剥ぎ取られた心
木ノ葉襲撃から数日。
未だ傷の言えぬ木ノ葉隠れの里に、雲隠れの里から雷影の使者が現れた。
彼らは怒りや怨みを纏ったままこう言った。
『うちはサスケの情報をよこせ』
と。
理由はこうだった。
『木ノ葉の抜け忍、うちはサスケが暁に組みし、自分たちの師である八尾を殺した』
そして彼らはこうも告げた。
『うちはサスケは国際的な犯罪者となった。いずれかの忍によって始末されるだろう』
と。
サスケの“親友”として、ナルトはその阻止に動いた。
彼が考えたのは、五影会談の招集を要請し、サスケ抹殺のために中心となって動き出した雷影に会って、直に抹殺の中止を訴えることだった。
カカシは背中を押してくれた。ヤマトも一緒に来てくれた。
二人が止めなかったのはナルトにとって意外だった。
暁はもはや、国際的なテロ組織と見なされている。その組織の一員となったサスケに、雷影は弟を殺された……。
それが真実であるなら、いち忍に過ぎない自分がサスケの助命を訴えたところで許されるとは考えられなかった。
頭の隅ではわかってる。が、動かざるを得なかったのだ。
案の定、ナルトの嘆願は『若さゆえの甘さ』と一蹴されて終わった。雷影に容赦はなかった。
無駄とはわかっていたが、かすかな望みを信じてでも行動せずにいられなかったナルトは、少なからず落ち込んだ。心に影が入り込み、追いかけ続けてきたサスケの姿を見失いかけていた。
そんな時だった。
彼の前に暁の衣を着て妖しげな仮面を付けた男が姿を現した。サスケ捜索中に一度会った男だ。イタチとサスケの戦いのことを知っていて、ナナの名も口にしていた謎の男……。
男はカカシの予測通り、自身が『うちはマダラ』であるとはっきり名乗った。
マダラはイタチとサスケの間に何があったのかを語った。サスケがイタチを倒したことと、そして……“イタチの真実”を。
マダラの話すことのひとつひとつが、すんなりと脳に入らずいちいちフィルターに引っかかった。とても受け入れがたいものだったからだ。
が、全てを受け入れることを拒んでいても、イタチの眼と、サスケの眼、そして、ナナの涙が瞼に鮮明に浮かんで来る。
「そんなの、う、うそだろ……」
マダラはあからさまに動揺するナルトと、それを隠すも、より険しい表情になったカカシとヤマトを見回して言った。
「信じるも信じないもお前たちの勝手だ。が、サスケが真の復讐者となったことは理解できるはずだ」
ナルトはついに言葉を失った。カカシはマダラに向けて準備していた雷切を解き、低い声で問う。
「それを……」
残酷な答えが待っている予感は漂っていた。
「ナナも知っているんだな?」
が、確かめざるを得なかった。
「ああ、知っている」
マダラはあっさりと言った。
「ナナは二人の戦いを全て見ていたし、サスケとともに“イタチの真実”を聞いた」
「そ、そんなっ……」
ナルトの耳奥に、
『どうして、まだ『信じる』ことができるの?』
あのナナの声が蘇った。
『どうやったら……コレを抱えて……生きて……いける……の……?』
ソレの本当の意味が今更わかって、ナナがどれほど深い悲しみと絶望に沈められているか知った。
「誰からも愛されず、望まれない生を受けたナナにとって、イタチは“全て”だった……。ナルト、お前ならわかるだろう?」
マダラの問いに、ナルトはうつむいた。
言われなくてもわかっている。たったひとり……自分を“見て”、認めてくれた存在の大切さを。誰かとの繋がりを。かけがえのない“愛”の大きさを。
「ナナってば……イタチのことを……」
「愛し、信じ、頼り、そして身も心も守られてきた」
マダラは言葉を繋げた。
「イタチもまた、過酷な運命の中でナナへの愛を手放さなかった」
それはあまりに残酷な言葉だった。
「ナナは最期までイタチを信じた」
ナルトも、カカシも……知らないナナの一面を突き付けられ、戸惑う。
「イタチは最期までナナを守った」
それは知らなかったことへの悔恨でもあった。
「それゆえに、真実を知ったナナの絶望は誰よりも深い」
雪が、屋根に空いた穴からはらはら舞い落ちてきた。まるでナナのように、白く……冷たく……儚なかった。
「だからナナは、サスケと共には行かなかったのだ」
マダラは少し首を動かし、カカシを見た。
「ナナにはサスケのような復讐心はない」
そしてナルトを見た。
「あるのは深い絶望だけだ」
絶望……それは現在と未来をあきらめること……。
「怒りも憎悪も、もうナナは感じない」
「で、でも……っ……」
そう認めてしまえば、ナナとの“未来”は無い。
「ナナは木ノ葉を護るために戦った!!」
ナルトはそれが千切りとられないように、マダラに向かって再び叫んだ。
「絶望に飲み込まれたヤツが、みんなを護るために命を懸けて戦えるか!!」
「それは“護る”のとは違うな」
が、枯れた言葉に潰される。
「そう見えたか? ナナが自分の意志で、周りへの“愛”がゆえに護っているように見えたのか?」
「え……?」
否定する言葉を失ったのは、気づいていたから……。
「ナナが今、木ノ葉で何を想うか……お前たちにわかるまい」
面の奥で、マダラは冷ややかに笑った。
「全てを剥ぎ取られたナナの望みを考えるがいい……」
その言葉に誘われたかのように、視界に闇がかかっていくのを感じていた。
最終章開幕~