ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

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覚悟の色

 

 

『まずは一人目だ……兄さん……ナナ……』

 

 サスケの声がして、目を開けた。

 彼の憎しみに染まった声は、なぜだか心地が良かった。

 

 

 

 

「ナナ……! おいっ、ナナ!!」

 

 何度か肩を揺さぶって、ナナはようやく“現実”に焦点を合わした。

 

「シカ……マル……?」

「ナナ、大丈夫か?!」

 

 木ノ葉病院の仮設小屋を訪れたところ、医療忍者が「ナナが目覚めた」と言って慌ただしく走り回っていたところだった。

 駆けつけると、ナナは布団の上に起き上がり、死人のような表情の無い顔で宙を見つめていた。

 

「ナナ?!」

 

 ナナは虚ろな目でシカマルを見て、そして今度は目を伏せた。

 

「胸……が……イタイ……」

 

 うっ血するような声色に、シカマルは一瞬言葉を失った。

 そこに自ら傷をつけ、おびただしい血を流しながら里を護ったナナの姿が、鮮やかに蘇ったから。

 

「傷が痛むか?」

 

 気休めにもなりはしないと知りつつも、シカマルはナナの背をさすった。

 

「ナナ……お前のおかげで、里が全滅せずにすんだし……みんな生き返った」

 

 そして、見たこととナルトから聞いたことを踏まえて、ナナに言う。

 

「ありがとな」

 

 だが、ナナは弱々しく首を振った。まるで、「そうせざるをえなかった」とでも言うように。

 

「胸が……イタイ……」

 

 そしてか細い声でまた呟いた。

 傷口は、サクラたちが処置をしてとっくに塞がっているはずだった。生き返ったシズネも含めて、ナナの治療は特に慎重に行っていたから、傷の具合は心配いらないと聞いていた。

 だが、ナナは「イタイ」とつぶやきながら、爪が白くなるほど強く胸を抑えている。

 

「ナナ……」

 

 痛みの訳を聞くのは躊躇われた。

 木ノ葉襲撃のずっと前……、ナナがサスケとイタチを止めるために単独で里を出たことを、シカマルも知っていた。

 それが叶わなかったことも。

 ナナにとっての“うちはイタチ”の存在も。

 だから……。

 

「ナナ……」

 

 折れそうな細い手首をとり、しわくちゃの寝間着から引き剥がす。

 思ったほど力はいらなかった。彼の手の中で、ナナの指先は素直に力を失った。

 冷たい皮膚から、ナナの痛みが伝わった。

 ナナは……わかっているのかもしれない。

 そう思った。

 だから、敢えて言う必要ないはずだった。

 この、痛みに抗うことすら止めてしまった傷だらけのナナに、言うべきことではなかった。

 が、

 

「ナナ……サスケが……」

 

 彼は告げた。

 

「サスケが暁の一員として八尾を襲撃し、……犯罪者として国際的な指名手配を受けることになった」

 

 やはり、ナナの顔色は少しも変わらなかった。

 

「オレたち同期のメンバーは、自分たちでサスケを“処理”すると決めた。サクラも承諾済みだ。今はナルトの説得に向かってる」

 

 七班の説得には自分から名乗り出た。

 彼らを大切な仲間だと思っていたからこそ、自分の役目だと思った。すでに時代の真ん中を歩き始めた同期の中、嫌われ役は自分が適任だとわかっていたのだ。

 だが、それだけではない心境も働いていた。

 

「お前は……、こうなると知ってたのか……?」

 

 問いかけて初めて()()が目的だったのだと、彼自身気づく。

 わざわざ意識が戻ったばかりのナナにサスケのことを告げたのは、ナナが知っていたのかどうかを知るためだったのだと。

 

「知って……た……」

 

 ナナはため息をつくように、それでもはっきりと答えた。

 シカマルは、もう一度考えた。

 何故、確かめる必要があったのか。

 

「お前はもう……」

 

 答えは案外、あっさりとまとまった。

 

「“覚悟”があるのか?」

 

 “覚悟”……。同期の者たちが、ついこの間持った覚悟。サクラが涙を無理やり止めて、掲げた覚悟。 ナルトもどこかで、持たされているはずの覚悟。

 ナナがそれを持って目覚めたのか……。

 それが知りたかった。

 

「サスケは……」

 

 ナナは惜しげもなく、ありのままを見せて来た。

 

 

「ダンゾウを殺してくれた……」

 

 

 それは、どろりと垂れる呪いの言葉だった。

 

「ダ、ダンゾウって……今は六代目火影だぞっ?! なんでサスケがダンゾウをっ……」

「木ノ葉にも……必ず来る……」

 

 ナナの覚悟のイロは、サクラのそれとは全く違っていた。

 

「私は……サスケと……もう一度“出逢う”覚悟がある……」

 

 何にも染まらず、何もかも染めてしまうような闇の色。それがあまりに濃く、“覚悟”の真意は見えなかった。

 

「ちゃんと……サスケと“戦う”から……」

 

 そして、ナナは歪な笑みを浮かべた。

 

「ナナ……お前は」

 

 その笑みに向かい、何を言おうとしたのかわからない。

 ただ何かが口をついて出ようとしたとき、

 

「シカマルさん、こちらですか?!」

 

 医療忍者が入って来て、緊急の用件を伝えた。

 

「シカク様から招集がかかっています。カカシさんの忍犬が到着したとかで……」

「わ、わかった……!」

 

 正直、遮られてほっとしたところもあった。

 

「ナナ……オレは行かなきゃならねぇ。お前はちゃんと休んで、とにかく体調を戻せ。今はオレたちに任せろ」

 

 ナナに何を言うかわからない自分がいた。自分で切り出したくせに、もう何も言いたくなかった。

 シカマルはそっと、ナナの手を布団の上に戻した。

 

「ナナ……オレたちは木ノ葉を護る。敵が誰であろうとだ」

「うん……わかってる……」

 

 意外にもすぐにうなずいたナナに、悲壮感はない。もちろん、吹っ切れた笑みでもない。

 何も……何一つ無い青白い顔……。

 

「けど、オレはお前を……」

「ナナ、目が覚めたって?!」

 

 お前を……。

 言いかけて、また言葉は遮られた。

 

「シカマル君?! ここにいたの? シカクさんの招集がかかってるわ!」

 

 今度はシズネだった。

 

「ああ……今聞いたんで、すぐ行きます」

 

 てきぱきとナナの身体を看るシズネと、無反応なナナを交互に見て、シカマルはその場を後にした。

 

   『オレはお前を……』

 

 途切れた言葉が、熱いまま喉の奥にぶら下がっていた。

 

 

 

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