神々の下天は既に始まった。直にバベルの塔が姿を現わし、更なる勢力の襲撃が開始する。
……キン肉マンスーパー・フェニックスが行った超神との交渉により、戦いが始まるまであと24時間。残る時間は少ない。
カピラリアの欠片を持つザ・マンへの守りを残し、
ザ・マンの玉座の後ろ、
だが、本来ならばいるはずのない自分と、消滅しているはずのサイコマンがここにいる。
――世界は既に変わっている。自分の知る未来がどこまで役に立つのかはわからないが、可能な限り良い方向に変えることが今の自分の使命なのだろう。
「それでは我々も始めましょうか」
「そうだな」
ザ・マンの護衛は
少々暴れても問題のない場所へ誘うサイコマンからの呼びかけに答え……ふと己の胸に手をやる。
この肉体に組み込まれた、あらゆる属性の超人を超越した
神々からすれば大魔王サタンに作られた超人が突然己の系譜に連なることになる。間違いなく喧嘩を売っていると捉えられるだろう。神と試合をする可能性は非常に高い。
これまでプロレスをした経験が殆どないサマルにとって、サタンとは異なり超神との試合は危険極まるものになる。
――だからこそ、サイコマンとした約束を果たす時。
戦力は高めておいて損はない。いつ神々からの邪魔が入るか分からないため、わずかな時間になるだろうがプロレスを教えてもらう。
こちらが目標に向けて好調に滑り出そうとするのとは対照的に、偉大な始祖より残された問題に対して糸口を見つけられらず申し訳なさそうにするピークア・ブー。……彼に対して思うところは当然ある。
自分のせいで困っているのだから少し手助けをしてもバチは当たらないだろう。他者の目に入らぬよう用心しつつサマルが発し、手のひらに乗せたのは黒いモヤのように見えるもの。
「ああそうだ、ピークア・ブー。これを」
偉大な方々の邪魔をせぬようにしていたが、直接の呼びかけを無視するわけにはいかずこちらを向く。視線は始祖の顔から差し出した手の上へと動き……彼の驚愕に満ちた顔がよく見える。
「ま、まさか――」
「ああ、これがエキゾチック物質だ」
「とてつもないものをサラッとお出しされた……!?」
風に乗って飛ばされてしまう煙のため、慌てて瓶の中へ回収し保管。何度も頭を下げて感謝を述べるピークア・ブーだが、彼の時間を無駄に奪うのはよろしくない。サマルはぺこぺこし続ける彼にそこまでしなくてもいいからと顔を上げさせ、研究室に向かわせた。
放出したエキゾチック物質は悪用不可能な少量のみにしたため、普通の研究者ならば実験の失敗を踏まえてもっと量が欲しいと思うだろう。だが、ピークア・ブーは相手の行動から全てを学習してしまう急成長超人。実物があれば大きな失敗をせず、すぐに終わらせられるだろう。
「どこに隠し持っていたんですかそんなもの。……まさかあの遺物が……?」
「それだけはないから安心してくれ」
エキゾチック物質の希少性を知っているサイコマンからサタンに疑いがかかるも即座に否定。そういえばジェネラル・ストーンから吸収したエネルギーをまだ残したままだ。……どこかで消費しておくべきだろうか?
「本当にそうならいいのですが」
心配してくれる親友に隠し事をするのは心苦しいが、あの秘密を明かすタイミングは自分一人で決めていいものではない。バベルの塔頂上で刻の神のことを共有した時ぐらいにザ・マンの口から話されるだろうとサマルは考えている。
時間超人といえば、なエキゾチック物質だが体外に放出するには生涯で一度きりの時間旅行を行う必要が――つまり魔時角を引き抜かねばならず、刻の神が未来に創る理想郷へ行くことを望む時間超人達としてはおいそれと使える手段ではない。
新たに現れる時間超人の時を操る力は基本的に超回復能力として発揮されている。それを弱めることができれば御の字、ぐらいにしておこう。
移動中、考える。自分にしかできないことを。
テリーマンの義足? あれについてはぽっと出の自分が作るよりもテリーマンに因縁がある相手が作る方が良いためノータッチ。
これから必要になるかもしれないエヴォリューション・マウスピース。時間超人の能力が使える、という秘密をまだ明かすわけにはいかないので個人で作るしかない。
時間超人にとってエキゾチック物質は枯渇すると命に関わるもの。力の制御装置として作っておいて損はないだろう。
そして――ファナティックにより行われるだろうマグネット・パワーを使った始祖の封印に対して一時的な身代わりに生命の石を。
サマルがかつてサイコマンが消滅するはずのエネルギーを奪い取ったように、本来の魂から肉体へと伝わってくる強大なエネルギーをさらに別の物へ誘導をするよう導線を作れば……理論上は封印されず動けるはずだ。
ただしこれは根本的な解決ではない。身代わりがエネルギーを受け止めきれず壊れてしまえば終わり、という時間制限付きの延命措置。
これについては始祖の墓の装飾に使った残りを加工することにした。……この世を去った彼らの思いが残された者たちを守ってくれればいいな、という思いをひっそり込めて。
そう、始祖達は時間超人らに本来の命であるダンベルを握られているため封印に対してとてつもなく不利である。
……のだが、唯一の例外が存在する。サマルだ。
サマルは始祖に属していながら不老不死の命と引き換えにした
……が、特に老衰もなく元気に生きていた。途中で超人墓場にて死んでいた期間もあったが、それを無視しても寿命が普通よりも長かった。言動が若く見えるスプリングマンは実は4000歳なように、サマルは見た目からはわからないタイプのシンプルに長生きな超人だったらしい。
名前すら出したくない生産者は
かの樹は長い間地中に埋められ太陽光を浴びていなかったが枯れていない力強さを秘めていた。サマルの寿命の長さはその生命力の影響かもしれない。
ただ一人自由に動ける始祖、サマル。
敵対する者たちから戦闘力よりも技術力を脅威とされる存在である彼が、始祖としての力を十全に身につけたのならば――間違いなく切り札となる。
サマルの思考が終わると同時、二人は目的地へと辿り着いた。
そこはかつてペインマンとジャンクマンが戦った、
サイコマンは浮遊するような身軽さで、サマルはロープに手をかけて沈ませた箇所をまたぐようにしてリングイン。
二人の超人が純白のマットの上に降り立ち、始祖達が使っていたリングに再び熱が戻る。
「ニャガニャガ、手加減はしませんので」
「最初からそのつもりだ」
100のトレーニングは1の実戦に勝る。
互いに構え、足に力が入り、一気に駆け出す。
始祖同士による戦いが今、始まろうとしていた――!