九尾の説明に移ると、ナナはようやく泣きやんでナルトの傍らに立った。
目は真っ赤に充血し、頬は透けるように青白かった。
が、その眼はまるで親鳥に命を預ける雛のように、しっかりとナルトを見つめていた。
「九尾のチャクラは、オレの中のちゃんととってある。“別の場所”にあって、いつも使ってるわけじゃねぇ……」
ナルトはそう言って、容易に九尾のチャクラを引っ張り出した。
「使った時の感じはこうだってばよ」
そのチャクラは生命力に満ち、ヤマトが木遁で出した木の柱が芽吹くほどだった。
と突然、
「それで隠れてるつもりかよ!」
ナルトがビーの背後を睨みつけた。
ヤマトも素早くその方向を向く。
が、誰も居ない。
「チャクラじゃない……! もやもやした嫌な感じがする!」
ナルトはそう言って、ビーが背負う刀……鬼鮫から奪った『鮫肌』を指さした。
瞬間、刀は意思を持った生き物のようにビーの背中から飛び出て、すぐに形を変えた。
多足の虫のような形へ……、そしてすぐ“顔”が浮き出た。
「これが、九尾のチャクラをコントロ-ルした人柱力の力というわけですか」
それは、
「お前は暁の鮫ヤロー!!」
「なぜだ? あの時こいつの首は刎ねたはずだ♪」
ナルトとビーが、そしてナナも見知った顔だった。
「あ、おい!!」
その男……干柿鬼鮫は状況的に不利と悟ったのか、すぐに脱出を選択した。
彼は奥深く護られたはずのこの場所で、容易に扉を開ける。
「扉の開け方を知っているのか!?」
ビーすら戸惑いを見せる中、
「愚問ですね。私はスパイとしてここにいるんですよ」
鬼鮫はそう言いながら、自ら開いた扉へと向かった。
その時、ビーとヤマト、そしてナナの横に閃光が煌いた。同時に鬼鮫が取り付いた壁が音を立てて割れていた。
「瞬身の術……?」
「閃光走っていきなり先攻♪」
光の正体はナルトだった。
今まで彼らの側にいたはずのナルトが、一瞬にして扉を出ようとした鬼鮫に体当たりをかましていた。
「これじゃまるで……黄色い閃光!!♪」
ビーがそう言った。
黄色い閃光……。木ノ葉の忍でなくても知っているその通り名は、まさしく四代目火影のもの……。
「くっ……」
鬼鮫は血を吐きながら、なおも逃亡をはかる。が、依然としてナルトの射程距離内だった。
ところが、
「うわっ! 足がっ!!」
ナルトの足は勢いのまま壁に埋め込まれ、身動きができなくなっていた。
「突っ込みすぎたァ!!」
「さすがにまだ四代目のようにはいかないみたいだね……」
すぐさま、ヤマトが救助に向い、ビーは鬼鮫が追った。
そしてナナは……。
「ナナ?!」
ナルトとヤマトの前を通り過ぎ、ナナはビーとともに鬼鮫に向かって行った。
去り際に見えたナナの横顔に、強い意志のようなものを感じた。
その頃、『真実の滝』の前にはガイ、アオバ、モトイが立っていた。
ナルトの修行のことを聞きつけてやってきた彼らだったが、突如としているはずのない“敵”と遭遇することとなる。
それはまさに、ナルトが居た場所から脱出してきた干柿鬼鮫だった。
「うぉぉぉ!」
ガイの最初の一撃で、鬼鮫は滝の岸壁に埋まった。
すぐにビーとナナが追い付き、鬼鮫が暁のスパイであることを知らせる。
と、鬼鮫の身体と一体化していた“鮫肌”が、鬼鮫の身体を離れてビーに迫った。
それで鬼鮫の姿がはっきりと表れ、アオバもその正体に気づく。
「こいつは確か、イタチと組んでいた暁の鮫男……」
その言葉に、ナナの肩がピクンと震えた。
が、事態はお構いなしに進行していく。
鬼鮫は水中に入り、鮫肌を通してビーのチャクラを奪っていた。さらに、アオバの術からも逆にチャクラを吸い取り、次のガイの攻撃を受け止めるほどに回復をしていた。
そして体術で攻撃されたのを良いことに、ガイの身体を掴んだままチャクラを吸収した。
「ぐっ……力がっ……!!」
鬼鮫はそのまま水遁でガイを遠ざけ、海の中の鮫のようなスピードで水中から逃亡した。
「島の結界の外へ出したら終わりだ! 感知ができなくなる!!」
モトイの声に最初に反応したのはガイだった。
が、船酔いの体調不良が治りきっておらず、さらにチャクラが吸い取られた状態で、動きは普段通りとはいかなかった。
その隙をつくように、細い影が彼らの間をすり抜ける。
「なにっ?!」
それは、まだ瞼を腫らしたままのナナだった。
「私が行きます」
走りながらそう言った。
「ナナ?!!」
誰も止める間もなく、ナナの背は森の中に溶け込んだ。
「ナナはまだ、木ノ葉襲撃の一件から回復してないんじゃ……?!」
アオバがガイを振り返る。もちろん、それはガイも重々承知だった。
が、
「ああ、そのはずだ……!」
そう言いつつも、ガイは走り去ったナナの横顔がこれまでと大きく変わっていたことを見逃さなかった。
あの瞳から、今までの「仕方なく生きている」のではなく、ようやく自らの意思を持って生きていると感じ取れた。
それがどんなものなのか、彼にはわからなかった。
意思を持った表情……といっても、お世辞にも生き生きとした表情であるとはいえない。その頬は未だ絶望に染まり、腫れた瞼は悲哀をかもしだしていた。
それでも、抜け殻の状態よりは救われた。
ナナ自身ではなく、周りを取り巻く彼らの方が救われた気分だった。
そんな思いで、ガイはナナが去った方角をみやった。
上空に白い鳥が現れた。
それがナナの仕業によるものだということが、ガイにはすぐにわかった。
「とにかく追いかけよう!!」
膨大なチャクラを取られて動けなくなっているビーを残し、ガイとモトイはナナを追った。
アオバはヤマトとナルトに知らせるため、逆方向に走った。
この時点では、ナナがひとりで鬼鮫と戦うなど、誰も思ってはいなかった。