なキン肉マンが一人張り切って海へ飛び込んでいった。あ、とサマルの声が漏れたがそれは彼を止めるには足りなかったらしい。

 

 キン肉泳法――それはバタ足。ガソリンプールでありながら水飛沫で後ろから迫る炎を消すという神業を見せた、超人オリンピックの予選を勝ち上がるために欠かせなかったひとつ。

 ……見た目は派手だが波に負けてあまり前進はできていない。

 

「ああ、そういえば見たことがなかったのでしたっけ」

 

 サイコマンがこちらを見てふと気が付いたように呟く。

 様々な出来事が絡んだ結果、超人墓場の外に全く出なかったサマルは天への歩道(ロード・トゥ・ヘブン)の存在は知っているだけであり、実際に動く様を見たことがない。

 

「目覚めよ。そして我を受け入れるがいい、裁きの門よーっ!」

 

 ジャスティスマンの呪文と呼びかけに応えて海は割れ、道を作る。

 なお、泳いでいたキン肉マンは急な変化についていけず海底だった地面に叩きつけられていた。

 

 こんなことが出来るのなら最初から説明してくれと怒っていたが、一人先走ったお前が何もかも悪い、で共についてきた超人達の心の声は一致していた。思っただけで口にしなかったのは、偉大な始祖達の前かつしょうもないことについて叱るような空気ではなかったから。

 ……皆が一番気にしている対象のサマルは億年単位の根っからのキン肉マンファンであるため、キン肉マンのキン肉マンらしいところを直に見れてこっそり感動していた。

 

 無造作に転がる頭蓋骨を見つけてしまい怯えるキン肉マンを最後尾に石造りの階段を登り、その先にある門を開く。

 彼らを出迎えるのは激闘の跡が残るリング。それだけならば何の問題もない。……サマルは知っている。このリングで完璧・参式(パーフェクト・サード)、ミラージュマンは悪魔将軍により倒された。

 

「………………」

 

 この地で悪魔超人と戦った始祖の亡骸はザ・マンと共にサイコマンが超人墓場へ戻るまで誰にも触れられることなく放置されていた。

 住人である墓守鬼は完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)へ強い信仰を抱いている。尊き存在であるために触れることができないと嘆いていた。

 だからサイコマンは皆の骸を集めて超人墓場の一角へと埋葬し、墓守鬼はその名の通りに墓の管理を任された。ダンベルとなっていた自分は一連のそれらを何も手伝えず、ただ感じ取ることしかできなかった。

 

『ゴバッゴバッゴバッ――』

 

 ――長い時を共に生きていた完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)の一人。かつてのように、彼が笑っている姿を幻視する。これは懐古であり彼の作り出した幻ではないため、そう長続きせずに視界からは霧散した。

 足を止めていたが、それは時間にしてほんの少しだけ。皆に置いていかれることはなかった。

 

 

 悪魔将軍によって障害である幻影を消し去られている黄泉比良坂を通り抜け、皆何事もなく螺旋階段を降りる。そこでは墓守鬼たちが復興作業を進めていた。上からやってきた足音の主を確認しようと墓守鬼らは階段の方は視線を向ける。

 

「おお、ジャスティスマン様にサイコマン様!」

 

「あれはもしやサマル様では!?」

 

「ああ……遂に真のお姿で御帰還なされた……」

 

 皆作業の手を止め、始祖の帰還に喜ぶ。中には三人が並ぶ姿へ拝んだり、感極まって泣く鬼もいる始末。だが後ろの超人達に気付き、何故ここに生きた超人が、と騒ぎだす。

 

「慌てるな、墓守鬼どもよ。この者たちは私が客人として招いたものだ。彼らに危害を加える必要はない」

 

 ジャスティスマンが諭すと騒ぎはぴたりと止み、墓守鬼達は彼らの道行を邪魔しないよう下がる。そんな中、勇気ある一人の墓守鬼が歩み出てサマルへと膝をつき頭を下げて願う。

 

「過ぎた願いとは分かっております。ですが、どうか、始祖の皆様の墓への装飾を作っていただけないでしょうか」

 

 始祖からの許可を得ているとはいえ、墓守鬼の手しか入っていない墓はこの地に眠る偉大なる始祖に対して不釣り合いだと常日頃から思っていたのだろう。心の底からの懇願にサマルは膝を折り、相手の肩に手を置き優しく語りかける。

 

「そう卑下する事はない。元よりそのつもりだった」

 

 体を震わせながら感謝いたします、と涙声が返ってくる。

 装飾の案は既に複数浮かんでいる。……草木の乏しいこの超人墓場では手向けの花すら手に入らないが、唯一の例外である生命の石の一部を使えばなんとかなるだろう。

 ドクターボンベにより発見された死者蘇生を起こせる重要物、生命の石。ウォーズマンの人工心臓の材料となった奇跡の石はきっとサイコマンが回収済みだ。後で頼むか、と今後の予定に付け加える。

 

 

 一行はさらに奥へと進み、零の文字が刻まれた扉、超人閻魔の間の前へと辿り着く。宿敵であるザ・マンがその向こうにいると聞かされたアリステラは気負うも、パイレートマンがたしなめる。

 

「では進むぞ」

 

 境となっていた扉が今、ゆっくりと開かれた。

 

 レコードが回りクラシック音楽が流れている部屋。粗雑な作りの牢屋の中にいるその人の姿を見た瞬間、サマルは階段の下で跪く。ふわりと服が揺れ、胸元にある鍵穴へと変化した傷跡がザ・マンの視界に入る。

 

「只今、戻りました」

 

 椅子が回転し、その超人は椅子に座ったままこちらへと向く。

 

「――よくぞ戻ってきてくれた」

 

 慈愛の眼差し。それは紛れもなくあの人の姿。超人閻魔ではない。超人の中の超人、ザ・マン。

 

 一時は全てを諦めていたが、ゴールドマンとの試合で敗北してから気付かされた。かつて神であった男の抱いた原初の悲願。その先へと進化を遂げようとする、実り豊かな未来の守り手たる超人達がいるということを。

 

 最も早くにその未来を見ていたのは、今ここで臣下の礼をとっているこの男。祝福されぬ生でありながら、全ての超人から慕われる善性。封印される寸前ですらこちらを慮る献身ぶりを見せた忠臣。

 

 

 ――嗚呼。本当に、良い弟子を持った。

 

 

 これからの未来を担う超人達を褒め称えるも、そう喜ぶのみではいられない。ザ・マンの口より語られるは全ての真相。

 かつて起こしたオメガの民への粛正の真実。

 超人の存在を巡り二つに分かれていた天の神々の思想。

 これから現れるだろう敵、下天せし超人の神々。

 

 

 明かされた敵の強大さに情けないキン肉マンとしての面が出てしまったのか、ザ・マン相手に無茶を言うなと反論する。

 

「立ち向かうのは一人だけじゃない。俺が学習したキン肉マンという存在は友情を大切にする男だろう?」

 

 できるできないの話ではなく、するしかないのだ、と発破を掛けるかのように玉座の横にやって来たのは三人の完璧超人。

 キン肉マンネメシス。ネプチューンマン。ピークア・ブー。

 

「おお〜っ! 元気にしとるかピークア・ブー!」

 

 試合をして分かり合えた完璧超人の姿を見てコロッと態度を変える。

 

「お前のあの姿を見て不安になってきたところだ」

 

 額に手を当ててため息を吐かれ、むぐ、と言い詰まるキン肉マン。ピークア・ブーの顔には精神的な疲れが見えるも、先程のショックによるものでは無さそうだ。

 

「……だ、大丈夫か?」

 

「本当に引き継ぎ……できるのだろうか……?」

 

「何を心配しとるんじゃい! ワシの動きからカメハメ師匠の必殺技をコピーできたお前さんができないことなんてあるはずなかろう」

 

「負の質量なんてどう観測しろと……」

 

 愚痴るように相談されてもキン肉マンは王様ではあるが学者ではないため解決できない。残した宿題が大きすぎたかな、と困ったようにしているサマル。

 

 負の質量。その言葉を聞いてザ・マンが何やら気付いたような素振りを見せたが、そのことには誰も気がつかなかった。

 

 これからやって来る闘いは、超人殲滅に必要不可欠となるカピラリアの欠片(ピース)を巡り神を相手取る防衛戦。

 強者であるアリステラ達の手を借りたいが、彼らはオメガの星の再生のため地球へと侵攻した。時間をかけていては星がどうなるかはわからない――。皆がどうするべきか悩むその時だった。

 

「まったく困りましたねぇ。貴方がたが求めた解決策は既にその手にあるというのに。これでは折角修復したのに無駄になってしまうではありませんか」

 

 サイコマンがやれやれ、と助け舟を出す。

 

「それはどういう」

 

「自覚していないからこそ使えない。理由がわかれば簡単ですが解決は困難……普通ならば」

 

 具体的なことを煙にまきニャガニャガと笑う。

 

「言葉だけでわからないのなら、直接示すしかない、ということだよ」

 

「……! おお、そういうことか!」

 

 サマルの促しによりキン肉マンは何をするべきかを察し、オメガマン・アリステラに手を差し出す。

 それは握手をしようという誘い。先程まで敵対していた者同士が手と手を繋ぐ、それが意味するものを知らないほどオメガの当主は愚かではない。

 

「い、いやしかしオレは……オメガはお前達に……」

 

「そんなもの、へのつっぱりはいらんですよ!」

 

 言葉の意味はよくわからんまま、キン肉マンがずいっと差し伸べた手を取るアリステラ。

 

 正義超人の交わす最も基本的なあいさつ、"友情の握手(シェイクハンド)"。火事場のクソ力を発現している証となる発光現象が伝播する。困惑する彼へ友情パワーのなんたるかを最もよく分かっているキン肉マンが説明する。

 故郷の皆のためだけを思い長年の恨みを背負って戦っていたオメガマン・アリステラは戦いの中でその恨みを解消し友情パワーを扱うための資格を得たのだ、と。

 

「その力が自在に使えるようになったのならばコレが使えるはずです。早く持っていきなさい」

 

 モニターに映し出されたのは禁断の石臼(モルティエ=デ=ピレ)。悪魔将軍により逆回転され、力の逆流で破壊されたがサイコマンの手により既に復元済み。

 最初に想定された使い方とは逆に、超人の力を星へ注ぎ込めば――これは星の再生に使えるものとなるのだ。

 

 この先の闘いでオメガの力は必ず必要になる。成すべきことを済ませてから、再びここに戻ってきてほしい、とザ・マンからの願いが告げられる。

 

「次なる闘いの共闘者として、約束してくれるか?」

 

「約束は……絶対に守る!」

 

 アリステラとパイレートマンはザ・マンの前で胸に手を当て傅く。

 

 

 ――今を生きる者たちへと、確かにバトンは渡された。

 

 

「サマル。()()()を持つという意味は分かっているのだろうな?」

 

 まだ知らない者たちもこの場に残っているため、正式な名称を使わずにザ・マンは語りかける。ほぼ全員の理解を置き去りにした会話だが、何を指すのかを分かったサマルは戸惑うことなく、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「この身体はいかなる系譜にも連なることはない。それは確実なのでしょう。ですが、再生のために使われた球根(バルブ)はあらゆる超人を完成(コンプリート)させることができる。……あの力は、引き出してしまった自分の責任です」

 

「力に責任など無い。知るものはいるか?」

 

「使うところを見たのは大魔王サタンのみ。力を所持していると分かるものは神の中にはいるでしょうね」

 

「ああ、そうだな。……ヤツがどう動くか」

 

 神であった男は知っている。その力を持つ存在を。それが何によって与えられたのかも。――気付きそうな二柱の神の存在も。

 ピークア・ブーの愚痴のような言葉で始めてかの神へ対処法を残そうとしていたと男は知った。ただ、それが完成するまでの時間はとても足りないだろう。

 

「ままならぬものだな」

 

 超人達が真に一人立ちできるまでの障害はあまりにも多く、大きい。慈悲たる男は調和と――(とき)を司る神のことを考えるのであった。

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