「聴取に協力してやってるんだから、スイーツの差し入れとかしろよな! ていうか、さっきから言っているだろう、ウチも『被害者』なんだって」
事情聴取のあと、再び牢に戻されたカリンは、扉の小窓から暗い通路に向かってぶつぶつ言っていた。
「だいたいこの牢、ショボいんだよ。もっと柔らかいベットじゃないと身体が痛くて眠れねーんだよウチは」
誰も答えないことは知っていた。だが、こうしてくだらないことを悪態づいていた方が気が楽だった。
「情報提供者としてむしろ丁重に扱えよな……」
何かに向かって口を動かしている間は、「サスケのこと」を思い浮かべなくてすむから。
それでもやはり言葉は尽きて、代わりに溜息しか出なくなったとき、新たに人の気配を感じた。
感じ取ったチャクラは三つ。
そのうちのひとつは知っているような、知らないような……今まで感じたことのない不安定なチャクラだった。
「なんだ……? コイツ……」
一度感じたチャクラは全て記憶している。判別できないことは今までなかった。だから、このもどかしい感覚は初めてだった。
「誰だ?」
小窓の限られたすき間から、カリンは暗い通路を覗く。
足音はだんだんと近づいて、ついに彼女の前を通り過ぎた。
「あ……」
思わず声を上げた。
不可思議な感じのチャクラの持ち主は、ちゃんと
「いずみナナ……?!」
両側を看守の忍に拘束され、手には枷をつけられて、頼りない足取りで歩いて来たのは、いずみナナだった。
「お前、なんで……?!」
声をかけたつもりはなかったはずが、自然とそうしてしまっていた。
しかし、ナナはその声にまったく反応を示さなかった。ただ看守がひと睨みよこしただけだった。
カリンは癖でナナのチャクラを注意深く感じ取った。
やはり、まるで一瞬ごとに周波数を変えているかのように、不安定で不思議な感じがする。
そして、死の間際の人間のように弱々しい……。
「なんでアイツが……」
少し離れた牢の扉が開かれ、また閉じられた音がした。
再びカリンの前を通ったのは、看守の忍だけだった。
「何があったんだ?!」
思わずそう尋ねた。当然、忍からの答えは返って来なかった。
ナナに何があろうと関係ない……という気持ちはあった。
それでも、正直ナナのことは意識していた。
本当に、サスケのことが好きだったから。
サスケが愛した女のことを、意識しないはずはなかった。
いたずらにナナの存在を明かしたのは、大蛇丸だった。あの妖しい笑みで、サスケに“想い人”がいることを告げてきた。
その名前を知ってから、カリンにとって『いずみナナ』は“敵”だった。
木ノ葉を抜け、大蛇丸を殺したサスケが現れ、『蛇』が結成されても、ナナへの敵対心は消えなかった。
悲しい女のさが……なのか、目の前にサスケがいても、木ノ葉に捨てて来たはずの「ナナ」を、まだ想っていることを知っていたから。
遠くから、サスケの心を支配する「ナナ」が憎かった。どんどん憎しみに染まるサスケが、それでも捨てきれない「ナナ」への想いに嫉妬した。
だから、初めてナナに直接会った時、最大の切り札を出して致命傷を負わせてやった。サスケの「イタチへの憎しみ」に「ナナへの想い」を掛け合わせ、攻撃した。
あの絶望したナナの顔にはせいせいした。ナナに背を向けたサスケに満足した。
それなのに……。
「あれは……なんだったんだよ……」
イタチを殺したサスケと、それを見ていたというナナは、ただ黙って抱き合った。
潮風が強く吹き付ける浜で、自分たちに背を向けて、二人で“なにか”を終わらせていた。
サスケに切願を達成した歓喜はなく……ナナには悲哀しかなく……。新たに「木ノ葉潰し」という目的を掲げたサスケに、ナナは別れを告げた。
サスケもナナを振り返らなかった。
何の終わりか、わからなかった。
ただ……。
おそらく、自分だからわかったのだとカリンは思う。
代わり果てた冷たいチャクラをまとったサスケは……己の憎悪に加え、ナナの悲しみも抱えている……と。木ノ葉への復讐という目的には、自分自身の想いだけじゃなく、ナナの想いも含まれているのだと。
イタチとサスケに何があったのか、詳しくは知らない。とうてい語ってなどもらえない。
が、サスケはイタチの死に対する復讐を始めた。
限りなく濃い闇の中……それは、確かに“ナナの傷”に対する復讐でもあったように思う。
サスケのチャクラと心を探っていた自分だから、そこまで感じ取ってしまった。
「くそっ……」
だから、今になってもやはりナナを意識せざるをえない。
「アイツは何を……」
サスケにとって、それほどに大切な存在を。