キン肉マン世界古代転生   作:ウボァー

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バベルの塔にて始まる審判! の巻

 ザ・ワンの必殺技(フェイバリット)であるハルモニアデストラクション。それを受けたバッファローマンは己の象徴であるロングホーンが折れると同時に倒れ伏した。

 

 敗北――その衝撃が全身を満たす。

 

 神からの提案を受け入れていれば、これほど無様な姿を晒さずに済んだのだろうか。過ぎ去った時への後悔、共にこの塔へと入った仲間たちへの懺悔、あらゆる思いがバッファローマン自身を責め立てる。

 

 そんな中、ホーリーロッドが突き刺さってできた胸と腹部、三つの傷にそっと何者かの手が当てられた。

 己の弱い心が作り出した、陣営変えを咎めることのない幻想のキン肉マンからの慰め……ではない。現実の出来事としての確かな感触がある。

 

「どれも貫通。ひどい怪我だが治療のために呼んだ……わけではないよな?」

 

「当然だろう」

 

 マットに倒れ伏す猛牛の耳に、ザ・ワンの声ともう一つ――この場所で聞こえるはずのない第三者の声がした。

 

「ア、アンタは……!?」

 

 顔を背後に向け、その先にいる存在を見たバッファローマンはうろたえる。

 

 ――緑の肌。白い衣。二本の角。理知に満ちた赤い目。

 ――完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)が一人、サマル。

 

 聖なる完璧の山(モン=サン=パルフェ)にいるはずの彼だが、外部からの侵入が困難なバベルの塔へどこから来たのか?

 その答えは簡単だ。ザ・ワンがこの階へと入るため壊した塔壁を越えればいい。移動手段は空に見える怪鳥ラプラスだろう。バサバサと羽ばたき離れていった。

 

「試合が終わってすぐに、は流石に予想外だな。疲労が残ってるんじゃないのか?」

 

「ボッボッボ。あの試合を見てこちらが疲労したとは本当に思ってはいまい。心配するべきはそちらの方ではないか?」

 

 よくよく見れば、彼の体には細かな傷が残っていた。

 つい最近できたものだろう新しいそれらは超人の回復力でほぼ消えかけている。が、闘争に向いていない偉人であるサマルの体が傷つくようなこととは何なのか、新たな疑問が増える。

 しかし敗者となった猛牛が格の違う存在である二人の会話に入れる筈がなく、その疑問は胸の内に留められる。

 

「秘密の特訓の成果、と言ってもらいたいね。バッファローマンだって大事な試合に向けて技を磨くことの重要性は知っている」

 

「特訓……?」

 

 話の流れにどこか引っ掛かりを覚えバッファローマンは鸚鵡返しのようなひとりごとを呟く。特訓、技を磨く――それらの言葉と自らの名を出された彼の頭が思い当たるのは一つだけ。

 

 キン肉マンがキン肉ドライバーを習得するまでの間、悪魔将軍と戦って時間を稼いだ、あの時。

 

 大魔王により悪魔の道へ誘われ、悪魔を捨て、正義になり、血盟を胸にし、また悪魔へ。どの陣営にもずっと留まれず、裏切りを繰り返してきた――その始まりとなる、忘れることのない試合だ。

 

「ちょっと待っていてくれ」

 

「構わん」

 

 断りを入れたサマルは折れたロングホーンを回収しつつ、バッファローマンに刻まれた無数の傷の簡易な手当てをする。それが終わった後、よいしょとサマルはバッファローマンの巨体を担ぎ上げ、リングから下ろそうと――下ろす?

 

「ま、待ってくれ! まさかとは思うが、アンタ、いや貴方が戦うというのか!?」

 

 引き合いに出された出来事や単語からもしやとは思っていた。

 このお方は確かに強い。……が、それは腕力の強さではなく心の強さ。根本が戦いを生業とするお人ではない。

 力自慢、1000万パワーのバッファローマンが太刀打ちできなかった相手と戦うのを止めようとするのは当然だった。

 

「まあ、そうなるな」

 

 嘘であってほしいことをなんてことないように肯定する姿が信じられなくて言葉を重ねる。

 

「勘違いでは……っ」

 

 バッファローマンは完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)の一人、ガンマンと戦った男である。だからこそ、次世代へとバトンを渡すと決めた彼らにこれ以上の損失があってはならないと強く決意している。

 もっと上手く口が回れば。そう思うが手負いの体は応えてはくれない。

 

「話し合いなら映像を繋ぐだけで済むのに、呼びつけたのはそっちからだ。……だろう?」

 

 バッファローマンの願いも虚しく、ザ・ワンは無言という態度で肯定する。

 ……傷に響かないよう丁寧な歩みで一歩、また一歩とバッファローマンをリングから遠ざけるサマル。下っているはずなのに、まるで処刑台への階段を上っているような重さを感じてしまう。

 

「そうだ、貴方が戦うとなると人数が合わなくなる! だから――」

 

 このまでは本当に止められなくなってしまう。試合をさせない妙案を思いついたバッファローマンだったが、サマルは首を横に振る。

 

「残念だが、それは試練に挑む現代の超人の数が決まっているという話。俺には適用されないルールだ」

 

 キン肉マンと離れて別の階へ移動したバッファローマンは知りようもないが、戦いに逃げ腰なキン肉マンのワガママに近い言い訳を聞き、超神マグニフィセントがセコンドとしてミート君をバベルの塔内部へと召喚する……という人数制限を無視したように見える行動をしている。

 バベルの塔にて必要なのは神の試練に挑む現代の超人。彼らが戦う人数だけ守れていれば問題が無い。

 

 だが、ここにいるサマルは神々も認める古代の存在だ。ゆえにカウントされない。

 

「昔に神からの罰は既に受けているはずなんだがなァ……二重処罰の禁止はどこにいったのやら」

 

「慈悲の神の弟子の一人が勝手に口にした言葉を神の総意と勘違いしてもらっては困るな」

 

 カピラリアの光が照射された後、ジャスティスマンはザ・マンの使いとしてサマルの前に姿を見せた。ザ・マンはサマルを始末するべきと言う天界の神々を説き伏せたが、心の底から納得させられた訳ではない。

 調和の神が慈悲の神の言葉を良しとしために他も流れで賛同へ傾いたに過ぎず、時と場合が変化した今では過激な思想が再燃するのも当然だ。

 

 そうだっけ、そういえばそうかな、そうかも、と煽りなのかサマルは惚けたふうを装う。

 ……いや、彼のやる事なすことは他者から見れば先見の明に優れた賢人だが、真実は原作知識と行き当たりばったりでなんとかなれの思いで構成されているのでこの態度は素かもしれない。

 

「呼ばれた理由はわかっているな?」

 

 試合に巻き込まれない安全地帯へとバッファローマンを移動させたのを確認し、ザ・ワンは指を差しながら問題の超人へと問う。

 下手なことを口にすれば即座に始末する、そんな気迫が混じった言葉だ。

 

「当然」

 

 とん、と胸――正確にはコスチュームの下に隠れた鍵穴状の傷跡――を軽く叩く。

 

「貴様の持つそれは許されぬ力。あの神に直接与えられたものではないが、一刻も早く捨て去るべきものだ。……どの神の系譜にも連ならぬ悪魔が、数多の神と連なっている存在になった矛盾。私だけでなく他の神々からも嫌悪を向けられるは必然」

 

 正しく理解していることを認識したからこそ、ザ・ワンは語気を強めてサマルへ声をぶつける。

 

「慈悲の神はそれを分かってなお許したのならば、天の片方の勢力は説得ができるだろう――だが!」

 

 空気が変わる。

 重苦しく、拒絶が満ちたものに。

 

「私は認めぬ」

 

 これより始まるのは邪悪五大神が描いたシナリオにはない一戦。

 始まるのは現代の超人への試練ではなく、古代より生きる超人への審判。神の直々の裁きだ。

 

「神に逆らいその生を貫き通すというならば、力で示してみせろ」

 

「望むところ」

 

 階段に足を掛け、素直に一段ずつ登るのではなくひと跳びで乗り越えてのリング・イン。

 

 サマルが戦うことになる超神は調和の神――ザ・ワン。

 

『こ、これはどういうことでしょうか!? まさかのエキシビジョンマッチが始まろうとしています!』

 

 何が起きていたのか理解が追いつかなかった実況がようやく現実に戻ってくる。

 

「クエエーッ!」

 

 同じ目線にいるのが気に食わないのか、大声が耳障りだったのか理由は定かではないが、塔の周囲をヘリコプターで周回しながら実況していた人間へとラプラスが襲いかかる。

 うわーっ、と叫び声がマイクに入るが彼らは職務を放棄するつもりはないようだ。

 

『こんな妨害には負けません、実況を続けますーっ!』

 

 塔の外に備え付けられた画面より中継映像を見ていたハラボテ・マッスルは開いた口が塞がらなかった。

 

「いったい何がおきとるんじゃ……!?」

 

 その姿をもはや映すことはないと思っていた完璧超人が、何がどうしてかはわからないがバッファローマンを苦もなく倒した超神と戦うことになっている。

 

「ど、どういたしましょうか」

 

「…………あの二人はワシらがゴングを鳴らさずとも既に戦うと決めておる。ここからではどうもこうもできん。できるのは宇宙超人委員会として公平な立場から全てを見届けることのみよ。……ノック、ゴングを!」

 

「はっ!」

 

 上司からの命令に従い、ゴングへ槌を振り下ろす。

 

 

 ――カァァアン!

 

 

 ゴングの音と同時にサマルの姿が消えた。

 そして、試合開始の鐘と重なるようにゴガァンと衝撃音が鳴った。

 

『さあ、試合開始で……!?』

 

「なっ……!?」

 

 最初の一撃は、常人には見えなかった。

 故に、皆が見れたのはそれが当たった後の姿。

 

 低い超人強度を活かした、始祖最速のカラスマンでも成し得ないほどの超加速――急所である頭を狙った飛び蹴り。バッファローマンがザ・ワンとの試合で最初に見せた奇襲と同じもの。

 猛牛の足は掴まれて阻止されたが、サマルの攻撃は神へと届いている。

 

 試合を間近で見ていたバッファローマンの目で追いつけなかった一撃。動きについていけなかったカメラが慌ててズームアップする。

 

『な――なんという先制の一撃! これが始祖の実力!』

 

 クリーンヒットしたというのにサマルの顔は苦々しく歪む。神の頭を足場の代わりに、再度足蹴にして距離を取り最初の立ち位置へと戻った。

 

 サマルが離れたことで誰の目にもわかるようになったザ・ワンの様子だが……脳の揺れも、兜への凹みも、汚れすら無い。

 

 全く効いていない。無傷。ノーダメージ。

 

 先程のバッファローマンとの戦いの焼き直しを見せられているかのような、暗雲が薄らと立ち込めるような始まりとなった。

 

「ザ・マンと同格の相手とわかってはいたが……これが神、か」

 

 急所である頭部は鍛えにくいために狙ったが、蹴りの反動からは嵐が吹こうと揺らぐことのない大木、いかなる衝撃にも負けない不動の鉄塊を連想させた。

 ザ・マンの弟子であったが師とのスパーリングをしたことのないサマルはこの時初めて、師より言い渡された超えねばならぬ壁に衝突したのである。

 

 超人屈指のパワーファイターであるバッファローマンの攻撃を受けても動じなかったザ・ワンに対し、有効な打撃とはどのレベルを要求されるのか――考えるだけでもゾッとする。

 

 ……だが、超人プロレスとは打撃のみで構成されるのではない。

 

「隠しておくのも失礼だ。全力で行くぞ!」

 

 数瞬の発光と放電のような音。手に帯びさせたスパークは腕を覆うバンテージのように留まっていた。

 

「マグネット・パワーか」

 

「友情の磁気波と言ってもらいたいね」

 

 つい先ほど起きた現象は、星の生命力を自分の力に変換したのではなく、火事場のクソ力を利用した友情の磁気波を使い自己完結させたパワーアップによるもの。

 完璧超人の最低ラインである1000万パワーを遥かに下回るサマルは何かしらでパワーの底上げをしなければ戦いの土俵に立つことができないからだ。

 

『まさかのマグネット・パワー! 友情の磁気波を使いこなしサマルがザ・ワンへと突っ込むー!』

 

「厄介な腕だな」

 

 マグネット・パワーはその名の通り磁力の操作を主とする力。

 そしてザ・ワンが纏っているのは金属鎧。

 

 腕が引き寄せる。逃げを許さない。磁力を調整すれば、人体の稼働限界を超えての関節技すら可能となる。

 腕を捻り切るように、自由を奪う磁力の回転を発生させて――、

 

「フン――ッ!」

 

 単純な力の差で振り切られた。

 

「新たに得た力が必ず通用すると思い込む、その傲慢さが身を滅ぼすと知れ――!」

 

『あ……あぁ〜っ!!』

 

 実況の驚愕の声。

 

 ……接近していたのが仇となった。

 

 魔を屠る銀の弾丸のような鋭さと速さを持つパンチが、サマルの頭を撃ち抜いた。

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