ナルトは九尾のチャクラで“悪意”を感知し、最初の戦場で味方に化けた“白いもの”を粉砕した。
「よっしゃ! 次、行くぞ! ビーのおっちゃん、ナナ!!」
そして一瞬たりとも足を止める間もなく、眩しいほどの明るいチャクラを纏ったまま次の戦場へと走り出す。
その姿はまるで、昇り始めた朝日と溶け合うようだった。
「モヤモヤしたもの」と彼は言ったが、それを感知して迷わず向かっているのだろう。
ナナは気だるい感覚の中、光に導かれるようにナルトの後を追っていた。
身体はまだ回復していない。それに“ホクト”……つまり“もうひとりの自分が”が見たモノが、さらに気を重くしていた。
あの、マダラが呼んだ『外道魔像』。
まさかマダラが
それに九尾のチャクラも守り切れずに奪われて、ホクト自身もあっさりとマダラに消されてしまった。
そして、強制的にこの世に呼び戻された死者たちと、得体のしれない無数の“白いもの”。
もう、ナナにはこの戦争の規模について、少しも想像がつかなくなっていた。
だが今は、ナルトの側を離れない。
たとえその行動が戦況とは関係なくとも、彼の側にいることだけが身体を……そして脳を動かす唯一の意志だった。
今はもう、ホクトが消えたことで“もうひとつの意志”は摘み取られてしまった。
この戦場のどこかに……イタチがいるのなら……。彼を探し回ることはもうできない。
だからせめて、彼がもしナルトの九尾とビーの八尾を奪いに来たら……いや、来させられたら、自分が戦おう。
ナルトを制してでも。必ず……。
そう思った刹那。
願いが通じたのか……それとも誰かが仕組んだ残酷な罠か……。すぐ近くに“彼”を感じた。
忍が五感で感知できる気配ではなく、ナナにしかわからない“魂”の気配が……。
「ナルト」
ドクンと心臓が波打ったとき、すでに足を止めていた。
「ナナ? どうしたんだってばよ?」
“光”に向かって言う。
「こっち……」
方向を変えて走った。
“光”を先導するのは不思議な感じだった。が、ナルトは何も言わずについて来てくれた。
彼がどう思っているか、おそらくいぶかしく思っているのだろうが、それに配慮して説明する余裕はなかった。
気が急いた。
“彼”が近くにいるということは、つまりたった今想像したとおり……いや、
どうせ対峙するのなら、まっすぐに向き合ったほうがいい……。
それが自分の、我儘だとしても。
そして……二人より先に、彼と戦おう。
彼が自らの命を賭して護った世界の“敵”になってしまう前に、それを阻止することが自分の役目だ。残された役目……。たったひとつ、今からでも彼にしてあげられることだ。
悲哀が胸を刺した。
が、躊躇わずに進んだ。
冷涼な風の吹く川辺。そこで足を止め、顔を上げた。
「イタチ……」
もう逢えないはずの彼が、そこにいた。
「うちはイタチに……長門?!」
後ろでナルトが素っ頓狂な声を上げた。
ナナはじっと、二人を見た。
穢土転生……その忌まわしき術による“蘇り”の姿は、どことなくヒトとしては不完全で、死臭を纏っているように思えた。
が、まぎれもなく、その偽りの肉体から感じるのは、うちはイタチと、木ノ葉崩しの時に出会った長門の“魂”だった。
「イタチ……」
それをこれほどまでに身近に感じていても、言葉が出てこなかった。
たった今まで決意を持ってここに立ったはずなのに、身体じゅうの細胞が固まったように動かなかった。
「ナナ……」
イタチの目も、こちらを向いていた。
死者の証しのような……黒と赤の瞳。何かもの言いたげで、何かを諦めたような、憐みのような……。
が、彼は少し笑って言った。
「懐かしいな……その姿……」
たったそのひとことで、ナナの脳裏に過去の情景が押し寄せる。
和泉の里で出逢った、白袴をまとった幼い自分と、まだ少年だった忍装束のイタチ……。
目を、逸らしそうになる。
彼は穏やかなまなざしで、ゆるい笑みを口元に浮かべていて、本当に懐かしそうに自分を見ている。
そして少し悲しそうに。
思い切り歯を食いしばって、それに耐えた。
ああ……なぜ……なぜ、イタチの意識をも拘束してくれなかったのか。なぜ、イタチをイタチのまま蘇らせたりするのか。
心から術者を……カブトを憎んだ。
その憎しみで、ようやく立っていられた。
「アナタたちは……私が……」
敢えてあのメガネの奥で光る陰険な目を思い浮かべつつ、
「私がこの手で送り返す……!」
決意を口にした。
イタチは、かすかに嬉しそうに笑んだ。
懐かしい笑みだった。
そうだ、イタチはずっと、こういう自分の姿を見守ってくれていたのだ。「強い」自分を、折れない姿を、耐えることを、認めてくれていた。
だから、愛してくれていた……。
もう、何も聞かないことにした。
マダラが話したイタチの真実の是非を、彼には問わないことにした。
本当は、イタチ自身の口から聞きたかった。
「そうするしかなかった」のだと、自らの傷をちゃんとさらけ出して欲しかった。
そして、彼に謝りたかった。
護れなかったこと、ちゃんと側にいなかったこと、何も報いることができなかったこと……。
だが、そんなことはもう無意味だった。
最初からマダラの話を嘘と思えなかったし、それが何よりイタチの生き方そのものと思えた。
それに、イタチにそれを認めさせることは、彼を余計に傷つけることだった。
問いただしたいのは自分のため。懺悔はただの自己満足。
だからこそ、口をつぐんで強い心でイタチと向き合い、やるべきことをやらねばと思った。
昔の、幼い頃のように……。あの時のような強さを……。
「大丈夫だよ。ちゃんと私が終わらせるから」
笑って言えた。
あの頃と同じ、水の調べを聞きながら印を結ぶ……。
「さようなら」
満月の下、血の匂いにまみれたイタチと、別れた時のように。
「ナナ」
と、肩に温かい感触があった。
「お前はちょっと下がってろ」
今まで黙っていたナルトが、少し前に進み出る。
「え?」
光が、彼の周りで花びらのように舞った。
「お前はイタチと戦っちゃだめだってばよ」
奥底に隠していた弱い部分を、照らし出されたようだった。
「で、でも!」
「ぜってーダメだ!」
揺らぐ心を必死でこらえようとしているのに、ナルトはまっすぐな声で言った。
「お前の気持ちはわかってる! けど、お前はイタチと戦っちゃだめだ。代わりにオレが戦う!」
「ナルト……」
そして、振り返って笑う。
「お前は二人を“送る”役目だってばよ!!」
光が強さを増していた。
「ナルト……」
向こうでイタチと長門が、静かに笑んだ。
が、そのイタチが急に片手で印を結び、こちらに向けて火遁業火球の術を放った。