地が抉られ、大勢の忍が倒れ伏す最前線。
ダルイは九尾の衣をまとった金角と対峙していた。
そこへ、本部から『琥珀の浄瓶』が送られて来る。
「どうやって、これに封印するんだ?!」
対象に“返事”をさせないと、封印できないことは知っていた。
だから、その方法を見つけ出さねばならない。
が、
「アナタがダルイさんですか?」
緊迫した状況の中、現れたのは木ノ葉の額当てをつけた小柄な忍だった。
「お、お前は?」
「木ノ葉のいずみナナです」
普通の忍であれば、ここでナナを追い返す場面だった。
だが彼は雷影の側近であったため、「いずみナナ」が“何者”かを知っていた。
「まさかお前が……」
「私がアレをソレに封印します」
そのあまりに簡潔な言葉に一瞬だけ気を緩めた隙をついて、金角は九尾チャクラの尾で攻撃を仕掛けて来る。
が、黄ツチが現れて二人を防御した。
さらに、追いついたシカマルたちもナナとダルイの前に立ちはだかる。
「ナナ、術の発動までにどのくらいかかる?!」
全て割り切ったシカマルが、ナナに背を向けたまま問う。
「30秒」
「わかった」
その場でシカマルは、チョウジといの、黄ツチに的確な指示を出す。
それを見て、ダルイも覚悟を決めた。
「一斉援護だ! クナイを投げまくれ!!」
後方の増援を含めた数百人の軍勢に叫ぶと、たちまちクナイの雨が金角に振りそそいだ。
「ナナをお願いしますよ、隊長!」
シカマルがダルイにそう言って、仲間とともに金角に向かって行った。
それを見送りながら、ダルイは『琥珀の浄瓶』の蓋を外す。
底は暗くて見えなかった。横で印を結ぶナナなど、すっぽりと収まってしまう大きさだった。
ナナは左手をクナイで傷つけると、その血を『琥珀の浄瓶』の中に滴らせた。
チョウジが金角に肉弾戦車で体当たりした衝撃が、二人の場所まで伝わっている。
ダルイは戦況と、ナナの術を交互に見守った。
ナナは短く呪文を唱えると、血をにじませた左手を『琥珀の浄瓶』に押し当て、右手を金角の方へ差し伸べた。
まるで傀儡師のようにその指を動かすと、遠くの金角の動きが不自然になった。
シカマルたちとその他の援護によって、ナナの術に抗う集中を削がれる金角は、ナナが腕を引くごとに、徐々に『琥珀の浄瓶』の方へと引き寄せられていく。
「いいぞ、もう少しだ!」
地鳴りのような唸り声を上げて抵抗する金角に対し、ナナの表情には殺気が浮かんではいなかった。
「ダルイさん、一瞬、アレの足もとを崩してもらえませんか?」
ナナの静かな指示にうなずくと、ダルイは前方に向かって叫んだ。
「前、開けろ!」
シカマルが振り返って、印を結ぶダルイの姿を確認する。そして速やかに周囲に指示を出す。
ダルイから金角への道が開けた。
そこへ、
「雷遁・黒斑差(くろばんさ)!!」
残り少ないチャクラで、ダルイが黒い雷を撃つ。
金角の両足にそれが到達し、金角の巨体はバランスを崩した。
「そういうことか!」
シカマルも影縫いの術で影を金角の足に絡ませ、足元をすくう。黄ツチは土遁で足元の土を抉った。
怒りの声とともに、金角の体勢は大きく崩れた。
すると、
「血晶封印……」
冷涼な声が響き、金角の身体がそちらへと引っ張られていく。
『な、なんだ、あの小娘はっ……!!』
が、金角は咆哮とともにチャクラを全開放した。
慌てて抑え込もうとしたシカマルの影真似の術もあっさり弾かれ、暴れ出す“尾”によって忍たちが一掃される。黄ツチの土遁での包囲も、金角の拳一発で破壊された。
立ち上る土煙りと悲鳴、そして怒声に、ダルイは思わずナナを振返った。
「くそっ、おい、どうする?」
ナナはわずかに視線を鋭くした。
そして、今更のように、金角の名を呼ぶ。
「キンカク!」
が、『琥珀の浄瓶』の使い方を熟知している金角がその呼びかけに応えるはずはなかった。
九尾の衣をまといつつ、金角はニタリと笑ってナナを見下ろした。
しかし、ニタリと笑ったのは、ナナも同じだった。
「成功……」
その呟きを聞いたのは、一番近くにいたダルイだけだった。
「え……?!」
ナナのその声と同時に、金角は細いチャクラの線になり、風を切る勢いでいっきに『琥珀の浄瓶』に吸い込まれて消えた。
「ダルイさん、蓋を」
言われなければ、彼はその場に立ちつくしてしまっていた。
「あ、ああ……」
辛うじて蓋を拾い上げ、『琥珀の浄瓶』に乗せる。
ドプン……と、中で金角だった“塊”が揺れたのがわかった。
「ふう……」
ナナは安堵した顔で息をついた。
周りからも歓声が沸き起こる。
「お前……」
ダルイはじっとナナを見た。
そして、問う。
「さっきの眼……」
シカマルたちも向こうから走って来ていた。
ナナはそれをチラっと見てから、じっとダルイを見つめる。
「みんなには言わないでください」
表情は変わらなかったが、声には有無を言わさぬ強さがあった。
「お願いします」
ダルイはナナの漆黒の瞳に真意を探った。
そして気づく。ナナの両の眼尻がかすかに痙攣していた。
迷った末、
「わかった。約束しよう」
抗えない何かを感じ、ダルイは諦めたように言った。
「雷影様にも言わない」
「ありがとうございます」
疲れた顔もせずに笑うその姿は、九尾のチャクラを封印するという大技をやってのけたと思えぬほど、幼く見えた。