ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

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夢眼(ゆめ)

 忍の力とナナの力が合わさって、十尾の人柱力から尾獣を引き抜くことができた。

 オビトの脅威は去り、残る敵は『穢土転生』で蘇ったうちはマダラのみであった。

 すでに初代火影の封印術で拘束されていたマダラに、サイが封印術を仕掛けた。

 『虎視眈弾(こしたんだん)』……現れた“虎”がマダラの腕に噛みつく。

 

「よし! もう少し!!」

 

 サイに手ごたえはあった。

 同時に、マダラがいる場所で爆発が起る。

 だがそれは封印術ではありえないことだった。

 術者であるサイはもちろん、そこにいた柱間さえもそこを凝視する。

 

「やっとまともに戦える」

 

 声がした。爆心のマダラから。

 

「やはり()()()()()()身体でなければ!」

 

 土煙の向こうにマダラの姿が見えた時、サイは自分の術が完全に遮られたことを知る。

 墨の虎は、煙に飲み込まれたようにかき消されていた。

 

「血湧き肉躍ってこそ“戦い”だ!!」

 

 だが、わずかに興奮したマダラの背後から黒い炎がメラメラと立ち上った。

 

「サスケ?!」

 

 空を滑空する大鷹の背にサスケの姿があるのを、ナルトがいち早く見つけた。

 

「サスケ! こいつにただ術をぶつけても意味がねぇ! こいつは忍術を吸収すんだーてばよ!」

 

 『輪廻眼』を持つマダラに忍術は無効。

 ナルトはそれを知っていた。

 が、柱間は気づく。黒い炎はマダラに吸収されることはなく、その身体で燃え上がり続けているのを。

マダラは両の目を閉じていた。そのままニヤリと笑い、燃えた服を脱ぎ捨てた。

 

「それは?!」

 

 柱間は露わになったマダラの上半身を目にして驚愕した。

 彼の左胸には、自分自身の顔が刻まれていたのだ。

 

「柱間、覚えているか? かつて、うちはの石碑の前でお前に語ったことを」

 

 目を閉じわずかにうつむいたまま、マダラは話し始めた。

 

「石碑には、『相反する二つの力が協力することで本物の幸せが訪れる』、そう記されていると教えたな……。だが、別のとらえ方もできると言ったはずだ」

 

 このときには、ナルトもサイも気がついていた。

 マダラの胸にある柱間の姿……。

 それは、マダラが“柱間の細胞を取り込んだ”ということを表わすのだと。

 

「うちはと千手……相反する二つの力を手にした者が本当の幸せを手にする。そういうとらえ方もできやしないか?」

 

 マダラは皮肉をこめてそう言うなり、ナルトとサイの目の前に現れた。

 一瞬のことに避ける間もなく、二人はまともに殴られて後ろへ飛ばされる。

 マダラは二人がまだ地面を転がっているうちに、そのまま柱間の元へ向かった。

 その手が、柱間の首を掴む。瞬間、柱間のチャクラが一気に吸い取られた。

 

「これが仙術チャクラか……」

 

 マダラの胸の柱間の顔に、仙法の印が浮き上がる。

 

「なんだ、この程度か……。これならば簡単に扱えそうだな」

 

 マダラがそうつぶやいた。

 そのわずかな隙を狙って攻撃を仕掛けたのはサスケだった。

 サスケの刀がマダラに襲い掛かる。

 マダラは両目を閉じたまま無駄のない動きで避けてはいたが、サスケの方がいく分速かった。

 刃がマダラの腕を貫く。

 かろうじてマダラは反対の手で刃を掴んでいた。

 あと少しのところで、急所には届かなかった。

 

「感じるぞ。その万華鏡は……直巴か? どうりでいい動きをする。オレの輪廻眼が()()()()、お前のその眼をいただくというのもいいかもしれん」

 

 マダラの口の端が上がった。

 ナルトとサイは攻撃するタイミングを見計らっていた。このままサスケがマダラの動きを止めている間が好機であったからだ。

 が、彼らの耳にマダラの愉快そうな声が飛び込んだ。

 

「だが、ここにはもっと良い眼があるようだ」

 

 ナルトとサイは足を止めた。サスケも間近のマダラを睨み上げた。

 

「お前……やはり……!」

 

 サスケの脳裏に、火影岩の頂で別れたナナの顔が浮かんだ。続けざまに、さきほどこの空に現れたナナの眼も……。

 

「ナナの眼を狙っていたのか……!」

「ほう……あの娘、“ナナ”という名か」

 

 ナルトとサイは、明らかに肯定されたマダラの目的に悪寒を覚えた。予感していたサスケは当然の怒りを覚えた。

 だが、サスケの怒りが力に変換される前に、マダラは術を発動した。

 爆炎が起こり、周囲に熱した灰が飛び散る。同時にマダラはサスケの拘束を解いて移動していた。

 

「“ナナ”はお前たち忍の仲間か? どういう血筋だ? うちはの血を引いていることは間違いないようだが、何と掛け合わせてああなった?」

 

 足元に土煙をまとわりつかせながら、マダラが言った。

 怒りのあまり、サスケは言葉を失った。サイも、ナルトでさえも、奥歯を噛みしめるにとどまった。

 

「柱間。お前は知っているのか? この時代のことはお前も知らんか……」

 

 柱間は、すでにマダラの術によって身体の自由を完全に奪われていた。チャクラも吸い尽くされ、まさに人形のように地に膝をついたまま動けない。

 それでも言葉は話せたが、やはり彼も言い返すことはなかった。

 

「陰陽術を扱っていたということは、和泉一族の娘なのだろう? まさか和泉とうちはの一世代目か……?」

 

 マダラは自分で台詞を言いながら、次第に興奮していた。

 

「あの眼……あの写輪眼は確かに万華鏡だったな……!」

 

 閉じた両目の裏側で、マダラはナナの青い眼を見つめているようだった。

 

「ナナには指一本、触れさせねーってばよ!」

 

 ついにナルトが叫んだ。チャクラをたぎらせ、マダラを睨みつける。

 その隣に、サイも並んだ。その表情には、はっきりとマダラに対する嫌悪とナナに対する決意を浮かべていた。

 

「お前はオレらがここで止める! ナナのところには行かせねー!!」

 

 ナルトは拳を突き出してそう言い放ちながら、サスケを向いた。

 ただ静かにたたずむ彼の眼は、紅く燃えている。

 

「そうだろ!? サスケ!!」

 

 サイもサスケを見た。

 二人ともサスケの答えを知りたかった。いや、サスケの言葉を聞きたかった。

 今、ここで怒りを露わにしないサスケが、抱えている想いを……。

 

「ああ……」

 

 炎がくゆるように、サスケは低い声で言った。

 

「オレはナナを護る……そう、約束した」

 

 悠然として、それでいて深い、むき出しの想い。

 

「サスケ……」

 

 ナルトとサイは息を呑む。

 サスケの想いが言葉になったのを聞いたのは、ナルトにとっても初めてのことだった。

 

「お前たち、少し早まっているぞ」

 

 しかし、それさえも軽んじるようなマダラの声が響く。

 

「あの眼は興味深いが、今はそれよりももっと必要なものがある」

「用意はできてますよ、マダラ様」

 

 マダラの台詞に続いて、乾いた土から“白い者”が姿を現した。

 「白ゼツ」と呼ばれていた不気味なモノだった。

 

「待っていたぞ……」

 

 白ゼツはマダラに何かを渡した。

 それを、マダラは右の目に入れる……。

 

「これで、少しは楽しくなるか……」

 

 マダラの右眼が開いた。それはまさに『輪廻眼』だった。

 マダラはその眼で左腕の傷跡を眺めた。先ほどサイの虎が噛みついたところである。

 まだ、血が滲んでいた。

 マダラはそれを舐め、味を確かめたようにニヤリと笑う。

 

「オレの身体だ……!!」

 

 そして声高らかに笑いだした。

 

「やはり、そうか……!」

 

 柱間は気づいた。

 未だ血が滲むマダラの“身体”。サスケの天照を吸収できなかったこと。一時、両目の輪廻眼を失ったこと。

 そこから考えられるのは……。

 

「マダラは、もう穢土転生で蘇った身体ではない。()()()生き返ったのだ……」

 

 ナルトとサイは、思わず柱間を振り返った。

 

「生き返った……?」

「完全にって……、どうやって……」

 

 穢土転生の身体であったはずのマダラが、生き返った……。

 いったい何故?

 ずっとマダラと対峙していたはずの柱間にも、いつの間にそれが成し遂げられたのかわからなかった。

 最初に、ナルトが気づいた。

 

「まさか……オビトで……」

 

 彼は『人が生き返る』という術を間近で見たことがあったのだ。

 それを成す眼が輪廻眼であることを知っていた。そしてその術は、術者の命を引き換えとすることも。

 だが、オビトを案じている暇はなかった。

 

「左眼はもう少し時間がかかりそうだな」

「みたいですね」

 

 マダラと白ゼツが、目の前の者たちの存在を忘れたかのように話し合っている。

 

「では、先に神樹の花を咲かせてしまおう。手はずは整っているな?」

「もちろんですよ」

 

 「神樹の花」という単語を聞いて、柱間は神樹を仰いだ。

 オビトから尾獣が抜け、人柱力がいなくなったことで、おそらくは成長を止めている神樹。

 しかしその蕾はすでに大樹の梢に君臨し、月に向かって花開くのを待つばかりといった様子であった。

 

「マダラ様、()()()()きっと、少しはオビトの奴を褒めてやりたくなりますよ」

「なるほど……。()()のはあの娘というわけか」

 

 二人の会話の意味を、そこに居る者たちには理解できなかった。

 が、最後の言葉の意味には察しがついた。

 

「あの娘って……ナナのことか?!」

 

 ナルトはそう叫ぶと同時に、サスケの背から闘気が湧き上がるのを見た気がした。

 

「和泉の血、進化した写輪眼……まさに一石二鳥でしょ?」

「そうだな、最高のお膳立てだ!」

 

 マダラは今までで最も上機嫌に笑った。

 

「ナナは渡さねーって、言ったはずだ!!」

 

 ナルトがまたも叫んだ。

 だが。

 

「“式印”はどこだ」

「コレですよ」

 

 マダラはその声を聞き流し、白ゼツに手を差し出す。

 すると、白ゼツは右の手のひらの皮を剥いでマダラに渡した。

 

「右の手ですよ、マダラ様」

「“契約”は間違いないな?」

「もちろんですって」

 

 目前の殺気を無視したまま、二人のやり取りは続く。

 

「少しはオビトを褒めたくなりました?」

「まぁな。だが、全てはこのオレの計画どおりだ」

「じゃあボクを褒めてくださいよ」

「調子に乗るな、白ゼツ」

 

 この時、動き出した者がいた。

 サスケだった。

 

「サスケ!」

 

 すぐにナルトとサイも続いた。

 だが、ここでマダラはようやく視線を彼らに向けた。

 

「うちはのガキか……。その眼では、あの石碑に書かれていること全てを読むことはできなかったようだな」

 

 サスケは立ち止まった。

 

「さっき言っていた石碑とは、うちはの隠れ家にある石碑のことか?」

「あれを最後まで読めるのは輪廻眼を持つ者だけじゃないですか~」

 

 白ゼツがからかうように横槍を入れる。

 

「何が書いてある?!」

「まぁいい。説明するより見せてやろう。その方がわかりやすいからな」

 

 マダラは薄く笑い、白ゼツの手の皮を己の手のひらに乗せた。

 そして……。

 

「口寄せの術……!」

 

 唐突にその術を発動した。印も結ばず、自身の血も使わず……。

 だが、術は確かに発動された。

 乾いた煙と共に、そこに口寄せされたモノ……。

 

「ナナ?!」

 

 それは、白い装束をまとったナナだった。

 

 

 

 

 

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