雷影の招集で再び五影会談が開かれた。
木ノ葉からはもちろん綱手が復帰し、その付き人はシカクが務めた。
会談の内容は、未だ暁に狩られていない八尾と九尾に対し、どういった措置をとるかに焦点が絞られた。
各里の長たちは、八尾のキラー・ビー、九尾のうずまきナルトを保護する意見を出した。
綱手は二人も戦力だと主張したが、我愛羅の言葉で折れた。
「アイツは仲間のためなら無理をしすぎる」
砂漠の我愛羅……。元は一尾の人柱力の忍。ナルトとは、中忍試験の時に木ノ葉で激しく戦ったと聞いている。
そしてその後、風影となった。
ナルトとの戦いが彼を変えたに違いはないだろう。だからこそ、ナルトのことを最もよく理解する者のひとりと思ってよい。
綱手は若き風影を冷静に観察した。
確かに経験不足はいなめないが、なかなかしっかりとした忍道を持っているようだ。
「では、雷影様のご提案どおり、八尾と九尾はここ雲隠れの里で匿うことにいたしましょう」
水影が言い、皆が同意した。
綱手も横目で我愛羅を見ながら同意した。
決して仲の良い者同士の和やかな集まりではなかったが、敵を同じくする者たちはそれぞれの健闘を約束してその場は解散となった。
綱手も席を立ち、シカクとともにその場を後にした。
と、
「火影に話がある」
不意に呼び止められた。
綱手とシカクが振り返ると、我愛羅がこちらをまっすぐに見上げていた。
「風影か……」
彼の少し後ろにテマリがいるだけで、他の“影”たちは別々の出口から出て行ったため気配はなかった。
「聞こう」
同盟国という理由だけでなく、ナルトを理解する者として、綱手も我愛羅を信用していた。
「八尾とナルトの監禁には、いずみナナも同行させて欲しい」
が、彼の口から意外な名が出たことには警戒した。
「どういう意味だ?!」
すぐにムキになるのは悪いクセと思いつつも、若き風影の主張を問いただす。
「ナナにナルトと八尾を見張らせろというのか?!」
シカクが一瞬止めようとして黙ったのが気配で分かった。彼も風影の意図を探っている。
「そういうわけじゃない。ナナが“刻印”を失くしたことはオレも知っている」
が、我愛羅はあっさりと木ノ葉の最重要機密事項を口にした。
後ろのテマリも表情を変えないところを見ると、自分たちが思うよりも、彼らがナナのことを理解しているとわかる。
「だったらどういう理由だ?」
綱手は直接的に尋ねた。
「それでもナナには“力”がある」
反対に、我愛羅は遠回りに話す。
「九尾を封印する“刻印”を失ったとしても、特別な“力”があることに変わりはない」
腕組みをしたまま淡々と。
「尾獣を“狩るヤツら”が、尾獣を“封じる力”に興味がないとは限らない」
「まさか……」
背筋にかすかな衝撃が走った。
「“封じる力”は尾獣のコントロールに繋がる可能性もある」
それは確実に真実に近づいていった。
「ヤツラがナナの力を……“血”を欲しがるかもしれない」
ついにそう告げた時、綱手は我愛羅の瞳の中にひとつの発見をした。
「八尾やナルトと共に、ナナも護るべきだ」
淡々とした口調の中にも滲み出すモノ。
彼はそれを隠しもせず、テマリも全て承知のようだった。
「シカク……」
綱手はシカクを振り返った。
彼も同じものを見つけたのか、すぐにうなずき返す。
「風影様の意見に賛成です」
綱手は再び我愛羅に視線を戻し、ナナを思い浮かべた。
そう……ナナは護らなければならない。
「わかった、助言に感謝する」
風影として“和泉の力”が敵の手に渡ることを心配したのでなく、一人の人間としてナナの身を心配しているのがわかるから。
「うずまきナルトといずみナナ……二人が無茶をしすぎないように押し止めることを願う」
「ああ、約束する」
綱手は若き風影に、誠心誠意をこめて誓った。
我愛羅は一瞬だけ目を伏せ、もう一度念を押すように視線を上げた。
そして、テマリと共に立ち去った。
我愛羅が目を伏せた瞬間に、ナナに想いを馳せたことを、綱手は確信していた。
里に戻った綱手は、仮ごしらえの執務用の机に肘をつき、部屋に入って来たカカシとナナを交互に見渡した。
「綱手さま、お元気になられて良かったです」
ナナは穏やかに笑った。
その顔を、綱手は無遠慮にじっと見つめた。
カカシから“あの件”の報告は受けていた。
カカシの目の前で、九尾に関することを報告に来たナナが、里の重役であるホムラとコハルに手を上げた……と。それが謀反とみなされ、二人の命によって拘留されたのだと。
カカシが語った原因は“予測”だった。
彼はこう言った。
九尾のことでナルトを目の敵にする二人に対し、ナルトを大切に想うナナがついに反抗したのだろう……と。
ナナに真意を問いただす必要があった。里の長である綱手には、それが義務でもあった。
が、ナナはただ穏やかな顔で立っている。
報告義務があることを知らないような愚かな娘ではないことはわかっている。それでも、ナナは自ら口を開こうとはしない様子だった。
だから、綱手は呼び出した目的をこう告げた。
「ナルトと八尾を暁から遠ざけるため、監禁措置をとる。お前はナルトとともに行け」
ナナは驚きの欠片も見せず、薄く笑った。
「でも、今の私には八尾や九尾を抑える力なんてありませんよ?」
自嘲すら含まぬ、まるで他人ごとのような声だった。
「いざとなったらお前の力を借りることになるだろうが、目的は“ソレ”じゃない」
カカシの右目の影を確認し、綱手は冷静に言う。
と、
「ああ……」
ナナは表情を変えずに言った。
「私を重役たちから遠ざけるためですね」
そして、
「その件は、本当にご迷惑をおかけしました」
深々と頭を下げた。
綱手はもう一度カカシを見た。が、彼にここで何かを言うつもりはないようだった。
「それも確かにある……が、真の目的は違う」
ナナは答えを待つように首をわずかに傾けた。
だが、その目に興味の光が一粒もないことを綱手は知っていた。
穏やかに佇みつつも、ナナは触れることすら叶わぬ“壁”を感じさせていた。そしてそれが、カカシにすら手の施しようがないやっかいな“壁”であることは間違いなかった。
だから綱手は、最後の切り札のようにこう告げた。
「お前がナルトと八尾に同行するのは風影の提案だ」
作戦は功を奏した。
「え……?」
ナナが初めて肌に感情を滲ませた。
「我愛羅が……?」
綱手は敢えて、我愛羅の「願い」を「提案」と言い、目的をただ「同行」と表した。さらに、察しのよいナナなら一瞬にしてわかったであろうことも、口に出して言った。
「この措置は、お前を“護る”ためでもある」
想いのこめられた「この措置」を、ナナは受け止めるだろうか……。
正直、綱手にとっては不得意な賭けだった。
ナナはしばらく黙った後、曖昧に笑った。
「我愛羅が……私のチカラが利用されることを恐れて、そう言ったんじゃないことはわかってます」
ちゃんと、意味をくみ取って。
それでも、笑みは歪んでいた。
「みんなに心配をかけて……ごめんなさい」
謝罪は確かに心からの言葉だった。
だが、かけられた心配……贈られた“想い”に対してはやはり他人事だった。もう、それを“もてあます”ことすら辞めてしまったかのように。
綱手は内心でため息をついた。
ナナの後姿を見守るカカシの眉も、素直に真ん中に寄っている。
「出立は明日7時だ。里の門に集合しろ」
「わかりました」
ナナは最後に、何も映さない瞳で告げた。
「ナルトと八尾は必ず護ります」
そんな乾いた決意を言葉にして、ナナは去って行った。