「貴様……、いったい何者だ?!」
二代目がナナを睨みつける。殺気を飛ばしているようにさえ見えた。
「いずみナナ……和泉菜々葉は……、九尾襲来を予知できず、またその力を封印できる術者を送れなかったことへの“代償”として、和泉一族から木ノ葉へ送られて来た娘です」
しわがれた声で三代目が答えた。
「九尾の人柱力が九尾を抑え切れずに暴走した際、人柱力から九尾を抜き取り、自身の身に宿らせ、その命をもって九尾を永久に封印すると……。そのために、幼い頃から和泉の里にて修業を続けてきたのだと……」
まるで言い訳でもするかのように。
「そして、今の和泉にはそれだけの力を持つ者がいないゆえ……“意図的に”産み出された子だということです……」
当のナナは……。
何が話されているのか気づかぬように、ただ座り込んでいる。
「意図的に……転生か……?」
「なるほど、それであのような力を持ったか。だが、あの眼は確かにうちはの写輪眼……。いや、万華鏡写輪眼の文様と瞳力であった……」
怪訝と猜疑、そして、
「ナナちゃん……君は成葉の……」
憂慮。
それらをないまぜにぶつけられても、ナナは動かない。
が、代わりにサスケが火影たちを振り返った。
「四代目……。アンタは“ナナの母親”のことを良く知っているんだろう?」
そして唐突に問いを口にする。
「え……?」
「ナナは“和泉成葉の生まれ変わり”としてこの世に転生した……と。三代目たちもそう聞いていたはずだな?」
三代目、四代目……ナナを知る二人の火影は、予期せぬことに口をつぐんだ。
水月も思わず重吾と顔を見合わせる。
「ナナ自身もそう聞かされて育った……。木ノ葉に来てからも、ずっとそう思って生きていた。だが……」
いやな緊張が胃を締め付けた。
それをまぎらわすように大蛇丸のほうをうかがうと、意外にも面白がっている様子はなく、どことなく神妙な面持ちでサスケの声を聞いている。
「でも、違った……。ナナは……」
まるで恨み言のように、サスケは“ナナの生”を明かした。
「和泉成葉の“産まれなかった子”の生まれ変わりだそうだ……」
驚いたのは三代目と四代目、そして水月と重吾だった。
「え? どういうこと?」
水月は思わず声を上げた。
自分より詳しい事情を知っていた香燐から聞いていたのは、いずみナナは希代の陰陽師であった故人である『和泉成葉』の魂を一族本家の娘に転生させて産まれた……という話だった。
大蛇丸のお気に入りだった香燐の話を疑う余地はない。
だから今の今まで、彼女は『和泉成葉』の生まれ変わりにして、和泉一族本家の人間であると思っていた。だからこそ人柱力の“保険”になり得る力があるのだと……。
いや、だが……さっきの眼……蒼に文様の入ったあの眼は、二代目が問い詰めるまでもなく『写輪眼』に似ていると、水月も心のどこかで思っていた。
「じゃあ君は……あの時、成のお腹にいた……?」
「だから……」
サスケは一転して気だるそうに言った。
「四代目、あんたは“ナナの父親”のことも知っているな?」
そんなサスケの手の中で、ナナの細い肩はまだ震えている。
「……うん……」
四代目は自分の気持ちを抑えるように、ゆっくりと答えた。
「確かに……うちは一族の人だったよ……」
それが全ての答えだった。
「げ、マジ……?」
水気は思わずつぶやいた。
「だからどう」……ということはわからなかったし、はっきり言って自分には関係のないことだった。
だが、すでにその血が持つ力を目のあたりにしてしまった。いや、唐突に骨身に感じてしまったのだ。
あの命が剥ぎ取られるような悪寒を思い起こさせるように、サスケは続けて告げた。
「和泉成葉でなく、“その子供”を転生させるよう仕組んだのは『うちはマダラ』だと……イタチが明かした」
背後の灯りが、突き付けられた真実に呼応するかのように大きく揺れた。
二代目さえも難しい顔のまま黙り込んだ。
「ナナちゃん……」
唯一、驚きよりも憐みの色を濃くした四代目が、何か言葉を飲み込んだ。
恐らく彼は知っている……。
水月にもわかった。
サスケの口ぶりでは、四代目はその“和泉成葉”と懇意であったという。であれば、ナナの父親を彼は知っているはずだった。
だが、四代目はその名を口にしなかった。サスケもそれ以上は聞かなかった。そしてナナも……。
「“あの眼”を開眼したのは、ナナの中にうちはの血が流れているからだ」
先ほどの二代目の問いにサスケはただ淡々と答えた。
「イタチの最初の死で写輪眼を……。そして二度目の死で、万華鏡写輪眼を……」
「イタチの死」という台詞でさえ、淡々と……。
そしてナナも、やはり何の反応も示さない。
「ま、待て……」
その流れをせき止めたのは三代目火影だった。
「ナナはイタチを知っていたのか?」
しわがれた声で問う。
「ナナが木ノ葉に来た時、すでにイタチは……」
知らないのか……。そう思った。
当時の里長は、ナナが木ノ葉に行く前に、うちはと和泉に関わりがあったことを知らないのだ。もちろん、ナナが木ノ葉で暮らし始めてからも。
水月だって詳しいことは知らない。
ただ初めて会った時、焼け焦げたようなマンダの傍らで聞いた。
『お前、うちはイタチの許婚だったんだろ?』
蔑むように言ったのは香燐だった。
あの時のやり取りで、だいたいのことを察したつもりだ。
そして、あの海辺の別れ……。あれは本当に特別だった。
イタチを殺したサスケと、止めようとしていたはずのナナ。二人、波打ち際で抱き合って……。
あれはまるで、イタチの死を二人だけで悼んでいるように見えた。
そして二人は、穏やかに別れた。
あの光景を見て、水月は
今も……『二度目のイタチの死』を見届けた二人も……。
「ナナとイタチは許嫁だった」
サスケはまた淡々と告げた。
だがその声は、あの時の香燐のものよりもずっと冷え切っているように思えた。
「よ、よもやナナとイタチがそのような関係にあったとは……」
三代目火影はため息をつくように言った。
彼は本当にこの事実を知らなかったようだ。彼の兜が左右に何度も揺れている。
「あの秘境の一族が……最初からうちはと組んでいたということか?!」
その“事実”をとうてい信じられないといったように、二代目も大きく頭を振る。
「その娘は自分がうちはの血を引いている者の生まれ変わりとは『知らなかった』と、お前は先程言っていたではないか。知らなかった
冷たい風を振り払うかのように、二代目はますます声を張り上げた。
「本当は最初から知っていて、許嫁のイタチとやらがうちはを亡ぼした後も『九尾の抑え』という口実で木ノ葉に来た。そして“父方”の悲願を果たそうと時を待っていた。だからサルにも黙って……」
「ナナちゃんはそんなコじゃありません!」
二代目の台詞を途中で切り捨てたのは四代目火影だった。
「彼女は“九尾の人柱力”である僕の息子にいつも寄り添い、仲間としてその心を信じ、一緒に戦ってくれました。一族の大人同士が木ノ葉に対してよからぬことを企てていたとしても、イタチ君もナナちゃんも本当にそうするつもりはなかったと思います!」
「二人ともその事実を隠すことが最善と考えたのでしょう。現に二人は“木ノ葉の忍”として立派に務めを果たしてくれていました」
四代目の言葉に、三代目もまた遠くを見るような表情で口添えする。
「ナナちゃん……」
二代目が思案気に口を閉ざしたのを見計らって、四代目がわずかに身を乗り出した。
「イタチ君の“死”が……君を変えたんだね……」
彼はナナのことを気遣っているようだった。
水月はナナを注視した。今まで以上に。
四代目の問いが「是」であることはわかりきっていたが、ナナが何と応えるのかはまったく予想がつかなかったのである。
だがナナはやはり、まるで周囲が自分のことを話しているのに気づいていないかのようにただ眼を抑えてうつむいていた。
「さっき二代目が言ったとおりだ」
またも、代わりに答えたのはサスケだった。
「深い愛情と喪失……。それがナナを
斬りつけるような声で。自分自身をも斬りつけるような声で。
「“イタチの真実”によって、オレたちは生き方を変えられた」
水月はやっと理解した。
「だからその原因となった全てのこと……、イタチにあんなことをさせた“里”とは、“忍”とは何なのか……」
サスケは己の欲求だけでここにいるのではない。ナナの呪いも背負っているのだと。それを火影たちにぶつけているのだと……。
「全てを話してもらう」
歴代の火影たちを前に発したサスケの言葉はまるで“脅迫”だった。水月がヒヤリとするほど高圧的な声色で……。
だが火影たちは撥ね付けることも一笑することもなかった。
少しの沈黙が流れた。空気が乾く……。
「全て……とな?」
大きく息を吐くように、初代がそれを破った。
水月もようやく呼吸を思い出す。
「……兄は木ノ葉に利用された。それを全て承知の上で、命を懸けて里を守り、木ノ葉の忍であることに誇りを抱いて逝った……」
サスケは静かに語りながらナナから身体を離し、ゆっくりと立ち上がる。
「家族……一族を殺してまで、自分が死んでまで守ろうとする里とは何だ?」
ナナを背に、サスケが影を強めた。
「こんな状況をつくりあげ……、それをよしとする忍とは何なんだ?」
サスケの眼は闇よりも暗く、まっすぐに初代火影を見据える。
「アンタの言葉を聞いて……本当のことを知ってから、オレは自分で答えを出す」
そして、何かが燻っているような想いを突き付ける。
「木ノ葉に復讐をするのか……それとも……」
初代火影とサスケは睨み合った。
だが、当然サスケの言葉を聞き流せない者がいた。
「木ノ葉へ復讐だと!?」
“死体”であるはずの二代目から、火影として申し分のない殺気が放たれる。
「うちはの悪に憑りつかれた小僧と、それに加担する和泉の娘……!! ワシがここで……!!」
先ほどのナナから放たれたモノとは違っていた。この感覚は水月もよく知っている、忍の“殺気”というものだ。
だが、規模が尋常ではなかった。
今まで感じたことのない鋭い……死の感覚。物理的な攻撃への恐怖が沸き起こる。
しかし、
「よせ、扉間……」
初代が彼を睨みつけた。
瞬間、空気が割れたように音を立てた。
悪寒が高ぶって、水月は大蛇丸の背に身を隠した。すでに身体は液化しかけている。
重吾はサスケをかばうように前に出た。
そしてサスケは……ナナの姿を隠すように立ち、まっすぐに火影たちを見据えていた。
「扉間、指を下ろせ」
初代火影が言う。
床や壁に幾本もの亀裂が走り、破片が飛び交う。
「わかった……。わかったからそうチャクラを荒立てるな……兄者」
観念したように、二代目はため息をついた。
それを見て初代も力を収め、その場は余韻を残しつつも鎮まった。
「ガッハハハハ」
そして彼は突如、豪快な笑い声を響かせる。
「いやぁ、すまんすまん」
この場にそぐわぬ表情で、
「しかし……よい兄をもったな、サスケとやら。オレ以上の忍ぞ」
そう言った。
少なくとも水月には、それが誤魔化しや皮肉には聞こえなかった。
「里について話してやってもよいが、ちと長くなるぞ」
「できれば早急にこの子の聞きたいことを話してあげてください。あまり時間がないので」
大蛇丸が口を挟み、うちはマダラが復活し戦争が起こっていることを告げた。
その台詞を聞いて、水月は今が大戦のさ中であることをすっかり忘れていたことに気づく。
火影たちはそれぞれに、遠い戦場でのチャクラの動きを感知したようだった。
「確かに、2時の方向に禍々しいチャクラを感じる……!! これは……マダラのもので間違いない!!」
「ならばワシはその戦場へ向かうぞ!」
二代目、続けて三代目が勇んで口を開く。
「戦場へ向かいたいなら話を済ませてからにしてください、猿飛先生」
「話は後じゃ! お前はマダラが復活したことの重大さをわかっているのか?!」
「私はこの子に付きます。この子が納得しなければ、あなたたちを使って木ノ葉を潰すことにもなりかねませんよ?」
かつての師弟、三代目火影と大蛇丸が睨み合った。
「大蛇丸とやら、貴様は何か勘違いをしておる……」
そんな中、二代目は黒い目で大蛇丸を睨みつけた。
「そもそもこの術を考案したのはこのワシだ。貴様ごときの穢土転生に縛られるわけがなかろう!」
再び放たれる殺気。
だが、大蛇丸は不敵に笑った。
「二代目様、確かにあなたなら無理やり私の縛りを解くことができるかもしれませんね……。けど、あのコは私の縛りどころかあなたの抵抗をも凌駕する。さっきのでお気づきになっているはずですよ」
皆、いっせいにナナを見る。
「彼女は現世で最強の陰陽師です。いえ、あの眼を持つ以上、もしかしたら史上最強と言ったほうが正しいかもしれない。あなたがたの魂をどうこうすることくらい、きっと簡単なことと思いますが……」
二代目は黙りこくった。
先ほど味わわされた力はもとより、もともと「陰陽師」、「和泉一族」の力について、彼は良く知っているようだった。
「くっ……」
二代目は行動を起こすことを諦めた。
そんな苦虫を噛み潰したような顔の二代目の横で、初代が大きくうなずいた。
「わかった」
先ほどのように大きな笑い声で空気を変えることはしなかった。
「嘘偽りなく全てを話そうぞ……。里のこと、忍のことには、その娘の“生”を操作したうちはマダラが深く関わっておる」
彼がそう言っても、ナナはサスケの背後でうつむいたままだった。