第四次忍界大戦開戦……。
忍連合の各部隊はすでに『うちはマダラ』を名乗る者が仕向けた“敵”と交戦している。
雷の国、雲隠の里。そこに設置された忍連合軍本部は、戦場と同様に慌ただしかった。
その紛乱のさ中、忙しく立ち回っていた誰もが思わず足を止める事態が起こる。
「なに!? いずみナナがここへ?!」
雷影がそう叫び、火影が反射的に立ち上がった。
報告にあがった中忍の男は、自分の言葉に何か不都合があったのかと、顔を引きつらせる。
「ナナが来ているのか?」
睨むような視線を送る火影に対し、男は額に汗を浮かべて答えた。
「あ、はい! お二人に面会の許可を求めておりますが……」
火影と雷影は思わず顔を見合わせた。そんな仲ではなかったが、状況的にそうなった。
が、困惑して黙り込んだ彼らをよそに、廊下が騒がしくなり、やがてその喧騒がこの部屋にまで入り込む。
「お前っ……!」
「な、何者だっ?!」
止めようとする警備の忍たちを振り切って、風の速さで駆け込み、あっというまに火影の目の前で膝をついたのは、そのいずみナナだった。
「ナナ……、どうしてここに……」
ナナは片膝をついたまま、まっすぐに火影を見上げ、混乱を起こしたことを謝罪した。
火影は視線だけで、追ってきた警護の忍たちを下がらせる。
そして、
「ナナ、どうしてここに来た?」
動揺を押し込めて、改めて当然の問いを投げかける。
彼女がナナに与えた任務は、「ナルトとビーの側にいること」である。二人を「護れ」とも「見張れ」とも言ってはいないが、確かに二人の側にいるように命じたはずだった。
が、
「大丈夫です」
ナナは切羽詰まった感情を押し殺すようにして言った。
「“もう一人の私”が、ちゃんと二人の側にいます」
誤魔化すような、曖昧な視線ではなかった。
だからこそ、雷影も口を挟まず聞いている。
「分身のようなものか?」
「そんなところです」
が、敢えてナナは言った。
「私にしか使えない技……です」
そしてかすかに口の端を上げてみせる。
「命令違反は犯していません。ただ、お願いがあって参りました」
目には、強い意志を浮かべていた。
「お願いだと? 一体、なんだというのだ?!」
やっと雷影が口を開く。
彼の大きな声は部屋中に響いたが
「雷影様、火影様」
空気を切るように、さっと頭を垂れたナナの仕草がそれをピタリ止めた。
いつしか、部屋中の誰もがナナと火影、雷影を見守っていた。
全ての視線を集めて、ナナは願いという名の決意を口にする。
「私に、参戦の許可をください……!」
「懇願」というには細い声。「必死」というにはゆっくりとした声。
が、うやうやしく頭を垂れる小柄な体からは、雷影、火影をも黙らせる迫力がにじみ出ていた。
「参戦だと……?」
「お前がか?」
少しの沈黙を破り、火影と雷影が真意を問う。
ナナはグイッと顎を上げ、なかば睨むように二人を見上げた。
そして、
「死者の魂が……この戦争に使われているのではありませんか?」
まるで咎めるように言った。
「な、何故それを……」
雷影はそう言いかけて、言葉を飲み込んだ。
二人の“影”を前にして堂々と己の意志を突き付けるこの若い忍が、“何”であるかは火影から明かされていた。
彼は火影を見やった。彼女は険しい顔でナナを見下ろしていたが、その目に迷いが生じているのはわかった。
そして、それを受け止めるナナの、気品すら漂う顔に視線を移した。
まるで、二人の“影”を脅迫しかねない威迫……。
『地上の神』と謳われた伝説の一族の末裔と信じるに相応しい姿と思った。
「“穢土転生”で、次々と死んだはずの強者たちが蘇り、戦場に投入されている」
火影は最新の情報をナナに告げた。
総大将である雷影は、その許可を問われなかったことに意を唱えなかった。
「誰が、それを……?」
ナナの目に暗い影が宿ったのを、二人とも見た。
「薬師カブトだ」
その名に、影はどす黒く、くすぶるように揺らめいた。
「カブトが暁と……うちはマダラと手を組んだということですか?」
「そうだ」
ナナは全てを飲み込んだように、床に視線を落とした。
そして再び願い出る。
「行かせてください、お願いします」
今度の声は、憎悪すら滲むような低い声。
「だが……」
「死者の魂を鎮めるのには慣れています」
そして、わずかな自嘲を含む声。
「私の専門ですから」
火影は迷いを濃くして黙った。
「封印班よりも、効率よく働けると思います」
雷影も決断に戸惑った。
そこへ、冷静な声がナナにかけられた。
「“穢土転生”で蘇ったのは、当然のことながら名のある手練ばかりだ。封印班は主に数人がかりで一人を封印するのがやっとだが、お前はそれ以上の術が使えるのか?」
今まで火影の後ろでじっと状況を見守っていた奈良シカクだった。
ナナはそちらを向くと、先ほどの影をひっこめた。
「たとえば相手が上忍クラスの忍だった者としても……血系限界でなければいっぺんに5、6人は“送れ”ます」
ナナが「封印」ではなく、「送る」と言ったことで、その場の空気が変わった。
「お願いします。行かせてください!」
それを感じてか、ナナはすかさず再度頭を下げた。
「こんなことっ、一刻も早く止めさせたいんです……!!」
願いは悲痛な叫びに変っていた。
火影も雷影も、そしてシカクも、死した“仲間”と向き合うことがどれだけ残酷なことかわかっていた。
愛した“仲間”が、カブトの手で永久の眠りから無理やり呼び戻され、戦わされ、傷つけさせられ、傷つけられている……。そう思うと、悲哀をしみ込ませた怒りが沸く。
「早く終わらせなくちゃ、みんなが……負わなくていい傷を負う……!」
ナナは肩を震わせた。
この、まだ若い忍は……彼らが抑えようとしていた感情を全身で表している。
「ナナ……」
火影はシカクと顔を見合わせた。シカクの眉間には覚悟の皺が寄っていた。
次いで、火影は雷影を見た。
判断は、総大将の雷影に委ねられた。
「お願いします!」
睨むような視線が、再び雷影に突き刺さった。
「わかった」
火影もシカクも、心の奥底では『不許可』を望んでいたに違いない。
それに気づきつつも、雷影は言った。
「木ノ葉隠れ、いずみナナの参戦と単独行動を許可しよう」
強い視線は変えず、ナナは口元に笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!」
火影は何も言わなかった。
代わりにシカクが、ナナを大机に呼び寄せる。
「ナナ、戦況を説明する。各隊の現在の配置だけでも頭に入れて行け」
「ハイ」
平然とした態度……いや、冷たい視線を取り戻し、ナナは彼に駆け寄った。
「……というわけだ。が、戦場は生き物だ。刻一刻と状況は変わる。その都度、対応しなきゃならないぞ」
「ハイ」
「総大将も単独行動を許可してくださった。お前にしかない能力もあるだろうから、自分の判断で行動しろ」
「ハイ」
真剣な顔で地図を見下ろすナナに、シカクが父親のような視線を送ると、
「ナナ、必ず一時間ごとに定時連絡をよこせ。戦場を移動する場合もだ。できるな?」
「ハイ、式神を飛ばします」
「単独行動といっても、忍連合の一員なんだ。ひとりで全部やろうとするんじゃないぞ」
「ハイ、わかってます、火影様」
火影も姉のように言う。
「“私”も、もう一人の“私”も大丈夫です」
ナナは二人に向かって安心させるようにニコリと笑った。
「んじゃ、行って来い」
最後に、シカクがポンとナナの頭をなでた。
ナナはもう一度シカクを見て、火影を見て、そして雷影を見てから、来た時よりも速くその場を去って行った。