エスカファルス【非在】   作:楠崎 龍照

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マザークラスタ極東支部に所属して数ヶ月が経過した。
とりあえず、やってる事は幻創種の駆逐が多い。
増えすぎた幻創種の討伐、エスカ・タワー周辺に具現化される幻創種などなどだ。
ドスゾンビやチャカゾンビ等が主である。
あとはカラスやらネズミやら、小型が多い印象がある。
またpso2では見たこともない幻創種も多数見受けられた。

2つほどあげると……。
蛇型の幻創種、名前はエスネーク。
大きさ的には小さい部類に入るが口から毒液を入ったり、尻尾から口を生み出して噛み付いてきたりといった感じの地味に鬱陶しいエネミーだ。


あとは、あれだ。
台所に居る黒光りするやつだ。
名前はエスカブリという名前らしい。
こいつは攻撃手段は非常に少ない。
ただ、ちょっと引くぐらい生命力があるのが特徴的だ。
倒して体を真っ二つに切り裂いて完全にエーテル粒子に霧散するのを確認しないと討伐出来ていないことがある。
それと、先程攻撃手段が少ないと言ったが、その攻撃手段が恐ろしい。
基本は一匹で行動しているのだが、人を見つけた瞬間に100匹に分身して突撃してくる。
……攻撃力を無くしたシグノビートの分身を100匹したと思ってくれたらいい。
ぶっちゃけ攻撃されても痛くも痒くもないのだが、精神的にヤバい。
そんな感じだ。

「ふぅ……」

私はエスカ・タワー周辺の幻創種討伐の報告書をまとめて一息つく。
エスカ・タワーには、時々幻創種の出現が確認される。

やはりエーテルを散布する場所の近くでは具現化がされやすいのだろう……多分。
特に放置していても問題は無いらしいのだが、万が一の事があるとのこと。
エスカ・タワーはエーテル粒子を効率良く大気中に散布する為に建造された建物だ。
中にはエーテルを発生させる機能があるらしくそれをエスカ・タワーの最上部にある先端から散布しているらしい。
ただ、この情報は私が調べた訳ではないからあまり信憑性に欠ける所がある。
噂ではエーテル縮退炉なる物があるとかないとか……。
そのエーテルを発生させる装置はマザーのみが動かす事が可能で、大気中のエーテル濃度によって散布の強弱を調整できるらしい。
私もマザーから聞いた事なので、よく分からないが、どうやらそのエスカ・タワー、エーテル発生装置が破壊された場合、超高濃度のエーテルが無尽蔵に散布されてしまい、地球が小型、大型、超大型幻創種によって埋め尽くされるみたいだ。
……何その終末の災厄……こわっ……。

ただ、エスカ・タワーはかなり特殊な合金で作られており、エーテル発生装置も緊急停止機能も搭載されている為、そのような事が起こることはない。
とは言っていた。
エーテル発生装置自体もマザーのみがアクセスできるようにしている為、ハッキングによる他者からの不正アクセスも起きないとか。
ぶっちゃけこんなヤバい内容を私に言っていいのかと思ったが、これは別次元に行くまで持っておこう。


でだ。
私はゴキ……エスカブリ討伐の報告書をまとめ終え、一息ついた。


暇だから、今日はゆっくりと休もうかな。





夢……。
私は、カプセルの中で揺蕩う中、アザマと呼ばれる科学者は声を荒らげていた。

『おいドール! 閃機種の製造はどうなってる?』
『もちろん順調だよ。小型閃機種に、その小型閃機種を大型化させた機体も着々に完成している!』
『……』
『信じてないね? 安心してくれ、大丈夫だよ。このまま行けば、他の惑星の侵略時に圧倒的物量差で攻め入る事だって可能だ!』
『それなら良いがな』

ドールと呼ばれる白衣を着た男性は、私の方を振り向き口を開いた。

『それより、これはどうなるんだい?』

私の方を指さしてアザマに問う。
アザマは首を横に振って返答を返した。

『ダメだ。性能は完璧なんだが、如何せん言う事を聞いてくれない。上からの指示待ちだが、多分廃棄だろう』
『そっかー、まぁ言う事きかないなら仕方ない』
『ああ、そういえば、お前の机からこんな設計図を見つけたんだが?』

アザマは1枚の紙を見せた。
それを見たドールは慌てふためく。

『あぁー! それは僕が独自に開発してる自立型機動人形!』
『お前、閃機種を作る傍らでこんなモンまで』
『ち、違うよ、これは閃機種を作る過程で出来たプロトタイプで名前は、僕の名前から……』





『……またか……』

私は目を覚ました。
また、この夢か……。
忌々しい夢だ……。




33話 過去とお守り

 

 

 

 

2023年7月15日

9時00分

 

 

 

「えーと、13×8=……」

「うーんと、15×6=……」

 

フローとフラウは各々の自分の部屋で勉学に励んでいた。

2人とも唸りながら教科書とノートを交互に見て頭を回転させている。

 

「どうですか? お2人とも熱心に勉強なさっていますか?」

「うん、2人とも頑張っているみたい。可愛い」

 

ハリエットとアプレンティスは小声で話をしていた。

アプレンティスがプチエスモスを一匹具現化させてダブルの室内に潜入、アプレンティスの意識をプチエスモスとリンクさせて2人の様子を覗き見していた。

 

この能力だが、元々アプレンティスにあった能力ではない。

彼女の男子女子小学生をバレずに間近で見たいという強い想いによって発現した能力だ。

 

「あぁ、2人とも可愛いなぁ」

 

ホクホク顔のアプレンティスに若干引き気味のハリエットである。

 

「お前ら何やってんの?」

 

私、小野寺龍照は不審者を見るような目で2人を見つめた。

2人は悪気もなく「ダブルの勉強を見ています」と言った。

2人の目には1点の曇りもなく輝かしい程に煌めいていた。

ハリエットはともかく、アプレンティスに至っては絶対に違うと私は直ぐに理解したが、もう追求するのはよそう……。

 

「さよか。それはそうと、もう学期末テストか」

「みたいだね。テストで全教科80点以上取れたら好きな物買ってあげるって約束したから頑張ってるね」

「んな約束したんかいな」

「何かご褒美をあげたら頑張れるでしょ?」

「まぁ、そうやな」

 

アプレンティスの言葉に私は納得する。

 

「ダブル頑張れー」

 

私はフローとフラウに迷惑をかけないように小声で応援をして外へと向かった。

 

「それより、龍照様はこれからお出かけですか?」

 

私の姿を見たハリエットが訊ねる。

「ああ。ちょっと大阪の下の方まで行こうとな」と私は言った。

 

「珍しいね、何かあるの?」

「まぁ、ちょっと、な。それにこの前はペルソナのマトイ騒動に巻き込まれて行けなかったし」

「そう、何かお土産買ってきて!」

 

アプレンティスはニコやかな顔でそういった。

私は「あいよ、ハリエットも何か欲しいのあるか?」と訊く。

すると、ハリエットは「野菜の種が欲しいです」と言ったので、私は「了解」と頷いて、階段を降り、マンション出た。

そして、元・地元である大阪のとあるターミナル駅へと向かう為、龍翼を生やして空に飛ぼうとした時。

 

「やぁセンパイじゃないか、お出かけかい?」

 

半袖短パンのエルミルが手振りながら駆け足でやってきた。

ジョギングの帰りのようだ。

身体中汗まみれで、見ていてこっちまで汗をかいてくる。

ただでさえ、快晴の炎天下の上に、蝉の合唱コンクールだ。

 

「まぁ、大阪の下の方に行こうかと」

 

私は額から滴る汗を手で拭いながらそう言うと、エルミルは「僕も行っていいかい?」と言った。

 

「別に構わんが、結構歩くで?」

「いいよ。ちょっと着替えてくるから待っていて欲しいな」

 

エルミルはキラキラとした汗を流しながらマンションの中へと消えていった。

汗を垂らしながら走るエルミルに、若干の陸上部のキャプテンのような爽やかさを感じてしまった。

……中身ゲーム廃人のオタクやけど……。

 

「あっちぃぃ……」

 

私は顔から滴る汗を拭いつつマンション内へと避難する。

マンション内は誠に涼しくさっきまでの暑さとは、何だったのかと思えた。

 

「……」

 

私はマンションの壁にもたれ掛かりながら考え始める。

多分、エルミルは風呂も入ってから来るから時間的には10分から15分ぐらい待つことになるな。

……暇だ……。

 

 

 

17分後

 

 

 

「お待たせセンパイ!」

 

エルミルは手を振りながらラフな格好で走ってやってきた。

まるで、元気な後輩だ。

そんな関係では無いのだが……。

 

「それじゃあ、行くか」

 

私はエルミルの手を掴み、翼を広げて飛び立った。

 

 

 

 

10時10分

 

 

 

なんば駅付近の人気のない場所で私たちは静かに降り立つ。

 

「よし、到着!!」

 

私は翼を解いた。

 

「センパイ、そのまま目的地まで飛べばいいのに」

 

エルミルは地面に倒れて呆れ口調で言う。

私はため息をついて「分かってないなー」と口を開く。

 

「目的地まで乗り物に乗るのがいいやないか! 写り行く景色を車窓から観ながら列車の音を聴く。それが最高なんや!」

「な、なるほど」

「そゆことよ!!」

 

私が目的地まで列車に乗って行くことの重要性を熱弁すると、エルミルは若干引き気味になりながらも納得していた。

 

「さぁ、南海高野線に乗って橋本駅まで行くぞ!」

 

私はエルミルの腕を掴んで難波駅へと入っていった。

そして、橋本までの乗車券を買おうとしたら、ここで違和感に気づく。

所々駅名が違う。

なんなら、高野線も南海高野橋線となっていた。

安心したことに、橋本駅のままだ。

私達は乗車券を購入し、改札を出て駅のホームへと向かった。

 

ホームには複数の列車が止まっていた。

私は電光掲示板を確認し、乗るべき列車を見る。

 

「とりあえず、10時30分発の急行橋本行きに乗るか」

「了解だよ」

 

私は携帯端末を取り出して時間を確認する。

時刻は10時21分、もう少ししたら列車が到着するはずだ。

 

「目的地は橋本だよね?」

 

エルミルがそう聞くので、私は首を横に振って「そっから学文路まで歩くで?」と言うと、彼は「どゆこと?」と訳分からんと言いたげな表情になる。

まぁ、そらそうか。

私は橋本から目的地まで歩く理由……昔、橋本から学文路まで歩くのが趣味で、よく学校をサボって散歩していた事を説明した。

 

それをきいたエルミルは唖然としていた。

それと同時に目を瞑り悟りを開きはじめた。

多分、「とんでもない散歩について行く事になったかもしれない」とでも思っているのだろう。

私の散歩に着いてきたエルミルが悪い、これは自己責任だ。

 

 

[皆さん、まもなく3番線に電車が参ります、黄色の展点字タイルまでお下がりください]

 

 

アナウンスの声がホームに響き、モーター音を鳴らした列車がホームに入構してきた。

列車の方向幕には急行橋本行きと書かれていた。

ホームに完全に到着すると、列車は空気が抜けるような爆音がなって少しだけ驚いた。

いつ聴いてもこの爆音だけは慣れん。

列車の扉が開き、私たちは列車の中に入ってクロスシートの端に座った。

エルミルは私の隣に座る。

 

「ふー……」

 

私は一息着いて列車が出発するのを待っていた。

時間が経つにつれて、ゾロゾロと人々が入ってきて席に座ったり、扉の近くで携帯を弄り出したりと様々だ。

 

 

[皆様、まもなく3番乗り場から電車が発車致します。扉にご注意ください]

 

 

アナウンスが流れ、列車の天井にあるスピーカーから車掌の声が車内に響く。

 

[急行橋本行き、扉閉まります。ご注意ください]

 

そのアナウンスが流れ終わると、プシューと扉が締まり、独特のモーター音を唸りながら列車は発車した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11時21分

 

 

 

 

橋本駅に到達した私とエルミルは橋本駅を出て背伸びする。

 

「うーーーー、やっと橋本についたーーー!」

「途中から寝てたよ……」

 

蝉の合唱が辺りを賑やかにする中、私は心地の良い背伸びをした。

一方、エルミルは肩を下ろしながら目を擦って眠そうにしていた。

 

 

「そしたら、学文路まで行くか!」

「んぁーい」

 

炎天下と蝉のコーラスのこの世界で私たちは学文路まで歩き始めた。

 

 

 

 

 

河川を渡る巨大な橋を渡る頃には、エルミルも眠気が覚めたのか河川を観ながら渡っていた。

 

「東京は都会が多いから、こんな田舎町は新鮮だね」

「ああ、せやな。この世界も、向こうの世界と対して変わらんな」

「センパイが高校生の時に散歩に来たんだよね?」

「ああ、学校をサボってよく歩きに来ていたで。他にも南海本線に乗って海の方に散歩したりな。東方っていうゲームのボーカルアレンジやアレンジBGMを聴きながら歩いていた」

 

橋を渡りながら、私とエルミルは会話を続ける。

蝉の声や夏の暑さが感じなくなっていた。

 

「こうして山のある場所を歩きながら東方の曲を流して小説の物語を考える。私はこれを超える幸せな事は、友人と遊んだり食べに行ったりする以外にないと思う」

 

私は昔の事を思い出していた。

同じような快晴日に、財布とスマホ以外の荷物も持たずに東方の彁、童遊や、ハウスリミックスの神々が恋した幻想郷を聴いて歩いた事を……。

 

「意外だね」

 

エルミルは少しだけ笑った。

私は少しだけドヤ顔になって口を開く

 

「そうやろ?」

「うん、センパイの見た目的に家にこもってゲームばかりするイメージだからサ」

「ああ、よく友人に言われていたよ。全く同じ事をな」

 

橋を渡り、古い家々が並ぶ住宅街へと入る私たち。

会話は途切れることなく続く。

途中で昔ながらの駄菓子屋に置かれてある自販機でエルミルにラムネを買ってあげた。

 

「この世界も、同じやな……懐かしいな……」

「……」

 

私は顔から汗を垂らしてそう言った。

エルミルはその言葉に何も言わずにラムネを飲み干していた。

 

「センパイ、元の世界が恋しくなったかい?」

「まぁ、恋しくないと言えば嘘になるな……。思い出が……頭の中にいっぱい溢れてくる……」

「……」

「でも、戻る訳にはいかん。私はこの世界でやることが沢山ある。この世界に来れた事で希望が生まれた夢もある。私が成したい事を全てを成した時、もし私が生きていたのなら、戻ってまた此処を訪れたいな」

「僕も手伝うよ」

「あぁ、ありがとうございます」

 

エルミルの言葉に私は顔から滴る汗を拭いながら言った。

そんな話をしながら住宅街から線路伝いの道を歩く。

タイミングよく、赤いラインが特徴的な列車がゆったりとした速度で通り過ぎて行った。

 

「この道も友人と歩いたな……」

「そうなの?」

「ああ」

「センパイ、友人居たんだ」

「大原と藤野がいる時点で、その疑問は解消されてるはずなんやが??」

 

エルミルの言葉に私は少しだけ棘のある口調でエルミルにチクチク刺す。

その言葉にエルミルは笑って謝罪する。

 

「……まぁそれはともかく、ホンマにあんまり変わらないな」

「そうなんだね……つまり僕はセンパイの元の世界と同じ景色を見ている事になるね」

「あぁ……せやな……」

 

私はそう呟き、2匹にも声を掛けてみた。

 

「ニーズヘッグとミラボレアス、どうや?」

 

私がそう言うと、2匹はそれぞれ口を開いた。

 

〚悪くない〛

〚劫火で燃やしたら明るくなりそう〛

 

「おぉ……」

 

なんかミラボレアスが怖いこと言ってるけどコイツはいつも通りだから良いとしておこう。

ニーズヘッグの感想が少し意外だった。

また知らんみたいな事言うかと思ってた。

 

「そういえばセンパイ、学文路まで行って何するの?」

「んー? あぁ、学文路神社でお守り買う」

「お守り?」

「うむ」

「どうしてサ?」

「フローとフラウ、もうすぐ学期末試験やろ?」

「あ、もうそんな時期なのね」

「ああ、せやからいい点数取れるように、学文路神社までお参りプラス合格祈願のお守りをな」

「そういうことネ」

 

私たちは大通りに出て歩道を歩いた。

話は続く。

 

「それで、大学の時に1回だけ試した禁断の方法を行おうとな」

「禁断の方法? 万引き?」

「違うわアホ!」

 

エルミルのボケに直ぐに突っ込む。

 

「神社で、んなアホなことやってみろ!どんなバチが当たるかわかったもんちゃうわ!」

「だよね」

 

腹を抱えてゲラゲラ笑うエルミル。

ったく、とんでもない事を言うもんだ。

一頻り笑い終えたエルミルは話の続きを要求してきたので話をした。

辺りは田んぼに囲まれて、車道には軽トラックが数分に1台通るのみだ。

「まぁ……お守りを介した肩代わりやな」

 

私の話にエルミルは眉を顰める。

「肩代わり?何それ?」と。

話を続けた。

 

「お守りを買うやろ? そんで数時間自分が持ち続けて願いを言うねん」

「うん」

「確か、大学……2回生の時やな。あの時、私の妹が高校受験、友人が大学受験を控えててな。友人に至っては二浪してた」

「なるほど」

「で、私は大学をサボって学文路神社まで向かったのな。今と同じルートを」

 

車の通る音も聴こえない程に私とエルミルは話にのめり込んだ。

 

「で、学文路神社で2人の合格を祈り、お守りを購入したのよ」

「……」

「で、私はそのお守りに、こう願いを込めた」

「なんて込めたの?」

「……妹と友人の苦しみ、痛み、ストレス、全てを私が請け負いますので、2人が絶好調の状態で受験に挑み、無事合格出来ますように。と」

「……」

 

私の願いに呆気に取られるエルミル。

 

「それで私はそれをしまって同じ道を何時間もかけて帰った。なんなら、帰る時は橋本からじゃなくて、もっと遠い駅までな」

「どうして?」

「お守りに私の魂を宿らせた。物を長い間持つと、その人の魂が宿ると言われてたからな。その私の魂が2人に降りかかる厄災を身代わりになるように」

「……それで……?」

「帰りは6時間は歩いたよ。お守りに私の魂が入るように、2人の合格を祈りながら」

「……」

 

〚……〛

〚……〛

 

暑さも忘れ、ただ私の言葉を聞くエルミル。

最早無音の世界だった。

 

「それで、それを妹と友人に渡した。2人は喜んでいたな」

 

私は少しだけ微笑む。

懐かしい……記憶だ……。

 

「で、その2日後、妹はインフルエンザにかかった」

「え?」

 

予想外の言葉にエルミルは聞き返してきた。

だが、それを無視して続ける。

 

「でもな、不思議なことにそのインフルエンザは1日で完治したどころか、妹自身もそんなに辛くなかったらしい」

「……」

「後から聞いた話やと、友人はいつもより怖いくらい調子が良く、ストレスも感じる事無く勉強に励めたらしい」

「……」

「で、私は、と言うとな」

「何かあったのかい?」

 

エルミルの問いに私は少しだけ笑って頷く。

 

「胃腸炎で倒れた」

「ホントに言ってる?」

「ああ、嘔吐、消化不良、腹痛、発熱、全身の筋肉痛で3日間死にかけていたよ。寝ても1時間に1回は起きる程に。なんなら1週間は消化不良で大変だった」

「……」

 

少し引いているエルミル。

 

「で、2人とも試験は合格したよ」

「おおおおおおお!」

 

私の言葉にエルミルは歓声を上げた。

その声は田畑で作業していた夫婦を振り向貸せるには十分過ぎた。

 

「どう思う? これが偶然か? 私は思えんな。私の体調は万全やったストレスもなく普通に過ごしていて、突然の胃腸炎。私は偶然とは思えん」

「それは同意だね。それで2人は無事卒業出来たのかい?」

「……友人は2回生で退学した」

「僕の感動を返せ!!!」

 

私とエルミルの笑い声が田舎町に木霊する。

 

「まぁ妹は卒業したからな。良しとしてるよ。その人の人生や。死以外の事は兎や角言うのはアレやからな」

「そうなのかな?」

「ああ、死関連は止めるけどな」

「……まぁいいか。それで、その禁断の方法をフローとフラウにするのかな?」

「ああ、2人の頑張りに私も応援しようやないかと思ってな」

 

私たちはまた住宅街へと入る。

すると突然、エルミルがこのような質問をしてきた。

 

「そういえば、センパイって家族は?」

「いたよ。お父さん、お母さん、妹、弟、私」

「…………………………元の世界で心配してるんじゃない?」

「そうやなー。まぁでも、戻る方法も分からんし、私の夢を叶えるため、戻る訳にもいかん。多分両親もそう思ってるで、"ここまで来たら夢を叶えるまで来るなよ"って」

「そう……また会えるといいね」

「あぁ、また逢いたいな。まぁ必ず逢えるよ」

「……そういえばセンパイ、ヴラブマは見た?」

 

エルミルは物凄い突然に、話題を変えてきた。

私は首を横に振る。

 

「見てないよ。見たいけど、見る勇気がないって感じやな」

「僕、CD持ってるから貸すよ?」

「……女性キャラ何人死ぬ?」

「…………………………程よく」

「…………まぁ、そうだよな……」

「また今度貸すよ。1話だけ見るといいよ」

「んあー、じゃあまた今度な」

 

 

 

1時半

 

 

 

そんな会話をしているうちに、学文路神社までやってきた。

私とエルミルは、お賽銭をして祈った。

フローとフラウのテストの点数が高得点でありますようにと。

そして、お守りを2つ購入し、祈りを捧げた。

 

あの時と同じように……。

 

 

学文路神社を出て、私はエルミルに話をした。

 

「すまん、さっき話した通り、ここからかなり歩く。あっちに行けば学文路駅に着くはずやから先に帰っててええで」

 

と。

しかし、エルミルは笑って「ここまできたら付き合うよ」と指でグッドをして言った。

私は「ありがとうな」と感謝を述べてお守りに私の魂を込めた。

フローとフラウに降りかかるあらゆる厄災を、私が肩代わりするので、2人には高得点を貰えますようにと。

 

 

 

 

 

夜の9時50分。

 

 

「フロー、フラウ」

 

私とエルミルは自宅のマンションに着くなり、2人の部屋に入った。

 

「どうしたの?」

「何かあったの?」

 

フローとフラウは出迎えてくれた。

私とエルミルは2人にお守りを渡した。

 

「何か不思議な感じがする」

「優しくて温かい感じがする」

 

フローとフラウが口々にそう言った。

 

「私とエルミルとで合格祈願のお守りを買ってきたんや」

「2人とも頑張ってネー」

 

私たちはそう言うと、2人は目を輝かせて「ありがとう」と言った。

 

 

 

 

その後、私とエルミルは急性胃腸炎を発症し、ぶっ倒れた。

医者が言うには、極度のストレスによるもの。

らしい。

 

 

 

 

 

 

続く

ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?

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