ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

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革命

 

 カグヤ、そして黒ゼツを封印し、解放された尾獣たちと共に元の場所へと帰り着いた。

 そこで待っていた六道仙人や過去の影たち……そして、穢土転生で蘇っていた歴代の火影。

 彼らと勝利を分かち合った。

 

 だが、それで全ての戦いが終わったわけではなかった。

 

 全ての尾獣チャクラを宿したナルト、そして輪廻眼を持つサスケ。二人が互いに印を結べば、無限月読の術は解けると、六道仙人が言った。

 皆が目を覚ませば、全てが終わるはずだった。

 

 が、サスケは主張した。

 無限月読の中、五影を処刑するのだ……と。

 

「革命だ」

 

 そう、サスケは言った。

 今の忍世界を“破壊”して、“創り直す”のだと。

 そして、誰が阻止する間もなく尾獣たち全てを輪廻眼の力で拘束した。

 彼は……その尾獣たちの力を全て持つ者、つまりナルトをも“殺す”つもりだった。

 

 サスケはナルトとの戦いの場に、“あの場所”を選んだ。

 そこへ立ち去ろうとするサスケを、むろん、カカシとサクラは止めようとした。

 が、サクラの涙も、カカシの言葉も届かない。

 

「私はっ……ナナの代わりにとか、ナナみたいにとか……そんなこと絶対に無理なのはわかってる。……けど、側に居ることはできるから……、だからっ……!」

 

 サスケはそう泣き叫ぶサクラを幻術で眠らせ、

 

「お前に殺されかけたこともあるサクラが……今でもお前のことを想い、涙を流している。それは、お前を心から愛して苦しんでいるからだ! ナナを愛したお前が何故わからない?!」

 

 諭すカカシにはこう返した。

 

「その縛りこそが……オレの失敗だった……」

 

 肩越しにそうつぶやいて、サスケは振り向くこともなく立ち去った。

 

「サスケ……」

 

 ナルトは拳を握りしめた。

 サスケにまたも拒絶されたサクラも、そして否定されたカカシも……喪失感に沈んでいる。

 ナルトもまた、それを強く感じていた。

 

 だが……。

 サスケのそれは比べ物にならないことはわかっていた。

 ナナを失ったサスケの喪失……あの目に見えるような心の穴。

 サスケの芯にぽっかりと空いたその穴には、確かにサスケの想いがあった。愛情があった。

 ナナへの、きっと理由すらないような愛が……。

 

 いつからだろう。

 

 サスケの凍てついた背を追いながら、ナルトは思った。

 その“愛”の存在を知ったのはいつからだったか……。

 いや、今さらながら、知らずとわかっていたような気がする。

 気がつけば、サスケがナナを想っていることをわかっていた。そしてそれが、とても自然なことのように思えていた。

 他人を寄せ付けないサスケの隣に、ナナだけが普通に立っていた。他者に興味がなさそうなサスケの視線が、いつの間にかナナに向いていた。空気のように周りに溶け込んでいたナナの本質を、サスケだけは見抜いていた。

 それは本当に……サスケに恋するサクラたちが嫉妬する気にもならないほど、あまりに自然で、必然の絆だったのだ。

 

 いや……。

 

 ナルトは“あの時”と同じように、駆けながら思い出した。二人の想いをはっきりと意識した日のことを。

 奇しくも、“あの時”もまた、ゴールは同じ場所だった。

 今と同じように、その場所……“終末の谷”へ向かいながら、あの日はそれを強く意識していたのだ。

 それは……サスケが木ノ葉を抜けたことを知った朝。

 その事実をシカマルから聞かされた時、まさに晴天の霹靂だった。

 今思えば、サクラとナナは以前から予感していたのかもしれない。激しく動揺したのは、七班の中ではナルトだけだった。

 だが、その激しい動揺は、ただサスケの行為に対してのみ起こったことではなかった。

 サクラが泣いていた。サスケを引き留められなかったと……泣いていた。

 好いていたサクラの涙。

 本当の涙、本気の涙……それにはあまり、動揺しなかった。彼女の心はすでに、わかりきっていたから。

 それと対照的に、「サスケを引き止めなかった」と告白したナナの……その静かなたたずまいに激しく心を揺さぶられていた。

 それは、初めて目にした姿で、初めて耳にした言葉だったから。

 

 初めて、ナナの痛みに気づいた。

 初めて、ナナの想いを知った。

 

 ナルトの心がそれをとらえた時、二人の絆の形が見えたのだ。

 そして時を経て自身も成長するにつれ、皮肉にも互いの想いの深さを理解していった。

 

「サスケ……」

 

 彼の背中が見えた。

 終末の谷……うちはマダラの像の上で、その背は止まる。

 ナルトは、千手柱間の像で彼に向き合った。

 あの時と同じ場所で、同じように戦う。

 が、ナルトの背は、あの時よりたくさんのものを背負っていた。

 ただ親友を引き留めたかっただけのあの頃とは違う。

 今は、世界の未来も、サスケの孤独も、サクラの想いも、そして……ナナの死も。重く、熱く、冷たいものが背に圧し掛かる。

 だからここで、サスケに強い意志を告げられても、ナルトの心はブレなかった。

 

 サスケは語った。彼の目指す「火影」が何なのかを。

 それを理解することはできなかった。

 いや、彼がその考えに至った理由はわかった。

 だが、それは明らかにナルトの目指すものとはかけ離れていたのだ。

 それでも説得はできなかった。

 何故なら、サスケはこう言った。

 

「オレにはもう、父も母も兄も、一族も誰一人としていない。……そして……」

 

 その冷たい拳を握りしめて、名を告げなかった誰かを想いながら……。

 

「オレは一人だ。だからもう、全ての憎しみをオレ一人で背負うことができる」

 

 本当に、たった一人になったのだと。

 そして、たった一人で忍の世の全ての“憎しみ”を背負うことで、この世の平和を維持するのだと。

 サスケは見るからに影を負っていた。

 孤独という影。真っ黒い、吸い込まれそうなほどうら寂しい影。

 そんなものを背負う者に、言葉が届くはずがない。

 が……それでも。

 

「一人だけじゃできねーこともある! カグヤの時もそうだっただろ!」

 

 つい先ほどの結末は、確かに協力し合ったからこそ成し得たのだと伝えたかった。

 それはナルトにとってのゆるぎない意志だった。

 だが、サスケはまたも鋭い刃のような台詞を振り下ろす。

 

「オレは全ての過去を切り捨てる」

 

 過去……。過去の繋がり。先ほどまでの共闘。絆。親友。兄弟。そして……。

 

「イタチのことを全部なかったことになんてできねーだろうが!」

 

 躊躇していたはずの言葉は自然と出た。

 

「イタチと兄弟っていう絆で繋がって、二人で色々あったから、今のお前になってんだ!」

「イタチは……もうオレにとっての過去の存在だ。過去の過ち、迷いはここで断ち切る……」

 

 イタチを“過去”と言いきったサスケにも、まだ言うべきことがあった。

 

「それでも……! お前はナナのことはぜってー過去になんてできねーはずだ!!」

 

 一瞬、風が二人の間を切り裂くように流れた。

 サスケはかすかに目を伏せた。彼の着物には、赤黒いナナの痕がある……。

 

「お前はずっと、これからもナナを……!」

「ナナは死んだ」

 

 それを拭い去るように、サスケは言い放った。

 

 

「オレが殺した。ナナの生を終わらせた……」

 

 

 一瞬、息が止まった。

 サスケのその残酷な“宣告”は、まっさかさまに滝つぼに落下して行くようだった。

 

「サスケ……」

「アイツもオレにとってはすでに過去だ」

「う、嘘だ!」

 

 まだ、鮮明に瞼に残るあの場面。

 サスケが静かに、息絶えたナナを抱きしめる姿。

 あれすらも……あの光に溶けた想いさえも、サスケは切り捨てるというのか。

 

「ちがうっ……!」

 

 違う、ちがう、チガウ……!

 腹の底から湧き上がる想い。

 違う。

 サスケからナナが消えることなどあり得ない。

 それは確信だった。

 まっすぐにサスケを見つめる。

 彼の胸にぽっかりと空いた穴。そこからナナが消えたとしても、ナナへの愛はサスケの細胞のひとつひとつに染みついている。

 

「切らせねぇ……」

 

 低く、決意を吐き出した。

 それを切ろうとするサスケを止める。そんな無意味なことをして、また自信を傷つけようとしているサスケを止めるのだ。

 それは、自分しかいない。

 

 イタチにサスケを任された、自分しか……。

 

 

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