開戦
「わーわー! ちょっ、ナナ! ナナ!!」
休んでいたナナを抱きかかえた瞬間、なんと島の天地がひっくり返った。
ナナをかばいながらも動物たちと共に地面に倒れたナルトは、外を見に行くと騒ぎたてる。
が、ヤマトとアオバがうまくなだめ、ナルトは生態調査の任務を続行することとなった。
ナナはまだ疲れた顔をしていたが、鋭い目でヤマトと視線を合わせた。
ヤマトは秘かにうなずいて、ナルトに気づかれないようその場を去った。
しばらくして、
ナルトが再び外へ出ると騒ぎ立てるのを、ビーがどうにか別の目的を与えて抑え込んだ時、
「ヤマト隊長は……?」
ナナがそっとアオバに尋ねた。
ナルトの隣では平然としていたが、今は素直に不安を表に出している。
「今、増援隊として来られた土影様と打ち合わせをしている……」
不安げな影を消さぬまま、ナナはとりあえず息をついた。
「暁の襲撃……ですか?」
「ああ、とりあえず追い払ったよ」
ナナは一度、ナルトの方へ視線を送った。ビーと修行するナルトが、こちらを気にする気配はない。
「ここは見つかっちゃったんですよね? どうするんですか?」
「土影様の術で、今、この島は雲隠れに向かって移動中だ」
「今、移動してるんですか?」
「ああ、空を飛んでいる」
「空を……」
島自体を空に“浮かす”という術がどんなものか考えることで、ナナの気は少しまぎれたようだった。
「開戦は近い。雲隠れに到着後、オレたちも本体の方に合流する」
「わかりました」
ナナは急に感情を押し込めて、こくりとうなずく。
アオバの言った「オレたち」に、自分が含まれていないことをナナは知っていた。
「この調子なら、ナルトは修行に夢中で気づかなそうですね」
ナナは九尾チャクラの修行を始めたナルトを向いてそう言う。
「だといいが……」
「あとは、ガイ先生が回復しないと……船酔いも治ってないのに、鮫をやっつけるために八門遁甲なんて使ったから、だいぶヘバっちゃってますね」
「雲隠れで医療班に診てもらうよ」
「そうですね。本隊にはサクラちゃんたちもいるし」
さらに仲間の姿を思い出したのか、ようやくナナは少し笑った。
それを見て、アオバも安堵する。
が、これ以上の情報をナナに伝えるわけにはいかなかった。
ナルトと違って、ナナは聞き分けがいいと思っている。
『ヤマトが攫われた』ことを除いて全て話して聞かせても、ナナは火影の命令を破らず、ナルトの側に居続けるだろう。
が、それだけじゃなかった。
「ナナも護りたい」という火影たちの気持ちを理解していたし、アオバ自身もそう思っていた。
火影のナナへの接し方、カカシの心配そうな目、ヤマトの気遣い……自分が尊敬する忍たちが、そろいもそろってナナに対しての情が深かった。
自身も、ペインの木の葉襲撃で、身を削って里の者たちを護ったナナの姿を目にしている。
ナルトだけじゃない。
ナナも護らねば……。
そう強く思って、アオバは口をつぐんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
また
ナナは彼に伝えられていた情報から、島が雲隠れに着地(到着)したのだと知る。
何も知らないナルトは、九尾チャクラのコントロールの修行を続けていた。
「なぁなぁナナ、今のはおしかったよなー?」
ナルトに修行をつけるビーが、サングラス越しにこちらの表情を伺っているのがわかった。彼にも、モトイからこの情報がこっそり伝わっているはずだった。
「ほんと、おしかったね!」
「すぐクリアしてやるってばよ!」
「ナルト、今までの修行の中で、一番上達が早いんじゃない?」
ビーが課した「修業」とは、九尾のチャクラを具現化して“手”を造り、その“手”でもって瓦礫を積み上げるという単純なものだった。
だが、九尾の力を使いこなすこと自体が簡単にできるものでないことを、ナナはちゃんと知っていた。
「オレってば、とっとと強くなっちまわなきゃいけねーからな!」
快活に笑ったナルトに、一片の曇りもなかった。
ナナもつられて笑う。
強さが、“サスケと戦うため”に必要なのだとしても、ナルトに迷いはなかった。
「ナルト、がんばって」
そのことへの礼も込め、ナナは改めて言った。
「おう、まかせろ!」
ナルトは拳を突き出し、
「ナナはちゃんと休んでろってばよ!」
叫ぶように言って、再び修行を開始した。
ナナは彼に答えるように、ひとつ深く呼吸をした。
『今までの修行の中で、一番上達が早いんじゃない?』
と言ったとおり、ナルトの九尾チャクラコントロール“第一段階”は意外にあっさりと終了した。
螺旋丸の修行の時は、自来也の元で修行するナルトを実際にその目で見ていた。
その後のカカシとヤマトによる風遁の修行は、見てはいないものの、だいたいの時間は知っていた。
だから、こんなにも早くビーの出した“課題”をクリアするのは、意外でもあり、頼もしくもあった。
「ナナ! ナナ! 次は“最終段階”だってばよ!」
ナルトが声を弾ませて駆け寄る。
ナナはその向こう側に立つビーをちらりと見やった。
「オレってば、はやくこの修行をやっつけて、強くなってみせるからな!」
目を輝かせるナルトの後ろで、ビーがニヤリと笑う。
「それじゃあ場所を移動するぞ♪」
「えーまた移動かぁ……なんか面倒くせぇってばよ」
ナルトは口を尖らせたが、すぐに「シカマルみたいなこと言っちまった」と笑ってナナの腕を引っ張った。
「行こうぜ!ナナ」
「うん」
文字通り、疲れが吹き飛ぶようなナルトの笑顔に、ナナも素直にうなずいた。
ビーが案内したのは、八尾の石像が建つ部屋だった。最初に「九尾との対話」をした部屋と造りは似ていた。
その時と同じように、ナルトがスイッチを押すと、重い扉が自動的に開いた。
「ナルト」
が、ナナは開いた扉を見つめたまま、奥へは進まなかった。
「ん? どうしたんだってばよ?」
ナルトもビーも、怪訝な顔で振り返る。
ナナは軽い口調で答えた。
「私、ここで待ってるね」
それを聞き、ナルトはすぐに駆け戻る。
「な、なんでだってばよ?」
「だって、修行の邪魔しちゃ悪いし」
「そんなことねぇって!」
今までだってそんなことはなかった。ナナが見ていてくれて心強かった、と、ナルトは言う。
が、ナナは笑って首を振った。
「結構回復してきたし、私も自分の修行しようかなと思って」
そう言えば、ナルトが納得することを知っていた。
「でも、あんまし無理すんなってばよ」
「わかってる。ナルトもね」
ナナは腰の後ろで手を組んで首を少し傾けた。
「ビーさん、ナルトをよろしくお願いしますね」
ビーがラップで答えると、軽くツッコミを入れつつ、ナルトが去る。
「がんばってね」
扉が音を立てて閉まるまで見守って、ナナはふうっとため息をついた。
太い石柱を背にして、座り込む。
つい先ほどまでは、ナルトの修行を最後まで見守るつもりだった。九尾への責任などではなく、そうすることが自然だった。
が、
「あの……感じ……」
ナナの“血”が、感じてしまった。
ここへの移動の際、久しぶりに流れ込んだ“外の風”を浴びた時、
「魂が……」