シャニマス怪奇譚   作:合金36号

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初投稿です、よろしくお願いします。


ドッペルゲンガー

その怪談のことを話したのは田中摩美々からであった。

「ねー、三峰はあの話知ってるー?」

殺人級の日差しが容赦なく降り注いでいた真夏の昼下がり。

次の仕事までの間、古いクーラーでも十分に冷やせるほどの小さめのいつもの事務所で、次の仕事までの待機時間にお互いにソファーで思い思いに寛いでるときに、田中摩美々はなんとなくこの緩慢とした時間に、少し刺激を与えようとこの話題を振ったのだった。

「おー?なになに!まみみん?」

三峰が読んでいた雑誌を脇に置き、目を輝かせ身を乗り出す。三峰は基本的に人の振る話題にはみんな乗ってくれるので摩美々にとってはは飽きが来ずからかいがいのある友人だ。

摩美々は大げさににやりと笑って見せてから声を潜めて語りだす。

「ふふー、この事務所…でるんだってー」

「…出るって、なにが?」

少し不穏な空気を感じたのか三峰も声を潜める。

「…ドッペルゲンガーって知ってるー?」

「ドッペルゲンガー?ええと、たしか自分と全く同じ姿の人が何人かいて――」

「――自分と同じ姿のドッペルゲンガーと会うと死んじゃうってやつー」

三峰はごくりと生唾を飲み込む。

「え、待ってまみみん。話の流れ的に『出る』のって…」

「ふふー、せいかーい」

「ええっ!それマジ?」

三峰が目を見開き大げさにリアクションを取る。

まさに、こういう反応を期待していた摩美々はついつい満足げに笑ってしまうのを自分でも止められなかった。

そうして摩美々は足を組みなおし、ソファーに深くもたれかかるとその怪談を話し始めたのだった。

 

「と、いっても私は見ていないけどねー」

そう、見たのは摩美々ではなく同じ事務に所属するストレイライトのメンバーの一人である芹沢 あさひだ。

 

彼女曰くこういうことである。

 

学校が夏休みということもあり朝からダンスレッスンが入っていたあさひが、レッスンを終えた帰り道。

もう午後5時を回っていたが、夏の日差しは勢いを落とすことなく容赦なくアスファルトをホットプレートのように熱していた。

 あさひが道端に落ちていた小石をけりながら事務所に差し掛かると、冬優子が事務所の入り口の扉を見つめながらぼうっと立っているのを見つけた。

「おーい!冬優子ちゃーん!」

あさひは大きな声をかけてみたが冬優子はこちらを一瞥もせず、まるで彫像のように事務所の入り口を見つめている。

「冬優子ちゃーん!」

聞こえなかったのかと思い、再度声をかけ走り寄った。

するとあさひが近寄る前にやはりあさひの呼びかけを無視したまま、すいと事務所の中に入って行ってしまったのだ。

「…?」

首を傾げながらも、その日はそのまま帰宅した。

 

後日。

「あ!そういえば冬優子ちゃんこの前なんで無視したんすか?ひどいっすー!」

ストレイライトのミニライブが終わった帰り道。

プロデューサーが運転する車で送られているときに、この後の予定や、雑談をしている最中に突然あさひが話題をぶった切って脈絡なく

言った。

「はあ?無視って何時のことよ?あんたは危なっかしすぎて無視したくても無視させくれないんだけど」

じとっとした視線を冬優子はあさひにむける。

「一昨日っす。冬優子ちゃん、事務所に来てたっすよね?」

「一昨日…?」

冬優子はきょとんとして。

 

「その日は一日中オフだったから事務所には行ってないわよ」

 

今度はあさひがキョトンとする番であった。

「え?でも――」

言いかけた言葉を飲み込む。

確かにあれは冬優子だったと…思う。しかし冬優子が嘘を言っている風には見えないし嘘をつく必要性もない。

「ねーあさひちゃん?ホントに冬優子ちゃんだった?他人のソラニじゃなくて?」

それまで聞き役に徹していた和泉 愛依があさひの顔を覗き込みながら尋ねた。

「うーん、ちがうと思うっす。けど…」

見間違えとはどうしても思えない。しかし事実冬優子はその日事務所に寄っていないのである。

腕を組んで考え込み始めたあさひに、呆れたような視線を冬優子は投げかけ、ため息をついた。

「あんたが何を見たか知らないけど、行ってないものは行ってないの。諦めなさい」

この話題はそれで終わりになった。

 

「…マジですか」

摩美々の中々に真に迫った語りがひと段落すると、思わず息を飲んで聞いていた三峰が脱力したようにほっと息をついた。

「でー、今も調査してるんだってー」

不思議な出来事に興味を持ったあさひは調査を始めて、聞き込みやら周辺のオカルトじみた噂話を暇を見つけては調べ

ているらしい。その一環で摩美々も聞き込みをされてその話を知ったのだった。

「あー、あさたんならたしかに興味持ちそうだなー」

三峰は苦笑しながらも納得をする。芹沢あさひとは自分の興味を持ったものにわき目も降らずまっすぐ突き進む性質だ。

 そんなことを話しているとガチャリと扉の開く音、そしてやや重めの足音を立てながらまみみ達が暇をつぶしている部屋に、息を切らしながらその足音の主が入ってきた。

「すまん、少し遅れた!」

足音の主――プロデューサーは部屋に入るなり謝罪した。

「えー、どうしましょうかねー?」

つい、からかうような言葉を投げかける。

しかし遅れたといっても精々10分くらいであり、もともと時間に余裕をもって事務所を出る予定だったためそれくらいの遅れなんて、どうと言うことないのだがそれでも彼は律儀に頭を下げる。

「もー、まみみん?あんまPたんをいじめないように!」

三峰も苦笑気味に言う。

「前の打ち合わせが少し遅れてな…遅刻しておいてなんだがもう出れるか?」

「もち!」

「いつでもいいですよー」

軽く机の上などを片付けて、かばんを持ち立ち上がる。先ほど話した怪談など摩美々自身忘れ掛けたときに――。

 

ふいにプロデューサーが振り返らず、軽い調子で言った。

 

「そういえばまみみ。さっき外から帰ってくる所を見たが、買い出しにでも行っていたのか?」

 

 

 

――眩暈がした。

 

 

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