ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

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儀式

 

 一行はそこから里の中心部へ向かった。

 次の目的地は街中を通らないと行けないのだと大蛇丸は言う。

 もちろんフードを深く被ってはいたが、一行を気に留める者はいなかった。

 さすがに戦争中というだけあって、里の防衛に残った忍たちが哨戒して回っているが、すれ違っても特に警戒されることはなかった。

 そんななか、ふとサスケが立ち止まった。

 そして、

 

「来い、ナナ」

 

 ナナの腕を引っ張ったかと思うと、そのまま抱えて近くの建物に登った。

 鮮やかな身のこなしで、屋上の給水タンクの上に立ってフードを取る。

 

「サスケ、急にどうしちゃったの?」

 

 見上げながらつぶやくと、大蛇丸はため息をつくように言った。

 

「私が木ノ葉崩しをやる前と同じだわ……」

「何が?」

「たとえ里や彼自身が変わってしまったとしても、ここは彼の故郷に変わりない。感傷に浸って過去をなぞることで、己の決意を再確認する。そういう儀式なのよ」

 

 ふーんと納得したようにうなずいて、水月はサスケとナナを見上げた。

 里を見下ろすサスケ。そして、ただ寄り添うナナ。

 二人が今、どんな気持ちで“故郷”を眺めているのかなど、わかりはしなかった。

 

 

 何事もないまま街を横切って、再び里の外れにたどり着いた。

 そこは復興が進んだ街の光景とは違い、集落の建物が完全に崩壊した瓦礫の散乱地帯だった。

 そこに、うちは一族の『南賀ノ神社(なかのじんじゃ)』が建っていた場所があった。

 サスケはある地点の瓦礫を退けると、写輪眼を発動した。

 すると、彼の足もとの3畳分ほどの岩が地面から切り離されたように持ち上がり、宙に浮いた。そしてその下に、地中に続く階段が現れた。

 

「行くぞ」

 

 サスケは味気なくそう言って、暗い地面の下へと降りていく。もちろん、ナナは静かに後に続いた。

 中はひんやりと涼しかった。

 サスケは階下の奥まった空間で立ち止まる。

 そこは案外広々としていた。「うちは」の家紋と重々しい石碑が置かれ、どうやら一族の集会場のようだった。

 なるほど、一族が里に隠れて密議するにはもってこいの場所だ。

 サスケは石碑の横に火をともす。冷たい石壁に5つの影がぼうっと浮かび上がった。

 水月はナナを見た。

 石碑を眺めている。その顔は明かりが差しても青白く、未だ死人のようだった。

 

「それじゃあ始めるわよ」

 

 大蛇丸がマントを脱ぎ捨てて言う。

 この先の「儀式」については、道中すでに聞かされていた。

 大蛇丸が面をつけて“屍鬼封尽の死神”をその身に憑依させ、その腹を裂く。大蛇丸はとりあえず自分が“人柱”になるつもりらしい。

 腹が裂かれると、死神に封印されていた大蛇丸の両腕の力が戻る。それと同時に、同じく死神に封印されていた“4つの魂”も解放されるということだ。

 

「ナナちゃんなら、こんな回りくどいやりかたじゃなくても、死神を操ることができると思うけど……」

 

 大蛇丸はニヤリと笑って横目でナナを見た。

 和泉一族の人間はそんなこともできるのか……と、先ほど納面堂でのことを思い出しつつ感心するが、

 

「ナナには力を使わせない」

 

 サスケがきっぱりと断った。もちろん、ナナは聞こえていないかのように反応を示さない。

 

「わかってるわよ」

 

 大蛇丸は肩をすくめて面をつけた。

 少しの間……そして。

 

「グアアッウウ!!」

 

 大蛇丸が不気味なうめき声を発するとともに、その背後に“死神”の姿が見えた。

 重吾のひと回りもふた回りもある大きさで、実体はないのかもしれないが、とにかくその姿は強大でおぞましい。死神というよりまるで鬼……そう言われた方がしっくりときそうだった。

 “死神”は痩せこけた手で短刀を握っていた。そしてそれを唐突に己の腹部に突き立て、真横に切り裂いた。

 

「ぐふっ」

 

 同時に大蛇丸の腹から鮮血が飛び出る。どうやら本当に“死神”が憑依して、一体となっている状態のようだ。

 そして“死神”の腹からいく筋かの光が飛び出し、宙を彷徨う。

 

「戻ったわ……!」

 

 そのひとつが大蛇丸の手に触れ、中に取り込まれるようにして消えた。

 大蛇丸に力が戻ったということか……。

 事前に段取りを聞いていたおかげで、水月はどうにか理解する。

 ということは、ここから自分にも役割が回ってくる番だった。

 

「サスケ、水月、重吾、準備なさい!」

 

 面を取った大蛇丸が血を吐きながら合図する。

 やることは頭に入っていた。

 まず重吾がサスケの身体から「ゼツ」とかいうトビの監視役を引き出す。重吾の呪印仙術の力で、大蛇丸の予測通りサスケの身体から「ゼツ」が出た。全部で6体だ。

 次に、大蛇丸が噴出した己の鮮血を利用して、穢土転生の式印を床に描く。重吾はその4つの式の中に、ゼツを1体ずつ転がした。

 

「水月、重吾、残りの2体は任せるわよ……」

 

 苦しげに、だが相変わらず威圧的な口調で命を受ける。

 水月自身にも出番が回って来た。

 

「了解っス!」

 

 残りの2体のうち1体を捕らえ、馬乗りになって押さえつける。そしてその口を無理やり上下に開かせた。

 もう1体を重吾が始末したのを見届けると、大蛇丸はいよいよ穢土転生の術を発動させる。

 式印の上に寝かされた4体のゼツたちは、いっせいに苦しみ出した。

 

「さぁ、来るわよ!」

 

 同時に、大蛇丸は身体を捨て……何度見てもおぞましいものだが……口から蛇が飛び出し、水月が拘束するゼツの口の中へ入った。

全力で押さえつけていたゼツは、見る間に大蛇丸へと姿を変える……。

 そして、つぶやく。

 

「全てを知る者たち……」

 

 水月は大蛇丸の上から退けるのも忘れて、悲鳴を上げる4つの塊を見た。

 やがてそれはゼツの形からチリの塊に変化したかと思うと、だんだんと人の形になっていく。

 そして現れたのは……。

 

「先代の火影たちよ」

 

 “伝説”の初代火影以下、先代までの火影がそこに並んでいた。

 

「これが……初代火影。『忍の神』と謳われた柱間……」

 

 思わず唾を飲み込んだ。

 「忍の神」といえば、忍ならば誰でも知っている。たとえ木ノ葉の忍でなくとも……だ。

 すぐに火影たちは目覚め、こちらを見た。

 さすがの彼らもこの状況を掴めていないようだったが、大蛇丸と最も関わりの深かった三代目火影が的確な予測を立てる。

 

「初代様、どうやら我々は再びこの世に蘇ったようです」

 

 三代目がそう告げたことで、歴代火影たちの会話が始まった。

 錚々たる顔ぶれを前に警戒をしないわけにもいかないので、水月はそっとサスケの側に寄る。

 サスケはじっと彼らを見つめ、その横にいるナナもまた同じものを見ているようだった。

 だが、その表情からはやはり感情をうかがい知れなかった。

 彼女を気にしないようにして、注意深く火影たちを見る。その視線がいつこちらを向くのか怯えていたが、彼らに興味があるのもまた事実だった。

 初めに抱いた感想は、初代火影が思い描いていた忍と少し違ったということだ。

 思わず警戒を緩めてしまうほど、初代火影は“人間らしい”という印象を受ける。今のところ特に強烈な威厳も感じなければ、表情を良く変えるところは伝説の『忍の神』らしくないように思う。

 それに、弟である二代目からの辛辣な言葉にしょぼくれるところと見ると、貫録すらないように映った。

 だが、いつまでも彼らのやり取りを観察しているわけにもいかなかった。

 

「今回は少し事情がありましてね……。私の用事ではないのです。彼のたっての希望で話し合いの場を設けさせていただきました」

 

 そう、大蛇丸がやけに丁寧に切り出すと、火影たちの会話が止まった。

 

「オレはうちはサスケだ」

 

 サスケは当然、臆することなく火影たちに名乗った。

 

「アンタたちに聞きたいことがある」

 

 三代目が気づく。

 

「サスケ……か?!」

 

 そして、

 

「ナナちゃん?!」

 

 何故か四代目がナナの姿を見て声を上げた。

 

「ナナ……?!」

 

 三代目もサスケの影にいるナナの姿を見とめて、さらに驚いた顔をする。

 ナナは静かにマントを脱ぎ去った。

 

「おお……その白い袴、もしや和泉の……!」

「まさか、本家の娘か?!」

 

 その姿に、初代と二代目さえも顔色を変えた。

 

「何故、和泉の者がここにおる?!」

「うちはの者ならわかるが、何故大蛇丸とかいう悪党と一緒にいるのだ?」

「扉間、そういう言い方はよせ!! うちはは……」

「兄者は甘いのだ!」

「しょ、初代様、二代目様、彼女は“九尾の件”で和泉より派遣されたのです」

 

 兄弟の争いを、三代目が鎮めた。

 

「私が死ぬきっかけとなった九尾襲来事件というのがありまして……。その後、和泉の里から“九尾の抑え”として来てくれた術者があのコです」

 

 四代目がそう補足する。

 

「本人の希望で、木ノ葉に来てからは忍となりました」

 

 水月は、今さらながらに「和泉一族」の人間がいかに稀有な存在であったかを思い出した。

 だが当の本人であるナナは、まったく周囲の出来事に興味がないかのように、能面のような顔で突っ立っている。

 

「ナナちゃん……なんだか前とは雰囲気が違うようだね……」

 

 四代目もその様子に気づいたのか、案ずるように言う。

 

「じゃが……サスケと共にいたのか……」

 

 続けてため息のようにつぶやいた三代目は、まるで安堵したかのようだった。

 

「オレたちのことはいい……聞きたいことがあると言ったはずだ」

 

 ナナへの視線を遮るかのように、サスケが口をはさんだ。

 火影たちを前にするには危険すぎるほど高圧的な態度だ。大蛇丸が彼らの動きを握っていなければ、水月はこの場から退散していたであろう。

 

「三代目」

 

 しかしサスケは、低い声で目的の問いを口にした。

 

「イタチになぜあんなことをさせた……?」

 

 三代目の表情がまた変わった。

 

「全てを知ったようじゃな……」

「イタチは……オレが殺した。一族を殺された復讐として……」

 

 ろうそくの炎に照らされた火影たちの影が、向こうの壁で一様に揺らいだ。

 

「その後、トビとダンゾウに本当のことを聞いた。そしてオレは、木ノ葉へ復讐することを決意した……。だが……」

 

 サスケが一度、言葉を止めた。

 水月はサスケの横顔を見る。そして、その向こうのナナの顔を……。

 ナナは目を伏せ、じっと床だけを見つめている。

 

「だが、アンタの口から聞いておきたい。イタチの全て……“真実”を」

 

 彼女の心中は察し得なかった。相変わらず、灯も照らせないほど青白い顔をしていたから。

 だが、確実にこう思った。

 これから耳にする“真実”は、ナナにとっては凶器となるのだ……と。

 

『ナナは連れて行く。たとえオレの知りたいことを、知りたくなくてもな……』

 

 不意に、あの洞窟でサスケが言った言葉を思い出した。

 ナナはサスケと違って「知りたくない」のだ。この先、火影たちが語ることを。

 だが、それを拒絶する力ももう枯れてしまったのだ。

 意思も気力もなく、ただ、サスケと運命をともにする……。サスケもそんなナナを受け止める。

 ……そういうことか、と、ようやく納得できた気がした。

 

 

 

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