ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

20 / 102
弱き意志

 

 その場でナナは目を閉じた。

 自分の中の、“和泉の血”をたぎらす様に、霊力を高める。

 間違いなかった。

 “この世”にあるはずのない、あっていいはずのない“死者の魂”が、捕らえきれぬほど漂っているのがわかる。

 空気の“質”が変わったような感覚。まるで不純物が紛れ込んでいるかのごとき感覚。

 和泉の里から木ノ葉へ来たばかりの時、これを感じては密かに鎮魂術を行っていた。

 が、そんなものとは比べ物にならない規模に、ナナの肌は鳥肌をたてる。

 

「いったい……何が……」

 

 ヨミガエリ……。

 

 何故それが起きているのかわからなかった。

 今、“敵”は暁。うちはマダラと名乗る男。そしてサスケ……。

 その“敵”のうちの誰かが、こんな術を使ったのか……。

 ナナはちらりと、ナルトが修行する部屋の扉を見やった。

 死者を蘇らせる術として知っているのは、陰陽術の『泰山府君(たいざんふくん)の術』……それで姉の魂が戻った。

 そして、砂のチヨバアが使った転生術、『己生転生(きしょうてんせい)』。あれは我愛羅を生き返らせた。

 最後に触れたのは、長門の『外道輪廻転生(げどうりんねてんせい)の術』。それがなければ、木ノ葉の皆や……カカシは生き返ることがなかった。

 あとは、伝え聞いた『穢土転生(えどてんせい)』という忍術。これは大蛇丸が木ノ葉崩しの時に使ったという……。

 

「大蛇丸……!」

 

 その名を思い出し、ナナは眉をひそめた。

 サスケの身体を乗っ取って、呪わしい言葉を垂らした姿が、容易に甦る。

 

「まさか、その術が……」

 

 そして気づく。

 大蛇丸は暁の一員だったという。ならば、あの術が暁に渡っていたとしてもおかしくはない。

 もしくは……大蛇丸の手下だった、あのカブトという男が術を会得していたか……。

 

「……っ……!」

 

 ナナは思わず立ち上がった。

 いずれにせよ、こんな術が“忍の戦争”に使われているのを知って、平然としていられるわけがなかった。

 人の世の理を犯す蘇生術は、遠い昔に和泉一族が生み出した。今、禁術として伝わるすべての蘇生術の由来は、和泉の陰陽術にある。

 だからこそ、忍の戦争にこんな禁術が使われるのが許せなかった。

 ただ“理”に背くから……そういうわけではない。それを憎んでいたら、我愛羅やカカシが蘇ったことを喜べるはずもなかった。

 今、胸の奥から怒りが込み上げているのは、蘇った者と……彼らに再び出会ってしまった生ける者たちが、どれほど傷つくかわかるから。

 

「まさ……か……」

 

 呟いて、ナナは拳は強く握った。

 

 

「イタチ……も……?」

 

 

 誰もいないその場所に、ナナの呼吸音が震えた。

 無理に心を静めようと、ナナは再び目をつむった。そのまま、死者たちの魂を探る。

 もし、イタチが蘇ったのなら……想うことはただひとつ。

 喉が締め付けられそうになり、思い切り唇を噛んだ。

 冷静に……力を……。

 深呼吸して島の外に意識を這わす。

 が、やはり数が多すぎるのと、場所が遠いいのとで、“魂”の特定は困難だった。まして、その術者の位置も。

 

「どうしよう……ナルト……」

 

 ナナは無意識に、本当に意識せずにそう呟いた。その目も、また扉を捕らえていた。

 “その時”までナルトと共にいる。“その時”は、ナルトとサスケの闘いの時。

 それが、イタチを失い、サスケと道を別ったナナの、最後に残された意思だった。

 もう、それ以外はなかった。それしかなかったからこそ、あれほど冷静に、淡々と、ペインから木ノ葉を護るために戦えた。

 そんな心に気づいても、カカシは何も言わなかった。シカマルは認めてくれた。

 だから、それだけのはずだった。

 だが、今思うのは、新たに生まれた“意志”は……。

 

 もう、イタチに傷ついて欲しくない。

 

 誰だか知らないが、あれほど残酷な運命を遂げたイタチを、これ以上操ろうとしているならこの手で止めたかった。

 たとえ術で蘇ったイタチに意識はなくとも、誰よりも強く平和を願ったイタチを、こんな戦争で戦わせたくなかった。全てひとりで抱え込んで逝ったのだから、静かに眠らせてあげたかった。

 それにもし……サスケがイタチと再会したら……。

 悲しいことに、ナナの中に良い想像は少しも生まれなかった。

 どちらも、もう悲劇は終わったはずなのに、不要な傷を負うに決まっている。

 だから……。

 

「ねぇ、ホクト」

 

 ナナは助けを求めるように、その名を呼んだ。

 音もなく、気配もなく、空気すら揺らさず、ホクトは暗がりから現れた。

 

「私って……」

 

 瑠璃紺の目を見つめ、ため息のように言った。

 

「つくづく意志が弱いよね」

 

 自嘲の言葉に、ホクトは何の反応も返さなかった。

 

「本当にもう、ナルトの側で“待つ”だけって……、ただ“待つ”だけだって、そう決めてたはずなのに」

 

 かわりにナナがしゃがみ込み、ホクトに視線の高さを合わせる。

 

「それしか……残ってないはずだったのに……」

 

 くすりと笑うと、ホクトは初めて三股の尾を床に打ち付けた。

 音はなかった。白銀の尾が、羽のように揺らいだだけだった。

 

「また、やらなくちゃって思うことができたみたい……」

 

 噛みしめるように言った言葉を聞き終え、ホクトは二度、瞬きをした。

 瑠璃色の瞳が美しく光ったとき、そこには“二人のナナ”がいた。

 

「あの時と一緒……」

「イタチと、サスケを探したとき……」

 

 同じ顔で、同じ声。表情も全く同じ、少し困った笑み。ただ違うのは、身に着けているもの。

 

「ナルトの側で、“その時”を待つ……」

「この世に蘇った死者を“送る”」

 

 忍装束のナナと、白袴のナナが交互に呟く。

 

「イタチは……この手で送る……」

「うん。必ず……」

 

 二人のナナは、同じ願いを瞳に浮かべた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。