ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

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戯曲

 

 ナルトから見ても、サスケの戦い方は滅茶苦茶だった。

 一見、冷静なようでいて、彼の周囲には怒りが爆ぜていた。足元に広がるマグマよりもふつふつと、感情が滾っているのがわかる。

 もっとも、サスケがそんな状態でいなければ、彼自身も同じように無謀な攻撃を繰り返していただけかもしれなかった。

 

「サスケ、いったん間をとれ!」

「わかっている」

 

 応えは至極、落ち着いている。

 だが何か、堪えていた最後の糸が切れたかのように、その行動には歯止めが効いていなかった。

 おそらく、サスケの頭に在るのは目の前のカグヤを“倒す”ことではない。“答え”を得ることだ。

 

 何故、ナナが命を賭して葬ったはずのカグヤがここに居るのか……

 

 その答えを急いている。

 ナルトも同じだった。

 六道仙人は、カグヤがナナに転生しようとしていたと言っていた。それをナナが阻止した……運命に勝ったのだと……。

 それなのに……。

 

 なぜ……?

 

 しかし、その当然の疑問さえも口にする間はなかった。

 落ちれば一瞬でマグマに骨まで溶かされる状況。カグヤのチャクラは膨大で、攻撃は全てはね返された。

 さらにカグヤには、空間を自在に“移動”する能力が備わっているようだった。

 その目には見えない動きによって、ついにナルトとサスケはカグヤの手に捕らわれる。

 顔に冷たい手を添えられたまま、身動きが取れなかった。

 そのままカグヤの袖から液状になって伸びて来た黒ゼツに、身体を侵食されていく。

 チャクラが吸い取られている感覚の中、二人はカグヤの白い眼から涙が流れるのを見た。

 

「カグヤハオ前タチ二人ヲ見テ、二人ノ我ガ子ニ思イヲ馳セテイルヨウダ……」

 

 ズルズルと、それぞれの顔半分を覆いながら黒ゼツが言う。

 

「黒ゼツ、お前は何者だ?!」

 

 サスケが無理やり叫んだ。

 と、

 

 

「オレはカグヤの子供だ」

 

 

 そう宣言すると同時に、急に黒ゼツの口調が変わった。

 

「母の居ない“時”の全てを記録し、その間の“物語”をオレがつくった。そう……母が復活するための物語だ」

 

 カグヤはかつて、我が子に封印された。

 が、いつか復活する日のために、封印の寸前に意志を継ぐ“子”を生み落していた。

 その存在こそが黒ゼツなのだという。

 

「オレは産まれ落ちたその日に母と別れ、それから長きに渡り母の復活のために動いていた。これはハゴロモも知らぬ真実だ」

 

 淡々と、黒ゼツは一から『物語』を語る。

 ハゴロモとその息子たち、インドラとアシュラのこと。黒ゼツがインドラを陥れ、アシュラとの争いを仕向けたこと。何度も繰り返しインドラとアシュラの転生者に接触して、輪廻眼の発現を試みたこと。やがてマダラが現れ、彼の影となって動いてきたこと。マダラを操ってオビトを利用したこと。この戦争のこと。

 そして……。

 

「十尾は『チャクラの実を取り返そうとする神樹の化身』ではない。十尾の本当の正体は、神樹と()()()した母自身なのだ。神樹がチャクラを欲していたのは“母の意志”そのものだ。母は二人の子供に分散したチャクラを取り戻し、再びひとつにしようとしていた。このことはハゴロモも知らない」

 

 六道仙人すら知らぬ、カグヤの真実。

 

「ハゴロモは十尾を核とした地爆天星で母を封印した。そしてそれが月となった」

 

 その封印と復活の物語。

 

「オレは母の復活のために画策してきた。が……神樹と一体化した母が人の世に復活するためには、やはり“器”が必要となる。醜い大木のままではあまりに恰好がつかないからな」

 

 そしてカグヤの“器”の話。

 

「だから母は、人間の身体に転生しようと試みていた。何度も、何世代も……アシュラとインドラが転生する時代に合わせて……」

 

 黒ゼツはようやくここで核心を突いた。

 チャクラを吸い取られながら、ナルトとサスケは身震いをする。

 遂に『ナナの物語』が、その黒い口から語られた。

 

 

 

 カグヤは、見目麗しく特殊な能力に秀でた血筋の人間を選んで転生しようとしていた。

 巫女、神官、高僧、尼僧……、もちろん和泉一族の血を引く者もその対象とした。

 だが、転生者は己に潜むカグヤの魂のあまりの強大さ、凶暴さ、そして冷酷さを悟ると、自身へのカグヤの転生を阻止しようとした。

 ある者は自ら命を絶ち、ある者は協力者に己の魂の封印を乞うた。

 皮肉なことに、転生者たちはカグヤが選ぶだけあって優秀だった。能力も、人格も、ともに他に並ぶ者の無い存在だった。

 だから、カグヤはただの一度も復活を成し得なかった。

 が、カグヤは何度でもこの世に舞い戻ろうとした。決してその魂が消滅することはなかったのである。

 それほどに、カグヤの力は強かったのだ。

 そうして月日は流れ……インドラの転生者としてうちはマダラが現れた。

 マダラなら、カグヤの復活のための有力な駒になり得る……そう確信した。

 マダラはアシュラの転生者である千手柱間に敗れはしたが、柱間の細胞を取り込んだことで輪廻眼を開眼した。

 そこで転生のループが狂うことになったが、それでよかった。次の兄弟の転生者が現れるまではオビトを利用できた。

 

 そのうちに、母が次の転生者を選んだのを知った。

 感知できたわけではない。

 マダラやオビト、そして木ノ葉隠れの里を見張っているうちに、和泉成葉の存在を知ったからだ。

 いつもそうだ。

 いつしか現れる才ある人間……さらに、血筋も申し分ない人間に網を張っておけばいい。

 そうして網にかかったのが、和泉の才に恵まれた、百年に一人の天才陰陽師と謳われる和泉成葉だった。

 

 初めは、成葉こそが次のカグヤの転生者なのだと思った。

 が、彼女の代にインドラとアシュラの転生者は現れなかった。

 だが、和泉成葉はうちは一族の男との間に子を宿していた。

 それこそが『最高の器』だと直感した。

 たとえ和泉一族の純潔種でも敵わない、最高の器だ。

 何故なら、カグヤの祖先である和泉一族の純血と、カグヤの子孫であるうちは一族の純血が交わった血を持つ者なのだから……。

 だから、その子供が産まれる時代に合わせて、インドラとアシュラも転生すると信じて疑わなかった。

 だがしかし、和泉成葉は評判通り、和泉流陰陽道の才を存分に受け継ぐ天才だった。

 彼女は我が子がまだ胎児のうちに、カグヤの気配に気づいたのだ。

 そして、その存在の一端までもを読み取り、六道仙人を呼び出すに至った。

 そこで成葉は、カグヤの存在を初めて知った。

 彼女は悩み抜いた末、転生者の子供を()()()()、自身の魂を媒体にして我が子を封印する道を選んだ。

 ここでまた、カグヤの復活は阻止されたのだ。

 

 しかし、最高の器を一度目にした以上、諦めきれなかった。あれほど相応しい器は、この先もう数百年は現れないだろう。

 だから、和泉一族の怯弱さはまさに好都合だった。

 成葉が死を選んだ年に、オビトが九尾を使って木ノ葉を襲ったが、和泉一族にはその凶事を予知できる者はいなかった。

 オビトが木ノ葉に復讐するよう“仕向けた”のだから無理もないが……。

 それでも、和泉一族は神聖なる一族の弱体化を実感させられて、極度に外界を恐れていた。

 そこで、和泉一族の者に取り付いてこうささやいた。

 

『和泉一族は九尾襲来を占えなかった挙句、その封印に手を貸すことさえできなかった。これでは、木ノ葉の忍連中や火の国の大名は和泉一族の不義を疑うようになり、果ては一千年続いた栄名も地に堕ちるだろう』

 

 と。

 和泉一族は、あからさまに動揺した。

 挙句、人柱力が尾獣を抑えきれなくなったとき、その保険となり得る優秀な術者を木ノ葉に提供することを考えた。

 無論、自分らの中に該当する者が存在しないことを良く知っていた。

 彼らの身体は脆く退化し、人柱力にすらなり得ない。その役目の一旦を、()()の『うずまき一族』に負わせる体たらくだった。

 だから彼らは、かつて崇められた優秀な術者を蘇らせることを考えた。

 そして当然、最も新しい時代にして名声の名残が強い和泉成葉が選ばれた。

 計画は進み、本家の奥方の胎内に和泉成葉を転生させることとなったのだ。

 ここで、オビトを介して和泉の人間にシナリオを授けた。

 

『和泉成葉ではなく、()()()()を転生させろ』

 

 と。

 転生術に関わる術者ですら写輪眼に操られるほど弱体化していたから、事はすんなり運んだ。

 そうして産まれたのが和泉菜々葉だ。

 

 

 

 ……そこまで辿り着いて、黒ゼツは笑った。

 

「オビトはあの娘が自分の意図で産み出されたと思い、父性じみたものまで抱きかけていたが、全てはこのオレが仕組んだことだ」

 

 ナルトとサスケに不快感を表わす間は与えられなかった。

 

「オビトには、マダラは『写輪眼の進化』を期待していたから、和泉とうちはの混血であるナナが写輪眼を開眼するのは興味深いことだ……と言い聞かせた。さらに、うちはの石碑に『神樹の花を開かせるには和泉一族の血が要る』と書き足しておいたから、オビトは神樹を口寄せした後で、必ずナナを呼び寄せるはずだった。そしてその時のために、和泉一族の人間を操って、赤ん坊のナナの頭蓋に口寄せの術式を埋め込ませておいたのだ」

 

 立て続けに明かされるカラクリ。

 

「和泉一族が、ナナが“九尾の器”という己の運命に絶望しても死を選ぶことができないよう、予め術をかけていてくれたことは、“器”自身が母の復活を阻止し続けてきた連鎖を止めてくれた……」

 

 全て黒ゼツが仕組んでいたシナリオ。

 

「何も知らないナナはうまい具合にうちはイタチと出逢い、木ノ葉の忍になった。それはオレにとって好都合だった。ただ里の外れの廃れた神社の巫女として孤独生きるのでなく、忍になって他者と交わってくれたほうが、写輪眼を開眼する可能性があったからな。そして……まさにそうなった。このへんは、お前らのほうがよく知っているな」

 

 それは、懸命に生きていたナナを愚弄し、憐れむようだった。

 

「あとは予定通り、オビトにこの戦争を起こさせるだけでよかった。オビトは途中、使い物にならなくなったが、マダラは復活し、神樹も復活した。オレはただ、マダラにナナを口寄せする“式”を渡せばよかった。術をかけた和泉一族の者からもらった“式”だ。だからナナがこの戦場に来なかったとしても、最終局面ではどのみちマダラに呼び寄せられる運命だったのだ」

 

 黒ゼツは小さく、「かわいそうにな」と呟いた。

 

「しかしサスケ……ナナがお前に自分を殺させようとしたときは焦った。せっかく神樹に封印された母の力と、ナナに転生した母のチカラがひとつになる千載一遇の好機を、お前がつまらぬ同情と正義感でブチ壊すところだった」

 

 この台詞に、サスケの眼球が揺らいだ。

 

「だが、お前はやはりナナを殺せなかったようだな。哀れナナは……自らお前の千鳥の前に飛び込むことで、懸命にカグヤの転生を防いだのだ」

「黒ゼツ……」

 

 だが、黒ゼツに対しての彼の声は冷静だった。

 

「お前は、ナナが『自分を殺せ』とオレに訴えた時、オレを阻止するために見張っていたのか……?」

「あたりまえだ。オレと母の数百年にわたる苦労を台無しにされてはかなわんからな」

 

 答えを聞いて、サスケはフっと笑った。

 

「どうした? ここまで周到に仕組まれていたことがおかしいか? 何も知らなかった己がおかしいか? だが全てが失敗した訳じゃない。実際、ナナは誰もが予想しなかった行動に出て、カグヤの転生を……」

「そうじゃない」

 

 そして、黒ゼツの流暢な嘲笑を遮る。

 

「ナナは……知っていたんだ……」

「なんだと?」

「だから、オレを……」

 

 身体を侵食する黒ゼツのうごめきが、止まった。

 

「サスケ……お前、やっぱり……」

 

 ナルトが、視線だけをサスケに向けて呟いた。

 

「全部、わかってたんだな……」

「なに?」

 

 黒ゼツは、二人の身体の表面で瞬きをした。

 

「わかっていただと?」

「サスケはっ……」

 

 答えたのはナルトだった。

 

「サスケはナナがそうするって……そうして欲しいって思ってるのを、全部わかってたんだってばよ! わかってて……わかっててサスケは……!」

 

 サスケは何も言わなかった。

 悲愴感すら漂わすこともなく、ただ目の前のカグヤの顔を見据えていた。

 

「オレが阻止することをわかっていて、お前たちはああいう行動に……。なるほど、最期の瞬間までお前たちは互いにわかり合っていたというわけか」

 

 黒ゼツは、嘲笑を止めていた。

 素直に悔しさを現し、「そのおかげで母は……」と呟いただけだった。

 

「でも、転生者のナナが居ないのに、なんでカグヤは転生したんだってばよ?! マダラの身体にも転生できたのか?! なんでだ!?」

 

 ナルトには、「転生者のナナが()()()()()」とは言えなかった。ナナの死を、まだこれっぽっちも受け入れられてはいないのだ。

 だがそれでも、この状況に対する情報を得る必要があった。隣で心を殺すサスケの分も、冷静に立ち回らなければと思っていたから。

 

「ナナは置き土産を残してくれた」

 

 黒ゼツは、若干声のトーンを落としながら言った。

 カグヤをナナに転生させられなかったことを、心底悔いているようだった。

 

 

「腕……か……」

 

 

 サスケが異様に静かに言った。

 

「そうだ。神樹と一体化したナナの一部があった」

 

 サスケとナルトにとって、まだ新しい記憶……。

 ナナは、神樹に“喰われた”左腕を草薙の剣で切り落として身体の自由を得た。そして、サスケの千鳥に突っ込んだのだった……。

 

「ナナの身体が“昇華”する前にアレを神樹に吸収させ、その神樹をマダラに取り込ませたことで、マダラには母の“土台”ができた。もともとインドラの転生者であるマダラには、資格がないとは言い切れなかったからな」

 

 黒ゼツがため息をついたとき、ずっと黙って涙を流していただけのカグヤが口を開いた。

 

 

「口惜しい……あの娘の身体であれば、視線ひとつでこの世界を動かせたものを……」

 

 

 それが、単に神格化した存在の戯言でないことは、ナルトにもサスケにも十分にわかっていた。

 肌で感じる、カグヤの未知なる力の恐ろしさ。それに加え、良く知っているナナの力。

 合わさればどのくらいの影響力を持つのか、わかってしまう気がしたのだ。

 

「物語はこれで終わりだ」

 

 押し黙った二人に対し、黒ゼツが言った。

 

「さあ最終章だ。オレと一緒に母なる全能の神へと戻るのだ」

 

 その言葉と共に、ナルトとサスケのチャクラがいっそう強く、カグヤの方へと引き込まれて行った。

 

 

 

 

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