ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

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遭遇

 ナルトは九尾のチャクラで“悪意”を感知し、最初の戦場で味方に化けた“白いもの”を粉砕した。

 

「よっしゃ! 次、行くぞ! ビーのおっちゃん、ナナ!!」

 

 そして一瞬たりとも足を止める間もなく、眩しいほどの明るいチャクラを纏ったまま次の戦場へと走り出す。

 その姿はまるで、昇り始めた朝日と溶け合うようだった。

 「モヤモヤしたもの」と彼は言ったが、それを感知して迷わず向かっているのだろう。

 ナナは気だるい感覚の中、光に導かれるようにナルトの後を追っていた。

 身体はまだ回復していない。それに“ホクト”……つまり“もうひとりの自分が”が見たモノが、さらに気を重くしていた。

 あの、マダラが呼んだ『外道魔像』。

 まさかマダラが()()()()()まで扱うことができるとは……。

 それに九尾のチャクラも守り切れずに奪われて、ホクト自身もあっさりとマダラに消されてしまった。

 そして、強制的にこの世に呼び戻された死者たちと、得体のしれない無数の“白いもの”。

 もう、ナナにはこの戦争の規模について、少しも想像がつかなくなっていた。

 だが今は、ナルトの側を離れない。

 たとえその行動が戦況とは関係なくとも、彼の側にいることだけが身体を……そして脳を動かす唯一の意志だった。

 今はもう、ホクトが消えたことで“もうひとつの意志”は摘み取られてしまった。

 この戦場のどこかに……イタチがいるのなら……。彼を探し回ることはもうできない。

 だからせめて、彼がもしナルトの九尾とビーの八尾を奪いに来たら……いや、来させられたら、自分が戦おう。

 ナルトを制してでも。必ず……。

 

 そう思った刹那。

 

 願いが通じたのか……それとも誰かが仕組んだ残酷な罠か……。すぐ近くに“彼”を感じた。

 忍が五感で感知できる気配ではなく、ナナにしかわからない“魂”の気配が……。

 

「ナルト」

 

 ドクンと心臓が波打ったとき、すでに足を止めていた。

 

「ナナ? どうしたんだってばよ?」

 

 “光”に向かって言う。

 

「こっち……」

 

 方向を変えて走った。

 “光”を先導するのは不思議な感じだった。が、ナルトは何も言わずについて来てくれた。

 彼がどう思っているか、おそらくいぶかしく思っているのだろうが、それに配慮して説明する余裕はなかった。

 気が急いた。

 “彼”が近くにいるということは、つまりたった今想像したとおり……いや、()()したとおり、ナルトとビーの中にあるものを目的として動かされているのだろう。

 どうせ対峙するのなら、まっすぐに向き合ったほうがいい……。

 それが自分の、我儘だとしても。

 そして……二人より先に、彼と戦おう。

 彼が自らの命を賭して護った世界の“敵”になってしまう前に、それを阻止することが自分の役目だ。残された役目……。たったひとつ、今からでも彼にしてあげられることだ。

 悲哀が胸を刺した。

 が、躊躇わずに進んだ。

 冷涼な風の吹く川辺。そこで足を止め、顔を上げた。

 

 

「イタチ……」

 

 

 もう逢えないはずの彼が、そこにいた。

 

「うちはイタチに……長門?!」

 

 後ろでナルトが素っ頓狂な声を上げた。

 ナナはじっと、二人を見た。

 穢土転生……その忌まわしき術による“蘇り”の姿は、どことなくヒトとしては不完全で、死臭を纏っているように思えた。

 が、まぎれもなく、その偽りの肉体から感じるのは、うちはイタチと、木ノ葉崩しの時に出会った長門の“魂”だった。

 

「イタチ……」

 

 それをこれほどまでに身近に感じていても、言葉が出てこなかった。

 たった今まで決意を持ってここに立ったはずなのに、身体じゅうの細胞が固まったように動かなかった。

 

「ナナ……」

 

 イタチの目も、こちらを向いていた。

 死者の証しのような……黒と赤の瞳。何かもの言いたげで、何かを諦めたような、憐みのような……。

 が、彼は少し笑って言った。

 

「懐かしいな……その姿……」

 

 たったそのひとことで、ナナの脳裏に過去の情景が押し寄せる。

 和泉の里で出逢った、白袴をまとった幼い自分と、まだ少年だった忍装束のイタチ……。

 目を、逸らしそうになる。

 彼は穏やかなまなざしで、ゆるい笑みを口元に浮かべていて、本当に懐かしそうに自分を見ている。

 そして少し悲しそうに。

 思い切り歯を食いしばって、それに耐えた。

 ああ……なぜ……なぜ、イタチの意識をも拘束してくれなかったのか。なぜ、イタチをイタチのまま蘇らせたりするのか。

 心から術者を……カブトを憎んだ。

 その憎しみで、ようやく立っていられた。

 

「アナタたちは……私が……」

 

 敢えてあのメガネの奥で光る陰険な目を思い浮かべつつ、

 

「私がこの手で送り返す……!」

 

 決意を口にした。

 イタチは、かすかに嬉しそうに笑んだ。

 懐かしい笑みだった。

 そうだ、イタチはずっと、こういう自分の姿を見守ってくれていたのだ。「強い」自分を、折れない姿を、耐えることを、認めてくれていた。

 だから、愛してくれていた……。

 もう、何も聞かないことにした。

 マダラが話したイタチの真実の是非を、彼には問わないことにした。

 本当は、イタチ自身の口から聞きたかった。

 「そうするしかなかった」のだと、自らの傷をちゃんとさらけ出して欲しかった。

 そして、彼に謝りたかった。

 護れなかったこと、ちゃんと側にいなかったこと、何も報いることができなかったこと……。

 だが、そんなことはもう無意味だった。

 最初からマダラの話を嘘と思えなかったし、それが何よりイタチの生き方そのものと思えた。

 それに、イタチにそれを認めさせることは、彼を余計に傷つけることだった。

 問いただしたいのは自分のため。懺悔はただの自己満足。

 だからこそ、口をつぐんで強い心でイタチと向き合い、やるべきことをやらねばと思った。

 昔の、幼い頃のように……。あの時のような強さを……。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと私が終わらせるから」

 

 笑って言えた。

 あの頃と同じ、水の調べを聞きながら印を結ぶ……。

 

「さようなら」

 

 満月の下、血の匂いにまみれたイタチと、別れた時のように。

 

「ナナ」

 

 と、肩に温かい感触があった。

 

「お前はちょっと下がってろ」

 

 今まで黙っていたナルトが、少し前に進み出る。

 

「え?」

 

 光が、彼の周りで花びらのように舞った。

 

「お前はイタチと戦っちゃだめだってばよ」

 

 奥底に隠していた弱い部分を、照らし出されたようだった。

 

「で、でも!」

「ぜってーダメだ!」

 

 揺らぐ心を必死でこらえようとしているのに、ナルトはまっすぐな声で言った。

 

「お前の気持ちはわかってる! けど、お前はイタチと戦っちゃだめだ。代わりにオレが戦う!」

「ナルト……」

 

 そして、振り返って笑う。

 

「お前は二人を“送る”役目だってばよ!!」

 

 光が強さを増していた。

 

「ナルト……」

 

 向こうでイタチと長門が、静かに笑んだ。

 が、そのイタチが急に片手で印を結び、こちらに向けて火遁業火球の術を放った。

 

 

 

 

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