ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

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未来のこと

 誰も居なくなって、ナナは少し離れた場所へ移動した。

 めったに人が来ることがない、火影岩の片隅。大好きで、大嫌いな場所……。

 ここで、よくサスケと二人で会った。

 たいていナナが先に来てぼーっと里を眺めているところに、修業を終えたサスケが現れた。そして特に話をするでもなく、二人で並んで沈む日を見送っていた。

 その時間だけは、確かに二人の間に絆を感じられた。

 きっと、サスケも……。

 だから、ここが好きだった。

 

 だがここは、サスケに別れを告げられた場所でもあった。

 はっきりと、「イタチを殺す」と告げられて……そして。

 

『オレは……ずっとお前が好きだった』

 

 そう言ってサスケは去って行った。

 心に大きな穴が開いた瞬間だった。

 そこにあったのが“恋”だったのだと、終わった瞬間に気づかされた。

 だから、ここは嫌いだった。

 

 ……と。

 そんなふうに、感慨にふけっている時間は残されてはいなかった。

 だがどうしても、もう一度この場所で……まだ熱を帯びたサスケの言葉を噛みしめたかったのだ。

 

『必ずオレが護る』

 

 サスケは初めて「護る」と、そう言ってくれた。

 

『だから、安心して待っていろ』

 

 何度も繰り返された別れの時に「待っていろ」と言われたのも、初めてだった。

 

『全てを、終わらせたら……』

 

 全てが終わったら、サスケは戻って来る……。

 そんな“約束”は、したことがなかった。

 全て……と、そう言ったサスケの心はよくわかっている。

 火影たちの話を聞いて、歴史を知って、彼らの想いを知って、サスケはまた、前に進んだ。

 

『オレは戦場に行く。この里を、イタチを……無にはさせん!』

 

 戦場に向かったサスケが“何”を終わらせるつもりなのか……。

 サスケが迷いを捨てて掲げたその意志は、ちゃんとこの眼に映っている。

 サスケは本当に“全て”をその手で終わらせるつもりだ。戦争だけじゃなく……これまでの忍世界の“負の連鎖”を。

 過去を断って、終わらせて……そうやってイタチの想いを新しい未来へと繋ぐつもりなのだ。

 きっと、その意志は周囲からすればひどく歪なものだ。ナルトの想いとは必然的に相反することになるだろう。サスケ自身も、いっそう深く傷つくことになるはずだ。

 そんな歪んだ未来を望みながらも、サスケは今、“二人の未来”を語った。

 たとえ全てを終わらせようとも、全てを断ち切ろうとも、二人の繋がりだけは決して終わらない。この絆は過去にはならない。

 それはサスケが“終わらせた世界”にも、自分の存在があるということなのだ。そういうつもりで、未来の話をしてくれたのだ。

 

 未来……。

 

 そんなもの、とっくに望まなくなっていた。

 ただでさえナナにとって「未来を想像する」といえば、それは訪れるかもしれない危機に対してのことだった。

 自分の幸福な未来など考えたこともなかったし、そういう発想すらなかった。

 一時だけ、「イタチとサスケと自分と三人で、木ノ葉の里で遊べたら……」という願いを持った。ごくごく、幼い頃に。

 しかしそれも「夢」と意識する前に掻き消えた。

 だから、第七班結成の時の自己紹介で「夢」を発表する時にとても戸惑ったのだ。

 あの時、思ったまま口にした「夢」。

 ナルトが火影になったのなら、それを支えられるような忍になりたい……。それは彼と彼の中の九尾を「見張る」のではなく、見守り、寄り添うことだった。

 共に生きたい……と。

 が、それでさえも、もう望まない。そんな未来さえ、もう見えない。

 サスケも、それを知っているはずだった。

 イタチが死んだとき、物悲しい波打ち際でそっとサスケと抱き合って……互いにはっきりと別れを告げた。

 その時に、サスケは確かに知っているはずだった。泣き枯れてしまったこの心が、サスケにはちゃんと見えているはずだった。

 「木ノ葉を潰す」と決意したサスケに、きっぱりと別れを告げた理由が。

 もう、何も見たくないから。木ノ葉を潰すなら、その時に“敵”として殺して欲しかった。

 それが叶わなくても、もしサスケがナルトを殺したのなら、その時はナルトと共に死のうと思った。

 サスケはその仕組みもわかっているに違いなかった。ナナがナルトと運命を共にするという仕組み、その意味を。

 九尾の人柱力であるナルトをサスケが殺せば……溢れ出た九尾を収めるのはナナの役目だ。それは己自身の命と引き換えに、九尾を永遠に封じる禁術だから……だから、ナルトとナナは一蓮托生だった。

 サスケはそれを琴葉に聞いているはず……いや、誰よりも自分のことを理解してくれている彼なら、きっとすでに悟っている。

 だから、あの時。

 

    ちゃんと、殺してね……。

 

 潮風に乗せた声にならないその想いを、サスケはちゃんと受け止めてくれていた。

 願いを叶えてくれるはずだった。望まない未来を……ちゃんと断ち切ってくれるはずだった。

 だが。

 

 

『最期にイタチがくれた記憶の“続き”を……二人で話そう』

 

 

 サスケは今になってそう言った。偽るものがない表情で。

 頬に振れた手はとても温かく、強く、優しかった。

 一度も、思い描いたことのなかった、サスケとの未来……。

 今、その言葉がとてもうれしかった。

 

「ありがとう……サスケ……」

 

 とても、幸せだった。

 歪な未来でも、サスケがこの絆を望んでくれていることは、とても幸せだった。

 それがたとえ、愛じゃなくとも……。歪んだ世界で、血を垂れ流し続けていたとしても。二人の魂が闇に堕ちて救いようがなくなってしまっても。

 

『お前たちがこれからどうなろうとも……』

 

 イタチが最期に言っていた。

 

『オレはお前たちを、ずっと愛している』

 

 たとえどんな姿になろうとも、たとえどんなふうに生きようとも、愛している……と。

 だから。

 

「だから、サスケ……私も……」

 

 イタチにもらった愛を胸に、想いを口にする。

 

「アナタを、ずっと愛してる……」

 

 おぞましい光を放つ満月を、まっすぐに見つめた。

 サスケに「キライ」と言ったあの夜の嘘を、今、真実で包み込んだ。

 

「サスケ……」

 

 涙がひとつぶ、右目の端から零れ落ちた。

 もうとっくに、枯れ果てたと思っていたのに……。

 

「ありがとう……」

 

 溢れる想いを片手で拭って、大きく深呼吸をした。

 赤い月光に照らされた里を見回して、それから。

 

「ごめんね……」

 

 もう一度そっとつぶやくと、ナナはその場から走り去った。

 

 

 サスケとの未来は……やはり、望めなかった。

 

 

 

 

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