ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

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二人の未来

 大名との会議の真っただ中、綱手が意識を取り戻したとの一報が入り、カカシの火影就任は直前で取り止めとなった。

 会議の終了が告げられるやいなや、カカシは真っ先に綱手の元へ向かった。

 そして目覚めたばかりの綱手に対し、『イタチの真実』の部分を省いて、ナナが拘束された経緯を話した。ただ「上役の二人と()()()()()()が生じての行為」と。

 綱手もまたシカクと同じだった。無条件にナナを信じていた。

 本当の理由はいずれ本人に問いただす……として、すぐに赦免状をしたためた。

 ナナがイタチとサスケの戦いを止めるために里を出た時、すでに綱手はナナを暗部に任命していたから、綱手の赦免状ひとつでナナの釈放が可能となった。

 

 

 カカシが留置所に駆けつけると、イビキが待ち構えていた。彼は綱手の赦免状をろくに確かめもせず、すぐにカカシを「医務室」に通した。

 ナナは檻の中のベッドに寝かされていた。傍らには点滴のスタンドが数台あった。

 

「ちょうど点滴がはずれたところだ。担当医の話では、危険な状態からはとりあえず回復しているが貧血がひどいらしい……まだ二、三日は安静が必要だそうだ」

 

 イビキが扉を開いた。鍵はかかっていなかった。

 カカシは簡潔に礼を言って側に寄る。

 白いまぶたは静かに閉じられていて、眠っているのかただ目を閉じているだけか、わかりかねた。

 

「ナナ……」

 

 呼ぶと、ナナはゆっくりと目を開いた。

 まるで、“観念”したかのようだった。

 

「カカシ……先生……」

 

 それでも、その瞳がこちらを向いたことにカカシは安堵する。

 

「どうして……“火影様”が……こんなところに……?」

 

 ナナは気だるそうに身を起こした。

 それを支えながら、カカシは努めて明るく言った。

 

「綱手様の意識が戻ったから、オレが火影をやる必要はなくなった」

 

 ナナは綱手の回復に対し、短く「良かった」とだけ呟いた。

 

「さっそく赦免状を書いてもらったから、帰ろうか」

「…………」

 

 ずいぶんと軽く言ったつもりだった。

 が、ナナのまとう空気は重く、のそのそとベッドから降りる。

 

「先生、ごめんなさい……」

 

 あの“殺意”を放った少女とは思えないほど、か細い声。

 

「ごめんなさい……」

 

 フラつく身体を支えるカカシの腕に、遠慮がちにつかまってまた言う。

 

「いいから」

 

 カカシは敢えて、そのまま手を引いた。ここで抱きしめても、ナナには何の意味もないことを知っていた。

 

「病院は嫌だろ? ナナの家もまだできてないから、とりあえずオレの家においで」

 

 病院に戻せば、おそらくまだコハルとホムラの部下による監視が入るだろう。体力の回復だけなら、ヤマトが建てた新築の自宅に連れて行く方が良いと判断した。

 

「ナナの家も、明日にでもヤマトに造ってもらおう。ま、アイツならすぐにやってくれるさ」

 

 うつむくナナに反応はなかった。

 カカシはナナの視界に何も入っていないことに気づきながら、半ば強引に自宅に連れ帰った。

 

 

 

「先生、迷惑かけてごめんなさい」

 

 真新しい部屋に入れ、水を渡すと、ナナはまたそう言った。

 

「どうしても……止められなくて……」

 

 先ほどよりも少ししっかりした声だった。

 

「わかってるよ」

 

 カカシはそう応えるしかなかった。

 

「“イタチのこと”はマダラに聞かされた」

 

 また、ナナは拒絶反応のように肩をビクンと揺らした。

 

「わかってるんだけど……」

 

 それでも、言葉を……心を伝えようとする。

 

「あの人たちも……、ダンゾウだって、その時のそれぞれの立場で、自分たちなりに里を護ろうとしたって、わかるんだけど……」

 

 震える声を無理やり平淡に抑えようとして、

 

「それでも私は……」

 

 渡したマグカップの小さな水面が、代わりに揺れている。

 

 

「イタチを想うと……許すことができない」

 

 

 己の憎しみにすら抗って、溢れ出す殺意にも怯えているようで、

 

「わかってるよ、ナナ」

 

 カカシはベッドに浅く座るナナの隣に腰を下ろし、ナナの頭に手をやった。

 

「お前の痛みも、サスケの憎しみも……わかるから」

 

 本当なら「秩序」とか「総意」とか、それを教えるべき立場だった。

 だが、そんなことはできなかった。

 マダラに聞かされたことについては深く考えさせられた。

 あの男の言葉が本当に真実とは限らない。『マダラ』を名乗っていること自体が胡散臭いのだ。本来ならばあんな男の言葉など全て疑ってかかるべきだった。

 だが、サスケもナナも信じたからこそ“こう”なっている。

 カカシも考えた。

 中忍試験後、イタチと対戦した時に思ったはずだった。「その気になれば殺せるはずなのに、なぜそうしないのか」と。

 実際に、あの時、イタチの実力は遥か上だと思った。うちはの正統な血、写輪眼の開眼、生まれながらにして持った戦闘センスに経験が加わってもいた。

 とうていかなう相手ではなく、あっさりと「月読」にかけられた。

 命はイタチの手に握られたはずだった。

 が、幻術攻撃だけで、彼は自分を殺しはしなかった。彼らにとって自分は、明らかに邪魔な存在であるはずなのに。

 まるでただの時間稼ぎ、いや、その場をやり過ごすための一戦のような戦い方だった。

 

『オレの憎しみとナナの悲しみを知れ!!!』

『それは、サスケに任せますから』

 

 二人の声が耳の奥に張り付いている。

 カカシはその声をなだめるように、ナナの頭を撫でた。

 サスケとナナの……未来が見えるようだった。

 

『来ますよ……サスケが……アナタたちを殺しに』

 

 木ノ葉に憎しみをぶつけるサスケと、それを“待つ”ナナの姿が。

 

「ナナ……お前は……」

 

 カカシは手を止め、ナナを上向かせた。

 ナナは全てを諦めたような黒い瞳で、カカシの右目を見返した。

 

()()()()()のか……?」

 

 ナナは『待っている』……。だから……だからペインから木ノ葉を護った。全てを剥ぎ取られてもなお、あそこで死ぬわけにはいかなかった。

 何故なら……。

 

『全てを剥ぎ取られたナナの望みを考えるがいい……』

 

 マダラの嘲笑が聞こえた。

 何故ならナナは、

 

 

「サスケが殺しに来るのを待っているのか?」

 

 

 ナナは答えなかった。

 ただ、ほんの一瞬、コハルとホムラに向けた死の微笑を浮かべ、すぐに面倒くさそうにうつむいた。

 カカシの手は、ナナの頭の上で止まったままだった。

 

 

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