エスカファルス【非在】   作:楠崎 龍照

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30話 破滅は止まらない。

 

 

 

 

あの事件から1日が経過した。

私は他のエスカファルス達に連れられて月面へ来た。

 

「身体には何の異常も見られない。極めて正常な状態だ」

 

オフィエルは私の全身をスキャンしてそう言った。

そして、カルテと思われる紙に何かを書いてマザーにそれを渡した。

それを受け取ったマザーは一通り目を通して『ふむ。』と頷き、オフィエルに『ありがとう。』と言った。

 

「他のエスカファルス達にもエーテルの異常は見られませんでした。ですが、一応マザーの方からも診る方がよろしいかと」

『ふむ。分かった。私からもエスカファルス達の身体検査を行うとしよう。ありがとうオフィエル。』

「それでは、私はこれで」

 

深く一礼をすると、オフィエルは隔離術式を使い、地球へと転移した。

 

「すみません。このようなことになってしまって……」

 

私はマザーに深々と謝罪した。

マザーは首を横に振って『問題ない。それよりも君の友人の冥福をお祈りする』と静かに言った。

 

「……」

 

私は自分の不甲斐なさに涙が止まらなかった。

その姿を見ていたエスカファルス達も目を瞑り、何を言わなかった。

 

「……」

 

あの後、あの事件は世界中のニュース番組に報道され、今も恐ろしい程に騒ぎになっている。

私も、昨日は警察からの取り調べを受けて精神的にキツかった。

それでも、マザーや日本政府程ではないだろう。

記者会見で、恐ろしい程の質問攻めにあっていた。

 

そして、私の供述やマザーの考察から日本政府は「イジメによる怒りや絶望がエーテルに強い影響を受けて、男子生徒が負のエーテルに呑まれて暴走した」という結論に至った。

私もそうだと思う。

アイツが無闇矢鱈に人を殺すなんて思えなかった。

 

「……でも、どうして裕樹がダーカーを……」

『……不明だ。』

「そう……ですか……」

 

私は顔を曇らせて俯いていると、オフィエルが転移してきた。

 

「小野寺龍照。君のデータを確認したが、血圧が少し高い。もう少し検査をしたいからついてきてくれ」

「あ、はい」

 

私は返事をして、オフィエルに連れていかれた。

多分、最近ご飯とか色々と食べすぎたからだろうと思った。

 

龍照とオフィエルがエレベーターで下に降りたのを確認したエスカファルス・エルミルとペルソナは、マザーに問いただした。

 

「ねえ、マザー。本当に分からないの?」

 

その言葉にマザーは目を瞑り、少しの静寂の後ゆっくりと語った。

あくまで私の推察である。

それと、その事で君達が責任を負う必要は断じてない。

という前置きをして……。

 

 

あのダーカーは、小野寺龍照の影響によって生まれたものでは無いかと言うことだ。

 

龍照がこの世界でエスカ・ダーカーやエスカファルスを過剰に具現化した事で、待機中に浮遊するエーテル粒子がエスカ・ダーカーの情報を記憶。

そして、裕樹の絶望に反応したエーテルの中に、エスカファルスを記憶したエーテル粒子が大量にあり、裕樹をダークファルスへと変えた。

だが、そこに違いが生まれる。

 

小野寺龍照が具現化したダーカー、ダークファルスは、「ただただ綺麗でカッコイイダーカーを生み出し、とある人々を救いたい」という負の感情ではなく正の感情によって生まれた存在。

 

一方、裕樹はイジメによって絶望、怒り、憎しみと負の感情により本来のダークファルスに近い存在に成り果てた。

そして、そこから生まれたダーカーも原作のダーカーに近い物へと成った。

という事だ。

 

「……」

 

ペルソナが何か言おうとした時、マザーがペルソナの言葉を遮った。

 

『どの道、龍照がエスカダーカーを具現化せずとも、それが別の物に成り代わっていただけだ。君達が責任を負う必要はない。』

「……」

『君達は変わらずに過ごすといい。それとその事は龍照には言わない方が良い。』

「分かりました」

 

ペルソナ達は一礼をして、マザーの検診を受けることになった。

 

 

『ふむ。』

 

マザーは全てのエスカファルスをスキャンして一息ついた。

そして、口を開く。

 

『どこにも異常は見られない。ただ、ペルソナはもう少し食生活に気をつけた方がよい。』

 

マザーは少しジトッとした目つきでペルソナを見つめていた。

それにプイっと目を逸らすペルソナ。

 

『食べすぎだ。』

「はい、すみません」

 

マザーの注意にペルソナはシュンとしてぺこりと頭を下げた。

 

 

『検診はみんな以上はない。もう下がって大丈夫だ。』

 

マザーはそう言うと、エスカファルス達はお辞儀をして地球へと戻って行った。

 

 

 

 

皆が帰った後、マザーは月の中枢へと戻り昨日起こった事件が綴られたデータを確認する。

 

『……裕樹が生み出したダーカー……。エスカファルスともダークファルスとも違う存在……。』

 

マザーは昨日のエーテル粒子の波状、構造を確認する。

そして、裕樹がダークファルスへと成り果てた時のエーテル粒子の構造に目を通した。

 

『このダーカーのエーテルの構造……やはり、小野寺龍照のエスカダーカーの構造になっている。……ん?。』

 

エスカダーカーの構造を見ていると、ふと異様に構造が違っている事に気づいた。

例えるなら、真っ直ぐな心電図が急に波打つように、上下に動き出すような感じだ。

 

『これは……』

 

マザーはふと大昔、フォトナー時代に、ある科学者が生み出した存在を思い出す。

 

 

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その時、私はカプセルの中に揺蕩うようにいた。

私の目の前には、小型モニターで私のデータをチェックしている科学者と、その後ろで何やら開発をしている科学者がいた。

 

 

 

『完成した……遂に完成したぞ!!』

 

その白衣を着た科学者が雄叫びを上げる。

そこには種のような物体があった。

 

『おいドール、また下らねえモンを開発したのか?』

 

同僚の科学者がドールと名の科学者に絡むように話しかける。

 

『下らねえモンとは失礼だねアザマ君! これこそ僕達人類を守る自立型成長侵食ウイルス【SEED】!』

 

そう言ってドールは小さな種を見せる。

そして、そのドールは説明をする。

 

いいか?

この種を植え付けられた存在は生物、無機物問わずに侵食して我が意のままに操る事ができる最強の種なのさ!

 

自信満々に得意げに彼はそう言った。

だが、もう1人の男、アザマは「はぁ!?」とコイツ頭おかしいんじゃねーか?と言いたげな口調で言った。

 

『バカ!お前何て物を作ってんだ!』

『だから、これさえあればこれから全宇宙を統治する際に歯向かう蛮族共が入ればこれで、ポンっ! よー!』

『お前なぁ、そんな物を作ってみろ! 七の男神や十三の女神の耳に入ろうものならお前は永久追走だぞ!』

 

そう言われて膨れっ面になるドール。

だが、それだけ言われても食い下がるドール。

 

『待て待て、ルーサーさんにこれを見せたら……』

『やめろ、あのサイエンス変態にそれを見せたらそれこそ不味い!』

『面白いことになりそうじゃ……』

『バカ! お前本当に怒られるぞ! お前マジでヴァルナ様に報告するぞ!』

 

ヴァルナの名前を聞いたドールは突然顔色を変えて『わかったよ』と言って、ドールは近くにあった機械を操作、宇宙空間に小さな亜空間を開けて、SEEDと呼ばれる種を廃棄した。

 

『捨てたよ、それよりコピーシオンの様子はどうだい?』

『あぁ、これはダメだ。性能としては惑星シオンのスペックを優に超えている。だが、制御が効かない』

 

アザマは私の方を見て、キッパリと言い切った。

 

『これは亜空間に廃棄だな』

 

と。

 

 

 

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『忌まわしい記憶だ。』

 

嫌な記憶を思い出し、少し不快な気分になったが、裕樹が生み出したダーカーのエーテル構造にそのSEEDに似た構造が含まれていた。

だが、似ているだけで別物である事だけはわかった。

何故、SEEDに似た構造がダーカーに含まれているのかは謎だったが、おかげで人間が一瞬にしてダーカーに変異した理由がわかった。

 

ダーカーに変異した生徒や教員達は、エスカダーカー因子とSEEDウイルスの両方を一気に体内に侵入されたのだ。

どうりで侵食まで一定期間を要するダーカー因子よりも超短期間で変異する訳だ。

更に言えば、完全なダーカーではないから、龍照が持つダーカーを侵食するエスカダーカーも効かないわけだ。

 

『さしずめ、オルガ・ダーカー。オルガ・ファルスと言ったところか……。』

 

私はそう呟いた。

……だが、そうなると裕樹が自らの手で命を絶ったのは懸命な判断だったのかもしれない。

あのまま行けば、世界は負の感情を持ったエスカダーカーとSEEDを複合したオルガ・ダーカーによって地球その物がオルガ・ダーカーになっていた(1部を除く)可能性がある。

実際に、現状地球に舞うエーテルに異常は見られずSEEDのようなものは見られない。

もちろん、そんな事は龍照には口が裂けても言えない。

 

 

『……』

 

だが、なんだろうか……。

嫌な予感がする。

私の演算すら遥かに上回る、破滅的な事態が……。

 

『まずは各国にマザークラスタの支部を配置、幹部の増員をして、戦力増強を図ろう。』

 

私はそう思い、各国に連絡を送った。

近い未来に想像を絶する事象が起こる。

それに備えるため、私は動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

夜の9時。

 

 

 

「たでーま」

 

私こと小野寺龍照はオフィエルからの検診を終えて家に戻ってきた。

 

おかえりー!

 

と、エスカファルス達が出迎えてくれた。

少しだけ心が洗われたような気がする。

 

「はぁ……」

 

私はソファーに座り、とてつもない深いため息をつく。

あの後、マザーに裕樹の葬儀について訊ねたが、仮にもダークファルスに近い存在になった為、葬儀を行う事ができず、浄化機能があるエーテル粒子の膜に覆われた棺に入れて埋葬するしかないとのことだ。

だから、私は裕樹が入った棺に花を添えてアイツが天国に行けるように祈った。

 

 

 

「……」

 

……。

……。

 

「あれだな……」

 

私は口を開く。

曇りきった静寂の空間に私の声が響く。

 

「ど、どうしたの?」

 

ペルソナが返答する。

 

「前に、好きなキャラクター、女性キャラクターの死に関して話したやんか……?」

「うん……」

「私さ、よく思うんだよな。私が強くて死ぬ運命を辿るキャラクター達を守りたいなって……その後の、そのキャラクターがどんな未来を行くのかなって考えるのが好きでな……」

「……」

「まぁ、限界突破したキモオタの考える蛇足な妄想やんか。その時の私はただの一般人。そんな事ができる訳が無い」

「うん……わかるよ……」

「でもさ、この世界に来てエスカファルスに近い力を手に入れて……これならそういうシチュエーションもいけるんじゃないか?って思った訳よ……」

 

静かに死ぬのではないかと思えるような声で話す龍照に、他のエスカファルスは居た堪れない気分になった。

 

「でもさ、実際、友人すら救えないんだよな……。エスカファルスの力を持っていて、このザマよ……。何も救えなかった」

「ぅん……」

 

龍照の言葉にペルソナも昨日の生徒達のことを思い出して、涙がポロポロと出てきた。

 

「何がエスカファルスや……。何がこれで救えるや……。友人1人も救えんとか……これじゃあ、べトールも、マザーも救えない……私は、エスカファルスの強い力をもった無力な人間や……」

 

龍照の言葉に皆が静かに俯く中、1人だけ口を開いた。

 

「おい、龍照。まさか、それで終わりなのか?」

「……」

 

エスカファルス・エルダーだ。

エルダーは少し険しい表情で龍照を見つめながら、そう言った。

 

「救えなかった。自分の無力を実感した。それで終わりか?」

「……」

「違うだろ? もうこんな事が二度と起こらねえ様に無力な自分に縛られず、己の全てを鍛える。違うか?」

「……」

「まぁ、これからどうするかは、龍照次第だ。ただ、これだけは言わせてくれ、本物の俺のようになるな……!」

「……!!」

 

エルダーの言葉に龍照は何も返事はしなかった。

だが、何か空気が変わったのを感じ、ペルソナ以外のエスカファルス達は各々の部屋へと戻って行った。

 

「そうやな……」

 

龍照は呟く。

ペルソナは「え?」と言って顔を上げた。

 

「まだ、傷が癒えてないけど、エルダーの言う通りや……。これで終わりじゃない……」

「……」

「今すぐに……とは無理だけど、あんな悲劇を繰り返す事がないように……私はもっと強くなる……!」

「そう、だね。そうだよね……!」

 

龍照はユラっと立ち上がりそう口を開いた。

ペルソナもその姿を見て立ち上がった。

もうあのような悲劇は繰り返させない。

もう、誰一人として失わさせない。

もっと強くなり、必ず救う。

2人はそう心に誓った。

 

 

〚我も、ファレグ・アイヴズを倒すために……!〛

〚私は元から強いから別にいいかな〛

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いマザーシップ。

 

 

「主様何処へ行くのですか?」

 

少女は主である男性に話しかける。

男性は、何やら装置を持って「大丈夫。ちょっと大切な用事があってね。すぐ戻ってくるよ」と言い、持っている装置をを操作して、姿を消した。

 

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくるね。あぁ、この転移装置は少しだけ範囲が広いからもう少しだけ離れた方がいいよ」

 

姿の見えない男はそう言うと、転移装置を使いどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

龍照が元いた地球。

 

夜の12時。

大阪自然公園。

 

「にゃーアイツどこ消えたんや?」

「分からない。どこに消えたんだろう……」

 

pso2仲間である大原栄志と藤野キイナは、小野寺龍照の消息不明に話し合っていた。

原初の闇の初討伐を終えてから連絡が途絶えてしまい、それを不審に思った大原と藤野は警察に連絡して捜索届けを出したのだ。

だが、一向に小野寺の消息が掴めず捜査が難航していた。

 

「……神隠しか?」

「本当にそうだとしか考えられない」

 

小野寺と同じく民俗学を専攻している大原が呟く。

同じく民俗学を専攻している藤野もその意見に肯定的だ。

 

「そういえば、エレベーターを使って異世界に行く方法があるってネットで見たよ!」

「やめとけ、本当に行けたとしてもアイツのいる場所に行けるとは限らん」

 

藤野の提案に大原が却下する。

その時だ。

自分たちの近くで何やら光が輝きだした。

 

「え? 何この光!?」

「し、知らん! 眩しい!!」

 

震える声で話す2人。

そんな中、青い光に包まれて人が姿を現した。

その人は白衣を着た男性だった。

 

「おや? しまったな。どうやら座標を間違えた様だ。透過状態も解けている。んー仕方ない。もう一度座標を設定し直して転移だ」

 

白衣の男性は冷静にそう呟きながらも、手に持った機械を操作して姿を消して再び転移しようとする。

その姿に完全に我を忘れて固まる2人。

その2人に気づいた男性は丁寧な口調でこう言った。

 

「君たち、危ないから離れていなさい。この転移装置は少しばかり強力で転移する対象範囲が広い巻き込まれても知らないよ」

 

と、知らないよと言い終わるところで、既に転移装置のボタンを押していた。

 

「え?」

「え?」

 

2人は理解が及ばない間に、白衣の男性の転移装置に巻き込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

続く

 


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