トレーナーさんと練習を始めて早1週間が経とうとしています。経過は順調……とは言い難いです。
というのも普通の練習は特に問題なく出来ているのですが、いかんせんフォームの追加が上手くいっていません。
♢
少し前
「フォームの追加についてだが、何か希望はあるか? 参考にできそうなウマ娘の心当たりとか」
「希望、ですか。……それだと先輩のフォームを参考にしてみたいんですけど」
「先輩? 誰だ?」
「スーパーチャージャーさんです」
「スーパーチャージャーというと、あの「ジェット機」か……」
「はい。超前傾姿勢でのピッチ走法……。あれなら私のストライド走法とは被りませんし、ラストスパートの速度も上がるのではないかと」
「追加フォームをラストスパートで使い、今の二つのフォームを序盤、中盤に持ってくるという訳か。しかしあの特異な走法、ただでさえ新フォームの習得は難しいのに、更に難易度が上がるぞ?」
「や、やっぱりそうですかね?」
「ああ。しかしあれを習得できれば、飛躍的にタイムが縮まるかもしれねぇな。そういう点では挑戦する価値はある」
♢
そういう話し合いを経て、スパさんのフォームを習得することになったのですが……
「ハァッ……ハァッ……」
「お疲れさん」
「どう、でしたか?」
「さっきよりは体を倒せているが……その分歩幅が大きくなったな」
「ちょっと見せて下さい」
トレーナーさんからビデオカメラを受け取り、さっきの走りと一本前の走りを見比べます。
「……本当だ」
そして、私の走りとスパさんの走りを比較。
「しかもまだ前傾が足りてないですね」
「こうして比べるとよく分かるが、ジェット走法ってのは本当に規格外だな……」
「はい。体を前に倒すと重心が前に傾きます。なので普通なら体勢を崩さないために、歩幅を大きくしないといけないのですが……」
「ジェット走法は超前傾姿勢なのに、歩幅の小さいピッチ走法で走っている」
「そうなんですよねぇ……」
そう、この問題を全く解決できないのです。
元々フォーム追加の目的は使う筋肉の分散。分散させるためには、今使っている歩幅の大きなストライド走法から出来るだけ離れたフォームで走ることが必要です。
なので、歩幅は出来るだけ小さくしないといけません。
しかし前傾姿勢でむりやり歩幅を小さくしようとすると、つんのめってこけそうになってしまいます。
あ、ちなみに「ジェット走法」というのは、スパさんの走り方の事です。
名前が無いと呼ぶとき不便ですから、勝手に命名させてもらいました。
「一体どうやってこの走り方を実現してるんでしょうか……」
「もう一度手本を見てみろ。映像の中に必ずコツが隠れているはずだ」
「はい」
再び「ジェット走法」の映像を見ます。しかしこれといった閃きはありません。
しいて言うなら……
「やっぱり腕の振りですかね? 普通の走法だと腕を大きく前後に振ります。
けど映像を見る限りでは、腕を前に振るときは小さく折りたたんで振ってます。
そして腕を後ろに振るときは大きく振ってます。
これは多分、重心を出来るだけ後ろに持ってくるためだと思うんですけど……」
「実際にやってみてどうだった?」
「結構窮屈でした。それに腕の方に意識が割かれてしまって、他がおろそかになってしまいましたね」
「そう簡単には行かねぇか……」
「ジェット走法」。実際に試してみると、想像以上に難しい走法でした。
この調子では習得できないところか、悪い腕の振りの癖がついてしまう恐れもあります。
「どうする? 今からでも目標のフォームを変更するのもありだぞ?
別にジェット走法にこだわらなくても、普通のピッチ走法を習得するだけでも十分……」
「いえ、もう少しだけ練習させてください」
トレーナーさんの言う通り「ジェット走法」は諦めて、他のフォームを身につけた方が良いのかもしれません。
しかし、この時の私は「ジェット走法」にしがみついて離れられませんでした。
ここで諦めてしまうと、一週間の間「ジェット走法」の練習に費やした時間を無駄にしてしまう。その思いが強かったのです。
「そうか……ま、ノールがそう言うなら止めねぇが」
私のわがままに対してトレーナーさんは、特に何も言いません。
結果が出ていない現状、無理矢理メニューを変えられることも想定していたのですが、そこまではいきませんでした。
密かに胸をなでおろしていると、私とトレーナーさんの間に乱入者が。
「呼ばれて飛び出てスパさん参上! ……ってな」
その正体は乱入者自身の名乗り通り、スパさんでした。
「す、スパさん! どうしてここに!?」
「俺が呼んでおいた。ちょうど良いタイミングで来たな」
「と、トレーナーさんが?」
「せやで。ノールに色々教えたって、って言われたんや」
「え、えぇ!」
いきなりの急展開にやや置いてけぼりをくらってます。
「い、いつの間に声を掛けてたんですか?」
「昨日の内に。行き詰っているみたいだから、直接本人から指導してもらおうと思ってな。
ダメ元だったんだが……まさかお前らが知り合いとは思わなかった」
「ウチの走り方マネしとるんやって?」
「は、はい……勝手にすみません」
「別に謝らんでもええて! マネしとるってことは、それだけウチの走りを認めてくれたからやろ?
間接的に褒めてもらっとる様なもんやから、いくらでもマネしてくれてええで!」
スパさんはフォームをマネされたことを好意的に捉えているようで、上機嫌です。
「けどいいんですか? 本当にアドバイスを貰ってしまって」
「ん? どういうことや?」
「えっと……実際に試してみて良く分かったんですけど、スパさんのジェット走法。
あれって難しくて、きっとスパさんも苦労して身に着けたものだと思うんです。
それを私がアドバイスだけ貰ってしまうというのはちょっと……ずるいんじゃないかと」
他に類を見ない特別な走法。
それは当然スパさんの「武器」なわけであって、見て盗むのならともかく、おいそれと教えてもらうようなものではない……どうしてもそう考えてしまいます。
それに対するスパさんの反応はあっけらかんとした物でした。
「なーんや、そんな事か! 一子相伝の奥義ってわけでもないし、全然気にせんでもええのに。
なんなら同じチームの奴らに教えた事もあるしな!」
「え、そうなんですか?」
「せやで。まぁ、そいつらは習得するまでには至らんかったけど」
「そ、それって習得がかなり難しいって事になりませんかね?」
スパさんと同じチームに入っているウマ娘というと、当然トレーナーからスカウトされたウマ娘。
そんな優れたウマ娘でさえ習得できないフォーム。ならば私が習得するのは限りなく不可能に思えます。
「うーん……まぁ確かにそうなるっちゃ、そうなるんやけど……ノールなら大丈夫やって!
私が出会ってきたウマ娘の中じゃ、ノールが一番、この走り方に向いとるからな!」
「私が、ですか?」
「そうや。ウチの勝手な主観やけどな」
私がジェット走法向きとはどういう意味でしょうか?
本当に向いているのなら、この一週間でもうちょっと上達してそうなものですが……。
スパさんの言葉の真意を測りかねていると、
「後、ここまでスルーしたけど「ジェット走法」ってなんや? なんか勝手に命名されとるんやけど……」
突っ込みが入ります。
「あ、それは私がつけました。トレーナーさんと話し合う時にいちいち「ス―パチャージャーさんの走り方」、とか長くなりそうだったので」
「ふうん? ジェット走法、ジェット走法……。
ま、二つ名の「ジェット機」から取っとるんやろうし、響きも悪くないから別にええか。ウチもこれからはそう呼ぼっと」
一応、本人の公認をいただけたようです。
「ちょっと話が逸れたな、本題に戻すで。これからノールにはジェット走法を身に着ける練習をしてもらうで。
とはいっても私が出来るのは練習方法を教えるだけやけど」
「練習方法?」
「フォームの練習って言ったら普通、実際にコースに出て走って悪い所を直していくのが一般的やな。
けんどジェット走法を習得するなら体育館のピットで練習するべきや」
「ピット……というと、あのスポンジのプールみたいなのですよね?」
「せやせや。ま、そこでどんな練習するかは実際に行ってから説明するから、とにかく移動しよか」
「は、はい」
スパさんは私とトレーナーさんを引き連れ、体育館までやってきました。
中に入り、私はピットがあるレーンに立たされます。
「やることは簡単や。体を前に倒すのと、歩幅を小さくとることを意識しながらピットに向かって全力ダッシュする……それだけやな」
「そ、それだけですか?」
「せやで。この練習方法の利点はコケても大丈夫なとこや。
芝の上で「ジェット走法」を練習するときは、体勢が崩れるのを恐れて体を倒しきれんかったり、歩幅を大きくとってしまうからな。やろ?」
「はい、そうでした」
「その点スポンジたっぷりのピットになら突っ込んでも怪我せんから、体は倒し放題、歩幅も小さくし放題。
要はコケながら慣れていくっていう練習方法やな」
「なるほど……」
段階的に体を倒し、歩幅を小さくすることで「ジェット走法」に近づけていくのではなく、最初から「ジェット走法」で走ってみるということでしょうか。
「ま、実際にやってみたらどうや? 習うより慣れろ、やで」
「は、はい!」
右足を引き、いつでもスタートできるように構えます。
「ピットまで半分くらいのところで思いっきり体倒して、歩幅を小さくするんやで!」
「分かりました!」
最後のアドバイスを聞いた後、床を蹴って一気に加速します。
半分……ピットまで半分……ここ!
言われた通りにピットまでの距離が半分になったところで、これでもかというくらい体を倒します。
床……近いっ!
一気に木製の床が近づき、木目が高速で視界を流れていきます。
絶叫マシンに乗ったときの様に恐怖心を煽られますが、歯を食いしばり歩幅を小さくしました。
その瞬間、重心が崩れ、前につんのめります。
ヤ……ッバイ!!
前に放り出された体を何とか後ろに引き戻そうと、足の回転を早めます。すると一時的に体勢を保てたものの、前に行きすぎた重心は後ろに戻りません。
ぶつかるっ……!!
完全に体勢を崩し、床が更に近づいてきます。時速70kmにも達する速度で顔面から床に突っ込み、床の木目が嫌にはっきりと見えます。
死を意識したその時、視界にスポンジが広がり、私の体は柔らかいものにぶつかりました。
ドドフン!! ドフッ!
スポンジで体が跳ね、ワンバウンドした後、ようやく体が止まります。
「…………ッハァ……! ハァッ……! ハァッ……!」
仰向けのまましばらく動けませんでした。
止めていた呼吸を再開し、震える手を握りしめます。
ドクン、ドクン、ドクン……。
自分の心臓の音がとても大きく聞こえてきます。
目を閉じ、しばらく心音だけを聞いていると、次第に落ち着いてきました。
「……か……大丈夫か!」
「……あっ! はい!」
上から聞こえてきた声に反応し、ピット内で体を起こします。
「ケガは無いか!?」
トレーナーさんが近くまで寄って来て、私の体を眺めながらそう聞いてきます。
「は、はい。どこも痛くありません」
「そうか……なら良い。床とキスしそうだったから心配したぞ」
目元がサングラスで隠れているので、感情を読み取りづらいトレーナーさんですが、今は私の心配をしてくれているのが良く分かりました。
心配かけちゃったな……。
そこにスパさんも混ざってきます。
「ふー……危なかったなぁ。見てるこっちがひやひやしたわ。
思いっきり体を倒せとは言ったけど、さっきのは倒しすぎやったで」
「す、すいません……」
「ま、ケガがないなら何よりやけど」
どうやらスパさんにも心配をかけてしまったようです。初めての事だったので、しょうがないとはいえ、申し訳なく思います。
「実際にやってみてどうやった?」
「……その、とても怖かったです」
「せやろなぁ……ジェット走法は超前傾姿勢のせいで地面と顔が近くなるし、バランスが崩れるか、崩れんかのギリギリを攻めるから、ものすごい不安定や。
特にさっきは肝を冷やしたやろ?」
「そうですね……」
「せやから技術とか慣れの前にまずは恐怖心の克服からやな」
その通りだと思います。というのも、いまだに先ほどの地面が近づいてくる感覚が頭に残っているのです。
これを克服しないことにはジェット走法の習得など夢のまた夢でしょう。
「ほら! 精神的に疲れとるかもしれんけど、二本目いくで! スタートラインに戻りや!」
「は、はい!」
・
・
・
何十回ピットに突っ込んだか、分からなくなってきた頃。
「ふーー……」
「うん、中々良くなってきたんやないか?」
「本当ですか!?」
「腕の振り方がええな。教えても無いのに理想的な振り方になっとる。結構センスあるやん」
「え、えへへ……」
センスがある、そんな褒められ方をしたのは初めてで、照れてしまいます。それもGIを取ったことのあるスパさんからの言葉なら尚更です。
「練習方法は教え終わったし、ウチの役目は終わりやな。ほな……」
そう言ってスパさんは帰る素振りを見せます。
「あ、ちょっと待ってください!」
しかし聞きたいことがあったので呼び止めました。
「ん? どうしたんや?」
「走ってる最中に思ったんですけど、つま先が大事じゃないですか?
前傾姿勢かつ足の回転を速めるせいで、つま先しか地面につかないので、すごく重要だと思ったんですけど……」
「そうやな。つま先鍛えるにはかかと上げがおすすめやで。同時にふくらはぎも鍛えられるしな」
練習中、疑問に思ったことを聞くと、答えが返ってきます。
やはりジェット走法の生みの親に色々聞けるのはとても効率的です。
「それに足首も大事や。そんで走る時はつま先で地面を掴んで、土を後ろに蹴とばす感覚で走るのがええで。
足を延ばす時は……」
私の質問から派生して、走り方のコツのようなものをスパさんが話し始めます。しかしそのタイミングで、
「ん、んん!」
トレーナーさんが大きく咳ばらいをしました。
「あー……っと、うん、まぁとにかく足首とつま先は大事ってことや。ちゃんと覚えとき」
スパさんはどこか気まずそうに目線を反らしながら、そう言いました。
「は、はい」
スパさんの不自然な会話の切り方に違和感を覚えましたが、反射的にそう返事してしまいます。
「他になんか聞きたいことあるか?」
「えっと……な、なにか走る時のコツってありますか?
私がまだ気づけてないこともあると思うんですけど……」
せっかくスパさんが直接指導してくれているので、図々しいかもしれませんがコツを聞いてみました。
スパさんは練習方法など手取り足取り教えてくれましたし、きっとコツも教えてもらえるはずです。
「うーん……そうやなぁ…………」
しかしスパさんは手を口元に当て、しばしの間考え込みます。
ちら、
そして私の後ろ……トレーナーさん? の方に視線を送った後、こう言います。
「コツっていうと伝えるのが難しいから、ウチからは言えんけど……一番大事な事を教えたる」
「一番大事な事?」
スパさんの挙動を少し不審に思ったものの、一番大事な事というフレーズに意識を持っていかれました。
ジェット走法に一番大事な事、それはいったい……。
「それはやな……度胸や!」
「…………は、はぁ……」
度胸。
スパさんが溜めて言い放った割には期待外れというか、なんというか……とにかく肩透かしを食らったような気持ちになりました。
「度胸っていうと……バランスが崩れそうな状態で歩幅を小さくすることを恐れないってことですか?」
「そうやな」
「けど今の段階でも「ジェット走法」にはだいぶ慣れてきましたし、度胸が一番大事ってことは無いんじゃないですか?」
「ふっふっふっ……今はまだ分からんかもしれんけど、後になれば分かる! それまでの楽しみやな!」
「は、はぁ……」
抽象的なアドバイスに加え、良く分からないスパさんの言い回しに、生返事しかできませんでした。
「一回こういう意味深なアドバイスしてみたかったんよな……」
スパさんは満足そうな顔で頷いています。
……内容にあんまり意味は無くて、ただそれっぽいことを言ってみたかっただけとか……?
意味があるにせよ、後でないと理解できないようなので、今考えてもしょうがなさそうです。
「他になんかあるか?」
「いえ、聞きたいことは全部聞きました」
「そうか。また聞きたいことが出来たら気軽に声かけてや」
「はい! 今日はありがとうございました! 私はもう少し練習してきます!」
「気張りやー!」
私はスパさんにお礼を言った後、再びピットに突っ込むべく床を蹴りました。
(sideスーパーチャージャー)
ノールがピットの方に走り出し、ウチとノールのトレーナーと二人取り残された。
「……あれで良かったんか?」
「あぁ。わざわざすまんな。助かった」
「可愛い後輩のためやから別にええけんど。それに、途中で口を滑らしそうになったしな」
昨日、ノールのトレーナーにジェット走法の練習の仕方を教えて欲しいと、一つ条件付きで頼まれた。
条件とは「ノールが質問してきたときは別だが、ウチから具体的なコツやアドバイスをしないで欲しい」というもの。
親切心からついコツを教えようとしてしまった時、咳払いが無ければそのまま話してしまっていただろう。
それに直接コツを聞かれた時も、返答に困った。技術的な話じゃなくて度胸と言う精神論を話して何とか躱せたけれども。
「……後、本当に具体的なアドバイスはせんでも良かったんか?
なんなら一から十まで全部教えたったほうが、すぐに習得できるやろ」
ノールのトレーナーから言われた「具体的なアドバイスをしない」という約束の真意が気になってそう聞いてみる。
「確かに手取り足取り全てを教えりゃ、フォームの習得は速くなる……が、それだと自分で考える力が付かない」
「自分で考える力、ねぇ……」
「俺のことを意地悪だと思うかもしれねぇが……ノールには自立したウマ娘になって欲しい。
一人で自分の課題を見つけ、解決策を考え、実行できるウマ娘にな」
確かにトレーナーに言われた事をやるだけでなく、自分でもトレーニングメニューを計画することが出来るのは強みになる。
けどなぁ……。
昔、自分のわがままでトレーナーから見放され、自力で練習していた身からすると、一人で試行錯誤する事の辛さは良く知っている。だから具体的なアドバイスをしないという方針には反対したいが……
でもまぁ、ノールは一人きりってわけじゃないしな、トレーナーもおるし。
それに本当に困ってたらそれとなく助言させてもらおか……。
ノールのトレーナーの指導方針には反するが、それぐらいは許してもらおう。
「というかノールにはなんで敬語使わせてるんや? 趣味か?」
「人聞き悪ぃな。タメ口で話せって言ったけどそれでも敬語が良いって言ったんだよ。あいつの意思だ」
「ま、優等生なあの娘らしいなぁ……」
「そういうお前は敬語使わせてるだろ」
「別にため口で話してもらってもええんやけど……敬語の方がなんか敬われてる感覚あるし、先輩扱いされてるみたいで気分ええから、なんも言っとらんだけや」
年上の特権、ってやつやな。
「じゃ、そろそろウチは帰らせてもらうわ」
「おう、今日はありがとな。また呼ぶかもしれんから、その時はよろしく頼む」
「そん時はまた先輩面させてもらおか。それじゃあ……」
そう言って体育館を出ようとしたとき、ふと気になったことが思い浮かぶ。
「あ……最後に一つ聞いてもええか?」
「何だ?」
「なんでノールのトレーナーになったんや? こんな言い方はあれやけど……ノールより優秀なウマ娘はおったやろ?」
ノールは贔屓目無しで見ると、お世辞にも才能溢れるウマ娘とは言えない実力だ。
トレセン学園の中だと、良いとこ「中の上」ぐらいの評価。
まだ担当が決まってないウマ娘の中にも、もっとポテンシャルのあるウマ娘が他にいたはず。
その中からいったいどうしてノールを選んだのだろうか?
その疑問をぶつけてみた。
「……そんなに気になるか? ノールにも聞かれたんだが……」
「そりゃ気になるやろ。なんで自分をスカウトしたのかぐらい聞かんと、納得もできへんし、トレーナーの事なんか信頼できへんで」
ウマ娘とトレーナーの間には信頼が必要不可欠だ。
ウマ娘がトレーナーのことを信頼できていなければ、練習に集中することは出来ない。
逆にトレーナーがウマ娘のことを信頼できていなければ、あれこれ余計なことを口出ししてしまうだろう。
「そんなもんか? いやー、つってもなぁ……」
ノールのトレーナーは困ったように、帽子の位置を直し始める。
なんや、言いたくないことでもあるんかな……?
「別にウチに言いたくないなら言わんでもええで。本当に興味本位で聞いてみただけやからな」
「悪ぃ。説明するにはちょっと恥ずかしい話でよ……」
恥ずかしい話。それを聞くと、ますます内容を聞いてみたい衝動に駆られたが、ここで無理矢理聞くのは野暮だろう。代わりに別の質問を。
「それ、ノールに聞かれた時もはぐらかしたんか?」
「いや……それだと不信に思われそうだったから、適当な理由をでっち上げた。
納得してくれていたから大丈夫だとは思うがな」
「ふーん……? それって今は影響ないかもしれんけど、その嘘が後々とんでもない誤解を生むかもしれんやんか。
早いうちに本当の事を伝えた方がええんやないか?」
余計なお世話かもしれないが、一応そう言っておいた。
「あー……ま、大丈夫だろ」
しかしノールのトレーナーは楽観的な様子。
ほんまに大丈夫かいな……。
「それに本当の事を伝えても、それはそれで頼りないと思われて不信感を買うかもしれねぇんだよな……。
だから今のところはまだ話さなくていいだろ」
「……ま、そこら辺はあんたの匙加減やから、これ以上はなんも言わんけど……。
聞きたいことも聞けたし、今度こそウチは帰るわ。さいなら」
「またな」
いまだにピットに飛び込んでいるノールとそのトレーナーを背に、ウチは体育館を後にした。
ジェット走法のイメージと一般的な走法との比較。
【挿絵表示】
アプリでウマ娘が走ってる所を改めて見ると、みんな結構前傾姿勢だったからそれよりさらに倒すとありえんぐらい前傾姿勢になりました。
こんなんで走れるのかよ……。ま、小説なんで実際の動きなんて気にしなくても良いでしょう。