ひと葉 ~参の巻~   作:亜空@UZUHA

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朝焼け

 

 人間たちが夢に落ちたこの世界が、壊れるほどに激しく揺れ動いた。

 サスケの須佐能乎、そしてナルトとクラマ。大地も大気も激震するような戦いが続いた。

 ナルトは……クラマと共に戦いながら、その敵であり、親友でもあるサスケのことを想った。

 彼の眼に、迷いはなかった。

 特別で強力な力を宿したその眼には、強い意思が光っていた。

 ナルト自身が、決して認められない意志。サスケの望む未来。

 そこに至るまでの彼の不幸と、深すぎた愛情を想った。

 

(サスケ……わかってるってばよ……)

 

 一瞬でも気を抜けば、死がほほ笑んだ。

 そういう状況で、ナルトは案外冷静だった。

 サスケのことが良くわかった。認めることはできないけれど、サスケの心がはっきりと見留められた。

 サスケは……本当に、忍の世界を変えようとしている。

 五影を殺して、たった一人で憎しみを背負って……平和のための唯一の“敵”という存在になることを望んでいる。

 そういう意志を得たのは、サスケが弱いからでもなく、残忍なわけでもなく、まして狂ったわけではなかった。

 今まで彼の身に降りかかった数々の出来事が……ナナの死をも含めて……その意志を導き出したのだ。

 そして、本気で自分を殺そうとしていることも強く感じていた。

 “親友”となった自分を殺すことで、本当に、最後の繋がりを断ち切るのだ……と。

 

 それに……。

 

 サスケは「負けてもいい」とも思っている。

 この本気の戦いで負けても……自身が悔いなど残さないことを知っている。

 

(だから……だからお前は……!)

 

 胸の底がうずいた。

 だから言ってやったのだ。

 サスケがナナを過去にして、その想いを断ち切ることなどできるはずがないのだと。

 サスケは、この戦いで自分に敗れて、死んで……ナナのところへ逝きたいと……。それでもいいと……。

 そんなサスケだからこそ、ナルトは命を懸けて救いたかった。

 捨てると言って捨てきれない。切ると言って自らを切る。

 その行動の根底にあるのが、彼の深い“愛情”だと知っているから。

 それを知る、親友だから。

 負けてもいいと思うサスケを「負かす」ために……。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 どのくらいの時間が流れたか。

 クラマの力も使い果たした。サスケの瞳力も限界が訪れた。

 激しくぶつかり合った最後の力は、過去も未来も揺るがすほどに激しく爆ぜた。

 それでも、どちらかが散ることはなかった。

 最後は拳と拳のぶつかり合い……もっとも単純な戦いだった。

 倒れ込みながら撃つ打撃。互いに膝をついても、振り上げた腕が力を失くしても、伏せることはない。息が切れ、言葉などとっくに無くなっていた。

 空が先に、紅く染まった。

 まるでどちらかが流す血を誘っているような、紅い夕日が二人を見下ろしていた。

 

 そして……ようやく、本当の最後が訪れた。

 サスケの左手に、加具土命(カグツチ)をまとった千鳥。ナルトの右手に、螺旋丸。

 それぞれの想いを力に変えて、それはまっすぐにぶつかり合った。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 ……いつしか、空には月が君臨していた。

 赤くもなく、青くもない、ただの黄色い月だった。

 サスケはそれを見て、息をついた。

 

「やっと、目ェ覚めたのかよ……この寝坊助がよ……」

 

 すぐ隣から声が聞こえ、反射的に身体を起こそうとする。

 

「痛っ……」

 

 全身に痛みが走り、込めたはずの力は蹴散らされた。

 

「もう動くな……。見ての通り、お前もオレも血ィ出すぎて死ぬぞ」

 

 最後の瞬間を思い出す。

 千鳥と螺旋丸……まともにぶつかったはずだ。

 めちゃくちゃな攻撃だったが、あの瞬間、それでいいと思った。

 ナルトも、まっすぐに向かって来た。

 このままでは二人とも……そんなことはわかり切っていたのに、左手を突き出した。

 その左腕は、肘から下を失っていた……。

 その隣にあったナルトの右腕も、肘から下が無く……二人の間には血だまりができていた。

 

「そんなになってまで……」

 

 あの瞬間に失せたはずの感情が、また性懲りもなく疼き出す。

 

「なぜオレの邪魔をする? なぜそこまでしてオレにか関わる?!」

 

 わかっていたはずだ……こうなってしまうことは。失うことはわかっていた。

 それなのに何故……?

 これは疑問ではなく、苛立ちだ。

 この男を知ってからずっと、ずっとずっと、ずっと胸に巣食う苛立ちだ。

 が……まっすぐそこを突き刺すように、ナルトは言った。

 

「お前が……オレの友達だからだ……」

 

 何度も差し出された言葉だ。

 お節介にも、彼はソレを何度も何度も差し出して来た。

 

「お前はいつもそう言うが……、お前にとって……それはいったい何なんだ?! 何の意味がある?!」

 

 もう声だってまともに出はしなかった。

 が、本当の最後にソレの正体を聞き出したかった。

 壊そうと思っても壊れなかった、断ち切ろうとしても切れることはなかった、丈夫で、強くて、しぶといソレの正体を。彼がソレを差し出す訳を……。

 今さら……今だからこそ……もう一度……。

 

「『何なんだ』って言われても……、正直オレにもよくわかんねーよ……」

 

 白々しい月を見上げながら、ナルトはつぶやいた。

 

 

「だた……、色々背負って苦しそうなお前を見てると……、痛てーんだ、()()()

 

 

 同じ痛み……。

 その時、ようやく知った。

ナルトと同じ痛みを背負っていたのだと。その痛みの意味も、二人……同じだったのだと。

 だから『友達』だった。だからこそ、唯一の『親友』だった……。

 

(なんだ……、そうだったのか……)

 

 不細工に腫れあがった瞼から、光る物が流れ出たのを見た。

 全身から、力も感情も、何もかもが抜け落ちた。

 同じように寝転がり、白い月を眺めて……その周りで控え目に瞬く星たちを見た。

 彼と同じ光が、両の目から溢れ出るのを、止められはしなかった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 二人が次に目を覚ました時、もう月は姿を消していた。

 朝の日が、眩しいくらいに照り付けている。

 二人の命は消えていなかった。

 

「まだ……生きてたみてぇだな……」

「……しぶとくな……」

 

 二人が自然に言葉を交わし、互いに小さく笑った時、サクラとカカシが現れた。

 

 サクラは血だまりに横たわる二人を見て、何も言わずに治療を開始した。

 そのサクラに、サスケは謝罪の言葉を口にした。

 二人の腕が失われたのを見て、そしてサスケの言葉を聞いて、サクラは泣いた。

 が、彼女がサスケを許さないはずはなく……ナルトとサクラとサスケ、また笑い合うことができた。

 ぎこちなくも、確かに……。

 それを見たカカシは、かつての第七班を思い出していた。

 心に闇を抱えながらも、まだ、“繋がっていた”サスケ。夢を掲げ、まっすぐ、自分の忍道を進もうとしていたナルト。サスケに恋心を抱きながら、強くなろうと努力していたサクラ。

 彼らを、一歩引いた位置でそっと見守っていたナナだけが、今ここに居なかった。

 三人のかつての姿が蘇ったことへの喜びと、そこに永遠にナナが加わることが無い喪失感に、カカシは弱く笑って息をついた。

 

「ナナ……」

 

 朝焼けが眩しかった。

 惜しげもなく注がれる明るい光は、あの儚げでそっと強いナナの光とは似ていなかった。

 だが、そこに確かにナナがいるように思えた。

 

 ナナが光となって、ここに……彼らに……この世界を包んでいるような、そんな気がしていた。

 

 

 

 

 

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