ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

17 / 102
共食い

 

 森の向こうで爆音がした。

 木々の上空には蒼い煙が立ち上り、巨大な雲をつくった。

 衝撃は、彼らの所まで走っていた。

 

「うっ、うわぁっ!!!?」

 

 瞬身の術を使った影響で足をひねっていたナルトは、バランスを保てず尻もちをついた。

 

「なんだ?! 今の光は……!」

 

 ヤマトでさえも、飛んで来る枝や石の勢いに押されて立ち止まり、たまらず顔を覆った。

 

「ナナだ……!!!」

 

 立ち上がりながら、ナルトが言った。

 

「あの光はナナの光だってばよ!!」

 

 確信を持ってそう言い切った。

 その時、堪えきれずに根元から倒れた大木の向こうに、ガイの姿が見えた。

 

「ガイさんっ!? ナナは?!」

 

 ヤマトはすぐに声を掛ける。

 いの一番に鬼鮫とナナを追ったはずのガイが、未だ戦闘に加わらず、ここに居ることが不自然だった。

 ガイは木片を避けながら振り返った。そして、黙って前方に手をかざした。

 

「なんなんだってばよ?!」

 

 ナルトたちが見守る中、ガイの手はバチッと音を立てて“見えない壁”に弾かれる。

 

「こ、これは……」

「結界だ♪!」

 

 ビーが言った。

 

「和泉の姫の結界だ♪!!」

 

 

 

 やがて……空に浮かんだ雲が霧になって消えた時、彼らはようやくその先に進むことを許された。

 術が解けた……つまり、術者が破れた……。

 誰もがその方程式を知っていたから、必死で爆発の中心へ向かった。

 森を抜け、水辺に出た彼らは、一様に足を止める。

 水面に静かに佇んでいたのはナナだった。その足もとには、鬼鮫の巨体がぷかりぷかりと浮かんでいる。

 水面はまだ激しく波打っていたが、二人の周りだけは不思議としんと静まり返っていた。

 ナナは片手に巻物を持って、ちゃんと立っていた。

 辺り一面を揺るがすほどの衝撃を放つ戦いをしておきながら、ナナの顔には擦り傷ひとつなかった。それどころか、身体は少しも濡れていない。

 

「ナナ……!!」

 

 ガイは水上を駆け、ナナの元へ向かった。

 声をかけても、ナナは静かに鬼鮫を見下ろしたままでいる。

 同じように彼も鬼鮫を見下ろすと、鬼鮫は白目を剥き完全に意識を失っていた。

 

「殺してはいません」

 

 ナナが淡々とそう言った。

 

「でも少しやりすぎちゃって……これじゃ尋問に答えられないですね……」

 

 言いながら差し出された巻物を受け取って、ガイは言った。

 

「問題ない。アオバは脳内の記憶を読み取る能力を持っている」

 

 と、ナナは初めてガイを見上げ、薄く笑った。

 

「……よかった」

 

 眼の奥が妖しく光ったように思えた。

 が、ガイは不審な顔を引っ込めて、ナナの肩に手を置く。

 

「よくやったな、ナナ!!」

 

 その身体は恐ろしく冷たい。

 動揺を引っ込めて、ガイが鬼鮫を担いで陸地に上がると、

 

「ナナ! お前、コイツをひとりでやっつけたのか?!!」

 

 ナルトがナナのもとへ駆けて来た。

 

「ナルト……」

 

 ナナは息を吐いて、ナルトにもたれかかった。

 

「ナナ! 怪我してんのか?!!」

 

 慌てて確かめるナルトに、ナナは首を振った。

 

「少し疲れただけ……」

 

 木遁で鬼鮫を拘束したヤマトも、ナナの様子をうかがう。

 

「ナナ、大丈夫かい? だいぶ無理したんだろう……?」

 

 ナナはゆっくりと彼を見上げた。

 

「鬼鮫を外に出さないためだったとしても、援護を待たずにひとりで決着をつけるなんて無茶だったんじゃ……」

 

 誰もが同じ事を思い、ナナの言葉を待つ。

 

「でも、ちゃんと勝ったでしょう?」

 

 ナナは少し笑った。

 

「慣れない術の使い方をしたから、ちょっとバテちゃったけど……」

 

 そして肩をすくめ、ナルトを見つめた。

 

「ね、ナルト。私、ちゃんとお仕事したでしょう?」

「ああ、さすがナナだってばよ!」

 

 納得のいかない表情をしたままの大人たちを横目に、ナルトは大きな声で言った。

 

「ナナってば、いっつも知らねぇ間に強くなってんだもんな!」

 

 最もナナを気遣うはずのナルトがそう言ったことで、ヤマトらもそれ以上何も言えなかった。

 おそらく、ナルトも彼らと同じ言葉をナナにぶつけたいのだろう。

 何故ひとりで危険を犯したのか……。

 そう追及したいに決まっている。

 が、ナルトは何も言わなかった。だから、ヤマトたちもあえて口をつぐんだ。

 やるべきことはまだある。

 ナナが全力を出し切って倒した鬼鮫から、情報を搾取しなければならなかった。

 

「では始めます……!」

 

 ここで進み出たのは山城アオバである。

 彼の能力は、敵の脳内に入りこみ思考を読み取ることだった。

 

「イノイチさんほどではありませんが、必ず情報を抜きとってみせます!」

 

 鬼鮫の思考を覗くことができれば、暁の作戦や情報を知ることができるはずだ。

 誰もが期待を込めてアオバを見つめる中、彼は片手を鬼鮫の額に、もう一方を己の額に置いて術を発動させる。

 しばし沈黙が流れた。

 普段からおとなしいとはいえないナルトとビーも、黙ってアオバの背を見つめていた。

 が、思わぬ結末が訪れる。

 意識を失い、ヤマトの木遁で身動きを失っていたはずの鬼鮫が、突如目を開いたのだ。

 それは己の舌を噛み切るという、最後の手段だった。

 

「こいつっ、情報を取らせまいと自力で舌をっ!!」

 

 鬼鮫は血を吐き出しながら笑い、雄たけびとともに身体を抑えていた木を破壊した。

 

「ウオオオオ!!!」

 

 ただの木ではない。これはヤマトの術であり、鬼鮫のチャクラを完全に抑え込んでいるはずだった。

 が、鬼鮫はそれすら撥ね退けて、勢いのままに破片をまき散らす。

 その風圧が、アオバはもちろん見守っていた全員に襲い掛かった。

 当然、消耗の激しいナナの身体が吹っ飛んだ。

 

「ナナっ!!」

 

 受け身をとる力すら残っていそうにないナナを、ヤマトがかろうじて抱き留めた。

 

「往生際の悪いやつめ!!」

 

 ガイが向かって行った。

 だが、一瞬早く鬼鮫が術を繰り出す。彼が得意とする『水牢の術』だった。

 水の牢はガイではなく、鬼鮫自身を護るように囲った。さらに鬼鮫は、口寄せで牢内に数匹の鮫を呼び出す。

 彼の巨体を上回る大きさの鮫だった。

 

「いくら暁の忍でも、この状況では何もできない!」

 

 ヤマトが言ったとおり、自身が生んだ水の中で鬼鮫はゴホゴホとせき込んでいた。

 

「ボクが捕らえます……!!!」

 

 ヤマトが再び木遁を発動させた。

 その時、傍らでナナが叫んだ。

 

「待って……!!!」

 

 ヤマトに……ではなく、『鬼鮫に』だった。

 

「待って! まだっ……!!!」

 

 ナナの悲痛が再び悲痛に叫んだ瞬間、彼らは信じられない光景を目にした。

 水中の鮫が、術師である()()()喰らいついたのである。

 

「じっ、自分に……?!」

 

 ガイさえもその場に突っ立ったままそれを見届けていた。

 鬼鮫の肉体が鮫の牙に食いちぎられる音。骨が噛み砕かれる音。そして、水に滲む血潮……。

 

 やがて鬼鮫が死すと、水牢は解けて赤く濁った水たまりになった。

 鮫たちも、ボンっと音を立てて消えた。

 

「自分の口寄せした鮫に己の身を食わせるとは……」

 

 ガイが低く呟いた。

 これが、『霧隠れの怪人』と恐れられた男の最期だった。

 ヤマトは傍らで膝をつくナナを見下ろした。

 さっき言いかけたのは、どういう意味だったのか……。

 

『待って! まだっ……!!!』

 

 ただ単に暁の情報を聞き出せていないから……というのにしては、今の苦悩の表情と釣り合わない気がしていた。

 

「ナナ、大丈夫かい?」

 

 あえて何も言わずにそう尋ねる。

 と、ナナは絶望したように、深いため息をついた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。