カカシの雷切が、カグヤの右腕を斬った。
サスケとナルトが、カグヤの攻撃をかわして封印の術にかかる。
逃げようとするカグヤを、サクラの拳が抑え込んだ。
サスケ、ナルト、サクラ……三人の力が合わさって、封印の術『六道地爆天星』が発動した。
懸命に……懸命に抵抗するカグヤ。
が、その額の眼は、月が雲に隠れるように閉じられていく。
「おのれ……!」
それでもカグヤは言った。
「わらわは何度でも蘇る……」
憎しみを込めて。
「何度でも……この世に転生してみせる……!」
呪いのような言葉を。
「そしてまた必ず……チャクラを取り戻す……!!」
だがそのどす黒い声とはかけ離れた一粒の清い光が、彼女の背に瞬いた。
「うわっ……まぶしっ……」
ナルトはカグヤに触れた手が離れそうになるのを堪えて、それを見た。サクラは思わず目を閉じた。サスケは硬直した。
「私も……一緒に戦う」
光はユラユラと輪郭をつくりながら言葉を発した。
「私も、第七班だもん」
三人が良く知る声。忘れるはずのない声だった。
「ナナ……」
サスケがかすれた声で呟いた。
その瞬間、光は確かに“ナナ”を模る。
「ナナ?!」
「ナナなの?!」
ナナは笑んでいた。
そして……その両手でカグヤを抱きしめた。
「お、お前は……!?」
カグヤが驚いて振り返ろうとした時には、その身体はナナの光に包まれていた。
「ナナ、お前……!」
ナナはサスケを見た。
そして何か言おうとした。が、すぐに口を閉ざした。
代わりに、カグヤに対してこう言った。
「アナタが私で……私がアナタだったなら……」
ナナの光は、彼らをも包み込む。
「一緒にいこう」
「な、なにをっ……?!」
カグヤさえもたじろぐこの時に、ナナは強い声で言い放つ。
「カグヤの魂は、私が連れて逝く」
ナルトもサクラも、息を呑んだ。
サスケはただ、瞳を震わせてナナを見つめていた。
「本当の最後に、みんなと一緒に戦えてよかった」
ナナは笑った。
そのあまりの懐かしさに、三人は完全に言葉を無くす。
「ナナ!」
と、ただ名を呼ぶことしかかなわない。
しかしその叫びさえも、光は和やかに飲み込んだ。
「もう……行くね」
ナナが別れを告げたとたん、カグヤは意識を失った。
「ナナ! あ、あのさ……!」
「ナナ……!」
伝えるべき言葉を見失うナルトとサクラ。
声もなく、手を伸ばすこともできずに歯を食いしばるサスケ。
「ナルト、サクラちゃん、それからカカシ先生……」
ナナは光に溶けながら、仲間たちの名を呼んだ。
「サスケ……」
最後に、サスケの名を。
そして……やはり何かを言いかけて止め、笑った。
「さようなら」
それが、最後の言葉だった。
引き留める間も、返事さえする間もなく、ナナは消えた。
「ナナ……」
疲れ切ったような、悲しみに染まったような、それでいてほんの少し安心したようなサスケの呟きが、そこに残された。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ナナ……お前は……)
ナナとの再会……清涼な光の中で、それが果たされた。
だが、もう一度、その肌に触れることは叶わなかった。言葉さえ、交わすこともできなかった。
ただ、すり切れたサスケの心には……少しの安堵と、哀れみ、そして恋慕が滲んでいた。
心も、身体も、全てを削るようにして逝ったのに、ナナはまたしても戦った。希望、未来、全部を捨てて逝ったはずなのに……。
ナナは捨てたはずのそれらを与えてくれた。
名を呼んでくれた。美しく笑んでくれた。
そして、何か言いかけていた。
何を言いたかったのか、サスケにはわかっていた。
『ごめん』
と……ナナはその言葉を飲み込んだ。
自分を殺させて「ごめん」。
また傷つけて「ごめん」。
全てを背負わせて、「ごめん」……と。
そんなことを言って欲しくないから、それを知っていてナナは口をつぐんだのだ。
そして、同じ言葉をサスケもナナに言いたかった。
護れなくて、救えなくて、本当に……
それをナナが、聞きたくないことも知っていた。
互いに、何者よりもわかり合えているからこそ、言葉は交わせなかった。
擦り切れた心が、今さらまだ痛んだ。刃で切り付けられたように、鋭く痛んだ。
それでも、ほんの少しだけ安堵したのは、ナナの瞳にあった揺らめきだ。
世界を救う。
みんなを護る。
未来を守る。
カグヤは自分自身だから、自分が連れて逝く……。
そんなナナらしい決意が、光の中いっぱいに溶けていた。
だが、瞳に揺らめいていたのはもっと単純な感情だった。
『自分も、第七班だから……』
ナナ自身がそう言った通り、ナナは自分だけ最後の瞬間に居ないことが嫌だったのだ。
だから、死して魂だけになってまでも、戦うことを選んだ。安息の地を離れてまで、またこの浮世に舞い戻った。
そんなナナのむちゃくちゃな主張が、サスケは嬉しかった。
使命でも、体裁だけでもないナナの意志が、サスケの眼にはっきりと映った。
それが、本当に嬉しかった。
(アイツはあれで、我がままで頑固なところがあったからな……)
そんなナナの一面を、唯一、無自覚に見せられていたサスケは……少し口を尖らせたナナの横顔を思いだす。
心の痛みが増した。
だが、鋭い痛みが鈍く変わった。
彼にはもちろん、最後にナナが言いかけて止めた言葉もわかっていた。
『どうか……幸せな未来を……』
だが、ナナは結局、何も言わなかった。祈りを光に溶かし込むだけで、言葉にはしなかった。
サスケもまた、そんな言葉なんて聞きたくはなかった。
ナナが願ってくれているのは良くわかっている。ナナの愛は十分、心を満たしている。
けど……。
(お前の居ない未来なんて……)
そう思うから、やはり、言って欲しくはなかった。