エスカファルス【非在】   作:楠崎 龍照

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8月11日
12時50分


私と大原、藤野は急にマザーに呼ばれ、マザークラスタ本部となった月面基地にやってきた。
モンハンワールドフロンティアの32人レイドクエスト、ドンドルマ大規模防衛戦をしてる最中に連絡が来るもんだから、何ともタイミングの悪いことよ……。

「にゃー、えらいタイミングでマザーから連絡が来ちゃもんやのぅー」

大原は肩を降ろして少し笑った。
まぁ、LINE通話で連絡を取り合いながら街を守っていた時に、マザーからの通信である。
とりあえず、現状を正直に説明し、クエストが終わるまで待ってくれと伝えた。
マザーは快く承諾してくれて、私たちは街の防衛を成功する事ができた。
ぶっちゃけ、このままログアウトしたらそれこそゲームマスターの目に止まり何をされるか分かったものじゃないので助かった。

「あれは焦ったな」
「でも終わるまで待ってくれて良かったじゃん」
「まぁ、そうやのぅ……」

そんな他愛ない話を広げながら頂上へと向かう。
頂上へと続くエレベーターに乗っている間、私達はマザーからどんな事を言われるかを考えていた。

「にゃー、どんなこと言われるやろうなぁ」
「なんだろねー」

大原の疑問に藤野は、のほほんとした表情で返した。
その言葉に大原は、少し呆れながらも「適当やのぉ」と笑っていた。
そんな事をしているうちにエレベーターは最上階へと辿り着き、扉が開く。
最上階のドーム状の部屋の奥にはマザーが、専用の椅子に座って待ってくれていた。

『よく来てくれた。そして、突然呼んでしまって申し訳ない。』

マザーは開口一番に謝罪の意を表した。
いや、今回はこっちが悪いから謝らくても……と皆思ったので「いえ、こちらも勝手な私情で、遅刻してしまい大変申し訳ありません」と頭を下げる。
その後、三分ほどマザーと謝罪のキャッチボールをすることになった……。


「えーと……マザー、それで話というのは?」

藤野はマザーに訊ねた。

『あぁ、話が脱線してしまった。今日君達を呼んだのは、療養中だった青の使徒が復帰するので、今日紹介しようと思い、呼び出した。』

そうマザーは言った。
そういえば、青の使徒 青龍に就く人は現在療養中だったな。
さて、どんな方が就くのだろうか。
私はワクワクと、変な人が来たらどうしようという不安のダブルに駆られながら、青龍の方が来るのを待った。

『来てくれ。』

マザーの言葉を合図にエレベーターから、1人の女の子が姿を現した。
黒髪セミロングの結構可憐な美少女。
その姿を見て、私は「え?」と驚愕しつつ、言葉を出した。

「山原さん!?」

と。
山原さんも私を見て「小野寺さん……ですよね?」と返した。
その様子に大原と藤野は、めっちゃ腹立つレベルの笑顔で「お、龍照の彼女か?」「いいねー、君の人生に1度有るか無いかのEエマージェンシートライアルだよ! 失敗は許されないねー♪」と言いやがった。
とりあえず、2人とも後で殴る。

『彼女は山原 真衣菜。青の使徒 青龍に就く事になった。』
「山原真衣菜です。今日から青の使徒 青龍に就く事になりました。よろしくお願いします」

山原真衣菜、3年前に死んだ香山裕樹の彼女さんだ。
私も1度、病室でお会いした事がある。
あれ以来、会っていなかったが……。
何かあったのだろうか……。
後でマザーに聞いてみよう。

私達は山原さんに自己紹介をした。
そして、マザーの計らいで私たちの住むマンションに住まうことになった。
その日は、エスカファルス達の紹介、そして……。
これから共に働くことになるという事で、私たちの正体についても話した。
驚くことに、山原さんは疑うことなく、すんなりと信じてくれた。


36話 八坂火継対策会議

 

 

 

 

 

8月12日

12時00分

 

 

マザークラスタ極東支部。

1つの会議室にて、マザークラスタ幹部【四神】と【神淵】のメンバー全員が集められ、とある議題が挙げられる。

 

コの字型形式での会議、ホワイトボードの前には私、小野寺龍照が立っていた。

 

「皆さん、突然の招集大変申し訳ありません」

 

私はいつもとは違う雰囲気を出し、丁寧な物腰で謝罪をする。

 

「にゃー、そんな畏まらんでええから、この会議の事を説明してくれ」

 

メモとシャープペンシルを持った大原が言った。

まぁ、そうやな。

私はコホンと咳払いをして今回の会議の議題を説明する。

 

「まず、あと5年程でpso2で言うところのエピソード4になる。山原さんはその事については、昨日説明したから分かりますよね? 我々の正体、エスカファルスについて等……」

 

私は山原さんにきいた。

それをきいた山原さんはコクリと頷く。

 

「はい、大原さんや藤野さん、小野寺さんは別の世界からやって来た。そして、正史では死ぬ人物をこの世界では生存させて、別の未来へと変える。でしたよね?」

「そうです。5年後にはアークスとマザークラスタとの戦いが始まります。私たちがいた世界でのpso2の正史では、その戦いでマザーとべトールが死亡する事になってます」

「にゃー、あれは衝撃的やったのー」

「そうだよね、しかもマザークラスタで唯一べトールだけが戦死したもんね」

 

私の説明に大原と藤野が口々にそう反応する。

山原さんも「なるほど」と相槌を打つ。

 

「私達は、このべトール、マザーの生存する歴史に持っていきたい訳です。ただそこで我々にはいくつかの障害が立ちはだかる訳です」

 

私はホワイトボードに文字を書き始める。

そのボードに書かれた人物の名前を見て、大原と藤野の「まぁ、そうだよね」と察した。

 

「アークス船団の最高戦力である安藤優さんとマトイさん、そして、八坂火継さん。この3人が我々の障害となる事が予想される人物です」

 

私は更に彼ら彼女らの情報を書き記す。

まず、安藤優言われている人物。

これはpso2での主人公、我々プレイヤーの事を指している。

スタッフクレジットにおいて「And You」と記載されていたのに対し、語呂合わせで人名になぞらえたものだ。

ユーザー間では基本的に安藤と言われている。

この安藤さんは、アークスの中でも比類なきバケモンの強さを誇っている。

実際、この世界に来る頃には、巨躯、敗者、アプレンティス・ジア、双子、深遠なる闇の面々に打ち勝っている。

 

「挙句の果てには、あの野郎はファレグさんにも勝利を収めた。正直、今の我々が一斉に本気で殴りかかっても、ファレグさんには勝てない。イコール現状、安藤に勝つことは不可能に近いだろう」

「そうだね、彼なら時を止めたって無駄だろうしね」

 

ルーサーはフッと暗い笑みを浮かべた。

まぁ本当に時間止めてもレバガチャで抜け出すもんな……安藤は……。

ヒーローに至っては普通の回避で回避しつつカウンターぶつけ出すからなー……。

そう考えたらマジでアイツはなんなんだ……。

 

「ただ、マトイさんも同じだけど、この2人は必死に鍛錬したら超えれるレベルだと思う」

 

私は話を続ける。

 

「我々の問題はこいつや!!」

 

バンっとホワイトボードを叩き、その問題の人物の名前に丸々と円を書いた。

八坂火継、pso2ep4のメインヒロインにして、我々の天敵である。

 

「この八坂火継さんが、我々……特にエスカファルスの完全なる天敵となる!」

 

その言葉にエスカファルス組はおろか、大原や藤野まで首を傾げ出した。

おい、思い出せ、八坂火継の具現武装の能力を。

 

「あれ? ヒツギの能力ってなんやっけ?」

「……知らない」

「あー、エスカファルス組は?」

 

大原と藤野の反応に頭を抱えつつ、エスカファルスに訊ねる。

無論、エスカファルス達も同じ反応だった。

何でエピクエントとかは覚えてて、大事な事は覚えてないんだ……。

 

「八坂火継さんの具現武装の能力は、領域や術式を切断する他にエーテルを切り離すっていう、完全なエーテル殺しの能力や! 挙句の果てに闇を払ったりフォトナーやアークスにも成す事のできなかった事をやりよったのよ!」

 

私がそう言うと大原と藤野の「あぁ、そんな能力やったなー」と思い出したらしい。

エスカファルス組も同様に思い出したと共に、自分たちが圧倒的に不利だと言う事に気がついた。

 

「あれ? 私たちヤバくない? エーテルを切り離されたら私達一撃死じゃない?」

 

ペルソナが少し焦った表情になる。

だから、さっきから言っておろうに……。

 

「それで、八坂火継をどうやって攻略するか。ということを話し合うわけや」

「1番無難なのは、私達は火継さんと相見えないことだよね」

 

アプレンティスが頬杖ついて話す。

まぁ、それが1番無難ではある。

 

「万が一、それが不可能な状況になる可能性がある。そうなったらエスカファルス組が圧倒的に不利や。我々の攻撃は基本エーテルを使ってる訳やから、大体の攻撃が無力化される」

「なら、エーテルを使用しない力……つまり、筋肉を鍛えて殴ればいいんじゃねえか?」

 

エルダーは自身の上腕二頭筋を見せて説明した。

それを見た皆は呆れながらも「やっぱりそうなるよね」と笑いあった。

しかし、山原さんは申し訳なさげな表情で水をさす。

 

「あの、筋肉と言ってもどんな風に鍛えるんですか? エーテル体であるエスカファルスさん達は、筋肉を鍛えてもエーテルを斬り裂く力を持った八坂火継さんには、無意味なのでは?」

 

山原さんの言葉に沈黙する。

 

「そも、八坂火継のエーテルを斬り裂く力は、具現武装に触れる事で発生するなら、当たらなければ良いだけではないだろうか?」

 

ルーサーの案に皆は「そうなんだけども……」と言ったような反応だった。

エルミルは「そんな赤い彗星みたいな事できるのかな?」とルーサーの案には懐疑的だ。

 

「あの、1つよろしいですか?」

 

ハリエットが手を挙げて発言をする。

 

「火継様の具現武装の力は、全てのエーテルを有した存在に通用するのでしょうか?」

 

ハリエットの言葉に、私はハッとある出来事を思い出す。

 

「確かに、安藤さんが原初の闇の依代になった際に、火継さんの具現武装の攻撃では闇を払うことはできなかった。ハリエットさんとマトイさんの力を合わせて、やっと闇を払えたって感じだったから、火継さんの能力を上回れば……」

「結局、レベルを上げて物理で殴る理論に落ち着くわけだな!」

 

龍照の言葉にエルダーはドヤ顔で自身の筋肉を見せつける。

 

「解は出たようだね。それなら話は早い。身体を鍛えよう」

「だな!! いっちょ暴れるか!!」

 

ルーサーとエルダーは立ち上がり、闘争本能を剥き出しになる。

待て待て、落ち着け。

 

「ねえ、ファレグさんに鍛えて貰うのはどうだろう?」

 

藤野の言葉に山原さん以外の全員が固まる。

あの人に教えてもらうのか……。

いや、教えてくれるのか?

 

「まぁ、あの人に教えて貰えるのが無難だよなー」

「教えてくれるの?」

 

腕を組んで唸るように言葉を発す私。

その言葉にアプレンティスは、率直な疑問を漏らす。

 

「教えてくれても、絶対に並大抵の人では一瞬で音をあげそうなトレーニングさせられるよ」

 

ペルソナは、なんか分からないけど、否定ができない感想を述べた。

彼女の言葉に全員が「まぁ、そうだよね……」と呟いた。

 

「あのファレグさんとは?」

 

恐る恐る山原さんが訊ねる。

私は「地球最強の人間」と言った。

彼女は「な、なるほど」と愛想笑いが混じった言葉を漏らす。

 

「まぁ、各々が鍛錬に励むとしよう」

「だなっ! おっしゃルーサー、1戦いくぞ!!」

「ああ、もちろんだ」

 

2人は飲み会に行くサラリーマンのように、月面へと転移した。

 

「……ねえ、覇気みたいな戦闘技能を体得するのはどう?」

 

一瞬の静寂の後、藤野が言葉を発する。

私と大原、ペルソナ以外の全員が「覇気?」と首を傾げた。

 

「覇気? ONE PIECEの覇気か?」

 

私がそう訊ねると、藤野は「そうそう」と首を縦に振った。

藤野の言う覇気というのは、私、藤野、大原がいた世界で絶大的な人気を博したONE PIECEという少年漫画に、出てくる力である。

 

「確かに、それもありだな」

「でしょ?」

「にゃー、1つええか?」

 

肯定的な私に、藤野はドヤ顔になるが、大原が私達を黙らせる。

 

「それこそファレグさんに教えて貰うのが1番早いぞ」

「「あ……」」

 

固まる私と藤野に大原は畳み掛ける。

 

「多分、ファレグさんはONE PIECEに出てくる3色の覇気・一部の六式、それらに類似するものは体得しとるぞ」

 

高い攻撃力、銃弾すらも素手で弾く硬さ=武装色の覇気。

 

強そうな気配に引かれてやってくる=見聞色の覇気。

 

オフィエルとの邂逅時の威圧=覇王色の覇気。

 

 

瞬間移動=剃。

 

空中移動=月歩。

 

足蹴りと同時に発生する火の刃=嵐脚。

 

 

 

大原はそれらの事を並べて「……ファレグさんに教えてもらうのが1番だよね」と言った。

何も返す言葉が見つからない私と藤野。

 

「それで強くなるのなら、ファレグって人に教えてもらおうよ」

 

何も知らない山原さんは乗り気のようだ。

アプレンティスやエルミルも「確かに、ファレグさんトレーニングして貰うのが、1番手っ取り早く強くなる方法だね」と乗り気だった。

 

「……それなら、ファレグさんに聞いてみる?」

 

私がこの場にいる皆に訊ねると、皆が「うんうん」と頷く。

私は少し頭を抱えつつ、月面基地へと向かうことになった。

 

 

 

 

月面基地に辿り着いた私たちが真っ先に目に入ったのが、宙域で大規模な戦闘を繰り広げる、完全体エスカファルス・エルダーとルーサーの2人だった。

 

「グラン・ナ・ザン!!」

「トリストス・ソニックアロウ!!」

 

鎌鼬と斬撃がぶつかり合う中で、2匹は己の持つ剣で切りあっていた。

 

「深遠と崩壊の先に至る未来は、完全なる平和の未来!!」

 

巨大な剣が展開される。

 

「僕はルーサー、ただ1人のエスカファルスなり!!」

 

ルーサーがそういった瞬間、エルダーの体が砕け散った。

その戦闘を見ている山原さんは呆気に取られていた。

 

「すごい……」

「ホントですね」

 

そう言いながら、私達はマザーのいる場所へと向かった。

その間も……。

 

「原初と終末は、この場より始まり、この場にて終わりを迎える」

「遊びの由は無数に広がる!!」

 

2人の壮大な戦闘は続いていた。

 

 

 

 

「マザー、少しききたい事があるんですがよろしいですか?」

 

私達はマザーにファレグさんの居場所を訊ねた。

しかし、マザーは首を横に振る。

 

『申し訳ない。私にもファレグ・アイヴズの居場所は分からない。』

「にゃー、そういえばあの人神出鬼没だったのぉ……」

「呼ぶ事って出来ますか?」

『申し訳ない……』

 

私達はどうしたものかと悩んでいる、その時だった。

 

 

「ぐぅあああああああ!!」

「馬鹿な、一体何が!?」

 

エルダーとルーサーの断末魔と共に、2人が物凄い速さで月面に叩きつけられた。

私達の視線は一瞬にしてエルダーとルーサーの方に移る。

 

「あの2人が……」

 

藤野は驚愕の表情で呆気にとられている。

敵襲かと思った私達はエスカダーカーを具現化する構えをとった。

 

「なんて強さだ……」

「これは、興味深いね……」

 

完全体の2人はボロボロになりながら立ち上がり、宙域に攻撃を放つ。

しかし、その攻撃は叶わず一瞬にして武器が砕かれて、更に吹き飛ばされた。

 

「ねえ、あれって……」

 

月面に佇む黒い影を見たペルソナは、若干引き気味な表情で言葉を漏らす。

大原と藤野は「お、おおふ……」と乾いた笑いが漏れ出ていた。

 

「お2人とも、とても強くなっていますよ。ですが、私を倒すには足りませんね」

 

優美な物腰、丁寧な口調をした女性。

ファレグ・アイヴズである。

 

「強い……」

「未知の事象過ぎる……」

 

2人はそう零すと、完全体を解いてバタリと地面に倒れ伏した。

何で完全体エスカファルス2体を軽々と吹き飛ばしてんだよ……。

無茶苦茶だよあの人……。

私は改めてファレグさんの底知れぬ強さを目の当たりにした。

山原さんに至っては、もう化け物を見る目をしていた。

 

 

 

 

「私に稽古をつけて欲しいですか?」

「はい」

 

ファレグさんに出会えた私達は直ぐに彼女に接触し、さっき話し合った事を伝えた。

それをきいたファレグさんは「ふむ」と少し考えるような素振りをした後、ニコリと微笑んで「構いませんよ」と言った。

 

「ですか、私の稽古は少し厳しいですが、問題ありませんか?」と付け加えて……。

 

私達はそれを了承し、頭を下げた。

 

「分かりました。それでは明日から始めましょう♪」

 

ファレグさんは、少しだけ嬉しそうな、弾んだ口調でそう言い、瞬間移動でどこかへ行ってしまった。

 

 

さぁ、何日保てるやら……。

私はそんな事を思いながら、月から見える地球を眺めていた。

 

 

 

 

続く

ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?

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