「血圧は問題ないわね。午後にもう一度診に来るわ」
ナルトとサスケの診察を終え、サクラが立ち上がった時、トントンというノックの後に病室のドアが開いた。
「ナナ! オッス!」
そこへ向けて、元気よく左手を振ったのはナルトだった。
「みんな、おはよう」
ナナはにこやかに現れて、ふたつのベッドを交互に見回した。
「調子はどう?」
「もうバッチリだってばよ!」
包帯だらけで、まだ里を走り回る元気などないはずなのだが、ナルトは左手の親指を立てて見せた。
「そうなの? サクラちゃん」
クスクスと笑うナナに、サクラは順調に回復していることを告げる。
「だからって騒がないでよね、ナルト! まだ微熱があるんだから! 悪化したときに治療するこっちの身にもなってほしいわ!」
「わ、わかってるってサクラちゃん……しばらくおとなしくしてるってばよ……」
毎回のように交わされるこの会話に、ナナは声を上げて笑っていた。
「二人とも、昔とおんなじ……!」
その言葉に、サクラとナルトは顔を見合わせた。
かつての第七班……ナルトが騒いでサクラが怒る。それを面白がるナナと、全く素知らぬ顔のサスケ。その構図が、今再現されているのだ。
サクラはサスケを見た。
ベッドの上に、気だるそうに起き上がっている彼の目は、あの時ほど冷たくはなかった。
だが、想い出に浸ったのはほんの一瞬だった。
「じゃあ、私、そろそろ行くね」
たったこれだけのやり取りで、ナナは部屋を出ようとする。
「もう行くの?」
聞いたのはサクラだった。
「うん。五影会談の資料の準備、手伝わなくちゃいけなくて」
ナナはそう言うと、手をひらひらと振って扉に手をかけた。
「二人とも、お大事にね」
「おう! がんばれってばよ!」
静かに扉が閉まる。
結局、ナナはサスケと一言も交わさずに行ってしまった。
「ナナ、忙しそうだな~」
ナルトが頭の後ろで手を組みながら、あくびまじりに言った。
確かに……と、サクラは思う。
ナナの「日常」は忙しいどころの話ではなかった。
木ノ葉に帰って以来、いや、戦後すぐからずっと、ナナとはろくに話をしていない。
もちろん、ナナが里にとっていかに重要な存在になったか、サクラは理解している。
風影は除くとしても、他里の影やその側近がナナに対して絶大な信用をおいていることは端から見ていても良くわかったし、当然のことだとも思った。
だから、五日後に開催される五影会談への同席を火影が決めるまでもなく、他里から依頼されていることをサクラは耳にしていた。
それだけではない。
ナナには“名”があった。『和泉』という、絶対的不可侵の名である。
秘匿されていた存在であったにも関わらず、木ノ葉の忍として生きていることについても、おそらく五影の間で話し合われるべきなのだろう。
今後のことと、和泉一族への対応を。
だが、釈然としない気持ちがサクラの中にあった。
ちらりとサスケを見る。
擦り傷や打撲の痕はまだ残るものの、相変わらず端正な顔立ちだ。
彼には殺されかけもしたし、いろいろと傷つけられたが、それでもやはり……「好き」だった。
理由は無い。気がついたときにはもう好きになっていたし、「好き」の意味が変わっても想いの強さが増すだけだった。
彼の心の闇を払ってあげたかった。
彼を護りたかった。
幸せにしたかった。
彼の側にいたかった。
いつか、心からの笑顔を見せて欲しかった。
彼に……愛して欲しかった。
そんな普通の欲求を、ずっと持っていた。
だから当然、サスケが自分の命と引き換えにナナを蘇らせようとしたとき、本気で止めようとした。
そんなことをしてもナナは喜ばない……とか、それだけじゃなく。
サスケを失いたくなかった。そして、ナナを失ったサスケの傷を、今度こそ自分が癒したいと思った。
かといって、ナナが蘇ったことを残念に思ったわけではない。
ナナを精一杯抱きしめるサスケの想いが伝わった時、心の底から「良かった」と思った。
もともと、あの二人の絆が、想像もつかないほど強く結ばれていることは気づいていた。それだけに、つけ合った傷が絶望的に深いということも。
が、二人が結ばれるのが最善である……とは思うのだ。
全く心が痛まないとは、正直言い切れない。言い切る必要もないと思う。
とにかく、サスケにはいい加減、せめに人並みには幸せになってほしい。
それを強く思う。
ナナにも、もうひとりで全部を背負わないで、心から笑える日々を送って欲しいと願っている。
だから、怪我人というのにベッドの上で騒ぐナルトの横で、ぼーっと窓の外を眺めるサスケを、サクラは少しだけ睨んだ。
「せっかくナナが生き返ったんだから、さっさとくっついちゃってよね!」
……と叫びたい気持ちを抑えつける。
が、それはため息に変えた。
「サクラちゃん? どうしたんだってばよ?」
今度はナルトを睨みつけた。
サスケの“親友”で、ナナとは特別な繋がりがあったはずのナルトは、こちらの気も知らず、毎日を能天気に過ごしているように見えた。
「べつに、何でもないわよ!」
書き終えたカルテをパタンと音を立てて閉じると、ようやくサスケの視線がこちらを向いた。
どこか気だるい……、鋭さを失くした視線に気勢が削がれた。
「それじゃあ、午後にまた来るから。 ナルト! おとなしくしてんのよ!!」
出て行きざまに、言い捨てる。
ナルトはいつもと変わらず笑って手を振っていた。サスケはまた、窓の外へと視線を戻した。
「はぁ……」
扉を閉めると、自然とため息が漏れた。
恋の終わりなどどうでもいい。
サスケとナナの未来が見えないことに、ただ鬱々とする自分に気づいていた。
その夜。
ナルトとサスケの病室には、同期の仲間のほとんどが集まっていた。
二人の様子を見るためと、日頃の仕事ぶりについての報告である。ここ数日、この光景が彼らの日常になりつつあった。
その中で、サスケは相変わらず無口だった。
ナルトやサクラ、そしていのがサスケに話しかけることはあっても、短い返事を返すばかりだ。
とはいえ、それはもともと……である。
声や視線に鋭さがなくなったことを、サクラだけでなく、いのもまた少なからず喜んでいた。
サスケは木ノ葉に帰還してから、初めて病室に皆が集まった時、改めて謝罪した。
多くは語らなかった。
が、自分の身の上と、思い描いていた思想を語り、それを自身で否定した。
皆を裏切ったこと、傷つけたことに対して頭を下げ……そして、再び里へ迎えてくれたことに礼を言った。
その生き様の元……彼の“兄”の話も、少しだけしてくれた。
サクラは少し泣いた。いのも泣いていた。
キバたちはまだわだかまりを抱えているようだったが、何も言わなかった。
シカマルが一言、「とりあえず世界を救ってくれたことに、オレらからも礼を言う」と彼らしく面倒くさそうに言った。
皆、全てを水に流すことなどできないだろう。
それでもサスケを憎もうとしないのは、サスケの痛みを理解したからだ。
一族のこと、兄のこと……サスケは断片的にしか語らなかったが、成長した自分たちにはその真実が見えた。
そして、サスケが真の悪に染まっていなかったことを十分にわかっていた。
それはあの時、皆が浴びた光が証明していた。
温かくて、痛い……ナナへの深すぎる愛。自分たちなどは持て余してしまうほどの、溢れんばかりの愛。
里を抜けて大蛇丸の元へ去っても、暁に入って騒乱の渦中に身を投じても、仲間を殺そうとしても……サスケには心があった。
なにより……皆が思うのは、ナナの困った顔を見たくないということだった。
だから、サスケに対する思いをため息と共に吐き出すことにしたのだ。
シカマルも、キバも……。
しかし、その場ではニコニコと笑っていたナナが、今夜は姿を見せなかった。
サクラはサスケの方を横目で見ながら、誰かナナに会った者はいないか尋ねた。
「昼頃、火影邸ですれ違ったぜ。書庫に行くとか言ってた」
シカマルがそう言うと、チョウジが続けた。
「午後に商店街を走ってるところを見かけたよ」
その後の目撃証言はなかった。
「ナナ、働きすぎよね!」
サクラは思わず言った。
視界の隅のサスケは、何の反応も示さない。
「ま、元気なんだから心配ねぇってばよ!」
相変わらず、ナルトはあっけらかんと言う。
まるでどこかの遅刻魔の上忍のようだ。なんとなく無責任のように思えて、サクラはナルトを睨みつけた。
が、思いがけずリーがナルトに同調した。
「昨日の夜、一緒にご飯を食べましたけど、本当に元気そうでしたよ! 色々な仕事を頼まれて楽しいと言ってました!」
それを聞き終えるやいなや、サクラはすかさずリーの首を絞めに回り込んだ。
「ちょっと! なんで私たちがろくにナナと話もできないってのに、リーさんなんかが食事してんのよ!」
「ぐっ、ぐるじぃでず……サクラざん……!」
サクラは憤慨していた。
自分は探しても見つけられないのに、何故リーが……と。
「まぁまぁサクラ、タイミングっていうのがあるから」
サイが冷静になだめるのも、逆に苛立ちがつのる。
「ナナも次の五影会談に呼ばれてんだろ? いきなり重鎮だなおい」
「仕方ねーだろ。ナナには『一族』の問題もある。今回の戦争で一般の忍たちも『和泉一族』が存在していることを知っちまったから、早いうちにそのことについて対処しなくちゃなんねーんだ」
心配そうに眉をひそめたキバに対するシカマルの冷静な発言で、サクラもようやくリーから手を離した。
やはり彼もそのことを案じていたのだ。
「でもさー。あの戦争で、あたしら一般人に『伝説の和泉一族が実は今も存在してる』ーって知れ渡ってからしばらく経つけど、べつに何事もないわよね? 第一、ナナの親戚? 和泉一族っていうのがどこに住んでるのかも知らないし……」
いのがもっともな疑問を口にした。
確かに、ナナは中忍試験後に一度“故郷”へ戻ったが、その時もその“故郷”が何処にあるのかは聞いていなかった。
木ノ葉に帰って来た時も、そのことを聞きそびれていた。
……まぁあの時は、すぐに姉との再戦があったり、ダンゾウに拉致されていたり、ペインの襲撃があったりと、立て続けに事件が起きていたから、とても落ち着いて話す機会などなかったのだが。
だから、きっと誰も知らないのだろう。
興味を持って調べたくとも、未だ『和泉一族』はただの『伝説』でしかないのだ。
だいたい、ナナはまだ木ノ葉に居続けている。一族の里と連絡を取っているのかもしれないが、今も変わらず木ノ葉の忍として動いているのは間違いなかった。
「邪魔するぞ」
そこで突然、ドアが派手な音を立てて開いた。
「けっこうな人数が揃ってるな。お前たち、こんな時間に病院で騒ぐんじゃないよ」
入って来たのは火影だった。
後ろにカカシの姿もある。
「ナルト、サスケ、調子はどうだ?」
「ぜんっぜん元気だってばよ! だから明日はちょこっとだけ外出許可を……」
「問題ない」
ナルトとサスケがそれぞれいつものとおりに答えると、火影は皆を見回した。
「ところで、ナナはまだ来ていないのか?」
サクラはとっさに問う。
「師匠のところにいたんじゃないんですか?」
てっきり、今もナナは火影の命でどこかへ行っていると思っていたのだ。
が、火影は首を振った。
「午後の仕事を片付けてからは見ていない。ここへ来るように伝令を出したんだが……まだ見つからないのか」
「え! ナナ、どっか行っちゃったの?」
いのが余計な心配をあおる。
嫌な予感がして、サクラは探しに行くことを提案しようとした。
その時。
「綱手様はこちらですか?」
開いていたドアから、ナナが顔をのぞかせた。
「ナナ!」
「どこへ行っていたんだ?」
ナナは病室に大勢の人間がいたことに驚いた顔をして、くすりと笑った。
「すみません、ちょっと“里”から使者が来ていたので」
ナナの緩い笑みとは対照的に、サクラだけでなく、他の仲間たちの表情がいっきに引きつった。
「例の件か?」
「はい、そうです」
どうやら火影は、その事情を知っているようだ。
「……その話は明日聞こう」
少し思案し火影がそう言った。
サクラにとってはそれが意外だった。
てっきり『和泉一族』の事情は、木ノ葉にとっても重要な問題であると思っていたのだが、急を要するものではないらしい。
自分たち
ナナに緊張感が無いのはいつものことだが、火影がそれを見せなかったことで、サクラは少なからず安堵した。
隣のいのと顔を見合わせて、互いに口をつぐむことを確認し合った。
「こちらの要件だが……第七班以外の者がけっこういるが、まぁいいだろう。どうせ明日の朝には告示するからな」
火影はもう一度皆を見回した。
そして少しもったいぶって、こう言った。
「次の五影会談で、『六代目火影』にはたけカカシが就任することを報告して来る」
ここでもっとも大きなリアクションをしたのはリーだった。
意外にも、いつも真っ先にうざったく騒ぎ出すはずのナルトは、察していたような顔で誇らしげに笑った。
「そういうワケだから、お前たちよろしくネ」
カカシは諦めたというか、流れに乗ったというか……やる気が無いわけではないのだが、いつものとおりどこか気が抜けた様子で片手を上げた。
サクラも驚きはなかった。
一度は火影になるはずの人物であったし、火影がこの戦後の区切りがついたタイミングで、世代交代を測ろうとしているのも理解できる。
というより、師匠である彼女の性格を考えると、この機に面倒事を早く引き継ぎたいという気持ちもあるのだろう。
「大勢の実力ある忍がこの戦争で殉職した。これからは特に、お前たちのような若い忍の活躍が期待される」
火影は少し胸をそらし、かしこまって皆に言う。
「カカシを支えるのはお前たちなんだからな。気を引き締めていくように!」
「ま、お手柔らかに頼むネ」
相変わらずのんびりした担当上忍に苦笑しつつ、周りの皆と共に祝いを述べる。
ナナも嬉しそうにカカシを見上げていた。彼女はすでに、このことを知っていたようだった。
そのナナに火影は言った。
「前に言っていたとおり、我々は明日、この件で大名の承認を得るために一足先に里を出る。二日後に時雨山で合流して五影会談に向かおう。詳しいことは明朝言い渡すから執務室に来てくれ」
「はい、わかりました」
ツナデの言葉はすっかり重役に対するそれなのだが、ナナ自身はのんびりとした返事を返している。
五影会談とは、厳戒態勢の中で開催され、緊迫感を持って臨むもの……というイメージがあったから、サクラは若干拍子抜けであった。
もともとナナにはこういうところがある。
それが見られてうれしい気持ちもあるのだが……同時に、
それでも、その思いが少し懐かしくもあって笑えた。
最後に、ツナデはナルトとサスケの腕の状態を診た。
その表情は、順調な回復を認めているようだったが、何か思案しているような素振りもあった。
だが、彼女は特に何も言わずに出て行った。
そこで何となく、皆も解散することとなったのだが……。
病院を出るなり、サクラは早速ナナの腕を取った。
「ナナ、夜ご飯まだでしょ? 一緒に行きましょ!」
チョウジやキバがすぐに賛同する。
が、
「ごめんね、これからちょっと用事が……」
街灯の下で、ナナは困った顔でこちらを見た。
「なによー、まだ仕事?」
「五代目は何も言ってなかったぞ?」
ナナは小さく首を振り、言った。
「ヒナちゃんの家に行く約束があって……」
サクラはまたもイノと顔を見合わせた。
この場にヒナタの姿は無かったが、ナナがわざわざ彼女に会いに行く理由が見当たらない。
「ヒナタに用事?」
そう尋ねると、ナナは曖昧に首を傾ける。
「ヒアシ様に用事ですか?」
そして、そのリーの問いにうなずいて答えた。
「ネジ君のこと……話さなくちゃいけないと思って……」
急に、皆押し黙った。
あのネジの最期を見た者は多い。ナナの死と同じく残酷な光景が、まだ瞼に焼き付いているのだ。
だが、あの場にナナは居なかったはず……。
「リーさんとテンテンにも、また今度、ちゃんと話すね」
ナナはただ、二人にそれだけを言った。
「また、今度」……そのナナの言葉を、つい最近どこかで聞いたような気がしたとき。
「じゃあみんな、また明日!」
ナナは元気よくそう言って去って行った。
その走り去る後姿を見て、あの荒涼とした光景と、その時のサスケの綺麗な笑みを思い出した……。
あの笑みで、全てが元通りに……いや、最初から止まっていた歯車が、遅ればせながらゆっくりと動き出した。
そう、感じていた。きっと、親友のいのもそうだろう。
他の仲間たち、ナナとサスケを知る者たちも、同じように思っているに違いない。
だが……。
ナナが消えた闇を見つめて、思った。
そんな簡単なことじゃない。
そんなふうに、周りが思うほど単純に運ぶことではないのかもしれない。
二人がどれほどの深い傷をつけ合ったのか……。
同じ第七班で、サスケばかり見つめてきた自分にも想像がつかなった。
自分の気持ちだけじゃなく、もっと二人の抱える問題や、想いに気を配っていれば、もう少し理解できたのかもしれない。
二人がどれだけ深く想い合って、それだけに、深く傷つけ合ったかと。
うちはイタチのこと、和泉一族のこと……色々ありすぎて、自分などではとても立ち入る隙間はなかったのだが、それでもちゃんと向き合っていればよかったと少し後悔している。
下忍の頃、一緒に過ごした日々でさえ、二人は重いものをそれぞれに抱え込んでいた。
いや、もっと以前……忍者学校の頃からそうだったのだ。
ナナは朗らかに笑っていたし、サスケはいつも憧れの存在でいたから、気づけなかった。
好きなものを好き……と言えない生き方をしてきたナナ。好きなものを捨てきれない苦しみを抱えてきたサスケ。
そんなサスケに恋い焦がれ、自身の中にあるナナへの嫉妬すら見過ごして来た……。
だから……。
サクラはその夜、一晩中考えた。
もちろん、これが初めてではない。だが、もう一度、ちゃんと、考えることにした。
ナナの使命と、サスケへの想い。
サスケの生き様と、ナナへの想い。
自分の、サスケへの想いと、ナナへの想い。
今、サスケが何を思うのか。
ナナが今、何を思っているのか。
自分が、これからどうすべきなのか。
この中に染みついた想いを、どう処理するべきなのか……。
明け方、鳥の声を聞いてようやく心が落ち着いた。
が、部屋に差し込む朝日のように、それは清々しいものではなかった。
サスケはまだ、ナナを愛している。
自分もまだ、サスケに恋している。
本当は、ナナに嫉妬している。
自分はまだ、サスケの側に居たい。
サスケに必要とされたい。
サスケを癒し、愛したい。
だが、それはもう……叶わない。
あんなふうに、未来を望まない生き方をしようとしたサスケを見てしまったから。
ナナの居ない世界を、「生きよう」としなかったサスケの意志を、知ってしまったから。
サスケは、ナナじゃなきゃダメだった。きっと、最初から……。
ここまでわかってすっきりしないのは……、この世に蘇ったナナの想いがわからないから。
サスケと再会したナナが、何を思うのかわからなくなっているから。
そして、サスケはナナに何を求めているのか……それもわからなかった。
だから、モヤモヤとしたままでいる。
自分の気持ちに決着をつけたいから、二人の関係をはっきり示して欲しい……だなんて、都合が良すぎる要求だ。
だから、それは言わない。言わない……が……。
二人ももし、皆の解釈と違ってまだ『止まったまま』でいるのなら……。
その理由はわかる気がしていた。
そう……自分でも耐えられない。ナナが、あんなふうに死んだから。
サスケはナナを殺した。
たとえナナの望みであったとしても、あの瞬間の痛みは、自我をも破壊するようなものだっただろう。
最愛の人を、その手で殺さなければならなかった己の無力さ。
ナナの運命の残酷さを呪い、まさに絶望の底の底へ……。
そして、ナナも。
それをわかっているから、サスケと向き合えないのかもしれない。
自分自身がサスケにつけたその傷の深さが、ナナには見えているはずだから。
冷酷な要求。全てをサスケに押し付けての逃避。
その罪悪感を払拭するには、何が必要なのかもわからない……。
自分にできることなどなかった。
だからといって、決してこの機会にサスケを振り向かせようなどとは、もう思わない。
気づかないふりをするのも、傍観しているのも、もうしたくはない。
だから、ナナとちゃんと向き合おう。話をしよう。
そういう結論を出した。
ナナの想いを聞いて、ナナを傷つけるかもしれない。自分も、傷つくかもしれない。
だが、曖昧にしてきた関係には、もううんざりだった。
色々と重たいものを抱えたナナを、今度こそちゃんとつかまえて。腕をとって、顔を見て、想いを伝えよう。
そして……。
今、言いたい言葉はこれだった。
あの、残酷な光景は、すでに過去。
二人は、それを乗り越えた。
そして、再会を果たした。
だから、前に進んで欲しい……そうしても、誰も咎めない。
どうか、幸せに……。
涙を流さず、そう、伝えたかった。