エスカファルス【非在】   作:楠崎 龍照

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エピソード2 自業自得の人々
18話 それぞれ


 

 

 

 

 

 

あの戦いから3週間が経過した。

何とかお願いして肉体の主導権を私……小野寺龍照に戻してもらい、事なきを得た。

今、私の頭の中に、2匹のとんでもない龍が居候のようなものをしている状況。

安藤アパートとはよくいったものだ。

 

まぁ、とりあえず、3年は私の肉体は安泰だ。

ただ、ここからどうにかしないと、私はep4辺りの年になる前に、終わってしまう……。

私は不安にやられつつ、とりあえず普通に生きていこうと結論を出した。

 

 

3週間生きて感じた事だが、今のところ、人間に対してどうこうするといった感じは無さそうだ。

大人しく私の行動にあれこれ聞いたりしている。

私も暇な時は、2匹とコミュニケーションを取ろうと頑張っている。

幻創種、悪く言えばまがい物。

そう言えども、片や七大天龍が一翼の邪龍ニーズヘッグ。

片や禁忌の古龍にして伝説の黒龍である黒龍ミラボレアス。

正直、初めはめっちゃ怖かったが、3週間もすれば意外と恐怖も薄れるものだ。

 

 

 

「さて、飯作るかな……」

 

時計を見ると、時刻は12時だ。

私はベッドから飛び起きて、先に炊飯器でご飯を早炊し、近くのスーパーへと向かう。

今回の購入する品物はサーモンだ。

ちなみにトラウトサーモンの方だ。

個数は7つほど。

何故アトランティックの方ではないのかというと、単純にアトランティックは高いから。

あ、もちろんだが、値下げ品のやつだ。

この時間で値下げしてる店があるのは、スーパー魚波流(ウオパル)がいいだろう。

ちょうど、私が住んでる所からも近いし。

 

 

〚買い物か〛

〚何を買うつもり?〛

 

頭の中で呼びかけてくる存在がいる。

幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスだ。

どうやら、ニーズヘッグの親のように黙って見定め、必要な時に喋る感じではないらしい。

 

それと、私は幻創ミラボレアスが喋る事に非常に驚いた。

何故、戦っている時に一言も喋らなかったのかと疑問に思うが、まぁ問いただすのもなんか怖いし……。

あと、かなり綺麗な女の声だ。

そこら辺もめっちゃ聞きたいが、怖いからやめておく。

触れぬ神に祟なしである。

 

「あぁ、サーモンを買おうかと……」

 

私は普通に返事をする。

傍から見れば大声で独り言をする人と思われるだろうが、まぁ仕方がない。

私は、財布を持ってスーパー魚波流へと向かった。

 

 

 

天気は晴れ。

そして、夏なので誠に暑い。

蝉の合唱コンクールにでも来たのかと思ってしまうほど、蝉の鳴き声がする。

私は額から滴る汗を拭いながら、熱波の街を歩く。

 

「あっつい……」

 

愚痴を零しながら、日陰の場所を中心に歩く。

早くスーパーについて涼みたい。

そう思っていると、前に走っていた男の子が転び手に持っていた風船を手放してそれが空へと浮かび上がってしまった。

 

「あぁ……」

 

男の子は悲しそうな声をして空へと羽ばたく風船に手を伸ばしていた。

 

「……!」

 

私は強豪校の陸上選手の補欠レベルの加速力で背中から翼を一瞬具現化。

空に跳躍し、風船を捕まえ、着地する。

 

「はい、お坊ちゃん、風船」

 

私は少しだけ微笑んで男の子に渡した。

男の子はパァっと喜びの表情になって「ありがとうお兄さん!!」と言って風船を受け取った。

 

「次からは気をつけるんやで」

「うん!!」

 

男の子は頷いて、またお礼をして歩いて行った。

 

 

〚……〛

〚理解ができない〛

 

幻創ミラボレアスが不機嫌そうに呟く。

私は「良いことをした後って、心が晴々するからな。それに″ありがとう″って言われて嫌な気分になる事もそうそうないさね」と言った。

 

〚分からない〛

「まぁ、今は分からないと思う。でも、そのうち分かると思うよ」

〚……〛

〚……〛

 

何も言わない2匹。

こうは言ったものの、1000年以上生きるだろう龍が3年という、人間で言うところの3分レベルの時間で、何か分かるのかと今更ながら不安になってきた。

まぁ、今更不安になっても仕方ない。

 

 

 

「魚波流着いた……くそ暑かった……」

 

私は店内に入る。

素晴らしい程に空調が効いており、先程までかいていた汗が瞬く間に干上がった。

私は買い物かごを持って、魚コーナーへと直行する。

さぁ、魚を買うぞ!!

テンション高く心の中で叫んだ。

 

 

 

 

 

ハリエットの部屋

 

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

ep5オメガのメインテーマを歌いながら、家庭菜園に勤しむハリエット。

自身の力である環境変化:樹界を使用せずに、丹精込めて野菜たちを育てていた。

 

「〜〜〜〜〜♪! 〜〜〜〜〜♪♪」

 

今度はエリュトロンドラゴンのボーカルをまぁまぁな音量で熱唱する。

多分だが、ペルソナに「植物も生きていて、言霊にも反応するっぽいから、歌を聞かせるとスクスク育つよ!」と言われたからだろう。

 

「おっ、もうすぐしたら収穫だね」

「美味しそー、キュウリに味噌つけて丸かじりが最高なんだよねー」

 

アプレンティスとペルソナが部屋に入ってきて、ハリエットにそういった。

 

「ええ、収穫したらサラダでも作ってみましょう!」

 

ハリエットもニコニコした表情をしてペルソナ達に言った。

 

 

一方、別の部屋では……

 

 

「ヒーハー! 最高な出来栄えだ!!」

 

ベランダに薔薇園ならぬエスィメラ園とも言える状況を見て、テンションアゲアゲでバンザイするエルミル。

更に、エルミルはあるものを手に取る。

増草剤である。

 

「これを使ってエスィメラの天国にするよー!」

 

そう言って増草剤の容器の蓋を開けて、全部をエスィメラにぶちまけた。

エスィメラは増草剤をぶちまけられてハイになったかのように、より一層青く煌めく。

その姿を見て、不敵な笑みを零しまくるエルミルだった。

 

 

 

 

商店街 春湖丹(ハルコタン)

 

 

ここは東京にある白と黒が特徴の商店街、立ち並ぶ店の左右で店の色の基調が違う特徴的な商店街だ。

店主の作業服も白と黒で違っているという徹底っぷり。

何故こうなったかというと、スーパーやデパートの台頭により、廃れていく商店街に困った人々が独特で特徴的な商店街にしようと言う事で、行った事がニュースなどに取り上げられて、人気商店街となったのだ。

 

そして、その商店街にある大男がいた。

 

 

「おっ、エルダーの兄ちゃん。買い物かい?」

 

魚屋のオヤジがエルダーの歩いている姿を見て訊く。

 

「おう、ちょっとそこのCDショップでな!」

 

エルダーは爽やかな笑顔をして片手に持っている音楽CDが入った袋を少し上げて、オヤジに見せた。

 

「おー、いいね! どうだい? ついでにオイラの所で魚も買っていかないか? 安くするよ!」

 

オヤジは魚の尻尾を持ってエルダーに見せた。

エルダーは目を見開いて興味津々の様子だ。

 

「アジか、いいな! 1つ貰おうか!」

 

そう言ってポケットからイカ型の財布を取り出してお金をオヤジに渡す。

 

「毎度っ!!」

 

オヤジは魚をパックに入れてエルダーに渡した。

 

「ありがとな!」

 

エルダーは笑顔で礼を言い、ルンルンとした気分で自宅へと帰還する。

 

「帰って早くジャズ聴きてえなぁ」

 

そう言いながら、エルダーは袋からCDケースに貼られたイラストを見てニヤニヤする。

このエルダーがジャズ好きなのは、小野寺龍照がエルダーを創造する際に、イオ・フレミングというジャズを愛する人物が頭に思い浮かんだ事で、成った為だろう。

 

もっとも、それをエルダーは気にすることは無く、ジャズのCDを買っては自宅で筋トレをしながら聴いている。

 

「(プロテイン残ってたかな……。龍照に頼んで分けて貰うかな)」

 

頭の中でそんな事を考えていると……。

 

「(ん?)」

 

「いい加減にしてください!」

「えー、いいじゃん行こうぜ!」

 

何やら女性とそのお子さん(女の子)だろうか、その2人が金髪の男性数名に絡まれていた。

明らかに女性の方は嫌がっており、お子さんに至っては、怯えていた。

他の通行人は見て見ぬふりをするばかり。

 

「なんだありゃ? ナンパか?」

 

魚屋のオヤジがエルダーに話しかけてきた。

それに八百屋と肉屋のオヤジもゾロゾロとやってくる。

 

「みたいだな」

 

エルダーがそう言うと、オヤジ達は袖を捲って戦闘態勢の笑みを浮かべてこういった。

 

「お嬢さん達がやばそうだな」

「いっちょ、やるか!」

「おうよ!」

 

オヤジ達がナンパ男達に立ち向かおうとしたが、エルダーはそれを制止する。

 

「待て待て、お前らが止めたとして、逆恨み持ったアイツらがネットに根も葉もねえ噂なんて立てたら、後々面倒になる、俺が行くからそこで見てろ」

 

エルダーはオヤジ達の返事も聴かずにナンパ男達に向かっていった。

その間も女性と少女は男達に絡まれている。

 

「警察呼びますよ!?」

「いいねー、気の強い女性大好きだぜ」

「落とし甲斐があるってもんだ!」

 

「おい、お嬢さん達が困ってるだろ。やめとけ」

「あ? あんだよ、話しかけて……」

「ぶん殴られてぇ……か?」

 

エルダーは男達を制止する。

だが、突然の横槍を入れられた男達は明らかに不機嫌になり、威嚇しながら振り返る。

 

だが、男達が振り返った、そこにいたのは、210cm以上もあるガタイの良い大男。

更に、エルダーはファルスヒューナルのドスの効いた声で「やめとけって言ったんだが?」と呟いた。

 

「……!?」

「え、あ……」

 

大男のドスの効いた低い声、そして、青く光る眼光を前にナンパ男達は一瞬にして威勢がなくなり、怖気付いた。

 

「それに……誰をぶん殴るって?」

「あ、いや……」

「なんでも……」

 

そう言って、ナンパ男達は全力で遠くへと逃げ去った。

 

「大丈夫だったか?……あれ?」

 

エルダーは女性と少女に近づいて、そう訊ねた。

だが、その2人の容姿を見てエルダーはピタリと固まった。

 

「ありがとうございます! さっきからしつこくて困ってたんです! 本当にありがとうございます!」

 

そうお礼をする女性は、緑色のセミショートヘアーで紫色の瞳をした、しっかりとした印象を持つ女性だ。

 

「ほら、ディアも挨拶しなさい!」

「あの、ありがとうございます」

 

そう女性に言われて、静かにお礼をする少女。

幼く、薄い緑色のロングヘアーをして、紫色の瞳をもった大人しめの少女。

そう、エスカファルス・エルダーは、あったことも見たこともないが、エルダーにはこの2人を知っていた。

 

「いやいや、気にしないでくれ、それより何事もなくてよかった」

 

エルダーは平然のままそう口にするが、内心は心臓がバクバクとなっていた。

それはエルダーにも分からない。

何故だか、この2人を見ていると心臓の鼓動が強くなり、もっと話をしたい、共に居たい。

そのような感情が湧き出てくる。

だが、ここでそれを言ってしまえば、自分自身もあのナンパ男と同じになる。

エルダーは自分の感情を抑えるのに必死だった。

 

その後、エルダーと2人とは別れたが、エルダーの心臓のバクバクは収まらなかった。

 

「おい、なんなんだこれは……クソが……なんでこんな……」

 

ブツブツと呟きながら、エルダーは帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の都市部にある大図書館。

 

 

館内に聴こえるのは、冷房の音だけの静寂に包まれた空間に、ルーサーは読み終えた山の神と記されたの本を本棚に納めようとしていた。

 

「(山の神か……なかなか興味深いな。他の文献も見てみよう)」

 

ルーサーは別の書庫から山の神に関係する本を取り出して、座席で読もうした。

しかし、本棚を挟んだ向こう側でバラバラと本を落とす音が聴こえ、何事かとルーサーは見に向かった。

すると、散乱した本と腰を打って痛そうに悶絶しているロングヘアーの美人女性がいた。

 

「大丈夫かい?」

 

ルーサーは女性に駆け寄った。

 

「あ、はい。すみません……。昨日から論文を書いて寝不足でして……」

 

そう言って女性は立ち上がった。

そして、その女性の顔を見たルーサーは絶句する。

 

「!?」

 

絶句するルーサーを尻目に女性は、散らばった本を本棚に収めはじめる。

それを見てハッとしたルーサーは「僕も手伝うよ」といって女性の手伝いをした。

 

「すみません。本当にありがとうございます」

「お気になさらずに」

 

平然とした態度をしているルーサーだが、内心はドキドキである。

ルーサーの心臓は激しく鼓動していた。

 

「すみません、助かりました」

 

ぺこりとお辞儀をする女性。

ルーサーは笑顔で気にしないでくれと言った。

 

「シオンー、そろそろ戻ろー?」

 

別の女性の声が聞こえてくる。

その名前にもバクンと心臓が飛び上がった。

 

「すみません、本当にありがとうございます」

 

そして、女性は書庫から出ていった。

 

「なんだろう……この気持ち……」

 

一人取り残されたルーサーはポカンとした様子で書庫に佇んでいた。

 

 

 

 

 

マンション、ダブルの部屋

 

 

 

「……」

「……」

 

時刻は3時。

ダブルはベランダからある光景を羨ましそうに見ていた。

それはランドセルを背負った学校帰りの子供たちだ。

皆楽しそうに話をしながら帰宅している。

 

「いいなー」

「羨ましいなー」

 

ダブルはその光景を見てポツリと呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

続く

ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?

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