重量級の超人がロープ使った技を使った結果ロープが耐え切れずに千切れた。野生のツタではリングロープの強度が足りなくなってきたからもうちょっと……何かこう……いいやつない? というフワフワの要望にお応えするため、樹脂の捜索&ワイヤーの製作とついに金属加工に手を出し始めたサマルだった。が、最近それとは全く関係ない小さなミステリーに頭を悩ませていた。
「……なんかおかしいな?」
ある程度溜まってから燃やして灰を肥料としてご近所さんへ配ろうか、と袋詰めにしていた端切れが昨日見た時より減っている、ような? 袋の口を縛っていた紐が自然に緩んで中の布が風で飛んでいった……訳でもなさそうだし。昨日は快晴無風のトレーニング日和だった。誰かの手によって袋が開けられて端切れが持ち去られた……え、それなら袋ごと持っていけば良くないか?
まず端切れ泥棒なんているのか? 何の得がある? II世にいたレゴックスというブロックの集合体の超人はブロックを食べていたし、布の超人も布を食べるんだろうか……いやまず近所に布の超人なんていたか?
ミステリー小説の世界ではないので都合良く探偵はやってこない。まずこの辺に探偵の超人がいない。このミステリーは自分だけで解決しないといけない問題だ。いろいろと考えた結果――何も分からないことが分かった。犯人の見当も目的もサッパリ分からない。ナイナイ尽くしだ。
成果を得られなかった頭脳労働を終えた店の中、休憩のための紅茶(のようなもの)を一口。……でもまあこちらに肉体的、金銭的被害が出ていないから見張りや警護は頼む程でもない。サイコマンが知ったら貴方本気でそう思っているんですかその才能がどれほどのものだとウンタラカンタラ問い詰められそうな思考である。
とりあえず、と紐を針金(金属加工を会得しようとなんやかんやした結果の産物)に変えたら針金も持っていかれた。ますます犯人像がわからなくなってきたサマルは最終手段を使うことにした。
蜘蛛糸のような粘り気があるそれを袋の口にくるくる巻きつけて簡単なトラップを仕掛けておく。トラップというより嫌がらせの方が近いかもしれない。埃や砂がくっついてすぐダメになりそうな予感もするがしないよりはマシだ。そう思い起こした行動だが、犯人がもう来なかったら意味なく自分の手がベタベタするだけだったりもする。
「ネバァーッ」
「モアーッ」
翌日の朝。変な鳴き方をするカラスが引っかかっていた。二羽も。
うん。…………うん?
「カラスだったのかよ犯人!」
カラスは現代でも巣材として使いやすい針金ハンガーを盗っていくことで有名である。また、動物から直に毛を引っこ抜いて巣材にすることもある。動物と違い反撃をしてこない柔らかい布切れは格好の獲物、というわけだ。
ぼくたちなにもわるいことしてないよ、とうるうる目で訴えかけるカラス二羽はしっかりと羽に粘着糸がくっついており動けそうにない。そうだね確かに今回は未遂だね。でも前科はあるので大人しくお縄についてもらおう。
「ネバー! モアー! 一体どこに……」
焦った様子の声を張り上げながら空を舞う黒羽をもつ超人と目線がかち合う。このカラス達の関係者、というか飼い主だろう。カラスはぴぃぴぃ鳴いている。……どことなく気まずい空気が流れる中、絡み付いたネバネバをぺりぺり剥がす音だけが二人の間に響いていた。
二羽はカラスマン――思っていた以上に見た目通りの名前だった――にひしっと寄り、傷ついた心を癒してくれとセラピーを要求している。カラス達からすれば俺が悪人になるのか……?
頭がいい鳥と名前がよく挙げられるカラスだが、俺のことを罠を仕掛けた悪いやつとして覚えたかもしれない。仕返しとして店の入り口に鳥のフンが付く可能性が……それはちょっと困る。
「済まなかった、私が目を離していたばかりに……」
「そこまで気にしていないので大丈夫ですよ」
外にずっといるのもアレなので取り敢えず、と店内に案内したものの茶に手を付けず謝罪の言葉を並べるカラスマン。茶は暖かいうちに飲むのが一番、言葉をオブラートに包んで飲むのを急かす。
「あ……ああ、頂こう」
カップを手に取り匂い、味わい、喉を通り――カラスマンの顔がほんの少し綻ぶ。お気に召してくれたようだ。
「――美味い。心が落ち着く味だ」
「それは良かった」
サイコマン以外の感想が欲しかったので簡素な言葉でもありがたい。あいつ俺が何か作るたびに褒め倒してくるから参考にならないんだよな……。
――超人レスリングには体の一部が変形したもの、またはコスチュームに備わっている武具は凶器と見做されないルールがある。彼の顔上半分を覆っているマスクは金属製。カラス繋がりだろう烏天狗の顔を模したマスク。身体と一体になっているかのような装着性、強度、共に超人が身に付けるものとして申し分ない。鼻をカバーする部分がとんがっているのは攻撃に使うからだろう。
彼のスピードは
「ネバーとモアーが君の仕事の邪魔をしてしまったのだろう? その埋め合わせとして、何か私にできることがあれば手伝いたい」
茶を数口飲んだ後の発言を聞き、カラス達はそこまでしなくていいだろうとクワクワ鳴いている。俺としてはカラスマンのその言葉が欲しかった。
「そのマスクの材料が何処にあるのか、もしくは加工した職人の居場所を教えてくれればそれで十分です」
「……それだけでいいのか?」
「それが俺にとってとても重要なことなので」
カラスマンとしてはどこか納得しきれていないようだがこれでツテが出来た。やったね。超人が日頃使っている金属、それを芯にしたロープならそうそう千切れることはないだろう。初めての物作りになるので出来上がるまでは時間が必要だがそこはご理解の程お願いします。
……なんだかカラスからの視線がギラつき始めている。これ俺が飼い主にさせなくてもいい負担をさせたと思われてる? カラスマンの肩からテーブルの上へ移りギャアギャアと抗議の声をあげるカラス。
カラス達の報復から逃れるためにはお気に召すような別の物を渡しておいた方が良いだろう。カラス達の目を見ればわかる。あの目はカラスマンが油断した瞬間に間違いなくヤル。伊達に超人のペットしてない。
カラスマンもそのことに気が付いたのかどうどうと宥めて……逆効果だ、俺に対してのマイナスが積み上がっていく。早く手を打っておかねばカラスの怒りが爆発してしまう。
というわけでじゃん。木箱の中から取り出しますはビー玉。金属加工に手を出したついで(?)に始めたガラス加工、その産物である。
きらきらのお宝をどうぞ、と差し出せば目の色が変わった。いいの? とそわそわ、取って食いやしないかとおっかなびっくりつんつん。サマルが何もしないとわかるとさっさと咥えて羽の中に隠した。現金な鳥たちだ。
「あっ、こら!」
ばさばさと羽ばたき目の前からカラス達が消えると同時に頭がほんの少し重くなる。これは……角が止まり木代わりに使われている? 許してくれたのだろうか。
そんなことを考えていたらカラス達はそのまま羽繕いを始めた。…………もしや下に見られているのでは。ナメられているのでは。カラスから見た俺は「なんか色々くれるヤツ」と固定されてしまったのではないか。
しっかり足で掴んでいるのかぶんぶんと頭を振っても降りない。物理的に退いてもらおうと手で払おうとすればぴょいと避ける。この行為を遊びだとでも思っているのだろうか。
「このっ」
超人のペットだとしても耐久力がある訳ではない。無理やりひっぺがすのは無理だ。カラスマンの手も借り、なんとかカラス自身から離れてもらうまで十数分かかった。
――今日はとても疲れる日だった。色んな意味で。あの後ちゃんとカラスマンから金属について教えてもらい、ワイヤー作成の問題について進展はした。続きは明日からにしよう。
夢の中。自分がいるのかも確かめられないほどの闇の中。きらり、星が降る。願い事を3回言う暇もなく落ちていく。
遠くでギラーッなんて声がした気もするが気のせいだろう。…………気のせいだと思っていたい。