キン肉マン世界古代転生   作:ウボァー

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count4.(ガン)と呼ばれ

「シャババ〜ッ! 漸く見つけたぞ、貴様がウソつきを増やしている元締めか!」

 

 真っ直ぐこちらへ向かってくる声の主には見覚えがあった。そして、できれば会いたくない存在であった。

 一歩ごとに大地を揺らす巨漢。単眼、岩のような肌、ヘラジカの角。抑えきれぬ憤怒を燃やし睨みつけるその瞳に映るのは、きょとんとした顔の竜に似た姿の超人――サマル。

 

「何のことを言って、」

 

「黙れこのド悪党が!」

 

 鼓膜が破れたかと思うほどの怒号。会話をする気もないらしい。何が彼の気に障ったのか分からない……いや、あった。かなり大きいものがあった。

 

 

 ――オーバーボディ。

 

 

 超人は肉体を変形することができるし、他者の手により変形させられることもある。前者にはジ・オメガマン、後者には相手を丸めてしまうベンキマンの必殺技アリダンゴなどが該当する。

 オーバーボディは超人が生まれながらに持つ変形・変身能力に作用する。それにより、本来の身長、体格よりも小さな――まさに別のボディへと変身が可能になるのだ。攻撃を受けると壊れてしまう程度の強度ではあるが、オーバーボディに求められるのは強度ではないので問題はない。

 

 それをサマルはなんやかんやして作れてしまった。ジャスティスマンがゴールドマンとシルバーマンの兄弟喧嘩――漫画を読んだので経緯を知っているが故にアレを兄弟喧嘩と一言で言ってしまうのは良いのだろうかと思ってもいる――を見届けた時に顔だけのオーバーボディを装着していた気がする。アシュラマンと戦う前にオーバーボディを装着していた気もする。

 つまり古代からオーバーボディはあったのだ。だから俺が作っちゃってもまあ大丈夫だろう――という判断を下したのが今回のガンマン襲来の原因となった。

 

 変身する超人を嫌う。虚飾を嫌う。そんな彼が全身を別のものにしてしまうオーバーボディも嫌うのは至極当然の結論だと言えよう。

 

 このままではあのエルクホルンでズタズタに引き裂かれるか拳と脚で嬲り倒されるかの2択、未来は絶望的だ。足先をガンマンから離れる方向へ向けて――。

 

「逃すか〜っ」

 

 右腕を掴まれる。そのまま折られるかと思うほどの剛力。リングに上がったことが殆どないサマルと、自身以外を下等と見下し勝利を積み重ねてきたガンマン。比べるまでもなく力も技術も圧倒的にガンマンの方が上だ。

 

 不味い。そう思った瞬間、無理矢理にリングの上へと引き摺り込まれ――否。ガンマンはサマルをタオルの如くリングの中へと放り投げた。

 受け身、は無理なのでせめて衝撃を逃そうとリング上をごろごろと転がる。数度回転した後に急いで立ち上がり、横に回避する。なぜなら、

 

「シャバーッ!!」

 

 ガンマンがその巨体を使い、サマルを踏みつけようとしていたから。単純なスタンプでも、彼の手に掛かれば必殺の攻撃。一瞬でも遅れていたらリングの上に真っ赤な血の花が咲き誇っていたことだろう。

 

 

 ゴングは鳴っていない。試合が――いや、死合が始まろうとしている。

 

 

「ぐぅっ……! ハァッ!」

 

「ちょこまかと小賢しい!」

 

 一撃でも貰えば昏倒、当たりどころが悪ければ死亡。己を狙う拳を避けることのみに専念する。縦横無尽に飛び回り、ロープの反動を活かし少しずつスピードを上げていく。

 ――超人強度は強さと密接に関係しているが、それが全てではない。技術を合わせたものが真の超人の強さになる。

 また、バッファローマンが超人強度を操作し姿を消す、速度を増すなどといった事象を起こしたように低いことによる利点もある。

 

 だが、それだけでしかない。どれほどスピードで上回ろうとサマルは必殺となる攻撃を持っていない。それもそのはず、試合を一度もしたことがないのだから。

 相手は筋肉の動きの機微からどう行動するのか先読みできる目の持ち主。ずっと回避し続けても試合は終わらないし、圧倒的に不利な状況という事実を時間は解決してくれない。

 

「シャバッ!」

 

 飛びかかるガンマン。がヅン 、と鈍い音が響いた。ガンマンの手刀がサマルの脳天を直撃したのだ。

 リングの上に血が舞った。

 

 ふらつきながらも立っている。まだ倒れない。いや、数秒耐えたが……前のめりにリングに沈んだ。

 

「貴様――なんだ、その体たらくは」

 

 体が揺れている。脳が揺れている。こちらの視界は歪んでいる。ぐわんぐわんと音が反響する中、ガンマンの声が聞こえた気がした。ガンマンがどんな顔をしているのかは分からない。

 彼は、真眼(サイクロプス)で、何を、見ている?

 

「私はこの世の何よりもウソつきが嫌いなのだ〜っ!」

 

 ガンマンの目より放たれる光で照らし出されたサマル。見た目に変化は見られない。得られる情報――真実はガンマンにしか把握できないものであるため、それは他者から見れば突然に怒りのボルテージをあげたようにしか見えなかった。

 

 どうしようもないウソつきのド悪党は見た目と中身がズレていた。超人なのに超人ではない奇妙な存在。それはオーバーボディとやらの仕業かと思ったが、それならば真実を白日の元に晒す真眼(サイクロプス)によって剥がされ、暴かれている筈だ。……それよりも何よりも、奴は()()()()()()()()ウソをついていた――まあ、これから粛清される雑魚の秘密など関係ないことだ。

 自覚のないウソつき、それこそ最も彼が嫌悪する存在。

 

 強引に頭を掴み持ち上げる。力なく垂れ下がる四肢。

 

「シャバッ!」

 

 掴んでいる手を広げれば当然、支えのないサマルの体は重力に従い落下する。それが地面に足をつけるより先に無防備な腹に回し蹴りを浴びせた。くの字に曲がった体のままコーナーポストに激突する。

 

 口から血が流れる。痛い。拭おうと腕を動かすこともできない。痛い。息をするだけでも全身が痛い。

 

 ずしん、ずしん、リングに座り込んでいる姿勢だからか振動がより大きく伝わる。

 本気で殺そうとしている? ここで終わり? そんな――ここで死ぬのは、嫌だ。

 

 取り留めもない記憶たちが立て、生きろと囁いている。それは走馬灯だったかもしれない。超人として生を受けてから何度も顔を見たあの超人が脳裏に浮かんだ気もした。

 胸の奥がちりちりと焼ける。……自分の奥底に何かがある。ドス黒い何か、封じ込めていた何か。個人の生存意欲により呼び覚まされたこれは火事場のクソ力ではなく火事場の馬鹿力。いや、それらよりももっと暗い――? 違う、駄目だ、これは駄目なものだ! コレに頼ってはいけない!

 

『死にたくないのだろう? ならば』

 

 これまで認識する必要のなかった何かが――ぱきん、と無自覚によって作られた封印を壊して吹き出した。

 

 

「バゴァアアァアッ――!」

 

 

 咆哮する。ばちり。地面から腕へと雷に似た何かが伸びて吸い込まれる。

 それだけではない。頭から流れる血が全身を覆う。赤く、紅く染まる。目はうつろで、正気ではないことは確かだ。

 

「……ほう? 下等にしては頑丈だな」

 

 圧倒的な強者を前にして自我が崩壊するなどガンマンからしてみれば珍しくも何ともない。気になったのは雷に似た、初めて見る現象。真眼(サイクロプス)は目の前の超人の力が増しているのは真実だと示した。するとあれは超人パワーをどこかに隠してでもいたのか? 二度ならず三度までもウソを見せつけてきた愚か者へ裁きの鉄槌を下さんと、右手を強く握りしめ殴りかかる。

 

「ゴァアッ!」

 

 拳は当たったが感触が浅い。衝撃を吸収された? アーマーのようなものだろうか。そのままこちらの腕を掴み関節技に持ち込もうとしてきたのを蹴り飛ばす。……やはり打撃の効き目が薄いように見える。

 蹴り飛ばされた先にあったロープの反動を使い、スピードを増した低めのタックル。積極的な攻めの姿勢。逃げ回っていたアイツと同一人物とは思えない。突然空気感が変わった相手の全身を真眼(サイクロプス)で捉えるべく距離を取ろうと後ろへ下がり、

 

「何ぃ!?」

 

 バランスを崩した。――糸。馬鹿な。あのド悪党はこうなるまでは逃げ回るのに手一杯で、そんなものを仕込む様子は見られなかった。

 

 答えはすぐそこにあった。あいつの右手から流れる血は垂れて()()()()()()()()()()()。赤い糸を形成している。正体はこれか! もしやこいつの血液はゴムの樹液と似た性質を持つとでもいうのか!

 

「――!」

 

 あからさまな隙を逃す超人はいない。タックルの勢いのままガンマンの股の下へと体をねじ込み、背を思い切り伸ばし上空へと跳ね上げる。

 すぐさま自身も飛びガンマンの無防備な背後を取る。ガンマンの体をリングに叩きつける、そのために必要な準備を整える。

 

 流れる赤い血は糸になり、ガンマンの首に、足首に、手首に赤い糸が巻かれる。強靭な体に負けぬよう何重にも巻かれていく。

 技から逃れようともがけばもがく程、その力の反動は自身の五つの首へ帰ってくる。なら何もしなければ平気なのか? それは違う。サマルの手が糸を繰る。締まっていく。ガンマンの背中にサマルは足を押し付け支点に、支えを得たからかより強くギリギリと音を立てて引き絞られていく糸。ガンマンの体は弓のように反りだす。

 糸を手繰る右手は天高く掲げられる。より一層糸の張りが強まる。

 

 相手をただ落下させるだけではなく、自身の体重を合わせて威力を上げる。最後には五つの首を破壊する、その必殺技(フェイバリット)の名前は――。

 

五ツ首の絞首台(ファイブヘッド・ガロウズ)ーー、ッ!?」

 

 ほぼ完璧であったはずのセットアップが急に解かれた。糸が巻かれていた場所からつう、と血が流れる。――ガンマンに傷を負わせることができたのに何故止めたのか?

 

 答えは簡単、貧血。ガンマンは大柄で力も強い。それに負けない強度の糸を血で作ろうとすれば相応に消耗するのは当然だ。その前に全身を覆うアーマーとしても血液を使っている。サマルが気を失い制御できなくなったからか、糸は血に戻り、風に乗って散っている。

 残ったのは血に濡れ倒れ伏したサマルと、少しばかり傷を負ったものの動きに支障はないガンマン。

 

 

 

 

 

「――貴方、何をしているんですか」

 

「――ほう? 貴様、このド悪党の仲間か」

 

 

 

 

 

 自分の体を勝手に動かしていた嫌なものを必死に集めて封をしていた箱に詰めていく。詰めていく。

 

『目を背けようと無駄だ』

 

『思い出せ、お前を作った偉大なる存在の名を』

 

『お前の作られた目的を』

 

『お前の本当の名前は――』

 

 嫌な声が聞こえないように蓋を閉める。自分の内にいつからあったのかもわからないコレは、自分が何なのかの謎に関係していることだけは確かだ。

 でも……知りたくない。あれは自分を乗っ取ろうとしていた。相手を……殺そうとした。嫌だ。今いる自分を失いたくない。

 

「全く、いつまで寝ているつもりですか」

 

 目を開く。気がつけばガンマンの姿は無く、何故か衣装が少し……いいやそこそこ、かなり、ダメージ加工されたサイコマンがリングサイドに腰掛けていた。

 リングは色々とズタボロだ。何をどうやったらここまで破壊できるのだろう。……もう補修するより新しく作り直した方が安上がりしそうな壊れっぷりだ……。

 

 同じ完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)に選ばれた超人ではあったが相性が良いとは言えない仲だったガンマンとサイコマン。まさか自分がいることによって追加で因縁が生えた?

 

「説明、してもらいますからね」

 

「あ、明日でもいいか……な?」

 

 あっ顔が明らかに歪んだ。いい訳ないでしょうって顔だ。……まずガンマンのド悪党発言について俺は何も分かってないんだけどこの場合はどこから話せばいいんだ……?

 

 

 

 ――しゃらり。鎖が擦れる音。天秤を携えた男は彼の前に姿を見せることはなく、高くからその死合を見ていた。

 あれは数奇な運命の元に生まれた存在。邪悪によって生まれたが正義としてあることを望む存在。

 

 ああ、だが悲しむべきは時代。彼の周囲ではその気配は見られないがとっくに世界は荒んでいる。略奪、殺害、邪悪で満ちている。罪人へ有罪(ギルティ)と判決を下した回数はもう数えていない。この星だけでなく、全宇宙で限界が迫っている。

 

 彼の作ったオーバーボディ。あれが邪悪が蔓延する加速の一因だと知らないようだ。

 見目を他人に変えられる。これだけで悪用の仕方はいくらでも出てくるし、実際そうやって使われている。だが彼はオーバーボディの使い道を単純に意外性やパフォーマンスの手段としてしか考えていない。

 

 ならば現実を伝えるか? 彼は幇助の気があってオーバーボディを作っている訳ではない。自身が知らない間に犯罪の手助けをしていた、と教えられれば誰だって気に病むだろう。

 善人が苦しむ必要はない。裁かれるべきは悪のみ。正義は我が手に有り。

 

 男はそう結論付けるとどこかへと去っていった。

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