また、今度
真新しい木の香りが漂う廊下を、カカシはのんびりとした足取りで歩いていた。
今朝は久々に用事が入っていなかったから、かわいい教え子たちの見舞いにでも行ってやろうという気になったのだ。
新築の木ノ葉病院の一室に、ナルトとサスケが入院していた。
ナルトが側でサスケの監視をするという名目で、幽閉というような形をとられてはいたが、実際のところはただの入院生活だった。
病室に鍵は無く、見張りも置いていなければ、見舞いも自由。
外に出るなというお達しはあったが、それはナルトとサスケの両者に対してであり、まだ完全に回復しきれていないからという理由であった。
その二人の病室から、回診を終えたサクラが出て来た。
「それじゃあ、午後にまた来るから。ナルト! おとなしくしてんのよ!!」
いつも通りの態度を示し、扉を閉める。
が、その後にサクラは物憂げにため息をついていた。
「サクラ? どうした?」
まさか二人の回復が思わしくないのだろうか。
特に、互いにもぎ取られた腕の傷口は、火影も顔を曇らせるほどであったが……。
「あ、カカシ先生」
サクラは顔を上げた。
案外、ふつうの表情をしている。
「二人はどうなの?」
「順調よ。腕の怪我も他の部位には後遺症がなさそうだし」
声も明るい。
物憂い……というより、何か他に釈然としないものを抱えているような感じだった。
「そ。じゃあ何が気にかかるんだ?」
サクラは一瞬びっくりしたような顔をして、大きくため息をついた。
「カカシ先生、今日はナナに会った?」
若干、声を潜める。
なるほど……と、カカシは悟った。
「いや、まだだけど」
「さっき病室に来て、ほんの一瞬だけ二人の様子を見て……すぐに仕事に行っちゃったのよ」
サクラの台詞のどこにも、おかしな点はない。
だが、サクラは気にしているのだ。
「木ノ葉に帰ってから、ナナとは全然話す時間がとれなくて……」
カカシはうなずいた。
確かにナナは、朝から晩まで里の中を走り回り、雑務から極秘任務までをこなしている状態だ。
それにはいくつか理由があった。
まず、ナナの身体はどこにも異常が無かったし、あれだけのことが起きたにも関わらず、精神的にも安定して見えた。
戦争で疲弊した忍たちの誰よりも元気だから……と、ナナは自ら進んで精力的に働いている。
今や火影はナナに対して厚い信頼をおいているため、負傷者が多い現状では医療班のほうにかかりきりになるシズネの代わりとでもいうように、ナナを側に置いていた。
火影だけではなく、すでに他の影たちからも一目置かれる存在となったナナは、各里の間に立って“緩衝材”のような役割を担うようにもなっている……、とカカシは見ていた。
それに、何よりもナナは先の戦争の中心人物の一人であった。
“和泉”の名のこともある。
五影すら知り得ないことを説明できる人間であるからには、必然的に重要な役割を担うのもうなずける。
だから、ろくに見舞いの時間もとれないほどに、ナナは多忙を極めていた。
が、カカシも同様に火影の側近としての実務をこなしているから、ナナとすれ違ってばかりということはなかった。
ナナも同席しての会議が多かったし、一緒に資料をまとめる機会もあった。
ナナの様子には、サクラが心配するようなことはなかった。
カカシ自身もかなり注意深く観察をしたのだが、ナナは疲れを見せないどころか、常に明るく振る舞った。
もちろん、そういうことができるのがナナであったのだが、カカシがナナの瞳の奥に“影”を探そうとしても、見つけられることはなかったのだ。
「心配するな。ナナは元気にやってるから」
カカシはありのままを伝えた。
「ひと段落したら、お前たちともちゃんと話す時間ができるさ」
できるだけ、客観的に。
「そうよね」
サクラはまだ、何かもの言いたげだった。
だが、気を取り直したようにいつもの口調で言う。
「カカシ先生とナナも次の五影会談に行くんでしょ? その時にナナとたくさん話して来てよね!」
「ハイハイ、わかったわかった」
サクラは強気な笑みを残して、カルテを片手に去って行った。
その後ろ姿を見届けて、カカシは窓の外に視線を彷徨わせた。
数週間前の、あの奇跡の日。
ナナが……蘇った。
成葉に別れを告げ、どうすることもできずに、天に昇る光を再び見送って……。
とうとう全てを諦めた時、つと、ナナが現れた。
ナナがここに居る。
ナナが戻って来た。
視覚から入るその情報を、脳が“現実”だと判断した瞬間、カカシの両目から涙が流れた。
その理由はわからないままに、ただ現実を知っただけだった。
だが当然、仲間たちも喜びの声を上げて、泣いた。
何故、ナナとの再会が叶ったのか。何がそれを成したのか。誰の導きか……。
そんなことはどうでもよかった。
直前まで戦場だった荒野の中、希望の風が吹いていた。
サスケとナナの周りを、優しく撫ぜるように。
ナナとそう親しくない者たちも、疑問を口にしながら、これを“奇跡”と受け止めた。
そして忍たちの輪の外側にまでこの“奇跡”が伝えられたとき、ようやくサスケは身体を離した。
サスケは確かめるように、ナナの双眸を見つめる。言葉はなかった。
ナナはまだ眠たげな様子で彼を見つめ返し、柔く笑んだ。
それにやっと安堵したかのように、サスケは息をついた。
「ナナ! お、お前、もう……だ、大丈夫なのか?!」
それが何かのスイッチだったかのように、ナルトが声を上げる。
サスケの肩にぶつかりつつも、押しのけるようにしてナナの手を握りしめた。
「う、腕もちゃんと……あ、あるよな?!」
失ったはずのナナの細腕を、ナルトが片手で掴んでいた。
そこに、血が通っていることがカカシにもよくわかった。
「うん」
ナナは笑った。
「大丈夫!」
まごうことなき、あの「ナナ」だ。
春風のように清らかで、儚げで、だが芯が強くて……そんな「ナナ」だ。
「ナナ!!」
「お、お前、“戻った”んだな?!」
堰をきったように、仲間たちがナナに駆け寄った。
「よかった、あったかい……!」
「い、生きてるんだよな?!」
「ナナのお母さんが生き返らせてくれたってことなのよね?! そうよね?!」
誰もが、血と泥と涙とで、ぐちゃぐちゃの顔だった。
「ナナ……よ、よかった……。あんた……!」
「あんた……あ、あんな死に方……するから……!」
サクラといのはろくに台詞も言えないほど号泣していた。
「どこか痛むところはないのか?!」
我愛羅などは目を赤くして、ナナに半ば詰め寄る。
カカシは何故だか、彼らを一歩引いて見守った。
涙を見られたくなかったのもある。だが、彼らに対するナナの様子を冷静になって見ていたかったのだ。
「みんな……」
そんな彼らにナナが言った最初の言葉は。
「ごめんね」
やはり、謝罪の言葉だった。
だが、それ以上はなかった。少し困ったように笑むナナの表情には、全てが滲み出ていた。
あんなふうに死んでごめん……とか。最後まで一緒に戦えなくてごめん……とか。「自分を殺してくれ」なんて頼んでごめん……とか。
ナナはそれらを口にはしなかった。
言われなくてもわかるから、言わなくてもよかった。言わないで欲しいと、カカシも思った。
ナナが謝る必要などなににもない。
ナナは立派に戦った。誰にも真似ができない戦いをした。
その死はあまりに理不尽だった。
そしてついさっき、彼女の母親に、ナナが死してまで戦おうとしていたことを告げられたばかりだ。
「ナナ……」
わかっているから……。
目が合って、それが伝わったようだった。
ナナはうなずく代わりに、口の端を綺麗に上げた。
「私……」
そして、皆が今、一番聞きたいであろう言葉を言ってくれた。
「生きてるみたい」
少し目が覚めたかのように笑って、肩をすくめる。
懐かしい仕草に、体中が安堵感に覆われた。
それは他の皆も同じだった。ほぼ同時に、皆がその場にへたり込む。
「あー、なんかすっげー疲れが押し寄せて来たってばよ……」
それを代弁するようにナルトが言った。
カカシもやっと、深く息を吐きだした。
ナナに聞きたいほどは山ほどあった。
六道仙人が語ったことが真実だったのか……。ナナ自身もそれを知り、受け止めたのか。カグヤはどうしたのか。
いや、そんなことじゃない。
今、喜びは感じているか?
この再会を、喜んでいるか?
サスケに抱きしめられて……その想いを突き付けられて……。あんな別れ方をしたけれど、今は未来が繋がった。
それで、ナナは今、何を思う……?
それら、ひとつも言葉にならなかった。
目の前に、ぬくもりを持ったナナが存在していること。きっと明日も、側に居てくれること。今までよりもっと、笑っていること。
それだけで今は、言葉すら要らない気がしていたのだ。
カカシはナナの肩を抱いたまま、ひと言も話さないサスケに視線を移した。この幸福感を、共有しているはずのサスケへと……。
サスケはナナを見つめるでもなく、視線をひび割れた地面へ落としていた。少しやつれた顔をしていたが、瞳に影はなかった。
その顔は、喜びや興奮を表わす他の誰よりも、触れる存在に安堵しているのがわかった。
「……良かったな、サスケ……」
ナルトも同じようにサスケを見て、絞り出すようにそう囁いた。
聞こえていたはずだが、サスケは何も返さなかった。
疲れもある……が、急速に緩和した心がまだ、安定していないのだろう。
こんなふうに
やがて、次々と「ナナ」を確かめに集まる者たちをかき分けて、雷影が現れた。
続いて、水影と土影……そして火影もナナの側に膝をついた。
「ナナ! お前……」
これまで仲間たちが表現したのと同じことを、火影もしていた。
言葉をすっかり失った彼女の代わりに、勢ぞろいした他の影が口を開く。
「いずみナナ……生き返ったか」
「本当に……」
「まさに奇跡……」
ナナは火影をなだめる様にしながら、彼らに挨拶した。
五影の中心にいても、もちろん臆する様子はない。
雷影がナナと、ナルトとサスケを見て……それからカカシを向いた。
「ワシらが眠らされていた間のことを知る者は?」
カカシはやっと、自身の脳が正常に動き出そうとするのを感じた。
「全てご説明します」
と答える。
そして、
「結論から言いますと……無限月読を解除したのは、そこにいるうずまきナルトとうちはサスケです」
と、告げた。
五影たちは何も言わずにナルトとサスケを見下ろした。
「よくやってくれた」
雷影が代表して礼を述べる。
ナルトは少し照れくさそうに、その視線を受け止めた。サスケは、やはり何の反応も示さなかった。
「いずみナナ……お前も、よく戦った」
次いで、雷影はナナにもそう言った。
通常運転を始めた脳みそでは、雷影がナナを特別な目で見ていることがわかった。
水影と土影もそのようだ。
もちろん、すでに彼らはいずみナナが“どういう存在であったか”を知っている。
それに加え、尾獣をオビトから引き抜く時のあの力を目の当たりにしたことで、一目置いているようだった。
彼らに対し、ナナは曖昧に返答した。
まぎれもなく、一度ならず二度までも皆を救ったはずなのに、それを忘れて遠慮しているようだった。
「我ら五影で今後について話し合おう。戦後処理というやつだ」
雷影は三人を改めて一瞥すると、他の影たちに言った。
「そうですわね。このまま解散と言っても、釈然としませんし……、何より自分の里へ帰り着く体力が残っている者などいませんわ」
水影の言うとおり、無限月読で眠っていたにも関わらず、戦闘の疲れが癒されたわけではないようだった。
最後まで戦い続けたナルトとサスケに至っては、まともに動けないほど血を流しすぎている。
カカシ自身も多少なりとも身体は休めてはいたものの、疲労困憊といった状態であることを自覚していた。
「拠点を置くにも……ここは何も無くなってしまったぜよ」
土影はふわふわというより、ふらふらと宙に浮きながら辺りを眺めた。
戦闘で荒らされ、神樹に食われていた大地は、まさに荒涼としていた。
「ひとまず、向こうの平地に“本部”を置こう。動ける者は、水場を探して補給に回す」
火影が側に控えていたシズネに合図した。
シズネは軽くうなずき、すぐに走り去る。
「そうだな。それと、各隊の隊長は被害状況を調べて報告しろ」
雷影も同意し、ダルイに命じた。
そして。
「大蛇丸たちだが……もうすでに逃げた可能性もあるが、見つけ次第拘束しよう」
雷影は冷静に判断を下す。
マダラやオビトが去って、暁が消滅しても、ここには味方だけが存在しているわけではなかった。
カカシの背に、久方ぶりの緊張が走った。
「それとうちはサスケは……」
今さらながら思い出す。サスケはどちらかといえば忍連合の敵であった。あの『暁』に所属していたのだから。
そしてサスケは、五影会談を襲撃し、目の前の雷影の腕を落とした真犯人でもある。
いくら結果的にこの戦争の功労者になったからと言って、未だ『指名手配犯』のままだ。
どんな理由があれ、『指名手配犯』は拘束され、投獄されて尋問される……それが忍界のルールだった。
もちろん、すぐにナルトが何かを言いかけた。
が。
「うずまきナルト、お前が見張っておけ」
ナルトが口を挟む前に、雷影がそう言った。
「その様子じゃ、どうせしばらく動けんだろう」
雷影は「拘束」を命じはしなかった。
「わかったってばよ!」
ナルトは雷影の気が変わらないように……とでも言うように、即座に威勢よく答えた。
「ただし、身体が動くようになるまでの話だ。その後のことは、これからワシらで話し合って決める。いいな?」
ここでようやく、サスケはおもむろに顔を上げた。
「ああ……すまない……」
疲れ切ったような彼の声に、雷影はため息をついた。
「お前たちも意義は無いな?」
そう他里の影に尋ねながらも、雷影の視線がほんの一瞬ナナに向けられたのを、カカシは見逃さなかった。
ナナはまだ眠たげに、ただ黙って雷影の言葉を聞いていた。
この状況に対しては、何の感情も動いていないようである。
傍観を決め込んでいるのか、諦めているのか、それとも投獄が決まれば抗議の声を上げるのか……カカシには、ナナの心境がわからなかった。
「拘束するにも、人手が足らんぜよ」
「ひとまずは、監視をつけるだけにしておきましょう。本当に酷い怪我のようですしね」
「ナルトに任せよう……」
他里の影たちは、それだけ言った。
火影は険しい顔を保ちながらも、礼を述べる。
「寛大な措置に感謝する」
「礼を言うのはまだ早い。本来なら、指名手配犯は投獄の身だ」
「わかっている」
火影と言葉を交わしながら、またも、雷影はちらりとナナを見た。
「まぁいい。そんなことよりやらねばならんことがたくさんあるからな」
彼の言葉尻、「ナナに免じて」……と隠されていることを、カカシは予感していた。
「なんか、牢屋に入れられるってことはなさそうで良かったってばよ! サスケ!」
「ああ……」
奇妙な沈黙で見守っていた周囲の緊張をほぐすようにナルトが言った時、
「感謝する……」
サスケは呟くように答えた。
カカシは深くため息をついた。とにもかくにも、安堵したのだ。
もうこれ以上、何も失いたくない。
サスケの自由が奪われることはもちろんだが……それによってナルトが憤るのも、サクラの涙も、見たくはなかった。
そして何より、ナナが苦しむ姿はもうたくさんだった。
やっと、今は見えなくなったナナの瞳に浮かんでいた影……。それをもう、見たくはなかったのだ。
「はたけカカシ。状況説明をしろ」
「は、はい」
再び一度も口を挟まないナナの様子を確かめたとき、カカシは会談への同行を命じられた。
無限月読が発動して以降のことを全て“客観的に”説明できるのは、カカシしかいなかった。
そして。
「いずみナナ、お前の話も聞かねばならん。一緒に来い」
雷影はナナの同行も求めた。
反射的にナナを見る。
と……。
「はい、わかりました」
ナナはどこか呑気な口調で答えた。
臨時、というか緊急の五影会談とはいえ、そこに参加することに気負いはないようだ。
「よいしょっと」
ナナはすぐに立ち上がろうとする。
それと同時に、まるでナナの身体の一部かのように、今まで状況をただ傍観していたサスケも同じ動きをした。
と、ナナはフラリとよろめいた。
「ナナ!」
それに対しても特に動じないサスケの代わりに、身体を支えたのはサクラだった。
「ナナ、一度綱手様に診てもらった方が……」
「ごめんごめん、大丈夫! なんか、ちょっと……」
ナナは左手を袖から出して、握ったり開いたりと繰り返した。
「身体がフワフワするっていうか……ヘンな感じがするだけ」
その表情は明るかった。
「どこも怪我してないみたいだし……」
さらに、おもむろに着物の襟を広げて、胸のあたりを覗き込んだ。
「ちょ、ちょっとナナ……!」
「穴も塞がってるし!」
ナルトとサクラは顔を見合わせていた。そして二人は同時に、サスケを見た。
周りの心配をよそに、少し眠たげで、だが悠長に笑っているナナを、サスケは黙って見つめていた。
その顔に、不安は無い。
だから、二人も安心したようだった。
カカシも、そんな第七班の姿に安堵した。また、涙が出そうになるほどに……。
「歩けるか?」
「はい、大丈夫です」
「では行くぞ、ナナ」
火影と風影に促され、ナナは歩き出す。
カカシも、ナナに何かあったときにすぐに支えられるよう、隣に並ぼうとした時だった。
ナナの足が立ち止まり、振り返った。
その視線の先には、当然、サスケとナルトが居る。
「ねぇ二人とも」
ナナはまるで、明日の天気でも聞くかのように二人に尋ねた。
「ところで、その腕、どうしたの?」
そのあまりの気軽さに、カカシは思わず目をしばたいた。
ナルトも、急に“核心”を突かれて驚いた顔をした。
だが。
「ヘヘ、ちょっとサスケとケンカしたんだってばよ!」
左手で頭を掻きながら、幼い少年のように笑った。
するとナナは、
「なーんだ。結局“また”ケンカしたんだ」
ただ呆れたようにそう言った。
そして、笑う。
ナナはわかっていたのかもしれない……と、カカシは思った。
ナルトとサスケ……避けられない二人の闘い。忍道の衝突と命の削り合い。そして、和解。
二人の結末がこうなることを、ナナはずっと前から予感していたのかもしれない。
いや、望んでいたのかもしれない。
そう思った。
その時。
「後で……」
初めて、サスケがナナに対して口を開いた。
周囲のざわめきが、一瞬で止まったようだった。
「ちゃんと、話す」
サスケはナナに向かって、そう言った。
「必ず」
サスケの隣で、ナルトが嬉しそうに鼻の下をこすって笑った。
ナナは……。
「うん……じゃあ……」
少し首を傾けて、言った。
「『また、今度』……ね?」
サスケはその言葉に何かを悟ったように、表情を変えた。
「ああ」
サスケは小さく、だが確かに笑ったのだ。
この長かった戦いが終わって初めて……というよりも、彼が里を出てから初めて見る顔だった。
ナナが蘇ったことを、彼はようやく実感したのだろう。
サスケの笑みは、ナナよりもずっと幼げに見えた。
ナナは満足げにほほ笑んで、再び歩き出した。
ナルトは少し目をこすった。サクラはまた両手で顔を覆った。いのとチョウジも盛大に鼻水をすすっている。シカマルは安堵した様にため息をついた。面倒くさそうに。サイは先ほどからずっと、微笑んだまま表情を変えない。リーはボロボロの腕に滝のような涙を浸み込ませ、テンテンは女の子らしく胸の前で手を組んでナナを見つめていた。ヒナタは指で何度も目元を拭い、シノは不自然な咳払いを繰り返す。キバはふてくされたように足元の小石を蹴ったりしていたが、目には光が浮かんでいた。
カカシは、彼らのそんな姿を目に焼き付けると、ナナの後を追った。
願わくば、この“繋がり”がもう二度と途切れることがないように……。
彼らの世代だからこそ祈れることを、カカシは心に強く想っていた。