木ノ葉から伸びる道からは逸れたが、時おり商人や旅人とすれ違った。
サスケの左側で軽やかに歩を進めていたナナが、首をかしげる。
「こんなに人通りのあるところを歩いてて大丈夫?」
サスケは落ち着き払って答えた。
「逆に、忍はこんなところを歩かないからな」
ナナはすぐに納得する。
「ああ、そっか。忍の世界じゃ有名人だもんね、サスケ」
「それはお前もだろ」
「あはは、そうかもね」
サスケはチラリとナナを見た。
「それに、もう少し行けば林業の作業員しか入らない道に入る。今は木材の伐採が禁止されている期間だから、そいつらと出くわすこともないだろう」
「禁止期間なの?」
「ああ、木ノ葉隠れの里の再建ラッシュで、木材をギリギリまで採りきったらしい」
「そんなこと、いつの間に調べてたの?」
「いや……カカシに聞いた」
ふーん、とうなずくナナは、どこか嬉しそうだった。
やがて、二人はサスケが話していた林道に入った。
まだ二人並んで歩けるほどの道幅はあったが、もうすれ違う者は無かった。
ナナの足取りはますます軽やかで、吹き付ける寒風にもかまわず、なかばサスケよりも先にたって歩いていた。
「ナナ、楽しそうだな」
思わず……サスケはそう話しかけた。
「あたりまえでしょう?」
ナナは立ち止まらずに振り返る。
「だって、これからずーっとサスケと一緒に居られるんだから」
さらりと出された言葉に、サスケは照れるでもなく苦笑する。
「そんなに嬉しいのか?」
「うん、嬉しい」
ナナはあっさりうなずいて、だがこう皮肉った。
「でも、まだ実感が無いかな」
離れていた時間の“重さ”をサスケに突き付けて、やり込めたという顔をする。
「そうだな……」
サスケも、素直に同意した。
ナナは笑って、歩みを緩める。
二人の肩が、また並んだ。
「本当に……」
マントが触れ合う布ずれの音に紛れて、サスケは言った。
「後悔していないのか……?」
もちろん彼は、ナナが一度決意したことに対して後悔などしないということを良く知っている。
だがそれでも……体中を覆う罪悪感が、その問いを出させた。
「まさか!」
ナナは大人びた目つきでサスケを見上げた。
「後悔なんてするわけないでしょう? だいたい、サスケが『決める』前に、私はとっくに『決めてた』んだから!」
それに関して、サスケは何も言い返せなかった。
ナナはあの時、「サスケの言葉が予想外でびっくりした」……と泣いたが、サスケのほうもナナの決断に驚いていた。
自分より他者を、私より公を重んじるナナが……サスケが初めて意志を伝えた途端に自分との道を選んだのだ。
誰に相談することもなく……。
「ナナ……」
「なに?」
サスケは、あの時ほんの少しだけ感じてそのままにしておいた“違和感”をナナに問う。
「お前……あの時オレと話す前に、サクラとシカマルと、我愛羅に伝えたって言ってたな」
「そうだよ」
「サクラはわかる……が、何故シカマルと我愛羅なんだ?」
「……ああ……!」
ナナは、サスケの問いの意味を知って納得したように声をあげ、すぐに答えを示した。
「二人は……私を想ってくれてたから」
その目は先ほどよりも、優しい眼差しになっていた。
「そのうちちゃんと話すけど、今はこれだけ言っておくね」
二人は同時に立ち止まった。
「戦場で、“私の始末”を最初にお願いしたのは……シカマルなの」
サスケは黙って、ナナの言葉を聞いた。
「それと……もし砂隠れの里が暁に襲われた時に“勝てて”いたら、私はいろんなものから逃げて……ただ我愛羅に守られて生きていたかもしれない」
寸刻の沈黙。
ナナの実直な想いをサスケは受け止め、サスケの複雑な心境をナナが受けとめた。
「そうか……」
ナナの至極簡潔な説明で、彼女と彼らの想いを全て飲み込んだサスケは、小さくうなずいた。
それ以上、問うことなど無かった。
「アイツの言っていた本当の意味がわかった」
再び歩き出そうとしたナナの足が止まる。
「アイツって?」
「我愛羅だ」
「我愛羅がどうしたの?」
「五影会談の後、アイツがひとりで現れて……少し話をした」
「え? そうだったの? 我愛羅はなんにも言ってなかったけど……」
ナナは真剣な眼差しをサスケに向けた。
「何を話したの?」
「『二度と、お前の大切なものから眼を逸らすな』……と、約束させられた」
わざわざ自分のところまで来て、それを約束させた我愛羅の想いを完全に理解しながら、サスケは呟くように言った。
「アイツの言う『大切なもの』は……お前のことだったんだな」
ナナはゆっくりと瞬きをして、フッと笑った。
そして、深まる罪悪感と、増す愛情と、少しの嫉妬に揺れるサスケを促す。
「行こう、サスケ」
先へ……。
「こんなふうに、これからは辛かったことも、嬉しかったことも、二人で話そうね」
「ナナ……」
再び、二人は肩を並べて歩き出す。
「ちゃんと、話そうね」
「今までのように、ひとりで抱え込まず」……と、ナナは眼で言った。
「ああ、そうだな……」
「一緒なら、“大丈夫”だよね」
二人の視線が程よく絡む。
「痛みは消えないかもしれないが……和らげることはできるはずだ」
サスケのその言葉に、ナナは心底嬉しそうに笑った。
「一緒にいられるんだもんね」
「ずっとな」
正面から突風が吹き付けた。
今度は二人同時に髪を直す。
今、もしサスケに左腕が存在していたら、二人の身体は触れていただろう。が、布が柔くこすれ合うだけだった。
「やっぱり風が冷たいね。ねぇサスケ、これからどんどん寒くなるのに、どうしてわざわざ北に向かうの?」
「目的がある」
「その目的はいつ教えてくれるの?」
「向こうに着いたらな」
「向こうってどこ?」
「北の方だ」
「ふーん」
サスケの曖昧な答えをさして気にも止めず、ナナはあっけらかんと言った。
「べつにいいけど。しばらくはサスケについて行くだけだから。私はサスケの『監視役』だもんね」
「ああ、そうだな」
サスケは苦笑しつつ、ふいにこう言った。
「ナナ、右側を歩け」
当然、ナナは聞き返す?
「え? なんで?」
「そっちの方が都合がいい」
「どういう意味?」
「いいから、右に移動しろ……ほら」
「だって、いつ敵が来るかもわからないんだし、一応サスケの左側を私がカバーしたほうが良いに決まってるじゃない」
ナナの言い分は正論だ。
だが、サスケは頑なだった。
無理やり、ナナの後ろに回り込もうとする。
「いいから」
「もう……! なんで?」
とうとう、いぶかしがるナナの左側に強引に割り込んだ。
「サ、サスケ?」
そして、唐突に右手でナナの左手を掴む。
「え……?」
サスケはしっかりと、その手を握った。
「たまには……こうして歩いてもいいだろう……」
止まりかけたナナの足が、引っ張られてやっと動く。
「サスケ……」
かすかにつぶやくナナの顔を見たサスケは、慌てて前方に視線を戻す。
「い、今さらそんな顔をするな……!」
「サ、サスケだって照れてるじゃない……!」
少しの間、枯れ草を踏みしめる音だけがした。
そして、互いに赤らんだ顔を見て……笑い合った。
「たまにはいいよね」
「たまにはな」
サスケが手を握り直すと、ナナは少し歩を速めて距離を縮めた。
確かに互いの体温を感じ合う。
この手はもう二度と……離れることはない。
そう確信した二人を祝福するように、空から風花が舞い降り始めた。
<完>
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