キン肉マン世界古代転生   作:ウボァー

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count5.正義(ジャスティス)は神の手の中

 超人たる者、体づくりに直結する食にも気をつけている。肉だけを食べて生きられる生物は限られているように、超人とて偏った食生活では体調を崩す。

 

 畑仕事も立派な鍛錬になる、しかも作物が体作りの役に立つ、と一石二鳥だ。そうと分かれば超人達が力を入れるのも必然。

 

 自分で汗水垂らし作ったものは美味い。それは世界が変われども変わらない理の一つ。俺の作ったモンが一番美味いんだ、と自慢し合うのがいつしか物々交換のような催しへ変化するのにそう時間はかからなかった。

 

 野菜を育てるものは多いが果実に手を出す超人は少ない。互いを比較すると果実の方が長い年月がかかる上に上手くできたか結果が分かるのは年に一度。

 果実を育てるほどの年月はない、でも甘いものは食べたい。そんな思いを誰しも秘めていたのか交換のレートは中々に高い。果実一つでお野菜モリモリ懐がホクホク。今日の料理はちょっと奮発しようかと先のことを考えて、

 

「なんだ、あれ?」

 

 それは誰が呟いたのだろうか。その視線の先に何があるのか判別しようとして――空から降り注ぐ極彩色の光に全ては飲み込まれた。

 

 

 

 天の神々は全宇宙の超人を粛清するべくカピラリア七光線を照射した。それは前もって超人達へ予告などされなかった、唐突に訪れた災害。

 

 瞼を閉じてもなお目を刺すようなぎらついた光。それはほんの数秒で恐ろしいほどの命を奪った。悲鳴も苦痛も上げることは叶わず、弔うための肉も骨も残らない無慈悲なる神の御技。

 恐ろしいほど静かになった大地の上、手に持つ者がいなくなったからか、どさりと落ちる木の実。

 

 何が起きたのか分からなかった。目の前にいたはずの超人が忽然と姿を消した。それも一人二人なんかじゃない……ここに居たはずの全ての超人がいない。

 

「ッ――みんな!!」

 

 叫んだ。うるさいぞと叱る声は聞こえない。返答は来ない。鼓動が速くなる。呼吸のリズムが乱れ始める。

 タチの悪いドッキリだと、そう誰か明かしてくれないかと願って駆け回る。……たった今まで使われていた、そんな痕跡を残した道具が、家が、あるだけだった。

 

 

 ――ほぼ全ての超人は、今日この日を境にして地上から消え去った。

 

 

「ああ――そんな」

 

 どうして俺が生き残っているんだ。そう責めても誰も黄泉からは帰っては来ない。自分しか居なくなった地上で、一人膝から崩れ落ちる。

 何故カピラリア七光線を受けて己は生きているのか、超人ではなかったのか、何かできる事はなかったのか、吐き出すことのできない後悔だけが胸の中でぐるぐると渦を巻く。

 

 いったいどれほどの時間を心の整理に使おうとして失敗していたのだろう。……俺しかいないはずの世界に、じゃり、と砂を踏む音がした。

 

 目を上げれば、そこには男がいた。後に裁きの神と呼ばれることになる、正義の名を持つ男。

 

「神による裁きは終わった。お前はもう許されたのだ」

 

 哀れみや蔑みといった感情を挟まず、淡々と判決を告げる。

 

 ダブルジョパディ、二重処罰の禁止。それになぞらえれば彼は一度裁かれた。神々による超人大粛清を超えて生きる者は、再び神々の手によって粛清される事はない……ジャスティスマンの言葉の意味を認識した瞬間、怒りが込み上げて来た。

 

「許してくれだなんて言った覚えはない!」

 

 胸ぐらを掴むようにして食ってかかり、……力が入らない。ずり落ちていく。

 

「誰も、何も、悪いことなんかしてない」

 

 相手に怒鳴りつけるというよりは、自分の気持ちの整理をつけるような、か細い声。

 彼の周囲の超人は悪逆へと落ちていなかった。増長した超人達への罰である神の裁きを受け入れ難いのも当然と言えるだろう。

 ジャスティスマンは彼の悲痛な叫びへ反応を返さず、ただ聞いて受け止めている。

 

「……皆、いいヤツらだったんだ」

 

 自身の内に満ちる思いと反比例するように、だんだんと言葉数が少なくなっていく。

 こうしている内になんでもない日常の記憶が頭からこぼれ落ちてしまい、誰も思い出すことができなくなってしまいそうで。

 

 ぽたり。ぽたり。両の目から雫が流れる。

 

「う……ぐぅ、あぁあ…………っ!!」

 

 感情がぐちゃぐちゃになっていく。声を上げぬよう、噛み締めるようにサマルは泣いていた。

 ジャスティスマンは何もしない。ただ、そこにいるだけ。……それが有り難かった。

 

 ひとしきり泣き終わって、現実に帰る。俺のみっともない姿を見ただろうに、ジャスティスマンは愛想を尽かすことなく立っている。

 

「全ての超人が死に絶えたわけではない。神の座を捨て超人となった男、ザ・マン……彼は優れた超人は生かすべきだと主張し、神々はそれを認めた。今この世界に残っている中に悪も罪も存在しない。お前の友、サイコマンも選ばれた者として生きている」

 

 表情は変わらないが、纏う空気がほんの少し柔らかくなった、そんな気がした。手を差し伸べられる。

 

「――来るか?」

 

 ザ・マンは優れた者は生かすべきと神々の決定に異を唱えた。そして十の超人を選んだ。俺の元にザ・マンは訪れていない。

 ……それはつまり、俺に()()()()()証拠。

 

 ザ・マンは問いを投げかけた事だろう。このまま地上で他の超人と同じように裁きを受け入れるのか、それとも選ばれた者として無限に等しい時の中で完璧を目指すのか。

 俺にはその問いすら与えられていない。ただ生き残った、それだけでもたらされた慈悲がこうして目の前にある。

 

「…………はは」

 

 俺はどんな顔をしていたのだろう。生き残れたくせに誰の役にも立てない自分を嘲笑っていたのか、サイコマンが原作通りに生きていると確定して安心したのか。

 

 俺は一人じゃ生きていけない弱い存在なんだと乾いた笑いを浮かべ、支えを求めるように手を取った。……慈悲(哀れみ)を、受け入れた。

 

 それが、俺の選んだ(意図)だった。

 

 

『そうだとも……貴様は生きねばならん』

 

『この()のためになあーっ、ゲギョゲギョゲギョ』

 

 

 

 天と地上の狭間、選ばれた者のみが入ることを許されたバリアの中、天界の騒めく声が聞こえていた。

 

 

 何故カピラリア七光線を浴びて生きている超人がいるのだ。

 

 よりにもよってあのサタンの手先ではないか。

 

 神の裁きを受けた不完全な者が生き残るなどあってはならないことだ。

 

 今すぐに殺せ。

 

 

 元・慈悲の神――今は下天により超人となった男、ザ・マンは彼も救い上げるつもりであったが、その意思を伝えると「大魔王サタンの手により生を受けた超人を助ける必要がどこにある」と神々の猛烈な反対を受けた。

 カピラリア七光線の届かぬシェルターは神の力により作られるもの。神々の意思に背けば救えるはずの超人を救えなくなるやもしれぬ、と後ろ髪を引かれる思いではあったが、彼については諦めるしかなかった。

 

 だがそんな神々の思惑は露知らず、彼は生きていた。

 何故彼が生きているのか、それは今のザ・マンとて理由は分からなかった。しかし混乱は好機であった。

 

『邪悪が地上にあるからと粛清を続けるのは神々の不完全さを強調する行いに他ならぬ。いつか芽吹くやもしれぬ邪悪の種、それすらも正してこそ真の完璧たり得るのではないか!』

 

 男は神々を説き伏せた。天の二つの勢力のうち一つをまとめ上げていた男の言葉だ、その重さも覚悟もようく天界に伝わった。

 

 そう……明かされた事実。邪悪の化身、サタンによって生み出された超人がいた。その真実を知った選ばれた十人の中に動揺が走る。

 彼のことを知っているが故に混乱する二名。やはりあのウソつきは殺しておくべきだったのだと訴える一名。衝撃が大き過ぎたのか逆に反応を見せない、一名。

 ジャスティスマンのみが平静を保っていた。いつからそのことに気が付いたのか、また関わりがあったのかはザ・マンの預かり知るところではない。

 

 本来ならばザ・マン自ら赴くべきではある、そう分かってはいたが混乱している完璧の種達と「今度こそヤツを」と逸るガンマンを放置するわけにはいかなかった。

 故に彼を迎えに行く役割を感情に揺れることのない絶対なる男、ジャスティスマンへと任せた。

 

 

 ――生き残ったのは完璧になり得る優れた存在であるからだ、普通の超人であればそう説明するだけで良かっただろう。だが彼は、サマルは知っていた。完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)はザ・マンが選んだ、と。

 神ですら知りようがない知識。それは確かに彼の心へ影を落としたのだ。

 

 

 本来の歴史では存在しないはずの11人目。神器たるダンベルは無く、またその身体能力も遠く完璧には及ばない。

 

 皆の発展を願う心を、その卓越した技術を認められた者。

 

 その者――『完璧・虚式(パーフェクト・イマジナリ)』。


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