キン肉マン世界古代転生   作:ウボァー

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count3.(シン)()足には至らず

 その日は朝チュンならぬ朝カアから始まった。

 

「カァッ、クワァーッ!」

 

「ギ、ギラッ……やめんか!」

 

 ……ついでに超人の声も聞こえてきた。

 

 

 

 もそもそのそのそ、毛布に残った温もりに別れを告げて外を見れば、カラスに集られて困っている巨体が見えた。

 

 その超人の身体は朝日を受けて煌めいている。どうやら金属に由来する超人らしい。全身金属のメタリックな輝きは、キラキラ大好きなカラスをホイホイするには十分すぎた。

 頭の上を旋回し突っつき、とやりたい放題しているカラス達の正体だが……飼い主から許可を得てちょくちょく端切れと針金を貰いに飛んでくるネバーとモアだ。自分よりも遥かに大きく力も強い超人に対して強気に出れるのは流石、と褒めるべきだろうか。

 

 下手に手を出せば怪我をさせてしまう、と力の差をわかっているが故に超人はとても困っている。この状況を放っておいても解決はしないだろう。よってこちらから手を出すことにする。

 いくらキラキラに惹かれるからといって金属や鉱石を投げるわけにはいかない。一定の重さがあるためカラスが受け取れないし、下手をすれば超人に当ててしまい喧嘩に発展しかねない。だがある程度の重量がなければ狙った場所まで飛ばない。ならどうするか?

 ここに取り出しますは超人パワーを小さじ一杯。手のひらの上にほわりと小指の爪程度の大きさの球体が発生する。ぎゅうと握りしめて圧をかければ結晶化する。ダイヤモンドの一欠片に見えなくもないよくわかんないもの、完成。込められた超人パワーがほんのちょびっとのため時間が経てば消える安心安全仕様だ。

 

 さあこれを振りかぶって第一球……投げましたーっ! 心の中のアナウンサーが声を張り上げる。アンダースロー。やまなりに飛んできた持ち帰れるサイズのキラキラに気付いたのか、空中でナイスキャッチ。満足して去っていく。

 どうしてカラスが自分から興味を失ったのかが分からない、と困惑していた様子の謎の超人に見つからないようにそっと店の中へ戻った。

 

 ギラッて言って、金属で巨体……あれシングマンだよなあ。最近のエンカウント率おかしくないか?

 

 

 

 リングの中央で鍛え上げられた身体と身体がぶつかり合う。押し負けた一方はロープへと吹っ飛ばされ……反動を利用してもう一度攻撃を試みる。

 超人同士の特訓、それはいつも通りの風景だが一つだけ違う点がある――シングマンがいるのだ。

 

 彼はこの土地に移住してきた訳ではなく武者修行旅の途中らしい。シングマン本人ではなくシングマンとスパーリングをした客から聞いた。

 リングに上がってから休憩を挟むことなく五戦。無敗。向かう所敵なし。シングマン相手に勝ち目がある超人はこの近辺にはいないだろう。……サイコマン? どこに住んでるのか俺知らないからなあ。あとカラスマンはここから遠い山の中で暮らしてるからシングマンと出会うことはないだろう。

 

 染色した布を外へ運び出しつつ試合を観戦する。シングマンが圧倒しているが、相手は諦めていない。

 

「ぐぅっ、ウオオッ!」

 

 上半身への攻撃が通用しない、なら足元から崩してやるとタックルを繰り出す。が、それは読まれていた。シングマンはその巨体に見合わぬ軽やかさでひらりと跳んで躱し、コーナートップの上へ。

 

「シングデモリッションウェーブ――」

 

 両腕を天に掲げ、交差させる。

 

「――マッ!」

 

 ギュワーンギュワーン! 普通に金属同士を叩き合わせても出ない独特の音。それはシングマンの必殺技(フェイバリット)によるもの。

 音へのガードは無意味。体の内側、内臓を蝕む衝撃波――それを相手は無防備な所へ食らってしまった。内臓へのダメージは特訓しても軽減はできない。がフッ、と血を吐き超人は倒れた。目的は殺し合いではないので即座に試合をやめ、周囲の者が手当の用意を始める。

 

 ――シングデモリッションウェーブは音を一方向に収束して放っているわけではない。破壊波は一方向だけではなく全体へと広がる。少し離れた場所でトレーニングしていた超人達がその音により動きがブレていた。それだけではない。影響は少し離れたこちらにも現れようとしていた。

 

 ピシリ、ガラッ、ズズズ……ズゴン!

 

 ……ズゴン? 後ろを振り向けば店への入り口が落石で潰されてしまっていた。余波とはいえかなりの威力……いや褒めている場合じゃない!

 俺も気付いていなかったが店に使っている洞窟は脆い部分があったらしい。それがシングデモリッションウェーブをキッカケに崩落した。入り口だけでなく店の中も落石でめちゃくちゃになっているかもしれない。他の超人が巻き込まれなくて良かったが、これは。

 

「ぬっ、ぐぎぎぎぎぃ――!」

 

 落石を退かすために両手で抱え込み、持ち上げようとしてもびくともしない。そのままがダメなら砕いてから退かせば? そんな力は無いし、まず岩に対しての殴り方を知らない。手を痛めて終わりだ。

 非力な超人、超人らしからぬ俺を受け入れてくれたこの場所から離れたくない! もうここが実家! 安住の地がこんな形で失われてしまうなんていやだーッ! ウオーッ! もっと頑張れ俺ーッ!

 

 ――俺の後ろからぬう、と伸びてきて岩に突き刺さる五指。そのまま岩を持ち上げ視界から消えていく。

 

「少しは鍛えたらどうです?」

 

「…………ウッ」

 

 呆れたような、聞いたことのある声が後ろから発せられた。振り向きたくないなあ……サイコマンからの視線がちょっと痛い……ハイ。ワタシ非力、超人ノ恥晒シ。

 

 サイコマンが俺と出会うのは基本店にいる時だけで、互いに力仕事する所を見たことがなかった。あいつは超人として成熟していて、対する俺はみそっかすのカッスカス。

 そう遠くない未来で完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)に選ばれるサイコマンと比較すること自体が間違っている? そうかもしれないが、そうだとしても……やっぱり気にしてしまう。

 

 ――超人強度1万パワー、この世界では余りにも低い数値の限界がここにあった。

 

 というわけで。落石の始末はサイコマンが殆どやってくれました。店内にあった物は一部は完全に岩の下敷き、一部は石砂利砂埃まみれ、一部は破損、とほぼ全てダメになっていた。

 作り直しになるのに対してはそこまで精神ダメージは無い。一番辛かったのはサイコマンから店内の惨状については何一つ触れず、ただ「鍛えろ」とだけ言われたこと。自分が思ってた以上に俺は弱かった……思い出すだけでマイナス思考になってくる。やめよう。

 その日の残り時間は掃除に費やす事となった。

 

 

 

 次の日。

 

「というわけで環境改善を行おうと思います」

 

 声に出しているが相手がいる訳ではない、独り言だ。ボロボロになった店の中に客がいるはずない。いるのは哀れなほどに非力な俺……悲しくなってきた。やめよう。

 二度と崩落しないように、岩を持ち上げられない非力な姿を他人に見せなくてもいいようになれば何の問題もない。ないったらない。

 

 やはり岩肌そのままなのがダメポイントだろう。補強が必要だ。全面木材張り? 見た目として店感が増すが内装を凝っても他の超人はそこまで見ない。まずここは洞窟だから、外観に凝るなら外に店を建てるべきかもしれない。でも外に建てると練習の邪魔って言われるだろう。トラブルゼロのご近所付き合いのためにも『外に建てる』は選択肢から除外。

 

 なんかいいものはないだろうか……ビビッと降りてきた。いや、降りてきたというよりは内から湧き上がってきた……?

 天啓でも神託でもない、作るべしと名前が浮かんだのは『コンクリート』。――手作りできるのか? と思ったが材料についてもなんとなくで分かる。

 知らないはずのことを知っている。できないはずのことができる。幾度となく考える謎、俺って何なんだろう。もしかすると超人の神の中にDIYの神とかいるんだろうか。それが俺に何かしてたりとか……こんな予想でもない与太話が当たってたらヤダなあ。

 

 

 

 コンクリート作りのために用意するモノ。砂利、セメント、水。これを混ぜる。材料は分かったが比率はよくわからないので量をメモりながら各材料を投入、コンクリートっぽくなるまで混ぜる。これを繰り返す。

 そうやって作ったら当然量は減らない。増える一方。

 

「しまった、すごい余る」

 

 生コンを適度に掬い、岩壁に塗り付け、平らに均す。終わりが近づくにつれ、残った生コン達が作る量を見誤ったぞ、と主張してくる。

 補強のためにだけ生まれた生コン達、その生を終わらせられるのは俺のみ。だけども使い道が特に浮かばな……いや何とかなる、か?

 

 使えなくなったマネキンの残骸を集めて芯にして生コンをペタペタ、ペタペタ。身長高めのコンクリート製人形が複数体完成。店内に置くと邪魔になるので外に出しておく。

 ハイ、これでトレーニング用の人形出来上がり。他の使い道候補としてはコンクリートリングもあったが……リングの中に詰め込むほどの量は最初からなかったし、やってしまったら店の前でコンクリートデスマッチが始まりかねない。

 俺は皆が切磋琢磨し合う姿や正々堂々とした試合をする姿が好きなのであって血が見たいわけではない。これまでもこれからも過剰に演出してしまうモノは絶対に作らないと心に強く決める。

 

 ……思ってたより固まるのが早いなコレ。コンコン、とノックするかのように叩き、音の響きで乾いたか確認する。一時間も経ってないのに芯まで完璧に固まっている。でも作っている途中で固まる気配は無かった。使ったことで固まった? なんだこの都合がいい謎コンクリート。この配合はゆで配合と名付けるべきか――?

 

「……すまない、コレは?」

 

 ぬう、と巨大な人影。――シングマンだ。

 デモリッションシングウェーブの二次被害について謝罪をしなかった、まず試合に集中していて俺のことを認識すらしていなかっただろう彼。こっちに興味はなさそうだったのにどうして今日に限って――。

 

「コンクリートで固めた人形ですよ、作ったはいいものの俺は使わないので外に出してるんです」

 

「ギラッ……そうか。使っても?」

 

「ええ、ご自由にどうぞ」

 

 完璧な営業スマイルで接客。ひょい、と片腕でコンクリート人形を担ぎ離れていく。

 それを確認して……はああああ、と安堵の息を吐く。未来の始祖と関わりすぎるのが怖い……二度あることは三度あったしこのままだと血気盛んな始祖が来そうで怖い……。

 

 

 

 ――超人にとっては自然環境や建造物もトレーニング器具の一つだ。基本的には硬そうなものを破壊して自らの力を高める。力が足りなければ、肉体の強度が及ばなければ……その危険をわかっていてなお、超人という種族は強くありたい欲望を抑えきれない。

 

 シングマンの相手をできる超人はここにはいなかった。誰も自身に有効打を与えられない。並び立つものがいない。だが、ここに時たま姿を表すと聞いた白のドレスと帽子を身につけた超人――彼ならばきっと、とも思ったが見たのは洞窟の中から出て岩を軽々と持ち上げていた一度だけ。それが終わるとどこかへと去り、それ以降は姿を見ていない。

 

 ……あまり長居はできない。突出したものは嫌われる。それは旅をする中でシングマンが知った現実だ。スパーリングの相手をしてくれる者がいなくなってきた、そろそろ潮時か――そう結論付けて発つ準備をして、気付いた。注視したことのない超人が一人いたことに。

 

 不思議な超人だった。一目見て思ったのは、弱い。そして自分を恐れていた。それはシングマンにはどうしようもできない。だが、彼の弱さは強さも兼ね備えていた。

 

 力を示すのではなく物を作る、そうやってずっとここで生きてきた超人。単純な力ではない、生きるための強さを芯にした超人。

 けどもその強さが自分に匹敵するかは――まあ、あまり期待はしないでおこう、と彼の作った人形を下ろす。ほぼコンクリートなので関節技を試すのには向かないが、打撃の練習にはちょうどいいだろう。

 

 構え、一撃。右ストレート。

 

「…………!?」

 

 腕を伝う衝撃が、拳で殴った感覚が、未知を自分に教えてくる。驚愕で動きを止める。

 

 シングマンの身体は隕石と同じ成分、つまり金属だ。この地球には存在せず、硬く、また柔らかい、誰にも破壊されることのない強いモノ。その一撃を――耐えたのだ。このコンクリートは。

 

 これは他の星から来たものではない。この地球にあるもので作られた。それが自分の硬さに追いつこうとしている。

 力を受け止める硬さ。衝撃を逃すしなやかさ。普通と違う特殊な配合で作られただろうコレは完璧(パーフェクト)混凝土(コンクリート)、と呼称するべきだ――そうシングマンには思えた。

 だが……この硬さはまだ超人には届かない。何度も同じ箇所を殴ればヒビが入り、崩れ始める。十数分の格闘。地面には割れ、崩れ、潰れたコンクリートの群れが落ちていた。

 

 

 

 この場所に用はなくなった。別れを告げるほど仲良くなった者はいない。一人、空を行く。

 ふと、次に訪れた際はさらに優れたものを生み出しているだろう彼を思う。ああ、名前を聞いておけばよかったな、と後悔する。超人らしからぬ彼、自分が持たない強さを持つ彼。

 

 名前を覚える価値がある。そんな超人に出会えたのは久しぶりだった。

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