今は修正しておりますが、かなり気合を入れて書いた挿絵なので、まだ見てない人はここで見てください。いや、見ろ。
場面としてはノールとナイトが脚の指の長さ比べをするところです。
【挿絵表示】
模擬レースの日から数日が経ちました。模擬レースにおいて勝利を収めた私ですが、改善すべき点はまだまだあります。
ひとまず、模擬レースでやらかしたスタートの練習と、メンタルトレーニングを新しく取り入れて頑張っています。
そんなある日のお昼。ナイトを昼ごはんに誘いました。
「ナイト~、お昼一緒に食べない?」
「……っ、い、いや、今日も用事があるから先に食べてて……」
するとそう返されます。
内容は不自然なものではありませんが、私に声を掛けられた時の驚き様は変です。
それに加えてナイトにお昼を断られるのはこれで三日連続。
基本的にお昼はナイトと食事をすることがほとんどなので、珍しい現象でした。
ともすれば避けられているような……。
「そう? 分かった」
とはいえ三日連続で都合が合わない事も無いわけではないでしょうし、単純に人と距離を置きたいだけかもしれません。
ですのでその場はすごすごと退散しました。
「でも、ここ数日は夜にもあんまり会話しなくなっちゃったんだよね……やっぱり避けられてるのかなぁ……?」
「知らねぇよ……つーかなんでそんな事を俺に相談してくんだよ……」
場所は変わって食堂。
ナイトが捕まらなかったので、代わりに偶然見つけたジェミニの対面に座りました。そして最近あった事を吐露します。
ちなみにジェミニとは模擬レースの日以降、一緒に練習したり、お互いの走りを確認し合ったりするぐらいの仲に発展しました。
「だって他に知ってる人が捕まらなかったから……」
「だからって俺のとこに相談しに来るか? 普通?」
「迷惑だった?」
「迷惑、ってわけじゃねぇけど……。あんまり得意じゃねぇんだよな、そういう話……」
「確かにこういう悩みとは縁がなさそうだよね、ジェミニは」
「……どういう意味だよ」
「いやジェミニってズバズバものを言うタイプだから、こういう曖昧な悩みとは縁がなさそうだなって……」
「……遠慮のない奴で悪かったな……」
ジェミニは目を逸らしながらそう呟きます。
さっきの発言が受け取り方によっては社交性のない奴だ、みたいな悪口に聞こえることに気づいた私は急いでフォローします。
「け、決して皮肉とか悪い意味で言ったわけじゃないんだけど……」
「……はぁ~…まぁ良いけどよ」
ジェミニは怪訝そうな目をしますが、諦めたようにため息をつきました。一応納得してくれたようです。
「それで? 飯に誘っても付き合ってくれないって?」
「うん。普通は二人で今日あった出来事とかを部屋で話し合うんだけど、それも最近は無くなって……というか、よそよそしくなったんだ。
部屋に帰ってきてからはずっと勉強してたり、本を読んでたりしてるし、寝る時間も速くなったかな。
夜は早く寝て、その分朝早く起きて朝練行ってるみたい」
いつもは同じ時間に寝て、同じ時間に起きていたのですが、最近は私と生活リズムをずらしているのです。
「まるでお前を避けてるみたいだな」
「うぅ……やっぱりそうなのかなぁ……?」
冷静に考えると、やっぱりそういう事になってしまいます。
「でも避けられる心当たりがないんだよね。失言をした覚えは無いし、いつも通りだったと思うけどなぁ……」
「ホントか?」
「うん…多分……おそらく………」
「はっきりしねぇなぁ……」
「私が気づいてないだけで、もしかしたら気を悪くさせちゃったかもしれない可能性があるから……。
いや、でもそんなことは無いと思うけどなぁ……。
避けられ始めたのは夜からで、その日の朝はいつも通り接してたし、日中も珍しい事に全然話をしてなかったから」
顔を合わせてないのに避けられるという事態になるのはどうにも不自然です。それとも朝の私に問題があった?
とはいえ、数日前の自分の行動を逐一覚えてはいません。答えの出ない問題に頭を悩ませていると、
「……案外お前の方じゃなくて、相手の方に問題があったりしてな」
ジェミニがそう言いました。
「相手に?」
「お前に心当たりが無いならそうとは考えられねぇか?」
「それは……そうかもしれないけど」
相手に問題がある。思いつきもしませんでしたが、ナイトの方に何かがあって、私を避けるようになったのなら今のこの状況も納得です。
「それはそれでもどかしいなぁ……私からは何にもできないし」
ナイトが私に何も言ってくれないという事は、私に伝えにくい事が原因で今の状況に至っているはず。
であれば、私が理由を尋ねても答えてはくれないでしょう。
「諦めて時間が解決するのを待ったらどうだ? どうしようもない事に気を揉んでも損するだけだぞ」
「う~ん、でも夜が気まずいんだよね……。
練習終わってから寝るまで同じ部屋に居るけど、一言も喋らないってのは……」
ここ数日は夜の会話時間をトレーナー居室から借りてきた本を読むことに費やして、時間をつぶしていますが、やはり居たたまれない空気に息が詰まりそうになります。
ナイトの方を気にしてしまい、読書がはかどらない事も。
「あ~、同室相手だったっけか。……めんどくさそうだな、相部屋ってのは」
何となく引っ掛かるジェミニの台詞。
まるで彼女が相部屋ではないかのような言いぐさです。
トレセン学園の寮に住む以上は、基本的に二人部屋になるはずですが……
「ジェミニって相部屋じゃないの?」
素直に思った事を聞いてみます。
「俺は一人で部屋を使ってるぞ。たまたま寮の人数が奇数で、あぶれでもしたかな」
「一人……じゃあ部屋を全部自分のスペースに出来るじゃん! 広く使えてうらやましいなぁ……」
「つっても持ち込んだ私物が多いわけじゃねぇし、そんなにスペースは必要ねぇんだよな……、まぁ頻繁に整理整頓しなくても良いのは楽だけどよ」
「ってことは部屋、散らかしてるの?」
「言い方……汚くはないが綺麗でも無ぇぐらいだな」
「ふーん、一人暮らしの部屋かぁ……少し見てみたい気もするな」
「だったら…………」
と、そこでジェミニの口は固まりました。そのまま何も言葉を発しません。
「だったら……何?」
「……いや、何でもねぇ。気にすんな。それより今はお前が抱えている問題の話だろ」
その後もジェミニと話しましたが、結局は様子を見るという無難な結論に落ち着き、昼休みは終わりました。
午後の授業も終わって放課後。今日も練習前のミーティングのため、トレーナー居室に向かいました。
「失礼します」
居室の扉を開けながらそう言い、部屋の中に入ります。
「…………」
しかし、トレーナーさんからの返事はありません。いつもなら適当に声を掛けてくるのですが。
もしかしてカギをかけ忘れたまま、留守にしてる……?
一瞬だけそう思いましたが、部屋の中にトレーナーさんの姿が確認できたので、そうではないようです。トレーナーさんは自分の机に座り、プリントを一枚手に持っています。
「何見てるんですか?」
私はトレーナーさんの近くに寄り、手元を覗き込みました。見出しの部分には太文字で「紫苑S 出走表」と書かれています。
「あ、出走表! 今日出たんですか!? 見せて貰っても!?」
「え、あ、あぁ……」
目標レースである紫苑Sの出走表を前に浮かれた私は、どこか戸惑った様子のトレーナーさんには気づかないまま。
出走表を半ば強引に奪い取ります。
「私は……また1枠だ」
模擬レースと同じ1枠。走る距離は一番短くなりますが、スタートが遅れれば地獄を見る枠番。
あの時みたいに出遅れないように、スタート練習頑張らないとなぁ……。
そんなことを考えていると、一瞬だけ目に入ってきた名前が私の視線を強烈に奪いました。
「…………え?」
見間違いかと思い、指でなぞりながらゆっくりとその文字を読み直します。
「…………なんで……」
しかし、見間違いではありません。
2枠 ナイトグライダー
私の名前の隣にそう書かれていました。
(sideナイトグライダー)
数日前
「え……? スケジュールの変更ですか?」
「はい。その……大変情けない話ですが、予定を勘違いしておりまして」
練習終わり、トレーナーの居室で明日のトレーニングの計画を立てていると、雑誌編集者から急に電話が掛かってきた。
曰く、予定を勘違いしていたらしい。
「いつの予定ですか?」
「それが……その……」
私がそう聞くと、電話の向こうで編集者は言い淀み始める。しかしそれも少しの事で、意を決したのかはっきりと告げる。
「……9月19日に入れていた写真撮影の予定ですが、本当は9月27日でした」
9月27日。その日は……
「ローズSの日……」
私が出場するつもりだったレースがある日。
「はい……本当に申し訳ありません。全てこちらの不手際です。私が責任を持って代役を探しますので……」
「ちょっと待ってください。少しトレーナーと相談してみます」
電話の方は一時保留にし、トレーナーの方を向いた。
「一体何があった?」
電話の内容が少し聞こえていたのか、私にそう聞いてくるトレーナー。
「実は……」
読者モデルの仕事と私が出場するつもりだったレースがダブルブッキングしている事を話した。
「それは間の悪い……しかし次のレースに出ないわけにも行かないだろう。
模擬レースでは良い走りが出来ていたが、復帰後すぐに本命の秋華賞に出るのは準備不足が過ぎる。
間に一つレースを挟まないと……」
「それは分かってる。けど替えがきくならモデルの仕事もしたい。
だから他に前哨戦に出来そうなレースがあればそっちに出ようと思う」
「他にか……少し待っててくれ」
トレーナーは机に置いたパソコンを触り、私の予定とレースの予定を調べてくれる。
「にしても改めて見ると学生離れしたスケジュールだなこれは……下手な社会人よりも忙しいんじゃないか?」
「モデルもレースも手は抜けないから」
「俺の半分以下の歳なのにしっかりしてるねホント……っと、一応候補があったぞ。
9月19日の紫苑S。GIIIだからローズSと比べてグレードは一つ下がるが、同じ2000m」
9月19日……ちょうどモデルの予定とレースの予定が入れ替わりになるわけだ。
「会場は?」
「中山競技場だな。あいにく、今年の秋華賞と同じ阪神競技場とはいかないが……たたき台にするには良いレースだと思うぞ。出走届提出もギリギリ間に合う」
「……分かった。じゃあ、そのレースに出る」
「了解。手続きはこっちでやっておく」
「ありがとう」
「トレーナーの仕事だ、礼を言われる程の事じゃない」
トレーナーはそう言いながら、電話をかけるような仕草を私にして見せた。
それを受けて、保留にしていた電話を再開する。
「仕事の話ですけど、大丈夫です。
レースと入れ替わりで予定を立てる事が出来ました」
「そうですか……」
電話越しでも雑誌編集者の安堵の感情が伝わってきた。
「ナイトさんの方で都合をつけていただき、本当にありがとうございました。
これからはミスの無いように、二重、三重のチェックを入れますので……」
「はい、分かりました。今後もよろしくお願いします」
「はい、それでは……」
それを境に通話を切った。
一時はどうなるかと思ったけど、丸く収まって良かった……。
自然と安堵のため息が出てきた。
それも束の間、すぐに気合を入れ直し、予定が変更されたレースの事を考える。
紫苑S……中山競馬場は高低差が激しい。明日からは坂の練習を取り入れて…………紫苑S……?
(私は同時期に紫苑Sに出るんだ)
脳内で、突然ノールの声が再生される。頭を殴られたような衝撃を錯覚した。
紫苑Sって……確かノールが出るって言ってた……。
その事実を今になって思い出し、顔から血の気が引いていく。
いつかの夜に杞憂だと切り捨てた可能性が、まるで悪魔に導かれたかのように現実の物となったのだから。
その事実にかなり動揺したが、何度か深呼吸をすると多少は落ち着いた。
今からでも遅くない、トレーナーとマネージャーに事情を話して…………どうする?
「知り合いが出るレースで一緒に競いたくないので、さっきの話は無しにしてください」とでも言うのか? ……あまりにも幼稚な……。
それに編集者の人もがっかりするはず……ミスの埋め合わせが出来た所を私のわがままでまた掘り返す事になる……。
いやでも元々は向こうのミスで、それが元通りになるだけだから……。でも私のわがままってだけでそんな……。
「ナイト、どうした? そんなところでぼーっと突っ立って」
「っ!」
情緒と思考が不安定な所に、トレーナーから声を掛けられ、体を硬直させてしまう。
しかし、すぐにトレーナーの方を向いて装いを取り繕った。
「……あ、いや、大丈夫。少し考え事をしてただけだから……」
「そうか? なら良いが……」
不思議そうにしているトレーナーをひとまず放っておき、再度思考を巡らせる。
けれど交流のある人に迷惑を掛けることを極端に恐れる私は、いくら考えても決断を下すことが出来なかった。
結局、私は折り返しの電話をしなかった。
それはノールと戦う腹を決めたわけでも何でもない。ただ決断しなかっただけ。
そのままレースに参加が決まり、引き返せなくなるその時まで時間切れを待った。
フラグ回収完了。
これをやりたいがために読モ設定をナイトに追加してるまであります。他に良い方法が浮かばなかったので……。