「これから九尾のコントロールをやるぞ! 今からオレがお前の師匠♪ 覚悟を決めろ、でないと死傷♪」
己の闇を克服したナルトに、ビーが軽快にそう言った。
そしてナルトを伴い、“真実の滝”の向こう側へと進む。
「ナナ、君も行くのかい?」
一緒に歩き出したナナに、ヤマトはその意思を確かめた。
ナナはすでに滝の向こうに消えたナルトの背を見つめながら、蒼白の顔のまま、少し笑って頷いた。
滝の向こうは広大な洞窟になっていた。
通路の両側には石の彫刻が並び、壁には荘厳な壁画が描かれている。まるで遺跡のような場所であった。
ビーは、ここは昔から人柱力に選ばれた者が禊を行う神聖な場所だと説明した。そして、ここで尾獣と対話するのだ……と。
その意味を理解できぬうち、ビーはひとつの扉の前で立ち止まり、皆を促した。
中は不思議な“空間”だった。
「この中で目を閉じて精神を集中させる。そうすれば尾獣と会うことができる」
「滝のときと同じ感じだってばよ」
人柱力の二人は、どことなく二人だけでわかっているような雰囲気だった。
「ナルト、お前の封印式はどんなのだ?」
「四象封印です」
ナルトの代わりにヤマトが答えた。
里の最重要機密である。ナルト本人さえも詳しくは知らないだろう。が、今この場で伏せていてもすでに意味はなかった。
「鍵は持ってるのか?」
「うん!」
鍵のことはナルト自身もわかっているようだ。
そして、その返答はヤマトの予感も当たったことを意味した。
「やはり、封印を解くんですね?」
「ああ、そうだ」
「もし、コントロールに失敗して九尾が復活したらどうするんです?!」
焦りというよりも警告だった。
「その場合は、この部屋に閉じ込めて封印する。ナルトごとな」
ビーの声色が明らかに変わった。
「ここはそういう場所だ」
一瞬の沈黙。
それをビーがいつもの調子で破った。
「新たな人柱力を連れて来るまで九尾はここに封印。お前らそれにブーイング?♪」
調子は崩された。
「しかし……」
だが、懸念事項は全て払っておきたかった。
木ノ葉のためじゃなく、ナルトを想う者たちのためにも。
が。
「先に、言っておきたいことがあります」
今まで黙っていたナナが初めて口を開いた。
「刻印を失っていても……私の“存在”は、まだナルトの封印と繋がっています」
躊躇いがちに、だが言葉尻ははっきりと。
「え……」
三人の中で、ヤマトだけが怪訝な顔をしていた。
「ナルトの封印が解ければ、私の“役目”が発動するように組み込まれてるんです」
だからナナは、ヤマトに視線を合わせて告げる。
「そして……ナルトが失敗すれば九尾は私に“乗り移る”……」
が、今度はビーまでもがサングラスを光らせた。
「“封印する”じゃなくて、“乗り移る”?」
「それが、君の“役目”だっていうのかい?」
ナナは一度ナルトを見た。
そして、問いかけには答えず、こう言った。
「もしそうなったら、“私”が最初の瞬きをする前に、殺してください」
皮肉にも、これがナナから発せられた最も力強い言葉だった。
ヤマトは三人を見回した。ビーもナナとナルトを見ていた。
二人はしっかりと見つめ合っている。運命をともにする者同士しか交わせない視線だった。
「そうはならねーってばよ!」
ナルトがまっすぐにナナを見て、力強くそう言った。
ナナはかすかに笑んで、うなずいた。
それを見て、ビーが威勢よく言う。
「オッケーそれじゃあ始めるぜ♪」
ビートナルトが向かい合って座った。
ナナはそっと寄り添うようにナルトの隣に腰を下ろす。
「精神の中で九尾とあいさつしたら、まず封印を解け」
ビーとナルトが互いの拳を合わせ、瞑想を始めた。二人の精神の中で、九尾の封印解除が始まったのだろう。
ヤマトは緊張感を振り払うように、ひとつ息をついた。
と、ナナは意識を失ったようにナルトの肩にもたれかかった。
伸ばしかけた手を辛うじて押しとどめた。
これから始まるのは、“尾獣の器となる者”にしかわかり得ない、精神世界の戦いだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ナルトが封印を解いて九尾が飛び出しても、ナナはまだ、檻の中で立ち尽くしていた。
相変わらず、足はその場に張り付いてピクリとも動かない。
八尾の援護を得てナルトが九尾と戦っているのは見えていた。
が、やはり声は出なかった。
まるで、檻の柵の一部と化したように、ただじっと、そこに佇んでいた。
九尾の強さは、初めて目の当たりにした。
膨大なチャクラを纏い、強大な体を俊敏に動かす、まさに人の理解を超えた生き物だった。
それを相手に、ナルトは仙人モード、影分身、螺旋丸で対抗する。
その戦いは熾烈を極めた。
ナナの足元は、地上であればとっくに地が裂けているほどに大きく揺れ、膝まであった水は足首まで引いていた。
ふと、ナナは戦いから目を逸らし、足もとを見た。
白い袴の裾……そこから延びた足首に巻きつく“枷”に、今更ながら気がついた。
おぞましい鎖だった。
形を成さぬものが、無理に鎖としての役割をさせられているように、常に蠢き、それでも残酷にナナに絡みつく。
金属音はなかった。ただ、その物体が出す気泡がボコボコと音を立てていた。
それは、呪いのように、黒よりも暗い色をしていた。
その鎖の先がどこに繋がれているのか、見なくてもわかった。
が、ナナはあえてそれを辿る。
鎖は浅くなった水底を這うようにして伸び、九尾の尾へと繋がっていた。
「九尾……」
やっとわかった気がして、ナナは声にならない呟きを零した。
「アレは……わたし……?」
向こうでは、九尾のチャクラとナルトのチャクラの引き合いが始まっていた。
そこで漏れ出た、九尾の
『憎い……!!』
『苦しい……!!』
ナルトの勢いが弱まった。
だが、ナナは何も感じていなかった。
『殺してやりたい……!!』
ナルトは明らかに“それ”に侵され、その場に膝をつく。光を失い始めた彼を見て、ナナは目を閉じた。
一瞬の暗闇。そして再び目を開くと、目の前に“ナルトが見ているモノ”があった。
『何もかもイヤだ!』
『復讐してやる!!』
ナルトの心の揺れが伝わってきた。ナルトの意識と完全に同調したのだ。
だが……、ナナの
ナルトの
何故なら……。
『何故自分を産んだ?!』
『こんなチカラいらいない……!!』
九尾の憎しみが、ナナのそれと同じ深さ、同じ色、同じ濃さをしていたから。
『消えてしまえ!』
『お前なんか誰も認めやしない!!』
折れそうになるナルトの意志を感じながらも、ナナはただ傍観していた。
実際、どうすることもできなかった。
九尾の憎しみに抗う術などない。それは自身の
だが、
『いいえ』
突然どこからか優しい声がして、ナルトが顔を上げた。
『ここに居ていいのよ』
彼の目の前に、赤い髪を長く垂らした女が立っていた。