八尾の修行部屋の外……、ずっと音沙汰の無かった扉が開くなり、ナルトはそこへ飛び出した。
戸口には、そこで待っているはずのナナの気配はなかった。
ナルトはそのまま外へ向かって走る。
と、行く手を阻む者たちが現れた。
「イルカ先生?! なんでこんなところに……?!」
イルカやシノの父親、奈良家の者、秋道家の者……木ノ葉の手練たちだった。
彼らは火影の命を受け、ナルトが外に出ることを阻止する目的でここにいた。
それらしい言葉を並べたて、ごく自然にナルトを説得しようとするイルカたち。
が、それに大人しく従うナルトではなかった。
「外に出て直接確かめる!!」
ナルトは仙人モードになり、一気に彼らを看破して真実の滝を突き破った。
が、外に出た瞬間、奈良の者に影真似の術で拘束される。凄まじいしぶきを浴びながら、彼らは皆動きを止めた。
と、
「何だよ……これ……」
ナルトの脳裏に、信じがたい光景が入り込む。
「何でこんなことになってんだてばよ!」
“見えた”のは、激しい戦闘を繰り広げる仲間たち、必死の治療、負傷者の列、そして屍の山……。
「うちはマダラが戦争を仕掛けて来たんだ」
イルカはついにその事実を告げる。
その上で、ナルトに戦場には向かうなと説得する。
ナルトの九尾が敵の手に渡れば世界が終る。ナルトを護るために皆が必死で戦っている。ナルトは己自身と闘え……と。
だが、ナルトが聞き入れる余地はない。
「この戦争はオレが一人でケリつける!! 憎しみも痛みも全部オレがまとめて引き受ける!! それがオレの役目だ!!」
そう吐き捨てるように叫んだ。
イルカも冷静さをかなぐり捨てて言う。
「お前の中には九尾がいる! お前だけの問題じゃないんだ!」
二人の感情がぶつかり合った。
「オレを一番最初に認めてくれた先生が……!! 何で九尾のことばっか気にして、オレを信じてくれねーんだ!!」
「だだをこねるな!! オレにとってお前は大切な生徒の一人だ! そして……」
ここでイルカはひと呼吸置き、
「弟のようにも思っている……」
まっさらな感情をナルトの前にさらけ出した。
「そんなお前を、狙われていることがわかっていて、みすみす行かせたいと思うわけないだろう……」
ナルトの口も閉じられる。
「それに、お前ばかりが全部を背負い込むことなんてないんだ……」
しばし、誰も口を開かなかった。
「オレってば、もう昔と違う……。あれからずっと強くなった」
ナルトが沈黙を破り、イルカの足もとに転がった己の額当てを指して言った。
「それに、その額当てをくれたのはイルカ先生だろ?」
イルカがのろりとその額当てを拾い上げた時、
「待って、ナルト」
ナルトの背に、静かな声がかけられた。
「ナナ……?!」
現れたのは、白い袴姿のナナだった。
見慣れない姿に、ナルトさえもナナがゆっくりと歩み寄るのを黙ったまま見つめる。
「いずみナナ、お前もナルトの拘束に協力しろ……!」
木ノ葉の誰かがナナにそう言った。
ナルトが反論する前に、ナナはうっすら笑みを浮かべてこう言った。
「私が火影様から受けた命令は、『ナルトの側にいること』です」
滝の音が静まった。
「だから私は、『ナルトの行く所について行く』だけ」
無邪気ともとれる答えに、木ノ葉の大人たちは一瞬、息を呑む。
「ナナ……お前……」
ナルトだけが別の視線をナナに向け、ナナはそれを捉えて聞いた。
「ナルト……
白い袂が揺れた。
それを見て、ナルトは深くうなずいた。
「ナルトが行くのなら、私も行く」
そして、その言葉に笑みを返した。
そんな二人を見て、イルカはゆっくりとナルトに歩み寄り、額当てを手渡した。
だが、
「それでもお前を行かせるわけにはいかない!」
再びそう言って、ナナごとナルトを結界に封じた。
しかし、今のナルトに彼の術は通用しなかった。
ナルトは九尾チャクラを引き出し、結界を破る。さらに、影真似をも外した。
「行かせん!!」
シノの父が奇壊蟲を放つが、ナルトは全てを弾き飛ばした。
そして、グイっとナナの腕を引っ張り、
「行くぞ、ナナ!」
木ノ葉の忍たちに背を向け、イルカを置き去りにして走り去った。
「ナルト、イルカ先生はああするしかなかったんだよ」
「ああ……」
「イルカ先生は、ちゃんとナルトのことわかってくれてる」
「……わかってるってばよ……」
釈然としないナルトに、ナナは淡々と言った。
「“帰ったら”、ちゃんとお礼、言わないとね」
「お礼って……」
初めての理解者と思っていたイルカに、“九尾の人柱力”として見られた気がして、ナルトは失望していた。
その苛立ちを抑えるように、ナナすら置き去りにするスピードで森を駆けた。
そして、額当てを結びかけてようやく気付く。
「これって……」
鉢がねの裏に、一枚の紙切れが挟まっていた。
それは、イルカからの手紙だった。
そこに書かれていたのは、まるで“兄”としての言葉。絶対に、生きて帰って来いと……ナルトの背を押し、無事を願う心だった。
「イルカ先生……!」
イルカの想いの全てを吸収するかのように、ナルトは手紙を飲み込んだ。
「ね、ナルト。帰ったらイルカ先生にお礼、言いなよ」
額当てをきつく結び直すと、ナナが満足そうにほほ笑んだ。
ナルトは無言のまま、その笑みに力強くうなずき返した。