空に吸い込まれるようにして、瓦礫や木々が根こそぎ大地から剥ぎ取られ、飛んでいた。
それらは徐々に一点に集まり、ひとつの塊になっていく。
ついこの間、木ノ葉隠れの里で目にしたモノと同じだった。
ペインの術……星を降らす破壊の術……地爆天星だ。
ナナはあの時とは別の印を結ぶ。
イタチの
塊の引力がそれらを加速させ、三方向からまともに攻撃を受けて、塊はただの瓦礫となった。
それを見届けずに、ナナは礫の降り注ぐ場所へと走った。
「すまなかったな……いずみナナ……」
長門の顔は穏やかだった。
彼の魂は、完全にナナが掌握していた。
「何か……言い残すことは?」
長門は少し笑って、ナナの後ろに駆けつけたナルトに向けて最後の言葉を遺した。
彼の足もとに、青白い光が現れる。迎えの星だった。
「じゃあな」
長門はそう言って笑った。
「さようなら」
ナナは誰にも聞こえないくらい小さくささやいて、術を終えた。
星の光は長門を包み込んで、その身体をかき消した。
塵の後に残ったのは、誰か知らない人間の変わり果てた姿だけだった。
「サンキューナナ! お前のおかげで長門は安心して戻れたってばよ!」
「さすが和泉の姫! 和泉の秘術は初めて!♪」
振り返って笑わなきゃ……そう思った。
さっき抑え込んだはずの涙が、また、情けなく溢れそうになっていた。
何故なら……。
ナナにとっては何も終わってなどいなかった。
長門を送り返せても……イタチは……イタチ自身の意志をもったままここにいる。この、手を伸ばせば届くすぐ側に、言葉も交わせる状態で。
だが。
「うん、よかった。あの人が苦しまなくて」
もうこれ以上、見せてはいけないのだ。弱くなってしまった自分を。
「あの人、ナルトにいいこと言ってたね」
今さらだが、見せなくてはいけない。昔のように強い自分を。
「あの人には、結局カカシ先生や里のみんなが助けてもらったらから、ちゃんと送れてよかった」
イタチが見ているから。
「ナナ!」
ナルトが安堵したように笑う。
「イタチは……」
だからまっすぐに
「本当に、もう操られていないんだよね?」
イタチを見上げることができた。
「ああ……」
イタチの目は、何か言いたげだ。懐かしい、心配を押し殺したような目……。
が、その色がにわかに変わった。
「穢土転生はオレが止める」
イタチは唐突にそう告げた。
「マダラはお前たちに任せる」
とても、静かだった。周りにはまだ天照の黒い炎がくすぶっているのに、とても静かだった。
イタチの言葉に反し、自分
その声は、懸命に平静を装う心にじんわりと染み渡った。
「火影になった者がみんなに認められるんじゃない。みんなに認められた者が火影になるんだ」
ナルトに向き合う姿は、まるで……。
「……仲間がいることを忘れるな」
まるで、「兄」のようだった。
ナルトは素直に彼の言葉を聞き入れた。
くすぶっていた黒炎も、ようやく消えた。
対してイタチは、うちはシスイの目を持つ先ほどのカラスを天照で焼き消した。
シスイの眼はもう十数年使えないから、「サスケの時」には使えないだろう……と。
それに……。
「ナルト、お前はシスイの眼以上のものを持っている。今のお前なら、この眼を使わなくてもサスケを止められるだろう」
ナルトの心を認めた。
イタチの台詞のひとつひとつがあまりに淡々としていて、胸を刺すような痛みは感じなかった。
ああ……イタチは本当にナルトを信じて、サスケを“託した”のだ……と、漠然とそう思っただけだった。
だからイタチは、
「今ならアンタも直接サスケに会える! だから今度こそ!」
そう叫んだナルトに、
「いや……」
大人びた笑みで応えた。
「オレは全て
仲間だから……サスケの親友だから……ナルトだから……。だからイタチは何の思い残しもないような清々しい顔でそう言ったのだ。何より大切な存在であるサスケを、ナルトに託したのだ。
そう、自分ではなく……。
「ナルト」
安堵感と、少しの寂しさが入り混じった感覚を覚えたとき、一粒の“意志”がふわりと浮いた。
「ごめん、ナルト」
このカタマリを感じるのもずいぶんと久しぶりだな……と自嘲しつつ、ナルトに言った。
「私、イタチと一緒に行く」
何か言いかけたイタチを制し、まっすぐ、ナルトに言う。
「ナルトの側にいるって約束しておいて、しかも火影様の命令を破ることにもなるけど……でも……」
イタチが死んでから無くしたと思っていた、まっすぐの想い。
「私はもう、イタチをひとりで戦わせたくない」
自分勝手だろうが、命令違反だろうが、それでも周囲を突き破るほどの、まっすぐな……。
「イタチが穢土転生を止めるなら……それはイタチが消えちゃうってことになるけど……私は……」
自分の言葉に涙が出そうになっても、笑って言える“意志”だった。
「それを見届けたいから」
また、彼の“死”を目の当たりにすることになろうとも。もう一度あの絶望を味わうことになろうとも。
「ナナ、お前はナルトと行け」
イタチはきっとそれを知っていて、少し強く言った。
その理由はよくわかっている。
ナルトとともにある存在……まるで最初から彼の影のように産まれた自分を、一番理解してくれていたのがイタチなのだから。使命を受け入れて生きて来た自分の“強さ”を、イタチは愛してくれていたから。
今、“この時”に使命を果たさぬ自分を、彼は案じてくれている。
そう……“案じて”くれているのだ。
「イタチ」
また、心配を忍ばせた目。
そこに向けて、伝える。
「“今さら”だけど、私はアナタと一緒に行く」
本当に今さら……だが、ずっと言いたかった言葉。
「私を……連れて行って……」
風が流れた。急に水の香が強くなった。
ナルトもビーも、何も言わなかった。
イタチは目を伏せた。
(大丈夫……大丈夫だから……)
彼に向けて想いを飛ばす。
今度こそ……今度こそイタチと一緒に行きたいと、強く願っている。
たとえ火影の命に反することになろうとも。使命を果たすという生き方を、ここで変えることになろうとも。また別れを繰り返して、苦しむことになろうとも……。
覚悟はできている。
だから、大丈夫だから……。今度こそ……。
「ナナ……」
イタチは今度も応えてくれた。
「わかった。行こう。一緒に」
彼に向かってうなずいた瞬間、油断したのか、涙がこみ上げた。
それを堪えて、言った。
「ナルト、イタチと穢土転生を止めたら、必ずアナタのところに戻るからね!」
ナルトは、心から嬉しそうに笑ってくれた。
「ああ! 待ってるってばよ!」
また、背中を押された。
本当はナルトに謝りたかった。
自分の存在自体が、無意識にも彼の負担になっていることを知っていたから。
だが彼は、自分を護ったり、九尾の始末をする使命などもう忘れろ……とは一度も言わなかった。
この“使命”……など、今はもう、逆にナルトの重荷でしかないのに。
「ありがとう、ナルト」
彼のそのやさしさに向けて、そう言った。
“使命”を“絆”に変えてくれた彼に。
「ぜってー戻って来いよ!!」
その“光”に再会を誓ってうなずいたとき、イタチがほっと息をついたのがわかった。
ようやく安堵してくれた……そう思うと、うれしかった。
そして、再び戦いの場へ向けて走り出したイタチの背を、もう見失うことはなかった。