エスカファルス【非在】   作:楠崎 龍照

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29話 狂気に抗え!! 希望を捨てるな!! 夢を諦めるな!!

 

 

 

 

 

学校内。

 

 

「……誰かいないの?」

 

私(ペルソナ)は、校内を走り回った。

しかし、いるのはダーカーもどきだけ。

消え入る声で何かを呟き、死ぬ時に感謝の言葉や嘆きの言葉を発して消滅する。

地獄以外の何なのだ??

私の精神は元生徒達の声により蝕まれ掛けていた。

 

「……皆ダーカーになったのかなぁ……」

 

廊下には黒いヘドロと肉片だけ、これが全て生徒や教員のものだと考えたら絶望しかない。

負の感情によって生まれた深遠なる闇が、絶望を感じるのは中々に笑える事ではあるが、これは流石に笑えない……。

凄惨や惨劇という言葉では片付けられないほど、この学校は終わっていた。

……何故、どうしてこんな事に?

何故、裕樹があのような異形の存在に?

負の感情にエーテル粒子が反応したっぽいけど、あそこまで行く負の感情なんて……何があったの?

私は考えながら、廊下を歩いていると奥の教室から声が聴こえる。

 

「生存者!?」

 

私は走って、その教室へと走った。

声が聴こえる教室は2ー1と書かれた教室だ。

 

「大丈夫!?」

 

私が扉を蹴破りながら入ると、そこには1人の男子生徒がブリアーダに襲われていた。

 

「た、助けてください!!!」

「!!」

 

私は有無を言わずに、ブリアーダに切りかかる。

真っ二つに切り裂かれたブリアーダは溶けるようにバチャリと消滅した。

 

「大丈夫!?」

 

直ぐに私は男子生徒の元に駆け寄った。

 

「だ、大丈夫です! ありがとうございます!」

 

男子生徒は立ち上がり、深くお辞儀をした。

とりあえず、私はアンティレスを使って彼を回復させ、彼に質問をした。

 

「この学校で何が起きたの?」

 

私がそう問うと、彼は首を振って「分かりません。いつものように友人と話をしていたら、突然爆発が起きて生徒達が変な生き物に変わって……さっきの虫も僕の友人で……」

「そう……ごめん……」

 

男子生徒の言葉に私は謝罪をした。

彼は「気にしないでください。友人も苦しんでいたから、こうして手に掛けてくれた方が幸せだったかも知れません」と私を慰めてくれた。

 

「ここは危険だから、早くこの場から離れよう! 大丈夫私がいるから安心して!」

 

そう言って、私は男子生徒の腕を掴んで学校から離れる。

廊下を走ってさっきとは違う下足室に差し掛かろうとした時───。

突如、男子生徒がピタリと立ち止まった。

私は「どうしたの? もうすぐだから少し我慢して逃げよう!」と言うが、男子生徒は悲しそうな表情になり、口を開いた。

 

「すみません。どうやら僕もダメみたいです」

「……え?」

 

男子生徒の言葉に私の頭は一瞬停止する。

そんな私を無視して男子生徒は言葉を続けた。

 

「本当にすみません。ここまで来たのに……どうか逃げてください……!!」

「そ、そんな……」

「は、早く……僕が、僕で無くなる前に……!!」

 

男子生徒の目が血走り口から黒いヘドロを垂らしながらも力を込めて暴走を抑えながらそう言った。

私はどうしていいか分からずアンティレスを使い彼を治癒しようとした。

その時だ。

男子生徒は徐ろに自分の服を破いた。

その男子生徒の脇腹を見て私は「ひっ!?」と声を上げてしまう。

その男子生徒の脇腹いっぱいに黒い卵のような物がこびり付いていた。

そして、その黒い卵が一斉に孵化し、ハエくらいの大きさのダモスが一斉に湧き上がった。

 

「!!?」

「身体の言うことが……! すみません、もし可能なら母にこう伝え、てください……! ぐっ……僕を育ててくれてありがとうございます、と……! 僕の名前は……!!!」

 

男子生徒がそう言いかけた瞬間……。

 

「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

耳を裂くような金切り声と共に身体が溶けだし、ブリアーダに変貌した。

 

「……う、うそ……」

 

その光景に私は涙目で佇むしかなかった。

だが、佇む私に向けて先程の男子生徒が語りかけた。

 

「早、く……にげ、て……!」

「あ……」

 

ブリアーダとなった男子生徒の声で私は正気を取り戻し、コートエッジ・ESを握りしめる。

 

「ごめん……どうか……安らかに……!!」

 

私は苦しませないよう、全力でダモス諸共、ブリアーダを斬ろうとする。

ブリアーダは抵抗することも無く私の刃を受けた。

 

「あり、がと……ご、いま、す……」

 

ブリアーダと化した男子生徒は、優しい声で私にそう言って消滅した。

静寂となった廊下で、1人になった私は歯を噛み締め涙を流して呟く。

 

「……どうして……どうしてこんな事に……!!」

 

私は涙を拭いて、生存者を探しに3階へと向かった。

1人でも救わなくちゃ……!!

心に決めて階段をかけ登る。

 

「……」

 

だが、3階も同じ溶けかけた肉片やヘドロが、絵の具をぶちまけたように散乱しているだけだった。

私は走って全ての教室を確認していく。

 

「誰かいますか!?誰かいたら返事してください」

 

大声でそう言った。

来るのは、ダーカーもどきだけ。

私を殺してください。

友人の元に逝きたい。

何で俺がこんな目に。

家族に会いたかった。

嫌だ、死にたくない。

もっと生きたかった。

このような声が聞こえてくるばかりだ。

 

その中、私が1つの教室を確認した時、教卓の中で女子生徒が震えているのに気づき、私はその女子生徒に駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

黒髪ロングヘアーの女の子だ。

私の存在に気づいた女子生徒は涙目で私に抱きついてきた。

 

「お願いします助けてください!!」

 

少しパニックになっている女の子に私は「うん! 私と一緒に学校から避難しよう!」と言って彼女を落ち着かせる。

何があったのかは聞かず、私は彼女を連れてここから出る事にした。

 

「急ごう!」

 

その時、学校全体が揺れるような地響きが発生した。

私は不意に窓から身体を出すように外を確認する。

私の目に広がるのは黒いヘドロに染まった地面に降り立つ黒い巨人とそれを見つめる黒い龍という光景だ。

 

「あれが、裕樹の姿??」

 

私は呆気に取られていた。

だが、そうもしていられない。

私は彼女と共に学校の窓から逃げる事にした。

この子だけでも救いたい!!

怯える彼女を抱きかかえ、3階の窓から飛び降りた。

 

「よし、ここからエルミルに頼んで幻神壁を解除して逃げるだけよ!」

 

私は女の子にそういった時、私たちがいる近くの窓ガラスが割れ、エルアーダとブリアーダが襲撃。

 

「!!」

 

私は鬼のような表情をして迫る2匹の羽虫を真っ二つにする。

早くここから逃げないと!!

2匹の消滅を見て、女の子の手を引こうとした時……。

 

「え?」

「あ?」

 

女の子の腕がとれたのだ。

何が起こったのか、分からない。

女の子も困惑している。

自分の腕が切れている事を認識されていないのか、呆然としていた。

だが、その瞬間……。

 

「……!?」

 

女の子の首と腹部から血が吹き出し、首と腹部が地面に転がる。

 

「…………え?」

 

ペルソナは困惑し、何が起きているのか分かっていないようでそれを見ていた。

上半身を失った下半身は崩れるようにバタリと倒れた。

 

「…………え、え?」

 

殺された女の子の後ろにいたのは、黒いプレディカーダ、黒いディカーダがおり、そのプレディカーダ達は女の子だった肉の塊を喰い始める。

 

「………………う、そ……」

 

私は突然の出来事に持っていた武器を落とし、女の子がプレディカーダ達に喰われているのを、ただただ茫然と見ているだけだった。

 

「……や、やめて、その子から……離れろぉぉおおおおおお!!」

 

だけど、直ぐに我に返った私は発狂に近い声をあげて、プレディカーダに襲いかかる。

コートサーベルを具現化はしたものの、その刃は非常に脆くプレディカーダを切断する事が出来ず、逆に刀が真っ二つに割れた。

せっかくの食事を邪魔されたプレディカーダ達は私を殺そうと襲いかかってくる。

 

「この、野郎……!!」

 

私は崩れかけている精神を必死に耐え、エスカ・ディーオに姿を変化させて左腕に3本、右腕に3本の闇で出来た槍を作り出してプレディカーダ達に投擲、串刺しにした。

更にその槍が黒い爆発を起こしてプレディカーダ達が爆発四散する。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

私はエスカ・ディーオのまま肉の塊に消えるような小さい声で呟いた。

 

「…………ごめん……救えなくて……」

 

と。

私はしばらく、その場から動けることが出来ずずっと、肉の塊を見つめていた。

だけど、身体に異変を感じて正気を取り戻した私は龍照達のいる場所へと向かったのだ。

 

 

 

 

少しだけ時間が戻る。

 

 

【た、つー……】

「裕樹!!」

 

私はエスカファルスを解いた。

裕樹の意識を取り戻せた。

これで救える。

私は確信し、裕樹の元へと駆け寄った。

 

「裕樹、大丈夫か!?」

【今は、大丈夫……】

 

その声は全身に力を込めているような低い声をしていた。

 

【タッツーが、この化け物に……攻撃を、与えてくれた、おかげで何とか、僕の意識を……】

「そうか、待ってろ! 裕樹を救ってやる!! マザーに言って元の状態に……」

 

私がそう言うと、裕樹は首をゆっくり横に振った。

 

【無理、だよ。僕の身体は、絶望や怒り、憎しみに……支配されて、元に戻れない……】

「んな事言うな! 大丈夫や!! マザーに頼めば元の姿に!!」

【ごめん、せっかく、友達になれたのに……】

「シャレにならん事言うな!! 今すぐ呼ぶから待ってくれ!!」

【も、もうじき……僕の意識が無くなる……そうしたら、終わる……だから、僕は……】

 

裕樹はそう言うとおもむろに立ち上がり、巨大なエネルギー弾を生み出した。

 

「おい、まて!! 何をするつもりや!!」

【僕は……罪のない生徒たちを、殺して……しまった……だから、もう生きる資格、はない……!! それに、僕がこのまま、入れば……この世界の皆が、化け物になって、しまう……】

 

私は彼がやろうとしている事を理解し、それを阻止しようとする。

上から見ていたエルミルはそれは行けないと、幻神城に備わっている兵器で裕樹が生み出したエネルギー弾を狙撃、破壊を試みる。

しかし、その攻撃では裕樹のエネルギー弾を破壊することは叶わず、それどころかその攻撃を吸収して更に大きくなった。

 

「やめろおおおおおおおお!」

 

私はエスカファルスとなって、本気で止めにかかる。

だが、そんな事を尻目に裕樹は私に一言だけ呟いた。

 

【ありがとう。こんな僕と友達になってくれて……】

 

彼はエネルギー弾を自身の胸に力強く当てた。

その強力なエネルギー弾を受けた身体は赤黒い光を放ち、小さな粒子となって破裂するように霧散。

巨人がいた所には、笑顔で事切れた裕樹がいるだけだった。

 

「ゆ、裕樹……!」

 

私は彼の亡骸の前で膝から崩れ落ち、裕樹に話しかける。

だけど、裕樹は喋ることは無かった。

 

 

「あぁ……あぁ……!!」

 

私は頭を抱えて発狂するのを、自分の心が壊れそうなのを必死に抑えた。

手の震えや悪寒が止まらない。

今すぐにでも精神が壊れそうな感覚に襲われる。

 

 

「先輩!!」

 

心配で龍照に駆け寄ってくるエルミル。

だが、そのエルミルも胸を抑えて苦しみ出した。

エルミルだけじゃない、エルダー、ルーサー、アプレンティス、フロー、フラウ、ハリエット、ペルソナも全員が想像を絶する苦しみに悶え出す。

 

具現武装とは、使い手の意思と心の強さが反映されている。

つまり操る者の心が壊れれば、その人の具現武装も崩壊する。

龍照の具現武装はエスカファルス。

つまり彼から生み出された8人のエスカファルス達は今、文字通り生死を彷徨うという非常に不味い状況にある。

 

「ぐぐぐぐぐぐ……!!!」

 

龍照は白目を裂きつつも歯を食いしばって必死に心が壊れるのを耐えていた。

 

「先、輩……!!!」

 

胸を抑え、口からエーテルを吐きながらエルミルは龍照の元へと必死に駆け寄る。

 

「正気を、取り戻すんだ!!」

「あぐぐぐぐぐぐ……!」

「先輩がこのまま、壊れたら! マザーや、べトール達を救う事が……はぁ、はぁ、はぁ! 出来なくなる!!」

「も、もう……無理だ……!! 目の前で……大切な友人が……!!」

 

「対魔忍の世界に、行くんだろ!? 救うんだろ!? そんな所で……ぐぁあ! あき、らめるのか!!?」

 

自身も壊れそうな程苦しいのにも関わらず、必死にエルミルは龍照を正気を取り戻そうと大声をあげる。

 

 

「龍照!!」

 

学校の方から龍照を呼ぶ声がきこえる。

龍照とエルミルは苦悶の表情を浮かべながら、ちらりとそちらへと視線を向けた。

そこにはペルソナが苦悶に歪めた表情で、今にも倒れそうな歩き方で龍照へと歩み寄る。

 

「夢を諦めるな!! 対魔忍に、なるんでしょ!? マザー達を救うんでしょ!?」

「だ、だけど……心が!! 心があぁぁぁぁ!!」

 

龍照の悲痛の雄叫びが響く。

それに対して、エルミルは必死に呼びかける。

 

「狂気に、抗え!!! 希望を……捨てるなああああああ!!!」

「ぐううううう!」

 

〚龍照、お前は我に、本当の人間を見せてくれるのはないのか? それとも、お前も我と同じ道を歩むのか?〛

〚龍照ー! もっといっぱい人のいい所見せてくれらんでしょ? 良い人悪い人それぞれ見たけど、私はまだ人を見たいんだけど?〛

 

「……そ、それは……!!」

 

幻創龍達の言葉に少しだけ正気を取り戻し始める。

 

〚我に見せてくれるのだろう? 人間の可能性や暖かさを……〛

〚可能性はファレグさんで十分分かったから、後は人間の暖かさを感じたいな〛

「……」

 

「対魔忍の世界行って、綴木みことちゃん達と、チーム組むんでしょ!?」

 

ペルソナの言葉に私は心の痛みが和らいで行くのが感じ取れた。

 

「……わ、私は……」

 

たっつー。

 

「!?」

 

裕樹の声が聴こえる。

 

たっつーまで狂ったらダメだ。

僕と同じ場所に来ては行けない。

たっつーは、やる事があるんでしょ? 夢があるんでしょ?

それなら、死んだ僕の事なんてもう忘れて、たっつーはたっつーの目的の為に生きるんだ。

 

と。

そういったのだ。

そして、最後に

 

短い間だったけど、君と出会えてよかった。

僕は君の活躍を向こうで見るよ。

だから、君も夢に目指して頑張れ。

ありがとう。

 

 

 

「裕樹……」

 

私は涙を流し、バタリと気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負の感情を持ったエーテルか。素晴らしいエーテルだ。これならあれを動かすのに使える!」

ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?

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